321.転売屋は夏野菜を収穫する
「今回はすごいな。」
「はい、予想以上の収穫となっています。」
「こりゃ流石に消費しきれないぞ?」
「ギルド協会並びに各種商店に声をかけていますので多少は消費できると思いますが、隣町への販路を確保するべきだと思います。」
「でもなぁ、それをすると税金がなぁ。」
目の前に積み上げられているのは畑で育った夏野菜たちだ。
継続的に収穫できるのが夏野菜の魅力だが、いくらなんでも多すぎる。
トトマトにキュカンバ、豆類もごそっと収穫してある。
奥に見えるのはトウモロコシか。
あれ、ダンジョンでしか収穫できなかったんじゃなかったっけ。
ふむ、あれは別の品種なんだろう。
「個人的に売り出すのですから問題ないのでは?」
「商業目的の売買は課税対象のはずだ。」
「隣町のビアンカ様、カーラ様にお送りするだけです。ビアンカ様はシロウ様の奴隷、カーラ様は共同経営者。親しい人に収穫を送るのは何も不思議な事ではありません。」
「で、向こうでそれを販売してもらうと?」
「折角作ったものが消費されないのは作り手として悲しいものがあります。」
「お主もなかなか悪よのぉ。」
「いえいえシロウ様程では。」
「つまり俺は悪だと?」
「めっそうもございません。」
はっはっはと二人で笑い合う。
真面目な顔してアグリも中々言うじゃないか。
よし、その方向で行くとしよう。
「ちなみに次の収穫はいつだ?」
「今日は少なめでしたので明日総出で収穫するつもりです。その後は生育次第となりますが、一週間後にはまた収穫できるでしょう。」
「普通に考えておかしな量だよな。」
「アネット様の肥料がすさまじいのです。」
「体に悪影響とかないよな?」
「むしろ健康になるのではないですか?」
まぁ、アネットが毒になる物を作るとは思えないがちょっと不安になる。
遺伝子を組み替えているわけじゃないし大丈夫・・・なんだろう。
何はともあれ豊作なのは良い事だ。
「じゃあ俺は馬車の手配をしてくる。」
「わかりました、こちらもその段取りで進めておきます。」
「四分割で頼むぞ。」
「三分割ではなく?」
「隣町が二つに街が一つで、俺達の分だ。」
「我々も頂いてよろしいのですか?」
「むしろ協力してほしいね、どう考えても多すぎるだろ。」
畑のどこを見ても野菜で溢れている。
下手に置いておくと痛むからな、作ったからには消費したいじゃないか。
一先ず畑を離れてギルド協会へと向かう。
アグリはあぁ言っているが、余計な心配をしたくないというのが本音だ。
「シープさんはいるか?」
「えぇっと今は外に・・・あ、帰って来たみたいです!」
「お、ちょうど良い所に。」
「シロウさんじゃないですかどうしてここに?」
「色々と確認したくてな。折り入って話がある。」
「シロウさんの話かぁ、聞きたくないなぁ。」
「そう言うなって。」
俺の顔を見るなりそう言われるのは心外だなぁ・・・って、仕方ないか。
色々とやって来てるしな。
でもさ、どちらかというと貢献度の方が高いはずなんだが?
まぁいいさ。
帰ったばかりの羊男を会議室に引きずっていく。
「それで、なんですか?」
「アグリから農作物の件は聞いてるよな?」
「えぇ、思いのほか豊作だったようで街の各商店も喜んでいましたよ。やっぱり鮮度が違いますからね。」
「ありがたい話だがそれでも消費しきれない。そこで、奴隷のビアンカと共同経営者のカーラにもおすそ分けをしようと思うんだが問題ないよな?」
「・・・その聞き方は卑怯じゃないですか?」
「いやいや、勝手に農作物を持ち出して何か言われたくないだけだよ。」
「言うわけないじゃないですか。」
「本当に?」
「えぇ、別に売るわけじゃないんですよね?」
「あぁ、おすそわけだ。」
「なら我々が関知する内容じゃありません。そんな些細な事で私の手を煩わすのはシロウさんぐらいなものですよ。」
「あはは、次からはちゃんとアポを取るよ。」
「ほんと、頼みますよ。あと、うちはトトマト多目でお願いします。」
何を貰う気満々でいるんだ、こいつは。
まぁ知人には配るつもりなのでもちろん羊男も頭数に入っているんだけども。
トトマト多目ね、了解。
なんだかミートソースが食いたくなってきたぞ。
かえってミラに相談してみるか。
たしか作れたはずだ。
肉は・・・まぁ何かあるだろう。
確認が取れたのでその足でハーシェさんの所へと向かう。
家の前には馬車が止まっていた。
どうやら来客中らしい。
誰かと話していたのだが、こちらに気付いた瞬間に表情がパッと明るくなる。
「あ、シロウ様。」
「悪い、来客中みたいだな。」
