394.転売屋は従業員について考える
ギルドとの喧嘩?を終えた翌日。
いつものようにエリザと共に冒険者ギルドへと向かった。
「あら、エリザいらっしゃい。今日はシロウさんも一緒なのね。」
「あぁ、昨日の今日で悪いな。」
「いいのよ。でもごめんなさい、さすがに昨日の今日じゃ結果は出ないわ。」
「そりゃそうだ、そこまで気にしてないからいつも通りに頼む。」
「助かるわ。で、今日は何の用?」
「冒険者に鑑定スキルを使えるやつはいるか?」
「もちろんいるわよ、ギルドの買い取りは鑑定スキルが無いとやってられないしね。」
あれだけの種類のある素材を鑑定スキル無しで把握するのは到底無理な話だ。
聞くまでもなかったな。
「ちなみにそう言った冒険者を紹介してもらう事は?」
「出来なくはないけど、シロウさんが探しているのは現役?それとも引退者?」
「どっちでも構わないが真面目な奴が良いな。できれば・・・女で。」
「そうよね。シロウさんの所に男性が入るのは危険よね。」
「女性希望なのは私達よ。」
「え、そうなの?」
「だって、店の中に他の男がいるのよ?気楽な格好で歩けないじゃない。」
「その理由はどうかと思うわ。」
「もっと言ってやってくれ。」
別に下着姿で歩くなとは言わないがせめて上は着てくれ。
乳丸出しは流石に目の毒だ。
こっちは中身は40代でも体は20代。
すぐに反応してしまうんでね。
「とりあえず何人か候補を探しておけばいいのかしら。」
「時間がかかっても構わない。女で、こういう状況に理解があって、真面目で横領しなければ最高だ。」
「そこまでを探すなら奴隷の方がいいんじゃない?」
「それはわかってるんだがなぁ。」
一番簡単なのは奴隷だ。
金はかかるが従順で横領などの犯罪リスクはない。
問題があるとすれば住む場所。
これが一番の問題なんだよな。
今の我が家に奴隷を迎え入れる場所はないんだよ。
裏庭や倉庫っててもあるが、ミラやアネットが家なのに同じ奴隷が一人だけそう言った場所ってわけにはいかないよな。
「ひと先ず該当しそうな冒険者はこちらでも探しておくわ。でも、期待しないでね。」
「助かる。じゃあエリザ、またな。」
「今日はイライザさんのお店に集合だからね!」
「りょ~かい。」
俺の用事はこれで終わり、エリザはエリザで別の用事がある。
一緒に来たのは昨日の今日なのでギルドに警戒させないためだ。
まぁ、杞憂だったようだけどな。
ギルドを出てその足で向かったのはもう一つの選択肢。
そう、さっきも提案のあった奴隷だ。
「これはシロウ様、よくお越しくださいました。」
「声をかける前に俺だとわかるのか、さすがレイブさんの店だな。」
「それだけシロウ様が有名ということです。主人をお呼びいたしますか?」
「宜しく頼む。ただ、今日は買いに来たんじゃない相談だ。そこを強く念押ししておいてくれ。」
「では中でお待ちを。シロウ様を第一応接室に案内してくれ。」
「はい!」
まさか入り口に到着する前に向こうから声をかけてくるとは思わなかった。
最近はまったくと言っていい程、縁がなかったはずなのになぁ。
さすがというかなんというか。
中へと誘導され、そのまままっすぐに応接室へと通された。
案内してくれたのは鮮やかな赤い髪をした女性の奴隷だ。
燃えるような緋色。
よく見ると耳がとがっているので、恐らくは亜人もしくはエルフィーだろう。
もちろん美人さんだ。
スタイルもよく、出る所は程よく出て引っ込むところは引っ込んでいる。
でも痩せ過ぎってわけじゃないんだよなぁ。
対俺用の奴隷だと一目でわかる。
だって俺の好みど真ん中ストレートだもん。
ミラもアネットもいなかったら手を出していたかもしれない。
危ない危ない。
「レイブ様は後程参られます、今しばらくお待ちください。」
「急がないからと伝えてくれ。さっきも言ったように今日は商談じゃない、相談だ。」
「かしこまりました。」
本当に分かっているんだろうか。
前も同じように説明してがっつり接客された記憶があるんだが・・・。
先程の奴隷が部屋を出て行って一分経っただろうか、すぐに扉がノックされ慌てて返事を返すと香茶を持った別の奴隷が現れた。
こちらも先程同様俺好みのスタイルをしているが、雰囲気が違うな。
さっきはどっちかっていうと猫っぽい感じだが、こっちは犬っぽい。
顔も美人というか可愛らしい感じだ。
深い緑色の髪、元の世界ではまず見ない髪色だ。
「お茶をお持ちしました。」
「ありがとう。」
「レイブ様からの伝言になります、『五分ほどお待ちください』との事です。」
「分かった。」
「宜しければ、それまでお相手させて頂きますが・・・。」
「いや、結構だ。有難う。」
「そうですか失礼いたしました。」
どういうお相手かを聞くのは野暮ってもんだ。
ここの奴隷は全てそういう部分の訓練も受けているとミラが言っていた。
アネットはオークション用に仕入れられたのでそこまでの教育は行われなかったそうだが、似たようなことは言われたらしい。
ちなみに男の奴隷も同じように訓練を受けるそうだ。
残念そうな顔をして先程の奴隷が出ていき、やっと静寂が訪れる。
さすがに客の飲み物に毒やら薬やらは盛らないだろう。
恐る恐る飲んでみたが特に変わった味はしなかった。
「お待たせいたしました。」
のんびり頂いた一杯飲み終えたと同時にレイブさんがノックと共に部屋に入ってくる。
が、どうもいつもと様子が違うな。
なんていうか疲れている感じだ。
「レイブさん、忙しいのに申し訳ない。」
「いえいえシロウ様のお呼びであれば喜んで。それで、今日は相談があるのだとか。」
「あぁ、新しい従業員を雇うにあたって意見を聞きたいんだが・・・随分としんどそうだな。」
「この時期は奴隷が多くやってくるものですから、なかなか休めなくて。」
「そうか農閑期に入るからか。」
「幸いにも今年はどこも豊作のようで少ない方です。私の事はどうぞご心配なく。それで、新しい従業員を雇うとの事ですが・・・奴隷ではだめなんですか?」
「ダメじゃないんだが奴隷を住まわす場所がないんだよ。その点、一般人だと通いで来てもらえるだろ?さすがに奴隷をレンタルしてもらうわけにもいかないし・・・。」
「レンタルでしたら行っておりますよ。」
え、やってるの?
