326.転売屋は釣りをする
「どうだ?」
「うん、そっちの方が似合ってる。」
「だよな。」
「私は丸い方が好きです。」
「ちょっと可笑しな感じが良いですよね。」
「それ似合ってないって言ってるのと同じだぞ。」
出来上がったサングラスは上々の仕上がりだった。
そしてなにより人気が出た。
買ってくれるのは主に馬車を操る運転手と、屋外で働いている人。
皆、こういうのが欲しかった!とわざと高めに設定した金額ながら喜んで買って行ってくれた。
販売価格は銀貨3枚。
もう少し上乗せしたかったのだが、まずは普及が必要なのと街の人からふんだくるのもあれだからな。
他の街に売る時はもうすこし値上げするとしよう。
で、折角作ったので前々から考えていた計画を実行する事にしたわけだ。
「忘れ物はないか?」
「ありません。魔物避けの天幕も積んであります。」
「でも食糧がこんなに少なくていいんですか?」
「それは現地調達するつもりだ。」
「本当に釣れるの?」
「それはやってからのお楽しみってね。まぁ釣れなければ向こうで買えばいいだけの話だ。」
「シロウ様なら大丈夫ですよ。」
「頑張って下さい!」
そう、これから向かうのは隣町。
何しに行くかって?
釣りだよ釣り。
まぁ、カーラの所に荷物を届けに行くっていう目的もあるが、あくまでもメインは釣りだ。
せっかくサングラスを作ったんだからしっかり実用性を確認しておかないと。
売り込むのはそれからでも遅くはないだろう。
何事もデータ集めが重要だ。
「あ、馬車が来たみたいです。」
「じゃあさっさと荷物を積み込んで出発するか。」
「は~い。」
ってな感じで街を出て向かうは隣町。
事前に仕入れた情報によれば横に流れる川でもそれなりに魚は釣れるらしい。
特に少し上流に行くと一気に川幅が狭くなり、渓流の様になっているのだとか。
流石にすぐ横の魚は泥臭いが、上流の方は食べられるとの事なので試しに行ってみようとなったわけだな。
今回も醤油と味噌が火を噴くぜ。
あ、塩も持っていくぞ。
基本は塩焼きだよな、やっぱり。
サクッと荷物を積んで隣町へ。
到着は夕方。
その日は街で一泊して次の日の朝から楽しむ予定だ。
で、川辺で一泊してその足で帰る。
二泊三日の小旅行。
カーラへの荷物がなければ泊まる必要もないので次回からは一泊二日でも行けるだろう。
でもなぁせっかく行くんだから稼ぎたいよな。
なので次回以降も二泊三日になるような気がする。
夕刻。
予定通り隣町に到着した。
「では宿をとってきます。」
「俺は荷物を届けてくる、エリザもうひと頑張り頼むぞ。」
「終わったらいっぱい飲むからね!」
「はいはいわかったわかった。」
「では私は上流について調べておきます。釣り具も手配しますか?」
「いや、それは俺が見たい。」
「お店だけ調べておきます、カーラ様によろしくお伝えください。」
到着後すぐ別行動。
いや~できる女がいると仕事が楽でいいねぇって、今日は仕事じゃなかった。
失敬失敬。
なので、サクッとカーラの工房に行きエリザに荷物を降ろしてもらう。
俺?
もちろん手伝ったさ。
そうじゃないと後で何を言われるかわからないからな。
「なるほど、それで急いでいるんですね。」
「そういうことだ。悪いな、急がせて。」
「いえ、こちらも夜までには片付くので終わったらそっちに行きます。」
「そうしてやってくれ、アネットも喜ぶ。」
「そうだ、エリザさん。」
「え、私?」
「冒険者の皆さんってスキンケアどうしてるんですか?」
「どうするも何もダンジョン内じゃ何もできないわ。余裕があれば汗を流したり汚れをぬぐったりするけど・・・。最近はお化粧している子も増えてるから話聞いとくわね。」
「よろしくお願いします。」
今度は冒険者向けの化粧品を考えているんだろうか。
さすが凄腕魔科学者、探究心は尽きないようだ。
工房を後にして急ぎ宿に戻る。
エリザはアネットともに明日の食材と店の確保、俺とミラで釣具屋へと向かう。
釣りに行くとは言うがぶっちゃけ素人だ。
なので道具一式は金に物を言わせて店主に丸投げして用意してもらった。
「世話になった。」
「お客さんも上流へ?」
「そのつもりだ。」
「なら最初の沢はやめた方がいい、ほかの客が多くて最近は渋いんだ。おすすめは遠いけど二つ目の沢だね、距離があるから行く人は少ないし水も向こうのほうが綺麗だ。馬車を止める場所もある。なにより美人さんが一緒ならその方が色々楽しめるだろ。」
