372.転売屋はお姫様を出迎える
そしてその日はやってきた。
万全の状態で到着を待つ俺達の前に、豪華な馬車が姿を現す。
はるか遠くにあるはずなのにそれでもわかる豪華な装飾。
さすが金持ちのやることは違うね。
「シロウさん、くれぐれも粗相の無い様にお願いしますよ。」
「そんなに心配なら俺を呼ばなきゃいいだろ。」
「そういうわけに行きませんよ。顔見知りなんですからお相手してください。」
「じゃあ文句言うな。」
「オリンピア様であれば問題ありませんが、他の王族も居ますからそこの所本当によろしくお願いします。」
「っていうか、なんでわざわざこんな辺鄙な街のオークションに王族が来るんだよ。」
「原因を作った人が何を言いますか。」
「俺のせいかよ。」
納得いかない。
納得いかないが、同じく横で控えるローランド様の視線が怖いのでコレ以上は静かにしておこう。
アナスタシア様がやれやれといった顔をしている。
だから俺は来たくなかったんだ。
王族だからって変にかしこまる必要は・・・あるんだよなぁ、めんどくさいけど。
馬車はあっという間にこちらに到着し、豪華な馬車から鮮やかな黄色のドレスを身に纏った女性が降り立った。
馬子にも衣装とはまさにこのことだな。
「ようこそお越しくださいました、オリンピア様。」
「わざわざお出迎えありがとうございます。お父様でなくて申し訳ありませんローランド様。」
「何をおっしゃいます。長旅でお疲れでしょう、さぁ馬車にお戻りください。屋敷へご案内いたします。」
「その前に寄りたい所が・・・。」
「化粧品のお店でございますね、店主が屋敷で待っております。」
王都から遠路はるばるやってきたお姫様をもてなすために、事前に欲しいものをリサーチしておいた。
ってのが今の流れ。
だが、実際は姉妹の再会をお膳立てしたというわけだ。
まぁ、いきなりお姫様が店に来るってのも警備上大変なのでマリーさんには一足早く屋敷で待機して貰うことにしただけだけど。
他の王族の目もあるので仕事が出来ますという体にしておく必要があるんだよなぁ。
あーめんどくさいめんどくさい。
「では、お願いします。」
「屋敷まではアナスタシアが同行します、頼んだぞ。」
「お任せください。ではオリンピア様参りましょう。」
「え、私だけですか?」
「お連れ様も後にお連れしますのでどうぞご安心を。」
「・・・わかりました。」
しぶしぶといった感じでオリンピア様が馬車に戻った。
一緒に乗り込んだアナスタシア様の代わりに別の人が馬車から降りてくる。
来ると思ってたけどやっぱりか。
「フェルさんも来たんだな。」
「もちろん君が居るのに行かない理由は無いからね。オリンピアにも同行を頼まれたし、この前使った顔料を補充したかったんだ。」
「ということは気に入って貰えたようだな。」
「ここの顔料は本当に素晴らしい品ばかりだ。今回もいくつか仕入れたいんだけどかまわないよね?」
「あぁ、新しい素材がいくつか入荷している。欲しいものがあればいいな。」
「聞けば竜種の素材が大量に入荷したそうじゃないか。」
「耳が早いな。」
「噂を仕入れるのも大切な仕事だからね。」
なるほどねぇ。
いろいろな場所に出入りする傍ら情報収集するのも画家の務め。
まるで諜報員のようだ。
オリンピアと他の王族の乗った馬車を見送り、フェルさんと一緒に店へと向かう。
「この間はすまなかったね。」
「俺には何の被害も無かったし、むしろ大変だったのはそっちの方だろう。」
「あぁいう輩が僕の絵を買いまわっているとは知っていたけれど、まさかあんなに早く君の店に辿り着くとは思わなかった。」
「中々に詳しい感じだったが、やり方が不味かったな。」
「同じようなことをしている連中にはいい薬になっただろう。これで僕も安心して自由に絵が描けるよ。」
「そりゃ何よりだ。」
他愛ない話に花を咲かせながら店に到着し、フェルさんのお眼鏡にかなう素材をいくつか融通する。
オークションに出す予定の品もあったが、やはり知っている人間に買ってもらうのが一番だ。
満足そうに画材を抱きしめるフェルさんと共に再び街を歩き、オーランド様の屋敷へと向かった。
「遅かったじゃない。」
「遅れまして申し訳ありません。」
「やめなさいよ、気持ち悪い。」
「気持ち悪いって何だよ。」
エントランスでさっそくアナスタシア様に絡まれてしまった。
確かに遅くなったのは悪かったけど、気持ち悪いはないだろ?
