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325.転売屋はサングラスを作る

眩しい。


夏が本格化して朝が早くなったので、ルフの散歩中に朝日がガンガン目に飛び込んでくる。


多少は我慢できるがやはり眩しいものは眩しい。


う~む、サングラスがあればいいんだがそういうのってないんだよなぁ。


あっても帽子ぐらいなものだ。


当分はそれで凌ぐか。


そんな事を考えながら散歩から戻ると、ちょうどエリザがダンジョンから戻ってきた所だった。


「お、戻ったか。」


「ただいま~。」


「朝帰りってことは随分深く潜ったんだな。」


「ん~っていうか、相手がちょっと厄介だったのよ。」


「強いのか?」


「ううん、見つけにくいの。闇に隠れちゃうとどこにいるのかわからなくなっちゃうんだよね。何とか奥に追い込んで松明であぶり出したわ。」


「ご苦労さん。」


「素材置いてるから後で見といて、お風呂に入って寝るわ。」


「おぅ、しっかり休めよ。」


エリザはそのまま二階へ。


俺は置いて行ったと思われる素材を鑑定する事にした。


随分と真っ黒な素材だな。


ここまで黒いのは珍しい、闇に隠れるために進化したんだろう。


『闇蜥蜴の鱗。光を吸収する効果のある鱗は少々の光では透過できない。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨55枚、最高値銀貨2枚。最終取引日は8日前と記録されています。』


決して高いわけではないけれど、一枚でこの価格ならそれなりの稼ぎになるわけか。


見た感じざっと20枚はある。


一枚銅貨50枚で買ったとしても銀貨10枚。


それなりの儲けと言えるだろう。


どれどれどれぐらいの光を吸収するのかなっと。


鱗を一枚持ち目の前にかざしてみる。


思ったよりも柔らかく引っ張ると少し伸びる。


伸びると向こう側が透けて見えるが、元に戻すと何も見えなくなった。


伸ばした状態で店の外を見ると、良い感じで光を遮断してくれる。


うむ、これは良いものだ。


ふと窓ガラスを見るといつもは内側に置いている商品が反射しているはずなのに、その鱗を通すと商品が映っていない。


おや、これはもしかして。


鱗を外すと反射して写っている。


鱗を通すと反射せず窓の向こうが良く見える。


これはもしかして偏光レンズって奴じゃないだろうか。


釣りをするときに水面のぎらつきを抑えるやつだ。


運転やゴルフの時にも使うらしいが、俺はもっぱら釣りの時に使っていた。


サングラスにはもってこいの道具だが・・・。


どうやって加工するかだな。


引っ張れば伸びるのでこれを伸ばしたまま固定する事が出来ればレンズの代わりになる。


あとはサングラスのフレームをどうするか。


えーっと、確かモノクルがあったよなぁ。


あれは片眼だが両方につけて針金で固定するのはどうだろうか。


いや、いっそのこと針金で耳にかける部分まで作るか?


既存品を応用する方が簡単だが、それだと思う様な出来にならないし・・・。


ちょいと親方に相談してみるか。


「ミラ、ちょっと出て来る。」


「どちらに?」


「マートンさんの所だ。」


「畏まりました、どうぞお気をつけて。」


闇蜥蜴の鱗を持ったままカンカン照りの街を走る。


工房に到着したものの、看板の明かりは消えたままだった。


おや、休みか?


