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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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384.転売屋は新たな芋に困惑する

大学芋は大当たり。


いや、大当たりなんて言う言葉では生ぬるい。


まさか一日で銀貨50枚も稼げるとは思わなかった。


流石に連日これをやるわけにはいかないので、レシピを公表して各家庭で楽しんでもらうことにした。


元は取った。


取れすぎるぐらいに取った。


なんせ収穫した芋が例年と同じ値段で売れたんだから大儲けと言ってもいいだろう。


ただ、在庫が無くなってしまったので今はよそから仕入れを行っている。


とはいえ客は待ってくれないわけで・・・。


「で、魔物の素材で代用するわけで。」


「エリザの言うトッポテキドモってやつが使えるならな。」


「大昔は小麦の代用品として繁殖されていたそうですよ。」


「つまりは食えるってことだ。小麦が大量に作れるようになって手を出さなくなったんだろうなぁ。」


「図書館の図鑑によれば、芋の味がするとの事です。」


芋の味がする魔物。


いや、繁殖履歴があるなら魔獣になるのか?


ともかくそいつが手に入れば、よそからの仕入れが来るまで持たせることが出来る。


初心者でも退治できる程度の弱い魔物らしいので数を集めるのも問題ないはずだ。


地面に隠れているので探し出すのが面倒らしいが、群生しているので一匹見つければ数が手に入る。


『トッポテキドモの肉。地面に生息する魔物で可食部が多い為昔は食用として繁殖されていた。肉は少し硬いが芋と同じ味がする為生きる芋ともいわれている。最近の平均取引価格は銅貨8枚。最安値銅貨5枚、最高値銅貨10枚、最終取引日は三日前と記録されています。』


今回はこいつを一匹あたり銅貨15枚で買い取る予定だ。


一匹で5人前は取れるはずなので代用品としては申し分ないだろう。


こいつで儲けるつもりはサラサラない。


あくまでも今の仕入れが届くまでの繋ぎとして仕入れるだけだからな。


「それじゃあちょっと行ってくるわね。上層部だから問題ないと思うけど、初心者の世話も私の仕事だから。」


「いってらっしゃいませ。」


時期的に増えてくる新人向けの依頼になるとニアは喜んでいたそうだ。


しかし、初心者向けとはいえ魔獣は魔獣。


気を抜けば命を落とす危険だってある。


それにダンジョン内には数多くの魔物が生息しているわけで、そいつしかいないわけじゃない。


新人たちが生きて地上に戻れるようエリザが巡回して様子を見るそうだ。


過保護と熟練冒険者は笑っていたそうだが、新人が育たないことにはこの街は回らないからなぁ。


大事なお客様を生きて地上に戻すのも大事な仕事というわけだ。


もっとも、俺の予想では二時間ぐらいで飽きた!とか言いそうだけども。


「上手くいきますかね。」


「わからん。わからんが今はやるしかない。」


「まさか畑全部の芋が無くなるとは思いませんでした。」


「この街の住民はほんと新しいもの好きだよな。」


「でも、あの味は他所でも流行りますよ。レシピを解放してよかったんですか?」


「独占するなら化粧品みたいにもっと高く売れるやつで独占するさ。たかだか銅貨10枚で必死になって秘密を守るぐらいなら、胴元になって材料を売りまくるほうがよっぽど儲かる。今頃他所ではなんでこんなに芋を買うのかって噂になってるだろうな。」


そしてレシピがその街で広がる頃には安い芋はすべて俺に買い占められていると。


もちろん、流行したからって高値で売ることはしない。


あくまでも今までの定価で売るだけだ。


それでも仕入れ値がかなり安いから買って売るだけで大金が転がり込んでくるだろう。


いやー笑いが止まりませんなぁ!


