365.転売屋はオークションに招かれる
投稿を始めてちょうど一年になりました。
365日毎日投稿させていただき、たくさんの方にお読みいただけたことに感謝いたします。
引き続き頑張ってまいりますのでよろしくお願いいたします。
気付けば20月になっていた。
夏も残り一ヶ月と思えば名残惜しく感じるが、まだまだ残暑は厳しいようだ。
今日も今日とてダンジョンから採掘された氷を足元に置き、買取に精を出している。
女達はルフの所に行ってしまった。
子犬で居る時期は短い。
今しか見れないとなれば仕方ないのかもしれないが・・・。
まぁ、働きすぎは良くないよな。
前みたいになられても困るし、ゆっくり休んで貰おう。
ってことで、店番をしていた俺の前に来てもあまり嬉しくない人がやってきた。
「なんだよ、面倒ごとならごめんだぞ。」
「私の顔を見るなりそれはないでしょう。」
「面倒じゃなかったことがあったか?」
「ありますよ!」
「じゃあ言ってみろよ。」
「ほら、あれですよ、あれ。」
「言えねぇじゃねぇかよ。」
やってきたのはギルド協会の羊男ことシープ。
手にはなにやら紙を持っている。
「あははは。」
「まぁいいさ。で、今日は何しに来た?」
「20月といえばオークションですが、今回は出品されるんですか?」
「なんだ参加確認かよ、わざわざご苦労なことだ。」
「コレも仕事ですから。」
「一応参加するつもりだ。なぁ、今回は来ないよな?」
「さすがに毎回来られても対応するこちらが困ります。」
あぁよかった。
また国王陛下が来るとかになったらその相手をしなければならなくなる。
そういう面倒ごとは勘弁していただきたい。
「そりゃ何よりだ。」
「シロウさんは参加っと。ではこちらをお願いします。」
「参加用紙か?」
「いえ、招待状です。」
「・・・どう見てもそうは見えないんだが?」
「そんなことないですよ。ほら、ここに書いてあるでしょ?『協力いただける場合は無条件でオークションに参加いただけます』って。」
「この協力の部分がどうなんだって言ってるんだ。」
羊男が渡してきた書類にはこう書いてある。
『オークションを円滑に執り行うための事前出品と真贋鑑定のお願い。』
わかるか?
わかるよな。
『真贋鑑定』ここだよここ。
「見ての通り、事前出品のお願いです。」
「そこじゃない。」
「真贋鑑定?」
「それだよそれ。今までそんなことやってなかったじゃないか。」
「いや~、前回の一件以降そういった部分を気にする人が多くてですね。一応主催者としては贋作を排除したいわけですよ。後々になって揉めるのはごめんですからね。」
「それを理解して入札してるんじゃないのかよ。」
「もちろんそうですけど、揉める時は揉めますから。」
「つまり面倒ごとを回避するために手伝えってことだな?」
「いえいえ、あくまでもオークションへのお誘いです。鑑定はおまけですって。」
絶対に嘘だ。
別に招かなくても俺はオークションに参加する。
一番最初にそれを確認したはずだ。
にもかかわらず書類を出してくるあたり、お誘いではなく強制であるといえるだろう。
参加するんだから手伝えよな。
そう書いているようにしか思えないんだが?
「そのおまけで拘束されるのは勘弁してほしいんだが?」
「オークション当日は自由にしていただいて結構です。あくまでも、事前出品物の真贋鑑定になります。なんでしたら後夜祭にみなさん全員で来て頂いてもかまいませんよ。っていうか来てもらえないとアナスタシア様に怒られるんです。お願いします、絶対に来てください。」
「本音が駄々漏れだぞ。」
「だってこうでもしないとシロウさん来てくれないじゃないですか。」
「俺からしてみればどうでもいい話だからなぁ。」
「そこを何とか。ちゃんと鑑定料も出しますから。」
「鑑定料よりも落札代の減額をしてくれ。」
「あ、それは無理です。他の人ならまだしもシロウさんの落札代は高すぎるんです。減額なんてしたらそれこそ何言われるか。」
やれやれ自分勝手な奴らだ。
お金は出すから手伝ってくれ、でも俺の望むことは叶えないよ。
それでよく人に仕事を頼めるよな。
普通はこっちの言い分を聞いてもいいと思うんだが?
