34.転売屋は隠し部屋を見つける
何でそんなことを思ったかだって?
簡単な話だ。
外からこの店を見た時、背の高い建物だなと感じた。
他の店は二階建てで横に広い作りになっているのだが、なぜかこの店は横に狭く代わりに高さのある作りになっていた。
高さ的には三階建てぐらいある。
販売ではなく買い取りがメインなので広い販売スペースが必要ないというのもあるかもしれないが、それにしても店舗部分が少なすぎる。
最初は狭いスペースに無理やり建物を建てたのかと思ったのだが、裏庭や倉庫の感じからそういうわけではないのは分かった。
だって裏は他の店舗ぐらいあるし。
他の店を見てないからワザと凸凹にしている可能性も否定できないが、やっぱり気になるのは高さだ。
俺が今いるのが二階部分。
正面から見た窓と同じものがあるから場所的にも合致する。
でも二階部分なんだよ。
高さは三階分あるのにだ。
そこで導き出された答えが、隠し部屋ってわけだな。
「さーて、どこかな~。」
上に行くために必要なのは階段。
もしくは梯子だ。
階段の場合は上から降ろす必要があるのでそれなりのスペースを必要とするが、梯子の場合は下から立てかけることも出来るので、人一人が通れる穴さえあればいい。
問題はどこに梯子があるかなんだが、ぶっちゃけないんだよね。
一時間ぐらい家じゅうを探し回って見つけたのは一本の金属製の棒。
先が二又になっており、階段下のシンクの前に調度品として壁に飾ってあったのだがどうも気になったので取り外してみた。
でもそれだけだ。
外したところにスイッチがあるわけでもなく、壁中押して回ったが隠し通路やボタンのようなものも無かった。
「絶対あると思うんだが・・・ん?」
家探しに飽きてリビングのソファーに寝ころびながら天井を見る。
すると天井と壁の境界付近に何かがこすれたような跡を見つけた。
床や足元部分ならまぁわかる。
だが、天井付近に扇のような形でわずかだが擦れた跡があるってのは怪しすぎるよな。
そして扇上のキズを目で追うと小さな穴が二つ開いていた。
天井に穴。
鍵穴?
いや、違う。
さっきの棒だ!
棒を手に再び二階へと駆けあがると天井に向かってそれを伸ばした。
何という事でしょう、二又の先が見事に一致するではありませんか。
だがいくら押しても反応はない。
うーむ、スイッチだと思ったんだが違うのか。
いや、押して駄目なら回してみろって偉い人が言っていたな。
今度は押し込んだまま手首を返し二又を回してみる。
右回し・・・反応なし。
左回し・・・反応あり!
左に回すと何かが外れるような感触が棒越しに伝わってきた。
そのまま棒を引くと引っ張られるようにして天井の一部が下りてくる。
それは壁に合った傷の通りに動き、中に隠れていた仕込み階段が姿を現したのだった。
昔やったゲームの効果音が頭に響き渡る。
ほらみろ、やっぱりあったじゃないか。
「どれ、隠し部屋には何があるのかなっと。」
恐らく中身をごっそり押収したギルド協会はこの隠し部屋に気づかなかったんだろう。
もし知っていたらさっき説明していたはずだ。
そういえば祖父の家もこんな感じの天井収納があったなぁ。
子供ながらにテンションが上がったのを覚えている。
大人になってもそれは変わらないようだ。
階段に手と足をかけて慎重に上へと登る。
だが、頭だけ出して覗き込んでみるも窓が無いので中は真っ暗で何も見えなかった。
かび臭い臭いがツンと鼻をつく。
かなりの換気をしていない証拠だ。
ってことはホルトも出ていくときはここを開けなかったのか?
そうなるとあまりレアな品は見つからないかもしれないなぁ。
とりあえず明かりになる物を探すか。
一度階段を降りて明かりになりそうなものを探すと、壁にかかっていた魔灯が外せそうだったのでそれを引っぺがした。
無理やり引っ張ったので壁紙がはがれてしまったが、どうせ手を入れるつもりだったしその時に直せばいいだろう。
再び階段を上り魔灯の明かりを頼りに探索を開始する。
結構広い部屋だ。
2LDK分の広さがまるまるワンルームになった感じだろうか。
床もしっかりしており居住空間としても申し分ない。
換気が出来ないのがあれだが、その辺は工夫すればどうにかなるかもしれないな。
埃が凄かったので右手で口元を覆いながら反対の手で魔灯をかざして探索を続けた。
「ん?これは?」
壁にはタンスが置かれていたり机があったりと結構生活感があるな。
どれどれ中身は何かなっと。
『皿。木製のお皿、痛んで欠けてしまっている。。最近の平均取引価格は銅貨5枚、最安値が銅貨1枚、最高値銅貨10枚、最終取引日は今日と記録されています。』
何の変哲もない皿か。
残念。
タンスの他に至る所に木箱が置かれていたが中身はどれも空っぽだった。
うーむ、ハズレだったか。
いい感じの隠し部屋だけに結構なお宝があると思ったんだがなぁ。
奥まで進むとうっすらと壁が見えてきた。
方向的に裏庭側の壁だろう。
ここで行き止まりか。
仕方ない諦めるかとため息をついたその時だった。
一番奥の壁に何かが置いてあるのが見えた。
置いてある?違うな設置してある感じだ。
そこにあったのは人が三人ぐらいは入れそうな大きな檻だった。
鍵はなく自由に出入りできる。
中に入ってみると同時にコツンと何かを蹴飛ばす感覚があった。
「ん?これは・・・指輪か?」
蹴飛ばした先に合ったのは小さな指輪。
大きさ的に小指とかにはめるやつだろう。
そして手に取った瞬間にいつものようにスキルが発動する。
『真実の指輪。これを装備すると隠された物や偽装されたものを暴くことが出来る。それと同時に鑑定スキルを使用できるようになる。呪われている。最近の平均取引価格は金貨28枚、最安値が金貨8枚、最高値金貨42枚、最終取引日は2年と130日前と記録されています。』
ほぉ、真実の指輪ねぇ。
隠された物や偽装が暴けると。
さらに鑑定スキルまで使えるようになるってかなりいい感じじゃないか。
だが残念なことに呪われているらしい。
結構いい感じの品だけにかなり勿体ない。
ゲームだと装備すると外れなくなるってのが一般的だが、この世界ではどうなんだろうか。
過去に何度か呪われた品は手に取ってるが今の所問題はない。
「なんでこんな所にあるかも気になるが、それよりこの檻が気になるよな。」
ここで誰かを監禁していたんだろうか。
でも家具とかも普通に設置されていてかなり生活感があるから、監禁って感じじゃないのかもしれない。
軟禁?