「なるほど、シロウ様はそこまで考えておられたんですね。」


「先を見越すのは昔から得意なんだ。」


「という事は、前もこんな仕事を?」


「ま、そんなところか。随分と嫌われていたけど。」


「嫌う?」


「色々あったんだよ。」


前の世界じゃテンバイヤーなんて言われて忌み嫌われたものだが、この世界ではそう呼ばれることもない。


もっとも、そういう呼び方をされている奴らは暴利を貪っているわけだし、嫌われても仕方がないだろう。


俺も一歩間違えればそう呼ばれる可能性がある。


だからこそ、普段から無意識にぼったくらないようにしているんだろう。


「ともかく、ハーシェさんが仕入れてくれている芋が届くまでは代用品で賄うしかない。届いてからの仕分けとかはミラとアネット、二人で頼むな。」


「お任せください。」


「頑張りましょうミラ様!」


ミラ一人に任せると前みたいになるので、今回は二人でお願いしよう。


最近のミラはいつも以上に仕事に熱が入っているので危なっかしい感じがする。


また無茶をされても困るので仕事量なんかは俺がしっかりセーブしないと。


店番をしながら雑務をこなしているとあっという間に時間は過ぎ、夕日を浴びながら店じまいをしていると、通りの向こうから疲れた顔をしたエリザが戻ってくるのが見えた。


「おかえり、随分とお疲れだな。」


「まさかあんなに大変だとは思わなかったわ。」


「新人のおもりがか?」


「魔物の方よ。土に隠れて全然出てこないし、出てきたら出てきたで大量にわいてくるし。一匹一匹は雑魚だから初心者でも問題ないかもしれないけど、あの数は危ないわ。」


「芋が襲ってくるのか?」


「そんな感じ。」


昔トマトが人を襲うパニックムービーがあったなぁ。


無声映画で一時停止てんこもり。


今の技術ではお世辞でもいい出来だとは言えないけれどあの当時は画期的な作りだったんだろう。


今回はトマトではなく芋が襲ってくるわけだけど、ぶっちゃけ想像がつかない。


「後で新人たちがこっちに素材を持ってくるわ。覚悟してよね。」


「多いのか?」


「シロウが後悔するぐらいには多いわよ。でも売れるのよね?」


「そのはずなんだが・・・。」


買うと決めたからには買うつもりだが、今更ながら使い物にならなかった時の事を考えていなかった。


なんだか嫌な予感がするなぁ。


エリザは汗を流しに店の奥へ、しばらくして新人たちが大量の芋を抱えて店にやってきた。


見た目は芋。


でも俺の想像していた芋じゃない。


ジャガイモだ。


こぶし大ほどのジャガイモを抱えた新人冒険者達が期待に胸を俺の店に殺到してくる。


この状況で断れる程俺は強くなかった。


笑顔を浮かべながら店を出ていく冒険者とは対照的に俺の表情は暗い。


後ろを見れば薄暗い裏庭に山のように積まれた芋の山が見えるからだ。


はぁと大きなため息をつく。


まだだ。


まだそうと決まったわけじゃない。


見た目はジャガイモだが中身は甘いかもしれないじゃないか。


魔物の肉だけど。


店を閉め、早くもあきらめの表情を浮かべるミラとアネットに見守られながら俺はその肉を茹でた。


見た目はジャガイモ。


白い湯気を上げるそいつは、バターを乗せてくれと叫んでいるようにも見える。


フォークで切り分け皮ごと口の中に。


「い、いかがですか?」


「・・・芋だわ。」


「それはつまり?」


「甘くない方のな。」


「「あぁ・・・。」」


ため息のような二人の声が綺麗にハモる。


まじか。


確かにしっかり確認しなかった俺が悪いのだが、ここにきて大失敗を犯すとは。


どうすんだよこれ。


不味いわけじゃない。


どっちかっていうと美味い方の味ではある。


新ジャガのような甘さも感じるし、ホクホク感も最高だ。


初見でこれを出されたら肉だと見破ることはできないぐらいに、肉々しさゼロだ。


植物系の魔物なんだからそういうものだと言われるかもしれないが、それでも俺には肉だとは思えない。


これはジャガイモです、ありがとうございました。


これじゃ大学芋には使えない。


使えるはずがない。


待っていくれている人には事情を説明してあきらめてもらうとして、問題はこいつだ。


この山のようなイモもどきをどうにかしなければ。


これだけならぶっちゃけ何とかなる。


だが、あと二日。


二日も買い取ると約束してしまったんだ。


おそらく、というか間違いなく凄い量になる。


いくら買取価格が安いとはいえ、量が増えればかなりの損失になるだろう。


それこそ、正規の芋で稼ぐ分を食ってしまうぐらいに。


別にそれで破産するわけじゃないんだからそこまで悲観しなくてもいいのだが、やはり儲けが無くなるのは気分的によろしくない。


ジャガイモ。


ジャガイモなぁ・・・。


スライスしたお菓子か某ファーストフード店の商品しか思いつかないんだが。


ひと先ず作ってみるか。


ってな感じでこの前同様サクッとフライドポテトを作ってみる。


といっても短冊切りにして片栗粉をぶっかけて油で揚げただけ。


最後に塩をかければフライドポテトの完成って、ポテトモドキだけど。


「どうだ?」


「美味しい!」



「これ、エールにとっても合うわね。」


「揚げただけですけど、外はカリカリ中はホクホクで塩気がたまりません。」


「う~ん、岩塩もいいけどちょっと塩気がなぁ。」


「岩塩ではだめなんですか?」


「ダメじゃないんだが、思ってたのと違うだけだ。」


どっちかっていうと岩塩はステーキ肉とかそっち系の感覚がある。


ポテト系にはやっぱり白い塩が合うよなぁ、と勝手に思い込んでしまうわけで。


でも海が遠いこの地域ではなかなかお目にかかることはできないだろう。


今度モーリスさんに聞いてみるか。


「美味しいから別にいいじゃない。」


「まぁそうだな。」


「では明日から販売ですね。急ぎ準備いたします。」


「持ち帰り用のお皿はこの前のやつでいいですか?」


「いや、ミニボックスの殻がちょうどいいだろう。差し込んで渡せば片手で食べやすいぞ。」


ミニボックスとは四角いポリゴンのような生命体で、殻はかなり固く魔法でないとダメージを与えられない厄介な魔物だ。


だが、魔法であれば簡単に倒せるので魔法を使えない冒険者は魔道具を流用して倒したりする。


主にダンジョンの隅の方で埃なんかを食べているらしい。


最初に聞いたときはル〇バか何かかと勘違いしたぐらいだ。


ちなみにダンジョンの下層に行くともっと大きな奴がでてくるが、そいつも魔法で簡単に倒せるとか。


残った中身は入れ物として使えるので各家庭に絶対にある魔物素材と言えるだろう。


もっとも、奥にいる奴は人もゴミと思って食いに来るらしく油断した冒険者が餌食になるのだとか。


「なるほど。」


「数が心もとないですね、急ぎギルドに依頼しましょうか。」


「ミニボックスも新人向けの魔物ね。はぁ、また巡回か。」


「頑張れよ。」


「仕方ないから頑張ってあげる。」


別にエリザが行く必要はないと思うんだが、まぁ本人がやる気ならそれを止める必要はなし。


さて、芋は違えど売れそうな気配はする。


損をしない為にももうひと頑張りしますかね。


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