まったく。
「何でしたら畑の拡張も・・・。」
「結構だ。」
「番犬が増えたんですから大きくしてもいいと思うんですけど。」
「税金がかかるだろ?」
「そこはほら、あくまでも個人向けだと言い張ってですね。」
「言い張って何とかなるのかよ。」
「意外と何とかなりますよ。特にシロウさんは色々と便宜を図ってくれそうな人が後ろについていますから。」
そんな事で国家権力に干渉したくないんだが。
まったく俺をなんだと思ってるんだ。
確かに俺が頑張ればその分雇用が生まれる。
だが俺は買取屋で事業家じゃない。
事業縮小していこうって言ってるのに、これ以上広げてどうするんだよ。
「ともかく畑は不要だ。番犬ってもまだ子犬だし広げる気はさらさらない。真贋鑑定に関しては・・・、そうだな気が向いたら手伝ってやるよ。」
「わかりました、では開始は明日のお昼ですのでお待ちしてますね。」
「何聞いてたんだよ。」
「そういう時は来てくれるって知ってますから。」
「お前は俺の恋人か何かか?」
「やめてくださいよ。うちには美人な嫁がいるんですから。」
「はいはいごちそうさん。」
「シロウさんもそろそろって言いたいですけど、色々と大変そうなので止めときます。」
「それはなによりだ、危なくこれを投げつける所だったよ。」
そういいながら目線の高さまで持ちげたのは、先ほど買い取った鉄の短剣だ。
見た目は安っぽいが切れ味の効果が付与されている。
投げればよく刺さるだろう。
「ほんと勘弁してください。」
「お前が余計なこと言うからだ、さっさと帰れ。」
「では明日、ギルド協会までお願いします。」
そう言うと羊男は逃げるようにして店を出て行った。
はぁ、お誘いとか言いながらどう考えても徴用じゃねぇかよ。
断っても直接何か言われることは無いだろうが、間接的に色々してきそうだなぁ。
それに関してはあまり考えたくない。
面倒過ぎて思考が停止してしまう。
「ただいま~!」
「ただいま戻りました。」
「おう、おかえり。」
「先程シープ様とすれ違いましたが、どうかされたんですか?」
「オークションへのお誘いっていう徴用に来たんだよ。」
「お誘い?出品するんじゃなかったの?」
「もちろん出品するさ。それとは別に事前出品物の事前真贋鑑定をするから手伝えだとよ。依頼料と後夜祭への参加がお礼だそうだ。」
「なにそれ、全然見返りになってないじゃない。」
「だろ?」
脳筋のエリザでもわかるこの違和感。
だよな、やっぱり変だよな?
「でも行かれるんですよね?」
「そうしないと何されるかわかったもんじゃない。これ以上面倒事が増えるのは御免だ。」
「御主人様相手には容赦ないですもんね。」
「それな。」
俺だったら大丈夫みたいな感覚で来るのはマジでやめてほしい。
俺にも限界というものはある。
いつか痛い目をみさせてやるからおぼえとけよ・・・。
「そうでした、もう一つあったんです。」
とか思っていたらまた羊男が店にやってきた。
「なんだよ。」
「当日、国王陛下は参加されませんがオリンピア様が遊びに来られるそうです。なんでもオークションというものを経験してみたいのだとか、シロウさんにも色々とお手伝いいただくことになると思いますので心づもりをお願いしますね。それじゃあ!」
「・・・はぁ。」
「大変ですね、ご主人様。」
「大変で済んだらいいけどな。」
「マリーさんは知ってるのかしら。」
「知ってるだろうが簡単に会うことはできないだろう。」
「マリー様といえば、近々そのオリンピア様付の侍女長がこられるんでしたね。」
イベントが多すぎて頭がついていかない。
そういえばそんなこともあった気がする。
恋人のふりをしてくれとか言われていたなぁ。
いやマジで勘弁してくれ。
俺の平穏な日々はいったいどこに行ってしまったんだろうか。
オークションは20月半ば。
ってことはあと二週間。
それまでに来るだろうから・・・。
やれやれ今月も忙しくなりそうだ。