まぁどっちだとしても普通ではないよなぁ。
それに埃の感じからかなりの年月使われていなかったのがわかる。
もしかするとホルト自身もこの部屋を知らなかった可能性も出て来たぞ。
アイツめんどくさがりっぽい感じだったし、寝られたら何でも良かったのかもしれない。
知らんけど。
「ともかく隠し部屋は見つかったし、当たりもまぁ見つかった。これだけの広さだしちゃんと掃除すれば居住部や倉庫として使えそうだな。」
2LDKの物件に巨大ロフトがついていたと考えることも出来る。
掃除は大変だがリンカに暇な奥様を紹介してもらえばいいか。
銀貨2枚ぐらい出せば喜んでやってくれそうだ。
「あ~疲れたっと、帰ろ帰ろ。」
二階に降りると窓から入ってくる光がオレンジ色に変わっていた。
もう夕暮れか。
思ったよりも長い時間あの部屋にいたようだな。
真っ暗だから時間の感覚が分からなくなる。
使用するなら窓をつける必要があるだろう。
換気は大切だ。
下に降りて改めて自分の服を見るとかなりドロドロだった。
さっさと帰ってサッパリしたい。
今日はお湯を多めに貰うとしよう。
隠し部屋はそのままにして一階に降りると誰かが店側の扉を叩いていた。
閉店した店をわざわざ叩く奴なんか一人しかいないよな。
「あ、やっぱりいた。」
「そんなに叩くなよ、壊れるだろ。」
「こわれませんよ~だ。それで、どんな感じだった?」
「いい感じの店だな、広い裏庭もあるし倉庫もある。」
「お部屋は?」
「とりあえず二部屋あったが・・・おい、まさか入り浸る気じゃないだろうな。」
「え?違うの?」
「当たり前だろ。お前と俺はあくまでも金を貸しているだけの関係だ、なんでお前までついてくるんだよ。」
そういった途端にみるみるエリザの表情が曇るのがわかる。
決して逆光になっているせいではない。
あーもう、めんどくさい奴だなぁ。
「いいか?さっきも言ったようにお前と俺は金を貸し借りしているだけの関係だ。お前は冒険者で俺は商人。俺と一緒になるって事は毎日店頭に出て買取をするだけの生活になるってことだぞ?剣を振らない生活がお前にできるのか?」
「・・・無理。」
「だろ?だからお前は冒険者のままでいろ。怪我をしてどうにもならなくなったらそれはそれとして考えてやる。それにだ、俺はお前の冒険者として実力に期待しているんだ。」
「冒険者としての私?」
「お前が良い品を持って来てくれれば俺は儲かる。もちろんお前も儲かる。お互いに得をするいい関係を続けられるわけだな。」
まだ表情は曇ったままだがさっきと違って俺の顔をちゃんと見るようになった。
「シロウの為になる。」
「それにな、仮に恋人になったとしても俺はお前に通常以上の金を払う事はないだろう。だが周りからしてみれば、恋人だから色を付けてもらったとか言い出す奴がいるかもしれない。そんな面倒な事になるのは俺も嫌だし、お前も嫌だろ?」
「うん。いちいち弁解するのもめんどくさい。」
「だから今のままでいるほうがお互いの為なんだ。だが、ただの知人って訳でもない。お前の抱き心地は気に入っているし、話すのもまぁ楽しいしな。」
なんだか恥ずかしくなってきて無意識に後頭部を掻いてしまう。
そうしているうちにエリザの表情がどんどん明るくなってきた。
「じゃあ時々は来ていいの?」
「抱かれたくなったらな。」
「え~、それなら毎日なんだけど。」
「盛りの付いた犬かお前は。」
「ワンワン!」
「犬になんなよ!」
「冗談よ。つまり今まで通りでいいのよね?」
「あぁ。掃除やらなんやらしなきゃならないから当分は三日月亭で厄介になる必要もあるし、今まで通りだ。」
「そっか、わかった!」
最後は満面の笑みを浮かべて大きく頷くエリザ。
うーむ、なんだか悪い事をした気分だがこれでいいんだろう。
別に分かれたとかそんなんじゃない、今までのままでいると再確認しただけだ。
それはつまり金を返し終わった後もこいつを抱けるという事。
正直そこはでかいよな。
なんて下半身直結の俺を知る由もなく、エリザは嬉しそうに何度も頷いていた。
「さ、さっさと帰るぞ。」
「ねぇ、お風呂一緒に入る?」
「嫌だよ、お前返り血まみれだろ?」
「背中流してあげるから~。」
「わかった、わかったから血なまぐさい体で近づくな!」
「シロウだって埃まみれじゃない、おんなじよおんなじ!」
やっぱりこいつは犬だ。
まとわりついてくるエリザをあしらいながら、夕暮れの街をのんびりと二人で帰るのだった。




