327.転売屋は川遊びを楽しむ
「美味しい!」
「臭みもありませんし何より肉厚で美味しいです。新鮮だとこんなに味が違うんですね。」
「まさかほんの一時間でこんなに釣ってくださるとは思いませんでした。」
「思ったよりも簡単に釣れて俺も驚いている。店主の言った事は間違いなかったな。」
すれてないどころか飢えているレベルの食いつきだった。
この肉付きだしエサには困ってないと思うんだけどなぁ。
でもま、美味いからいいか。
ちなみにエサに使った芋虫はワタを取り除いた時にご一緒に退場いただいている。
再利用は・・・残念ながらできなかった。
「次は私もやってみたい!」
「いいぞ、エサは・・・聞くまでもないか。」
「それひどくない?」
「大丈夫だろ?」
「まぁね。」
「私はこの魚を捌いて夕食の準備をしておきます、追加お待ちしてますね。」
「まっかせといて!」
エリザは竿と網を持って先ほどの場所へ。
ミラは夕食の仕込みをしてくれるという事なので、俺とアネットで河原を散策する事にした。
「あ、見てください綺麗な石!」
「波紋みたいだな。山の方でこういう石が取れるんだろう。」
試しに手に取ってみる。
『石。ただの石。わずかな魔力成分が含まれている。最近の平均取引価格は銅貨1枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨2枚。最終取引日は2日前と記録されています。』
ただの石だったがどうやら魔力成分が含まれているらしい。
この波紋はそのせいだろうか。
上流に魔石鉱山でもあるのかもしれないな。
「冷たい!」
「ここの水はかなり冷たいな。」
「でも気持ちが良いです、ご主人様も一緒にどうですか?」
「おう、今行く。」
アネットにつられて水の中へ。
良く冷えた水が火照った体を下から冷やしてくれる感じ。
涼しいとはいえそれなりの気温ではあるからな、冷たい水が心地いい。
「って冷た!」
「ふふ、油断しているからですよ。」
「良いだろう、俺に歯向かった事を後悔させてやる。」
「あ、ちょっと!本気になるのはダメですよ!」
「問答無用だ!」
水をかけるのはかけられる覚悟のあるやつだけだ。
って事で大人げなく大量の水をかけてやる。
上半身びしょびしょのアネットが水を滴らせながら笑っていた。
若干服が透けてセクシーな感じ・・・って冷たいって!
「ダメですよ、そんな目で見ちゃ。」
「仕方ないだろ目が行くんだから。」
「見るなら川や景色にしてください、そう言うのは夜までお預けです。」
「仕方ない。それを楽しみに遊ぶとしよう。」
強引に視線をひっぺがし川の方を見る。
サングラスのおかげでこちらも水底までよく見えるなぁ。
魚は少なめだがいないわけじゃない。
奥の方に投げれば釣れるだろう。
ん?
「どうかされましたか?」
「いや、所々光ってるんだよなこの川。」
「光る、ですか?」
「あぁ。おそらく何かの破片か何かが日光に当たってるんだと思うんだが・・・。」
そこまで考えてふと思った。
元の世界ならともかく、この世界で人工物の破片が川に沈んでいるだろうか。
そりゃ誰かがガラスを割ったってのはあり得るだろう。
でもここの上流って山だよな?
確か地図上では住居はなかったはずだ。
そうなると別の可能性が出てくる。
「え、ちょっと、あの!」
俺は急ぎ服を脱ぎ、下着一枚になると水の中に飛び込んだ。
アネットも驚いただろう。
いきなり俺が脱ぎだしたんだから。
だが襲われるわけでもなく、脱いだ服を押し付けられただけだ。
刺すような冷たさに飛び込んだことを一瞬だけ後悔したが、興味の方が勝っていた。
流れはそんなに早くなく、すいすいと水底まで到達できた。
キラキラと光る目的のものを手に取った瞬間。
思わず口の中の空気を全部吐き出しそうになった。
慌てて水面に戻り大きく息を吸う。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だ。なかなか気持ちいいぞ、アネットも入るか?」
「でも・・・。」
「っていうか手伝ってほしい。想像以上のものがこの川にはあるみたいだ。」
何を言っているんだろうかという顔をするアネット。
顔は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。
その通りだもんな。
とりあえず流される前に河原に戻ると、アネットが駆け寄ってくる。
「何があったんですか?」
「宝石だ。」
「え?」
「といっても原石だが、もしかするとそこで光ってるやつ全部がそうかもしれん。」
俺の手には小指の先ほどの小さな石が握られていた。
そいつは太陽の光を浴び、水滴と一緒にキラキラと輝いている。