「なるほど、参考にさせてもらうよ。」
「ちなみにもっと上流は流れが強いだけだからよほど腕に自信がないならやめた方がいいよ。」
「了解。」
上客と判断してくれたのか素敵な情報も一緒に教えてくれた。
一つ目を避けて二つ目ね。
少し距離があるらしいが馬車を止められるってのはデカいな。
わざわざ馬車を取りに戻らなくて済む。
場所が良かったらガキ共も連れてきてやろう。
その日は食事もほどほどに早めに就寝し、夜明け前に出発した。
流石の女たちも昨夜は求めてこなかったなぁ。
ちょっと残念だ。
朝の冷たい風を感じながら川沿いに上流へと走り、最初の渓谷に向かうと思われる道を避けてそのまま奥へ。
しばらく走るとまた道が細くなり、川に向かって降りて行った。
本当に川すれすれの所まで馬車で降りてこれた。
店主に感謝だ。
「エリザは周辺の警戒、アネットとミラで荷物を降ろしてくれ。俺は天幕を設置する場所を探す。」
「わかりました。」
「ついでに薪も拾ってくるわ。」
「頼んだ。」
馬車付近に魔物除けのお香を焚き、そのまま河原へ。
上流に目をやれば大きな石を避けるように水が流れている。
ちょうど川が蛇行してできた河原のようだ。
思った以上にいい場所だな。
地面もいい感じで丸い石が多いので整地しやすい。
この感じだと魔道具で無理やり平らにするよりも持ってきた板を敷いた方が早そうだな。
水場に近い方が台所で、森の方がトイレっと。
土の魔道具で軽く穴をあけ、簡易の囲いを作れば目隠しも完璧。
かまど様に石を組んでいると大量の薪を持ったエリザが戻ってきた。
「どんな感じだ?」
「水場は近いけど魔物が嫌う花が咲いていたからこの辺は安心かも。足跡を見ても強い魔物はいないみたいね。」
「そりゃ何よりだ。」
「その分食べられそうな魔物もいないから、今日の夕食はシロウが頼りよ。」
「まぁ見てろって。」
「本当に期待してるんだからね。それじゃあ天幕張っちゃいましょうか。」
「向こうに板を敷いてある、あの上でよろしく。」
「は~い。」
魔物が少ないのはいいことだ。
天幕をサクッと張っていよいよお楽しみの釣りの時間。
いい感じで風が抜けるので真昼にもかかわらず思ったよりも熱くない。
サングラスをかけて、いざ上流へ。
少し奥に行くだけでまるで山奥の秘境みたいな光景が広がっていた。
どれどれ魚はっと。
サングラスなしでは水がキラキラ光って中を見ることはできないが、かけたとたんに水底まで見える。
いくつもの岩を避けるようにして勢いよく流れる水の下には、たくさんの魚が悠々と泳いでいた。
魚を入れる網を設置して、いざ戦闘開始だ。
店主おすすめの釣り竿に糸を垂らし、釣り針に一緒に買った芋虫を付ける。
おもりはいらないようで、自然に沈むそうだ。
リールは無い。
竿の先端に糸を付けた超絶シンプル構造。
でもしなりがかなり良く、狙った所に餌を落とせるんだからすごいよなぁ。
何かの魔法でもかけてあるんだろうか。
鑑定してもただの釣り竿としか表示されない。
「さてっと、釣れるかな。」
狙った場所に餌を落とし、流れる様子を見つめる。
水の中までくっきり見えるので、魚が食いつくかは一目でわかる。
っと、さっそく寄ってきて・・・食った!
突然泡に向かって引っ張られる。
なかなかの引きの強さに一瞬戸惑うが、すぐ足に力を入れて抵抗する。
釣り糸はあのアラクネの糸。
そうそう切れることはない。
しばらく押したり引いたりを繰り返したが、水面に近づいてきた所で思いっきり引っ張ると漫画の様に宙を舞ってこっちに落ちてきた。
見た目はヤマメっぽい。
丸々と太って美味そうだ。
まさかの一投目で連れてしまった。
これが擦れていないという事なのだろうか。
釣り針を外して魚を網に入れる。
そのまま奥の方まで行き、流れに逆らうように泳ぎ始めた。
「この感じでじゃんじゃん釣りますかね!」
まだ時間はたっぷりある。
再び釣り針に餌を付け、先ほどと同じ場所に餌を落とす。
どれぐらい時間がたったかはわからない。
だが、まだ太陽が真上にあるうちに用意した網はいっぱいになってしまった。
釣りは大成功。
水の中もよく見えるし、まぶしくない。
時々水中がキラキラしているが許容範囲内だ。
これはかなりいい出来だぞ。
売れる。
絶対に売れる。
あとは量産できるかがカギになるが・・・。
そこは頑張ってもらうしかないだろう。
そんなことを考えながら、大量の魚が入った網を持ち女達の所へ戻るのだった。