マジで?
「やってるのか?」
「本来は試用期間という意味でのレンタルとなりますが、シロウ様であれば安心して奴隷をお任せできますので長期間の貸出も吝かではありません。もちろん、いずれは買って頂けるのであれば助かりますが。」
「それはありがたい話だが・・・いや、レンタルの件は忘れてくれ。」
「かしこまりました。」
少しだけ残念そうな顔をするレイブさん。
レンタル奴隷とかいつの間に始めたんだろうか。
「長期で店を空ける事を考えて新しく鑑定が出来る人材を確保したいってのが相談理由だ。だが、さっきも言ったように住居の用意が出来ない。とはいえ、奴隷であれば横領や窃盗の心配もないから安心と言えば安心なんだよな。今ギルドに良さげな人材を探してもらっているんだが、レイブさんの所でもミラのように読み書き計算、そして鑑定のできる奴隷を探すことは出来るだろうか。」
「住居の問題を無視して宜しければ奴隷が間違いないでしょう。そしてそういった奴隷ももちろん扱っております。先程面通ししました二人は共に鑑定スキルを所持しておりますし、元冒険者ですのでダンジョンに潜らせて直接素材を確保することも可能です。流石にエリザ様のような実力はありませんが中層であれば問題なく生きて戻れるかと。」
「・・・二人共冒険者なのか?」
「色々とありましたが犯罪は侵しておりません。そして身体も潔白なままでございます。」
「それはどうでもいいとして、あくまでも代理として働ける程度でいいんだが?冒険者じゃない奴隷はいないのか?」
「それであればかなりの数が対象となります。算術交渉等を加味しても10人は超えるでしょう。あぁ、先程の二人ですが算術に若干難はありますが、難しい算術に関してですので冒険者相手の商売であれば問題ないでしょう。ミラや、ハーシェ様のように利益を計算させるのは残念ながら難しいかと。」
つまりあくまでも鑑定をして買取をするだけというわけか。
素材の買取価格表を作り、それをもとに買取をさせれば大丈夫だろう。
いや、素材はギルドに任せるんだからそこは結構重要か。
最低でも物の価値と転売価格はすぐに頭に浮かんでもらわないと困る。
とはいえ、冒険者ならば武具に関しての知識は人並み以上にあるともいえるし・・・。
難しい所だな。
「つまりおすすめはあの二人だと?」
「ギルドで探して頂いている方々も冒険者、比較するのであれば同じがよろしいかと。お時間を頂ければそうでない奴隷も見て頂けますが?」
「いや、いい。」
これ以上は相談ではなくなってしまう。
ここで身を引いたほうがいいだろう。
奴隷を買うにしろ雇うにしろ俺だけの意見で決めるわけには行かない。
一緒に仕事をするわけだし女達の意見も聞いておかないとな。
もっとも、ミラもアネットも好きにしろというんだろうけど。
レイブさんにお礼を言って部屋を出ると先程の奴隷が二人、ドアの前で待っていた。
が、自分から声をかけてくることは無く静かに頭を下げるだけだ。
ここで何か言うべきなのかもしれないが、下手に期待させてもアレなので黙って前を通り過ぎる。
もう一度どういう人材が欲しいのかをしっかりと考えるべきだ。
その上で何が足りなくて、どうすればいいのかも一緒に考える。
もっとも、一番の問題は住居なんだけども。
あの家気に入ってるんだよなぁ。
出勤しなくても済むし。
若干狭いのもあるけれど、広い家に慣れていないのでアレぐらいがちょうどいい。
いっそ奴隷を別の家に住ませるという手もあるのか。
なるほど我ながらいい考えだ。
じゃあその家をどこから調達するのかって話になるのだが・・・。
「堂々巡りだな。」
やはり一人で考えても中々いい案は浮かばない。
家に帰ってから考えるとしよう。
レイブさんの店を出たとき、ほんの少しだが前に進んだような気がした。
大丈夫、なるようになるさ。