『緋色石の原石。別名ガーネット。魔加工することにより火属性の加護を得る。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨11枚、最高値金貨10枚、最終取引日は22日前と記録されています。』
そう、光っていたのは宝石の原石。
白じゃなく赤く光っていたのでもしかしてと思ったが、まさか本当にそうだとは思わなかった。
「お二人ともどうされましたか?まさかもう水に?」
「ミラ、こいつを見てみろ。」
心配そうな顔をしたミラに向かってポイっと原石を放り投げると、慌てた様子でそれを受け取る。
そしてすぐに目が大きく見開かれた。
ミラの百面相もなかなかに面白いな。
「これは、宝石の原石ですか。」
「そのようだ。これと同じものがこの川にはごろごろしているらしい。」
「まさか。」
「そのまさかだよ、これをかけて水の中を見てみろ。」
アネットに持たせていたサングラスをミラにかけさせてみる。
うん、大きすぎて似合わないな。
今後は女性向けのサングラスも考えてもらうか。
「あの光っているの全部ですか?」
「おそらくな。もしかするとほかの宝石も混じっているかもしれん。」
「この川の上流に鉱山はあったでしょうか。」
「そこまではわからないが、もし見つかってないのなら大騒ぎになるかもなぁ。」
「さすがに規模が多すぎて私たちではどうにもなりませんよね。」
「山がいくらで買えるのかによる。」
「え、山を買うんですか?」
「個人の持ち物なら可能だろう。」
「土地は基本国のものだと思いますが?」
ふむ、そういうものか。
となると我々が買う家はあくまでも外側だけであって土地は街の物という事になる。
借地権とか関係してくるだろうが契約した覚えがない。
ま、今はそんなことどうでもいいか。
「ミラ、料理はどんな感じだ?」
「下ごしらえは終わりましたが、エリザ様がまだ戻られていません。」
「予定変更だ。日が高いうちに水に潜って、寒くなる前に終わらせよう。」
「わかりました。では急ぎ着替えますね。」
「悪いな。」
「アネット様行きましょう。」
「え、あ、はい!」
この日の為に三人とも水着を持ってきていたはずだ。
ここならば他の人もいないので女たちの水着姿を盗み見られる心配もない。
あ~こんなことを考える時点で俺も随分と若くなったなと実感する。
いやそれよりも今は宝石の方だ。
もしかするととんでもない量が手に入るかもしれん。
ひとまず三人で天幕に戻り準備を進める。
確かザルのようなものがあったはずだ。
それと麻袋。
俺は水に潜って奥のやつを拾い、アネットとミラには河原付近の砂利を探ってもらおう。
確かこういった石は砂地に集まっていたはずだ。
比重が違うから同じものが集まりやすいって何かの本に書いてあった気がする。
焚火はしっかりと。
上がってきて凍えるのはごめんだからな。
「ねぇ見てよ!」
「お、いいところに戻ってきたな。」
「え、何でびしょびしょなの?それにミラとアネットは何で水着なの?」
「ちょっと宝石を取りに。」
「よろしければエリザ様もいかがですか?」
「え、え、どういう事?」
まぁいきなり宝石を取りに行くとか言われても理解できないよな。
エリザの網に入った魚がまだビチビチと跳ねている。
処理が面倒だからしばらく泳がせておくとしよう。
「とりあえずお前も着替えろ。エリザは俺と一緒に水中探索な。泳げただろ?」
「泳げるけど、え?」
「ほら早くぬげって、それとも脱がせてほしいのか?」
「脱ぐ!自分で脱ぐから!」
「俺はこいつを川に置いてくる。下ごしらえは戻ってからでいいだろう。」
「わかりました。」
「も~、いったい何なのよぉ!」
エリザの悲鳴が山にこだまする。
その後、水着に着替えた俺たちは宝石探しにいそしんだ。
いやーすごいわ。
まさに宝の山。
釣りをしていた時に光っていたのもやはりガーネットだった。
結局夕方まで延々と水に潜り続け、くたくたになって天幕に戻った。
女たちの水着姿もしっかりと堪能できたし、悔やむべきはその晩楽しめなかったことぐらいか。
皆、自分たちが見つけたお宝にテンションが上がりそういう気分にならなかったんだよなぁ。
大小様々な大きさがあったが、一番はエリザの見つけたこぶし大のやつ。
二番目がアネット三番目がミラ、なぜか俺のやつが一番小さかった。
それでも親指ぐらいの大きさはある。
加工すると小さくはなるだろうがそれなりの値段が付くだろう。
それよりも、残りのやつをどうするかだが・・・。
ルティエ達に頑張ってもらうしかないよな、やっぱり。
夜空に輝く満天の星。
それと同じぐらいの真っ赤な輝きが、焚火の炎に照らされて足元で光り輝いていた。




