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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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33.転売屋は自分の店を手に入れる

年が明けた。


明ける前後の一週間はそれはもうお祭り騒ぎで、街中の人間が朝から晩までずっと食べて飲んでしていた


もちろん仕事も休みだ。


俺はというと、三日月亭だけではなくハッサン氏の所でお世話になっていたわけだが、なぜかギルド協会さらには街の上役の所にも顔を出す事になってしまった。


オッサンの所はまぁわかる。


俺のおかげで破産しなくて済んだわけだしな。


だが残りの二つはなぜだ?


確かに肉を提供したがそれは羊男の功績であって俺は取引しただけだ。


さらに言えば俺は一等地の物件を格安で貸せとまで言っためんどくさい相手。


にもかかわらず行く先々で大喜びされ、酒をふるまわれ続けた。


だがどこに行っても新しい店主とか、そういう扱いを受けなかったんだが・・・。


ようわからん。


ちなみに冒険者もほとんどダンジョンにこもらず街で大騒ぎをするらしい。


もちろんストイックにダンジョンへと向かう冒険者もいるにはいるが、ほとんどいないと言っていいだろう。


エリザもダンジョンに行かない派なので、ちゃっかり俺についてきて一緒に酒を堪能していた。


いい感じに飲み食いして酔っぱらった後にすることは一つしかなく、その期間は毎日のようにヤッてたわけだが・・・。


まぁそれはいつものことか。


リンカには会うたびに文句を言われたが、小遣いとして銀貨を1枚渡すとそれ以降は何も言わなくなった。


ただしマスターの目は厳しくなったけどな。


過保護はよくないぞ過保護は。


そんなどんちゃん騒ぎにも終わりは来るわけで、年明けの一週間が過ぎてからは何事もなかったかのようにいつもの日常が戻ってきた。


「ふぁ~、おはよう・・・。」


「いい加減昼に起きる習慣を正したらどうだ?」


「俺だってそうしたいが寝かせてくれないんだよ、こいつが。」


「そ、そ、そんな事あるわけないじゃない!やめてよね、変なこと言うの!」


「その反応の時点で自分がやりましたって言ってるようなもんだぞ。」


そういうと頭から湯気が出るんじゃないかってぐらいに顔を真っ赤にしてエリザは俯いてしまった。


いつもならさらにからかってやるんだが、今日はそうも言ってられない。


「店の引き渡しは今日だったな。」


「あぁ、昼過ぎって言ってたから飯食ったらいい時間だろう。」


「あんまり遅くなるなよ。」


「それぐらいはわきまえているつもりだ。」


「ならいい、ほらさっさと食ってさっさと行け、いつまでも片付かないんだよ。」


マスターに睨まれながらサクッと昼食を済ませて三日月亭を出たのが昼過ぎ。


エリザの完全武装なんて久々に見たな。


「どこまで潜るんだ?」


「随分とサボってたから肩慣らし程度にするつもり。」


「それがいい、俺も夕方には戻る。」


「いなかったら店まで行くね。」


まるで恋人みたいな会話だが残念ながらそういう関係ではない。


あくまでも金の貸し借りをした間柄だ。


それももうすぐ終わるだろう。


かなりの時間かかると思われた借金も、装備が整ってからはかなりの速度で返済されている。


詳しくは覚えていないが残り金貨1枚程度じゃないだろうか。


この分だと今月中には完済だろう。


それが済めばただの店主と冒険者という関係に戻るだけだ。


大通りの真ん中でエリザと別れ、そのまま十字路を東へ。


そのまま商店街の中ほどまで進むと見覚えのある顔が目ざとく俺を見つけて手を振ってきた。


「こんにちはシロウさん。」


「どうも、待たせましたか?」


「いえ、時間通りかと。」


それはよかった。


俺を待っていたのはギルド協会の羊男もといシープ氏だ。


いや、今はシープさんと呼んだほうがいいのかもしれないな。


「そういえば出世したとか?」


「出世だなんて、ただ単に役職が増えただけですよ。」


「それを出世というんじゃないのか?」


「役職が増え責任が増えても給料は上がりませんから。」


「それはご愁傷様。」


雇われってのは大変だな。


そういう意味では自分のさじ加減で収入も増える個人事業主は気楽だ。


もちろん失敗すれば破産っていう地獄が待っているが、この世界に限って言えば俺がそれに当てはまることはない。


鑑定スキルに相場スキル。


この二つさえあればどこでも生きていける自信はある。


こういうのなんていうんだっけ。


チートスキル様々だっけか?


「さて、そういう事で私も忙しくなりましたので急ぎ終わらせてしまいましょう。」


「急ぎ終わらせるって、契約書はこの前交わしたんだし鍵の明け渡しぐらいだろ?」


「普通の物件でしたらそうですが、ご存じの通り前の家主が家主ですので。」


「危険な物がないか確認しろってわけか?」


「というよりも責任回避ですね。」


つまりは両者で確認したからあとで何があっても文句言うなよってわけだな。


むしろそれだけハッキリ言ってもらうほうが俺としてもやりやすい。


「それじゃあまぁさっさと終わらせるか。」


「鍵はこちらです。」


「俺が開けるのか?」


「シロウさんのお店ですから。」


入り口を開けたとたんに上からタライが落ちてくるとかそんな仕込みしてないだろうな。


ニコニコと笑うシープ氏から鍵を受け取り恐る恐る差し込んでみる。


ここまでは問題なし。


右回りに回すとカタンと小さな感触がカギ越しに伝わってきた。


右手でドアノブを掴み深呼吸を一つ。


そこから一気にドアを押し開ける!


