338.転売屋は宝箱を見つける
先に言わないといけないが、今回の作戦は失敗だった。
いや完全に失敗かと言われればそうでもない。
原石を利用した探索術は俺の予想通りの結果を見せたが、場所はわかるものの遥か奥の方だったり、見つけたけど小さな原石だったりと非常に効率が悪かった。
なのでさっさとこの方法を辞めて、地道な鑑定法に変更。
落ちている石を拾っては鑑定を繰り返していく。
その時気付いたんだが、原石自体は結構落ちてるんだよな。
でも大抵が屑石なので加工には向かない。
やはり簡単に儲けるのは難しい様だ。
そんな事を考えながら探索する事三時間。
そろそろ地上に戻ろうかという時だった。
収穫なしはもったいないので、再び最初の方法をと原石の入った革袋に手を入れる。
めんどくさくなり一つずつではなくまとめて掴んで相場スキルを発動した。
当たり前だがそこら中から反応が出る。
あまりの多さに脳がパンクするかと思ったが、その中で反応が密集している場所があるのに気づいた。
そんなに離れてもいない。
「エリザ、ここを掘ってくれ。」
「え、またぁ?」
「これで最後だ、終わったら上で一杯やろう。」
「仕方ないわね。で、どこ?」
「この下だ。」
「はいはい分かったわよ。」
エリザが不満げにシャベルを持ち、指さした場所を掘っていく。
他の冒険者は一心不乱に奥の岩場にアタックをしているので、俺達だけ地面を掘るのは少々滑稽な感じだが、反応があるのはこの真下なんだよね。
50cm程掘っただろうか、カツンという音が地面から聞こえた。
「あ、何かあるわ。」
「そのようだ。」
「え、ちょっと待って、宝箱?」
「はい?」
「だってこれは・・・。」
エリザが大急ぎで周りの土を掘り返していく。
一時間ほど頑張ると、本当に地面から宝箱が姿を現した。
さっきまで壁を叩いていた冒険者達が周りに集まっている。
「地面から宝箱なんて聞いたことないぞ。」
「何もない場所だって言われてきたが、まさかこっちにお宝があるなんてな。」
「俺達がやって来たのは無駄だったのか?」
「だけど奥の岩から原石が出てるのは間違いないぞ、当たりだって出てる。」
信じられないという反応をする冒険者達。
それもそうだろう、自分たちの苦労がすべて無駄になるかもしれないんだから。
「これで・・・最後!」
シャベルをてこの様に利用して地面から引っぺがす。
ガコッと音がして宝箱が地面から離れた。
明らかに重そうなそれをエリザは腕力で持ち上げ、ついにお目当ての物が目の前まで来た。
「まだ開けないでよ、罠が仕掛けられてあるかも。」
「おっと、そうだな。」
と言いながらも手は宝箱に触れる。
よく考えてみれば、ダンジョン内で宝箱に触れるのってこれが初めてじゃないだろうか。
話には聞いていたが本物を目の前にするとかなりテンション上がるな。
だがそれで痛い目を見る冒険者が多数いる。
そう、エリザが言う罠だ。
開けたらいきなり刃物が飛び出してくる、毒ガスが噴出される。
ひどい奴は爆発する。
そんな罠で一体どれだけの冒険者が命を落としているのだろうか・・・。
『宝箱。ダンジョン内で生成される不思議な箱。中にダンジョンが生成した道具や装備が入っている。罠が仕掛けられている。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨1枚、最高値銀貨77枚。最終取引日は12日前と記録されています。』
お、罠があるぞ。
ってうか宝箱も取引されるんだな。
さすがに持ち帰るようなことはしないだろうから、ダンジョン内での冒険者同士での取引なんだろう。
さてどうするか。
「だから触らないでって。」
「どうやら罠があるみたいだぞ。」
「え、わかるの?」
「なんとなくな。」
「どうしようかな・・・。」
「フールがいれば開けてもらえたんだろうが、いないときはどうするんだ?」
「そうねぇ、いろいろあるけど一番簡単なのは叩き潰すことかな。」
「さすが脳筋だな。」
「だってそれが一番簡単なんだもん。」
確かに壊してしまえば話は早い。
だが爆発する罠とかだったらどうするんだろうか。
解除できれば中身は無事、でもできなければ爆散する。
なんていうか、極端だな。
「だがそれしかないか。」
