表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

321/1767

320.転売屋は迷子を助ける

日差しがじりじりと照り付け俺の身を焦がす。


暑い。


無茶苦茶暑い。


市場の地面からは陽炎が立ち上り、土埃を防ぐために撒かれる水はあっという間に蒸発してしまう。


一日で一番暑い時間。


こんな時間に買い物する奴なんてまずいないだろう。


とはいえ店を放置するわけにもいかないので、日傘の下で客を待つ。


「あぢぃなぁ。」


「うるさいね、余計に暑くなるよ。」


「悪い。」


「そんなに暑いなら日陰にでも言って涼んどいで、でもすぐ戻って来るんだよ。次は私の番だ。」


「はいはい、ちょっと水でも飲んでくるよ。」


おっちゃんは不在。


おばちゃんが俺と同じくいつ来るかもわからない客を待っていた。


店を任せて中央の管理室へ。


その時、男の子とすれ違った。


歳はまだ10も行かない感じ。


この世界で外見は判断材料になりにくいが、あれはガキで間違いないだろう。


キョロキョロするわけでもなくまっすぐに歩いていた。


お使いかなにかだろう。


しばらく管理室で涼みつつ冷たい水で水分補給をさせてもらった。


はぁ、落ち着いた。


再び店に戻ろうと進むと、またさっきの男の子とすれ違う。


手には何も持っていない。


おつかいではないようだ。


この暑いのに帽子も被らずに何をしているんだろうか。


親は・・・見当たらないな。


友達らしきガキもいない。


うーむ。


放っておくのが一番なんだろうが、その日は何故か気になってしまった。


「おい。」


「え?」


「何してるんださっきから。この暑いのにお使いか?」


「ううん。」


「違うのか?」


「うん。」


「じゃあ何してるんだ?」


「探してるの。」


「探してる?やっぱり買い物か?」


「ううん、お母さん。」


って迷子かよ!


