348.転売屋は探し物を頼まれる
翌朝。
早速奥様と子供の分の品を探し始めた。
本当は指輪を子供に送るつもりだったんだが、値段が釣り合わないのとやはり中古品を送るのはどうかと思い直した。
新しく生まれる命だ、新しいものを送るのが筋というものだろう。
決して金額が安すぎると思ったわけじゃない。
違うからな!
「ふむ、新しい命への贈り物か。色々あるけどどれがいい?」
「え、いろいろあるのか?」
調べものといえば図書館だ。
アレン少年に事情を話して候補を探してもらおうと思ったんだが・・・。
どうやら数が多いらしい。
「例えば、生まれてくる子供の頭にドラゴンの血で名前を描くと病気になりにくいとか、エルダートレントの古木で歯固めを作ると歯が丈夫になるとか、いろいろあるよ。」
「それは民間療法ではないんだよな?」
「もちろんさ、立派な呪いだよ。まぁ気持ちが半分、思い込み三割、実効果二割ってところかな。」
「全然だめじゃねぇか。」
「特別な贈り物ってのが厳しいんだよね。」
「手に入りにくいってことだろ?」
「それもある。例えば、セイレーンの夢とかは歌が上手になる効果があるし、ラミアの瞳には異性を虜にする効果がある。そういった品を送るのが特別な品になるわけだけど、どの効果がある品を選ぶかが重要だ。下手な効果だと君の首が飛ぶかもしれないよ。」
「それはさすがに困るんだが。」
リングさんの事だからさすがにそこまではしないだろうけど、落胆させたくない。
生まれてくる命にふさわしい贈り物。
なかなかに難しそうだ。
「難しく考えずに、体力の指輪とかはどうなのかな。」
「それだと特別にならないだろ?」
「普通のを送ればね、でも特別な奴がないわけじゃない。」
「ほぉ。」
「タイタンの心臓。それを用いた指輪は体力を飛躍的に向上させ病気にも強くなる。幻の宝石ともいわれているんだ。」
「ってことは魔物の素材じゃないのか?」
「魔物の素材だよ。心臓の中で結晶化した魔力の宝石さ。魔石とも違うし、かといって宝石でもない。そもそもタイタン種が少ない上に結晶化するほどの長寿もしくは魔力を持った種はほとんどいないんだ。倒すのも容易じゃない、なんせ神代から生きているといわれている魔物だからね。」
つまり知性を持った種族ということだ。
魔物は簡単に殺せと言えるけど、そういった種を殺めるのはなんとも言えない気持ちになるなぁ。
「ちなみに会話は出来るけど、僕たちを目の敵にしているから捕まったら殺されるよ。女は犯されて殺され、男は玩具にされて殺される。だから遠慮しなくていいんだよ。」
「それを聞いて安心したよ。」
「一時は和睦も考えられたそうだけど、結果的に無理だとわかったんだ。彼らは我々とは相いれない、そういう相手には容赦はいらないよね。」
「魔物だと自然発生だよな?そいつらもそうなのか?」
「う~ん、研究が進んでいないからわからないみたい。どの本を見ても答えが違うんだよ。繁殖していると書いている本もあれば、突然発生したのを見たという話もある。住んでいるのがほぼダンジョンっていうのが魔物といわれる所以だ。」
「地上には出てこないのか。」
「出てきても僕たちに殺されるから。」
「・・・血なまぐさい話だ。」
「そんなことを言ったら君の商売なんてできないじゃないか。魔物を殺し、その素材で我々は生きている。それと同じことだよ。」
「それもそうだな。」
深く考えるのはやめだ。
ともかくそれだけの効果がある素材、もとい宝石ならば贈り物にふさわしいだろう。手に入るかは別だけどな。
「息子はそれで良いとして奥様のほうをどうするかな。」
「産後の肥立ちを考えて同じような物でもいいと思うけど。」
「ん~・・・。」
「はいはい、君はそれじゃ納得しないんだったね。」
「化粧品じゃぁ特別な贈り物にならないんだよなぁ。」
「確か妙齢の奥様だったね。」
「あぁ、30は越えているはずだ。」
「王族だけに宝飾品には飽きているだろう。それならいっそシンプルな方がいいんじゃないかな。日常や公務で使えるブランケットやガウンなんかは今後の季節に役立つだろうし、送る身代わりにもちょうどいいよ。火焔鼠の毛皮なんかは一級品の上に丈夫だし温かい。ピッタリだと思うけど。」
「なるほどなぁ。」
確かに王族であれば貴重品は山ほど持っているだろう。
それならばいっそシンプルな方が喜ばれる。
下手に使え無い物よりも、気軽に使える物の方が安心して使えるってもんだ。