「・・・何もないな。」


「むしろ何か起きるとお思いですか?」


「こういった場合ネタが仕込まれているっていう刷り込みを受けているんだ。」


「非公式ながらシロウさんの功績はギルド協会の中でも評価されています。あの製造方法は画期的ですよ。そんな功労者に失礼なことをするわけがありません。」


「あぁ、この間の歓迎はそれが理由だったのか。」


それで合点がいった。


だがそれならそれでちゃんと言えよな。


「ご存じなかったのですか?」


「ご存じもなにも知らせなかったのはそっちだろ?」


それが分かっていればそれなりの対応をしたというのに。


人脈作りも結構大切なんだぞ。


客が客を呼ぶ、これは商売の鉄則だ。


まぁ事情が分かればそれでいい。


中に入り見慣れた店内を奥へと進む。


「ここが商店部分です。この前お話しした通り中の品はすべて回収させていただきましたが棚などはすべてそのままにしてあります。不要であればご自身で処分なさってください。」


「わかった。」


「この奥がバックヤードと裏口の前にあるのがこの店専用の倉庫です。」


「倉庫があるとは聞いていたが別棟なのか。」


「ご覧になられますか?」


「もちろんだ。」


カウンターをくぐりバックヤードへと入る。


バックヤードといっても中央に作業台があるだけで、右側が二階への階段になっており左側が備え付けの棚になっていた。


一応階段下のスペースを使って簡単なシンクとコンロが設置してあるので、食事などもここでできそうだ。


作業台を避けて奥まで行くと裏口があり、そこから外に出ると裏庭に出た。


「へぇ、思ったより広いな。」


「ほかの商店に囲まれているので外には出られませんが裏庭付きなのもこの店だけの特権です。」


広さは10m四方ぐらいだろうか。


キャッチボ-ルをするには狭いが素振りなんかは十分できるスペースだ。


庭を挟んだ反対側に見えるのが倉庫だろう。


「結構でかい倉庫だな。」


「そうですね、奥行きはありませんが二階建てになっていますので使い勝手のいい倉庫ですよ。」


「罠とかなかったか?」


「設置してありましたが解除並びに排除してあります。必要であればこれもご自身でなさってください。」


「必要であれば考えよう。」


倉庫っていうと巨大なシャッターのあるやつを想像するが、これはどっちかっていうと藏だな。


ほら、田舎の古風な家にある小さな一軒家ぐらいの大きさしかないやつ。


最近はあれを住居やカフェにしていると何かのニュースで読んだなぁ。


「では二階に行きましょう。」


倉庫の確認を簡単に済ませ店に戻り二階へ。


居住部になっており間取りは2LDKってかんじだろう。


ちゃんとバストイレ別になってる。


最高だな。


「結構広いな。」


「こういった商店では奴隷を雇う場合が多いですからそれ用の部屋になります。」


「つまり店主はここに住まないのか?」


「むしろここに住むおつもりだったんですか?」


「あぁ。宿泊代もバカにならないからな。」


三日月亭の場合一泊銀貨1枚なので、24か月あるから年間金貨7.2枚にもなる。


そう考えると高い宿に泊まってたなぁ。


「防犯を考えますとあまりお勧めしませんね。」


「そんなに治安が悪いとは思えないんだが。」


「他の町に比べれば治安はいいですが、それでも強盗や窃盗がないわけではありません。別の場所に住んでいれば命を取られる心配はありませんから。」


「確かにそうだが・・・。ま、そん時はそん時だ。」


戦える人間・・・それこそエリザを別室に住まわせれば防犯も兼ねれるんじゃないだろうか。


あー、でもそうなると本当に恋人みたいな関係になるしなぁ。


いやってわけじゃないけどまだ自由でいたいってのが本音だ。


「では、これで終了です。」


「ん?これだけなのか?」


「えぇ、店舗に倉庫それと居住部になります。では確認のサインをいただけますか?」


差し出された紙にサインをするとシープ氏が満足そうな顔でうなづいた。


「私からのお祝いとして家賃は来月分からで結構です。税金の納付期限は8月ですので用意が出来ているのであれば早めにお支払いされるのがいいでしょう。」


「家賃は集金に来るのか?」


「えぇ、職員が回ることになります。」


「わかった。」


「これから良いお取引ができることをギルド協会、いえ私個人も期待していますよシロウさん。」


「何を期待されているのかわからないが、俺はしがない買取屋だ。せいぜい追い出されないように気を付けるよ。」


差し出された手をしっかりと握り返すと軽くお辞儀をしてシープ氏は帰っていった。


さて、晴れて店を手に入れたわけだが、やらなきゃならないことが山積みで開店には時間がかかるだろう。


内装なんかも考えないといけないし、ハッサン氏に預けていた荷物も移さなければならない。


「なにより、隠し部屋の入り口を探さないといけないよな。」


俺の目は宝探しをする子供のように輝いたことだろう。


この家には隠された何かがある。


そんな確信が俺にはあった。

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