「採掘だと思ってたからなにも用意してないのよね。」
「それしか方法がないなら仕方ない。やってくれ。」
「オッケー!じゃあちょっと離れててよね!」
何があるかわからないので周りの冒険者が一斉に距離をとる。
エリザは宝箱の裏側に回り、武器を構え全神経を集中させている。
「いくよ!」
そして掛け声の後素早く武器を振り上げ、目にもとまらぬ速さで振り下ろした。
過激な音があたりに響く。
土煙が上がり、気づけばエリザが俺の横に逃げてきていた。
「手ごたえは?」
「ばっちり!爆発しなかったってことは中身は無事そうね。」
「お前がぶった切ってなかったらな。」
「ちゃんと箱だけで止めたわよ。」
「そういうところがすごいよなぁ・・・。」
「もっと褒めていいのよ?」
「とりあえず中身を見てからな。」
土煙が収まると見えてきたのは木っ端みじんになった宝箱。
そして中からこぼれたであろう石の塊だった。
後ろの冒険者たちからため息が漏れる。
「まぁそうだよな。」
「なんだよ、期待させやがって。」
「戻ろうぜ。」
興味をなくした半分ほどが作業に戻る。
でも俺は落胆していない。
なぜなら相場スキルで確認したのは原石だからだ。
だから中身が宝石でなくても何の不思議もない。
出てきたであろう中身に近づき、一つ手に取る。
『ダイヤモンドの原石。磨くことで光り輝く原石。魔加工すると光の加護を得る。最近の平均取引価格は銀貨20枚、最安値銀貨10枚、最高値金貨55枚。最終取引日は78日前と記録されています。』
ほら、大当たりだ。
試しに持ってきたハンマーでたたいてみると、中から真っ白な塊が姿を現した。
なかなか大きいぞ、これは。
「どんな感じ?」
「全部宝石の原石だな、みてみろよ。」
「わ、おっきい!」
「だろ?宝箱から出てきたんだこれぐらいないと困るだろ。」
「前にガアラが持ってきたのを思い出すわね。」
「あぁ、あれも最初は石の見た目だったしな。」
冒険者がただの石ころだと思って捨てた石。
その中身は巨大なヒスイの原石だった。
懐かしい話だ。
「な、なぁそれは石なのか?」
様子をうかがっていたほかの冒険者が後ろからのぞき込んでくる。
そいつにもキラキラと光る石を見せてやった。
「いや宝石の原石だ。」
「嘘だろ、それ全部か?」
「あぁ、割ってみないとわからないがそれなりにでかそうだ。」
「すげぇ!土の中にこんなのが眠ってるなんて!」
「おい、採掘なんてやめて穴掘ろうぜ!」
「あぁ!次は俺の番だ!」
なんだか勝手に大喜びし始めたぞ?
確かにいつ当たるかもわからない採掘よりも、見た目に分かりやすい宝箱のほうがテンションが上がるのはわかる。
だがほかにもあるかと聞かれると、何とも言えない。
今のところ相場スキルで反応するのはないからなぁ。
ま、いいか。
「とりあえずお目当てのものは見つけたし、帰るか。」
「そうね。ねぇ、それどうするの?」
「とりあえず研磨してみて、それから考える。それなりの大きさなら作りたいものがあるんだが、今は忙しそうだしなぁ。」
「そうね、これ以上仕事をさせるとかわいそうだもんね。」
「ってことでこいつらの処遇は少し待ってくれ。とりあえずあたりは引いたんだ、祝杯をあげようぜ。」
「やった!シロウのおっごり~!」
「明日に残らない程度に頼むぞ。」
戻ったらまずルティエに原石を返して、それから飯だ。
夜は・・・。
頑張らないといけないだろうが、致し方ない。
ちゃんと結果を出してくれたんだからそれに報いるのが男ってもんだ。
できれば例の薬は飲まないで頑張りたいものだな。
はぁ、俺も鍛えようかなぁ。
目下の課題は体力だ。
筋力はおのずとついてくる。
ただの買い取り屋に筋力が必要かと聞かれるとぶっちゃけいらないんだが・・・。
体力のほうは必須だからな。
相手が相手だけに。
「ほら、シロウ早く帰るわよ!」
「わかったからそんなに引っ張るな。魔物がいるんだろ?」
「そんなの大丈夫よ、一瞬で蹴散らすから。」
ここはダンジョンの中。
家に帰るまでが遠足だと昔言っていたよなぁ。
まぁこれは遠足じゃない・・・いや、遠足なのか?
ともかく無事にダンジョンを抜けたらの話だ。
スキップしながら先をいくエリザを追いかけながら、俺は手に入れた原石たちをどうするか考えるのだった。