っていうかくれぐれも粗相が無いようにって言ったのは羊男だ、文句は向こうに言えよな。
「やっぱり君はいつも通りがいいよ。」
「そりゃどうも。」
「オリンピア様が首を長くして待ってるわよ、さっさと行きなさい。オークションの開始時間だって迫ってるんだから。」
「マジで今日やるのか?普通一日ゆっくりするとかしないのか?」
「何も無いこの街でどうやって時間をつぶして貰うのよ。」
「・・・副長の嫁さんとは思えない発言だな。」
「それが現実だもの。フェル様もオリンピア様のお部屋にお戻りください。」
「ははは、君の周りは本当に素敵な人が多いな。では奥様、失礼いたします。」
「やっぱり宮廷画家ともなると見た目も素敵ね、誰かに見習わせたいぐらいだわ。」
そう言いながら俺の服装を見るアナスタシア様。
誰とは一言も言っていないが、どう考えても俺に言っている。
目は口ほどにものを言うものだ。
メイドさんに案内されて一番奥の貴賓室へと向かう。
前に国王陛下を案内した部屋だ。
「失礼します、フェル様とシロウ様が参られました。」
「どうぞお入りなさい。」
「失礼します。」
フェルさんが返事をして扉を開ける。
その後ろについて部屋に滑り込んだ。
扉がすぐに閉められ、横に控えていた女性がなにやら魔法を唱えた。
「遮音魔法完了しました、30分後に参ります。」
「ありがとうそれまでゆっくりしてね。」
「アニエス様の所に行って参ります。」
そういうとその女性はうれしそうに部屋を出て行ってしまった。
そうか、マリーさんがここにいるということはアニエスさんもここに来ているということだ。
前はオリンピア様について居たわけだし知り合いも多いだろう。
ここでも久々の再会が行われているわけだな。
「さて、いい画材は仕入れられたかしら?」
「もちろんだよ、コレでまたいい絵が描ける。支払いはオリンピアにつけてあるからよろしくね。」
「ちょっと!何で私なのよ!」
「仕方ないじゃないか、手持ちが無いんだから。」
「仕方ないって・・・。はぁ、オークション用に持ってきたお金がなくなっちゃうわ。」
「別に後払いでもいいぞ。俺はオークションで儲ける予定だしな。」
「うらやましいわね。」
「飛び込み出品も出来るぞ?」
「そんな凄いもの持って来てないわよ。せいぜいお兄様の使っていた剣ぐらいだわ。」
「いや、何でそんなものがあるんだ?」
本人が目の前に居るとはいえ、使い道の無い剣を持ってきても仕方がないだろう。
マリーさんだって不思議そうに首を傾げてるし。
いくら何でもこの細身で剣は振り回せそうに無い。
「だってフェルが持ってこいって・・・まさか!」
「そのまさかだよ。いいよね、マリアンナさん。」
「私のではありませんからオリンピアの好きにすればいいですよ。」
「ほらこう言ってるんだし出しちゃいなよ。いい金になると思うんだ。」
「いいのか?」
「私にはもう必要の無いものですから。」
「なんならシロウさんが買うかい?」
「買った所で使い道がねぇよ、店に飾るには邪魔だしな。」
「あはは、彼の剣を邪魔扱いか。さすがだねぇ。」
いや、だって邪魔だし。
俺が買って別人に売るって言う手もあるが、相手を探すのがめんどくさい。
それにだ、持ってるとまた変な連中に目をつけられそうなんだよな。
前みたいのはごめんだよ。
「ってことで出品は決まり、コレで画材代も軍資金も無事に確保できたね。」
「はぁ、ごめんなさいお姉様。」
「気にしないでいいのよ、本当に必要の無いものだから。でもオリンピア一体何を買うつもりなの?」
「えっと、それは・・・。」
「僕もそれは気になってるんだ。でも絶対に教えてくれないんだよ。」
「お姉さまはともかくフェルに言う必要は無いわ。」
「冷たいなぁ。」
そういう割には悔しそうな顔をしないフェルさん。
確かにオリンピア様が何を買いに来たのかは気になるところだ。
何が出品されるかは事前出品で確認できるようになっているから、俺が真贋鑑定した中にあると思うんだが・・・。
わからん。
「まぁなんでもいいんじゃないか?マリーさんには白状するみたいだし。」
「なるほど、彼女を経由して教えてもらうわけだね。」
「そういう事。」
「お姉さま!?」
「ふふ、どうしようかしら。可愛い妹の秘密は守ってあげたいけどシロウ様に聞かれたんじゃ応えてしまうかもしれないわ。」
「だ、そうだぞ。どうする?」
「うぅ、お姉様は味方だと思ったのに。」
何だかよくわからないが、姉妹同士で楽しくやっているようだ。
さて、そろそろオークションの準備もあるしお暇するかね。
「そんじゃま俺はそろそろ行くわ、オークションの準備があるんでな。」
「もう行くのかい?」
「今回は真贋鑑定で駆り出されるんだよ。その剣も早めに出品頼むな。」
「わかりました。」
三人に会釈をして部屋を出る。
と、さっき部屋を出て行った人がアニエスさんと一緒に戻ってきた。
「シロウ様。」
「マリーさんたちならまだ中だぞ、俺はオークション準備に行ってくる。」
「お相手有難うございました。」
「別に何もしてないさ、そんじゃま後宜しく。」
さて一度店に戻って着替えやらなんやらしないと。
まだまだ長い一日になりそうだな。