「もう帰られる所ですので・・・。ではよろしくお願いします。」
「わかりました。」
馬車はすぐに出発し見えなくなってしまった。
「買い付けか?」
「はい、新しい鉱脈が見つかったとの事でしたので買い付け依頼をかけました。来月には大量のミスリル鉱石が届くはずです。」
「鉱石か、大丈夫なのか?」
「オリンピア様の紹介ですので大丈夫だと思います。念の為に別口で調査しましたが、鉱脈の件は本物でした。」
「王家からの紹介なら安心だな。何かあれば責任を押し付けてやれ。」
「うふふ、そうします。」
ミスリル鉱石という事はかなりの金額だろう。
それを俺の承認なしで動かしたということは、かなりの自信があるという事だ。
王家が後ろにいるし、まぁ失敗はしないだろう。
「それで。どうされたんですか?」
「隣町のビアンカとカーラに野菜を届けてほしいんだ。」
「お野菜を?」
「あぁ、大量に送り付けるから馬車を手配してほしい。もちろんこれはおすそ分けだ。」
「なるほど、おすそ分けは大切ですね。」
「頼めるか?」
「すぐに手配します。おすそ分けついでにお礼も貰うかもしれませんね。」
「そうだな、二人とも義理堅いから。」
別に二人しかいないんだからこんなやり取りをする必要はないのだが、どこで誰が聞いているかわからないからな。
半ば公認みたいなところはあるけれど、王家の後ろ盾があるとはいえ安心してはいけない。
あくまでもコネがあるだけで俺達は俺達。
何でもかんでも頼るわけにはいかない。
「出発はいつですか?」
「明日収穫だからそのまま積み込んで出発したい。鮮度が落ちないうちに頼む。」
「美味しい物を美味しいうちに、わかりました。早馬で手配します。」
「悪いな。」
「いえ、仕事ですから。それに美味しいお野菜もいただけるようですし。」
「もちろんだとも。」
「個人的にはお野菜以外の物でも構わないのですけど・・・。」
「まだ昼間だぞ?」
「いただけましたらもっと頑張ります。」
この前の一件、それとリンカの出産以降かなり積極的なんだよなぁ。
ちゃんと薬は飲むって約束だし別に構わないんだけど、ハーシェさんにかまうともう一人がなぁ。
「マリー様には内緒にしますから。」
「夕方前には戻るからな。」
「はい。すぐにお風呂を準備しますね。」
「いや、そのままでいいぞ。」
「もぅ、シロウ様ったら・・・。」
そう言う気分にさせたのはそっちだろ?
屋敷に入りがてらハーシェさんの尻をスカート越しに揉む。
柔らかすぎない感触に思わず昂ってしまった。
結局二回戦もしてしまい、ふらついた足で店へと戻る。
俺の様子を察したミラとアネットが何も言わずに水と薬を差し出してきた。
分かってるって、ちゃんと頑張るから。
「そうだ、明日夏野菜の収穫があるから手伝ってくれ。」
「明日ですね、畏まりました。」
「今年も豊作ですね。」
「豊作すぎて困るからイライザとカーラの所にも送ることにした、おすそ分けがあったら用意してもらえるか?」
「・・・それでしたらいいものがあります。」
「ちょうどお薬が出来た所なんです。喜んでもらえますね。」
さすが俺の女達、一言ですべてを察したようだ。
ミラは店の在庫を確認し、アネットは慌てて自室へと戻った。
今日の夕食当番は・・・俺か。
出来上がる頃には用意も済むことだろう。
そして翌朝。
日の出前から畑に大勢の人が集まった。
「じゃあみんなよろしく頼む!」
「「「「はい!」」」」
ガキ共と大人たちが鎌と籠を持って野菜畑へと突入する。
野菜は鈴なり。
昼前までかかってなんとか収穫を終え、そのまま梱包作業へ。
手配された馬車には早くも荷物が積まれていたが、気にしてはいけない。
二台に振りわけるとすぐに馬車は出発した。
「アレだけ送ったのにまだこんなにあるのかよ。」
「街中に配った方がいいんじゃない?」
「そんな気もするが・・・。そうだ、昨日肉屋に大量の肉が持ち込まれてたよな?」
「そういえばニアがそんなこと言ってたわね。ボアが大量発生したんだって。」
「なら安いよな。」
「たぶんね。」
「アグリ。」
「コンロの準備はお任せください、もとよりそのつもりでした。」
「用意周到だなぁ。」
「外で食べるお野菜は美味しいですから。そこにお肉が加わると尚おいしくなります。」
それはわかる。
家で食う飯よりも外で食う飯の方が美味い。
さぁ、せっかく集まったんだ収穫に感謝しながら大騒ぎと行こうじゃないか。
アグリがガキ共に教えたのか向こうから歓声が聞こえて来る。
準備は任せて肉の買い出しに行くとしよう。
やっぱり夏と言えばバーベキューだよな!