その割には随分と冷静だな、こいつ。


普通は泣いたり動揺したりするだろう。


にもかかわらずキョトンとした顔でこちらを見て来る。


危機感が全く感じられない。


「はぐれたのか?」


「ん~、ここにいると思うんだけどいないの。」


「一緒に来たのは間違いないんだな?」


「うん。」


という事は孤児ではないんだろう。


そうだったら即モニカの所に連れていくんだが、そうじゃないのなら扱いが難しい。


「とりあえず一緒に来い。」


「でも・・・。」


「管理室に行くだけだ、母親に会いたいんだろ?」


「・・・わかった。」


知らない人についていくなと教育されているんだろう。


一瞬躊躇したが母親に会いたいという言葉に納得したようだ。


そいつの手を握ると随分と暑かった。


それもそうだろう、この炎天下で歩き回ったんだ。


熱中症寸前かもしれない。


管理室に行き事情を説明する。


水を渡すとすごい勢いで二杯も飲み干した。


「おちついたか?」


「うん。」


「母さんの名前は?どんな服だ?」


「えっと、青い色の服を着てるの、ヒラヒラのやつ。」


「っていうかそもそもここの街に住んでるのか?」


「ううん、別の場所だよ。」


マジかよ。


ここだったら探しようもあったが、それも無理か。


「とりあえずここに居ろ、そしたら皆が探してくれる。」


「え、行っちゃうの?」


「俺も仕事があるんでな。」


「じゃあ一緒に行く。」


「いや、一緒に行くって困るんだが?」


「行くの。」


置いて行かれることに急に怯えだした。


管理室の職員も困った顔をしている。


「こういう時どうすればいいんだ?」


「とりあえず探してみますけど、見つかるかどうかは・・・。」


「マジかよ。」


「ひとまずお願いできませんか?シロウさんなら身元もしっかりしてますし、その方が探しやすいので。」


「はぁ、子守までやらすのかよ。」


「頑張って探しますから。」


「それしか方法はないか。おい、名前は?」


「ティミー。」


「だとさ、捜索の方よろしく頼むぜ。」


何で俺が知らないガキのおもりまでしないといけないんだろうか。


こんな事ならおせっかいなんて焼かなければよかった。


ティミーとかいうガキの手を引いて店まで戻る。


「なんだい、とうとう子供まで買い取ったのかい?」


「馬鹿言うなよ、迷子だってさ。」


「だろうね。」


「はぁ、なんで俺がこんなことを。」


「いいじゃないか、素直そうな子だよ。私も早くこんな孫が見てみたいものだね。」


「はいはいその手の話は聞き飽きたって。とりあえずここで預かるからオバちゃんも休んで来いよ。」


「そうさせてもらうよ。そうだ、これをかぶっておきな。」


オバちゃんが持って来た荷物から小さな帽子を取り出しティミーに被らせた。


「ありがとうございます。」


「お礼が言えるなんて、良いしつけをされてるんだね。」


「俺には何も言わないけどな。」


「それじゃあ頼んだよ。後でお菓子を買ってきてあげるからね。」


「はい。」


んだよ、俺とは随分と対応が違うじゃないか。


そんな事を一瞬でも思ってしまったが相手はガキだ。


はぁ、なんでこんなことになったんだか。


「あれ、シロウさんどうしたんですか?」


「どうしたもこうしたもねぇよ。迷子だとさ。」


「あぁ、それでシロウさんに子守を頼んだんですね。確かに一番安心だ。」


「そっちで預かってもらえないか?」


「無理ですよ、職務中ですので。」


巡回に来ていた羊男に任せようとしたが仕事を理由に拒否されてしまった。


いや、俺も仕事中。


その後も知り合いに『隠し子か?』とか『人も買うのか?』とか揶揄われる始末。


まったく勘弁してくれ。


「おい、暑くないか?」


「大丈夫。」


「嘘つけ、顔が真っ赤だぞ。」


「暑くないもん。」


炎天下の露店。


日陰の下にいるとはいえ熱でどんどんと体が熱くなってくる。


ガキなら尚更だろう。


「今戻ったよ。ほら、これでものみな。」


「サンキュ。」


「アンタじゃないよ、その子にだよ。」


「ありがとうございます。」


「まったく、親は何してるんだろうねぇ。」


「隣町から来ているらしいが、普通子供がいなくなったら気付くだろ?」


「普通ならね。」


お互いに口には出さないが最悪の事態を想定しているようだ。


可能性はいくつかある。


本当に迷子のパターン。


それと商談で忙しくてかまってやれないパターン。


そして最後に捨てられたパターンだ。


孤児院はどの町にもあるからな、自分の街じゃ面が割れてるからわざわざここまで捨てに来たって可能性もある。


嫌な世の中だよまったく。


もちろんそうと決まったわけじゃないが、可能性はゼロじゃない。


「なぁ、本当は何してたんだ?」


「母さんを探してるの。」


「待ってたんじゃなくてかい?」


「夕方までここに居なさいって。でも暑いしお腹空いたから・・・。」


「探していたと。」


これで一番最初の選択肢はなくなった。


はぁ、迷子じゃないなこれは。


「普通ガキ置いてどっか行くか?」


「普通はしないだろうさ。」


「なぁ、どこで待てって言われたんだ?」


「えっとね、古いお家。」


「家?」


「怖いおじちゃん達が出たり入ったりしてるの。」


「ってことは安宿か。」


「探しに行くかい?」


「それが一番手っ取り早いが・・・。」


「やだ!あそこ怖い!」


初めて感情をあらわにするガキ。


よほど怖い思いをしたんだろう。


それで母親を探していたと。


問題は何をしているかだが、露店でないのは間違いないな。


「この様子じゃかわいそうだろ。」


「アンタにもそう思える心があったんだね。」


「失礼過ぎないか?」


「子供、嫌いだろ?」


「昔はな。今はそれほどじゃねぇよ。」


「なら孫の顔も近そうだね。」


昔は子供が嫌いだった。


うるさいし邪魔だしめんどくさいし。


でもここに来て孤児院のガキ共と一緒に過ごす時間が増えると、どうしてそんな気持ちになったのかと思うようになった。


ガキはガキだ。


だが、ガキなりに一生懸命生きている。


こいつも、一生懸命に考えて母親を探していたんだろう。


本当は寂しいし怖いに違いない。


でも、母親に会いたいという気持ちだけで心を持たせているんだ。


そんな健気な事をされたらあわせないわけにはいかないじゃないか。


そう思ってしまったわけだよ。


横で気丈にふうまうティミーの頭を帽子越しにくしゃくしゃと撫でてやる。


「大丈夫だ、もうすぐ戻って来るだろ。」


「うん。」


「腹減ったか?」


「ちょっと。」


「ならこれでも食ってろ。」


持たされていた菓子を渡してやると、その日初めて笑顔を見せた。


「ありがとうおじちゃん。」


「どういたしまして・・・っと。もしかしてあれじゃないか?」


ふと市場の奥に目を向けると、必死の形相で辺りを見回している女性が目に入った。


あぁ、間違いない。


あれは大事な物を探している顔だ。


「ママ!」


その日一番の声が市場中に響く。


微かな声でも聞き逃さないのが母親って生き物だ。


ハッとした顔でこちらに目を向け、そして全速力で駆けて来る。


ティミーもお菓子を持ったまま走り出す。


「はぁ、やっと終わったか。」


「なんだい寂しいのかい?」


「馬鹿言うなよ、せいせいしてるんだ。」


向こうではガキと母親が抱き合っている。


感動の再会ってやつだな。


俺も将来こんな風になるんだろうか。


想像もできないな。


なんてことを考えながら、微かに笑みがこぼれてしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