「シロウじゃないか、どうしたんだ?」


「マートンさん。休みなんだな。」


「あぁ、ちょいと昨日まで急ぎの仕事があったんでな。今日は休養日だ。」


「そっか、なら仕方ない。」


「仕事か?」


「ん~、個人的な物だから仕事じゃない。急いでないしまた今度でいいや。」


「気になるな。」


「休みだろ?」


「仕事じゃないんだろ?なら構わねぇよ、入ってくれ。」


休みなのにいいんだろうか。


いつもは外よりも暑い工房も、今日は炉を落としているのでひんやりしている。


「で、何を作るんだ?」


「これを使ってサングラスを作りたいんだ。」


「サングラス?」


「日よけだよ。外が眩しいからこれを使って目を守ろうと思ってな。」


「これ、闇蜥蜴の鱗か。確かにこれなら外が眩しくなくなるな。」


「紙あるか?」


「おぅ、これを使え。」


「で、針金で外枠を作ってここを耳にかける。で、目の部分に鱗を引っ張って固定すれば・・・っとこんな感じの仕上がりだ。」


ざっくりと眼鏡の絵を描いてみる。


作り方なんて知らないが、まぁニュアンスが伝わればわかるだろう。


「モノクルを両目にした感じか。なるほど、確かにこれなら固定できる。」


「帽子に固定する事も考えたが、作るなら針金の方が簡単かなと勝手にと思ったんだ。どうおもう?」


「素材は何でもいいんだろ?」


「あぁ、加工できれば何でもいいぞ。って言っても安いに越したことは無いけどな。」


「ま、そりゃそうだ。」


俺の絵を見ながら何かを考えるマートンさん。


流石職人、こんな適当な絵でも理解してもらえるとは。


「俺はこういう細かいのは苦手だが、弟子に細工が得意な奴がいる。確か今日も来ていたはずだ。おーい、アーロイ。」


「なんっすか、親方。」


声をかけると工房の奥からすぐに返事が返って来た。


そしてずんぐりむっくりとした子供が出て来る。


いや、子供じゃないな。


そう見えるだけで中身は大人、おそらくドワーダだろう。


「こいつはアーロイって言ってな、こんな見た目だが細工仕事が得意だ。アーロイ、こいつがシロウ。知ってるだろ?」


「街の買取屋っすよね?」


「シロウだ。」


「よろしくっす。で、なんっすか?」


「針金でこういうのを作れるか?目の部分には闇蜥蜴の被膜を引っ張って固定して日よけにするんだ。」


「へぇ~面白いこと考えるっすねぇ。ん~・・・一日もらえたら試作品作れますけど。」


「一日でいいのか?」


「今日は休みだし、ちょうど暇してたっすから。」


「よろしく頼む。闇蜥蜴の鱗は二枚で足りるか?」


「この大きさなら一枚を半分にして十分っすよ。」


それはありがたい。


材料が半分で済めば費用も安く済む。


「費用は請求してくれ、出来るだけ忠実な値段で頼む。」


「え、もしかして俺に依頼っすか?」


「お前単独の仕事してみたいって言ってただろ?いい機会だ、しっかりやってみろ。」


「了解っす!最高のヤツ作るっす!」


アーロイは大喜びして鱗を手に奥に戻ってしまった。


「そろそろ仕事を任せたいと思っていたんだ、いい仕事を持ってきてくれたな。」


「まさかこんなことになるとは思わなかったがこっちとしてはありがたい。」


「とりあえず明日には持って行かせるから少し時間をくれ。」


「わかった、明日また来るよ。」


ってな感じで依頼を出して迎えた翌朝。


俺が工房に行こうとすると店の前でアーロイが俺を待っていた。


「へへ、楽しみ過ぎてきちゃったっす。」


「悪いな来てもらって。」


「いえいえ、俺も楽しみだったっす。」


「入ってくれ。」


行く手間が省けて助かった。


「これが試作品っす。」


カウンターに乗せられたのは俺の思い描いていた・・・のとは若干違うが、ほぼ思った通りのやつだ。


耳に賭ける部分は弧を描き完全に引っ掛ける感じ。


肝心のレンズ部分は想像よりも真ん丸だが、綺麗に鱗が張られていた。


中国マフィアがかけてそうなサングラスだな。


個人的には戦闘機の映画に出てきたようなやつが良かったんだが、この辺は試作品だし変えてもらえばいいか。


「良い感じだ。」


「へへ、自信作っす。」


「見え方も申し分ない。ちょっと耳の部分が隙間開くんだな。」


「ん~そこは人によって長さが違うっす。でも自分で曲げられるので勝手にやってもらって大丈夫っす。」


「なるほど。」


一度外して耳の部分に力を入れてみる。


すると意外と簡単に曲がった。


もう一度掛けるとずれる感じもない。


若干目に近いのでまつ毛が当たるが、少し離せば問題なさそうだ。


「鼻の部分をもう少しなだらかにすると痛くないかもな。それと形も丸じゃなくて少し垂れた感じとか四角にできるか?」


「ん~直角は難しいっすねぇ。でもこの少し垂れた感じはいけるっす。」


「これで材料費はいくらだ?」


「合金なんで銅貨50枚って所っすね。」


「一日でどのぐらい作れる?」


「この加工なら10はいけるっすよ!」


「ってことは加工賃を入れて銅貨80~銀貨1枚って所か。」


「え、そんなにもらえるんっすか?」


「むしろ安いと思うんだが?」


「一日でそんなに稼げるなんて夢みたいッス!」


手間賃が銅貨50枚として10個で銀貨5枚。


職人の手が入っているとなるとそんなもんだろう。


そりゃあ安いに越したことは無いけど、良い仕事には相応の対価をってのが俺の信条だ。


「素材はこっちで用意すればもうすこし下がるだろ?」


「そうっすね、あくまでもうちの仕入れ値っすから。」


「とりあえず鱗があと19枚あるからこの形を9個とさっきの形を10個ずつ頼む。納期は5日、出来るよな?」


「そんだけあったら余裕っす!」


「マートンさんには俺から伝えておく。よろしく頼む。」


「了解っす!」


これがうまくいけば新しい商売が出来るかもしれない。


この日差しで困っている人は他にもいるはずだ。


そう言う人に売れれば最高だな。


どれ、どういう人に向いているかちょっと考えてみるか。

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