送った方もうれしいな。
「よしそれでいこう。」
「いや、それで行こうってどちらもかなり珍しい物だよ?加工する時間も考えたら三日以内に手に入れないと。」
「三日か。まぁ何とかなるだろう。」
「楽観的だねぇ。」
「何とかならなければ他の物を送ればいい。並行していくつか進めてみるよ。」
「うん、それがいい。」
「悪いな朝一番から。」
「いやいや、楽しい時間だったよ。この歳になると誰かに贈り物をするなんてことは無いからねぇ。」
一体いくつなんだろうか。
聞きたいが聞いてはいけない。
それがアレン少年だ。
ひとまず情報は仕入れたので急ぎ店に戻る。
「タイタンの心臓に火焔鼠の毛皮!?」
「あぁ、集まるか」
「それを三日でって、いくらなんでも無理よ。どちらか一方ならなんとかなるかもしれないけどさ。」
かもの部分を強調するあたりかなりシビアなようだ。
とはいえやらないわけにはいかないよな。
「やるならどっちが良い?」
「タイタンの心臓ね。」
「そっちの方が難しくないか?」
「だからいいのよ。タイタンの猛者はかなり強いらしいし、腕が鳴るわ。」
「負ければ犯されて殺されるんだぞ。」
「私が負けると思うの?」
「油断は禁物だ、無事に戻って来い。」
「ん、わかったわ。」
残るは火焔鼠の毛皮か。
エリザの話ではダンジョンの奥にある燃える森に生息しているらしい。
環境は最悪で長時間の滞在は難しい上に、見つけるのが非常に困難なんだとか。
これは冒険者達の本気を期待するしかないだろう。
そしてそれに報いるための報酬も必要だ。
「ミラ、火焔鼠の毛皮の収集依頼を出してくれ。報酬は金貨2枚、納期は三日以内の特急依頼だ。」
「それだけで集まるでしょうか。」
「人数集めた方がいいわよ、あそこ魔物も多いし探すのも大変だから。」
「なら参加するだけで銀貨5枚だ、ただし現地に行って何か証拠を持って帰ってきたやつに限る。これでどうだ?」
「うん、それならいいかも。現地に行くだけでお金がもらえる上に、見つければ金貨2枚でしょ?行っただけで終わりってことは無いはずよ。」
「探索に使う食糧や水はこっちもち、後で経費として回すようにギルドに連絡しといてくれ。」
「経費持ちとは大盤振る舞いね。」
「金はある、なら使わないとな。」
危険な場所に行ってもらうんだ、それだけの金を出す価値はあるだろう。
もっとも持ち帰ってもらえなかったら大損だが、冒険者も目の前にぶら下がっている報酬を黙って見逃すわけが無い。
毛皮一つで金貨2枚だ。
大盤振る舞いなのはこっちのほうだろう。
「じゃあ後は私が何とかするだけね。」
「場所はわかってるのか?」
「進入禁止区画の奥だから大丈夫よ。」
「進入禁止区画?」
「中級者なんかが誤って侵入しないように規制されてるの。それこそ入ったら犯されて殺されるから。」
「なるほどな。」
「あそこにしかない素材もあるのよね、ちょっと本気出しちゃおうかな。」
「何度も言うがくれぐれも無茶はするなよ。」
「わかってるわよ。私の帰る場所はここ、でしょ?」
「わかってるならいい。」
それ以上は何も言うまい。
この街の冒険者で最上位といっていい実力を持っているのは紛れも無くエリザだ。
その本人がやるといっているんだから、依頼主が何か口を出すことはない。
まぁ、金と物は山ほど出すけどな!
ただの冒険者ならともかく俺の女だぞ?
何かあったら困るだろうが。
「では依頼を出してまいります。」
「おぅ、頼んだ。」
「私は準備してくるわ。」
「私はお薬を用意しますね、何がいいですか?」
「臭い消しと筋力アップかなぁ、あそこくさいのよね。」
「禁止区画の手前に物資を手配しておく、珍しい素材があったら先に置きに戻っていいぞ。」
「あ、この前の要塞作戦を使うのね?」
「ダンジョン内の拠点は今後も必要になるだろう、禁止区画の手前ならばそれなりの物を作るべきだと思わないか?」
せっかくだから前々から考えていた作戦を実行に移すとしよう。
ダンジョンの素材をいかに有効に利用、かつ冒険者の安全を確保するのか。
安全地帯。
それを自分達で作ることが出来ることは、先の騒動で経験済みだ。
後はどこに作るか。
そして金はどこから出すのか。
今回は最高のスポンサーが居るからな。
いや~自分の懐を痛めずに動けるってのは最高だなぁ。
「程々にしなさいよ。」
「一応は気をつけるよ、一応はな。」
さて俺も忙しくなるぞ。
勝負の三日間の始まりだ。




