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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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317.転売屋は子供を見にいく

18月が始まってすぐの事だ。


ダンとリンカに第一子が誕生した。


なかなかの難産だったとは聞いていたが、母子共に健康であるらしい。


あのマスターが店を閉めたって言うんだからよっぽどの事だろう。


さすがに宿泊客を追い出すことはしなかったようだが、仕事は一切しなかったと聞いている。


まぁうちも出産の知らせをダンから聞いたときはそれはもう大騒ぎだった。


この前の祭りが可愛く見えるぐらいにだ。


その日から話題は子供の事ばかり。


何を持っていくか、どうすればいいかを調べに調べまくっていた。


で、今日が来たと。


町外れの少し古ぼけた地区を歩き、赤いリボンが玄関にかけられた家を目指す。


ここでは子供が生まれると赤いリボンを入り口に下げてお知らせするそうだ。


無事に生まれたと言う証らしい。


それを見た人たちはこぞってお祝いをもって集まるのだとか。


出産から一週間。


そろそろ落ち着いただろうと言うことで俺達の番となった。


「こんなに大人数で大丈夫でしょうか。」


「まぁ向こうがいいって言うんだからいいんだろう。しんどそうなら切り上げて帰ればいいだけの話だ。」


「そうよ。すぐそこなんだし、これから何度も見れるしね。」


「そういえばダンはどうしたんだ?」


「ダンジョンよ。」


「はぁ?」


「何かおかしいですか?」


「いや、それはわかるが普通は手伝うものなんじゃないか?」


元の世界じゃイクメンって言葉が出るぐらいに男性の育児参加が求められていた。


っていうか、夫婦で授かったものなんだから男も参加しろよって普通ならないか?


こっちの世界でもそうなんだろうか。


「そりゃ人手があれば助かるけど、稼がないと生きていけないでしょ。」


「シロウ様のようにお金があれば大丈夫ですが、残念ながらダン様にそこまでの稼ぎはありません。」


「世知辛い世の中だな。」


「それに、旦那がいなくても周りの人が助けてくれるもの。」


「子供は周りと一緒に育てるものです。」


なるほどなぁ。


その家だけじゃなくて地域全体で助け合うからこそ成立するのか。


確かにこの街の奥様方は非常に仲がいい。


そりゃあ喧嘩している人もいるけれど、全体的に見ればほとんどの人が知り合いみたいな空気がある。


狭い街とはいえそれなりの大きさだ。


それがなされていると言うのは、すなわち地域の繋がりが強いと言うことなのだろう。


「ま、俺たちもその一員って事だな。」


「そういうことです。」


「シロウの用意した贈り物だけで当分生きていけるわ。」


「何の心配もなく子育てできるのが一番だ、当然だろ。」


金ならある。


なら使わない理由はない。


前に恩は返したといったが、ダンには返しても返しきらないだけの恩がある。


この世界に来てこうやって商売できるのはダンがいてくれたおかげだ。


リンカにも随分世話になっているし、できることはやらせてもらうさ。


「あ、みえました!」


路地の奥に赤いリボンがなびいている。


あそこか。


近づくとちょうど中から人が出てきた。


「お、きてくれたのか。」


「あぁ、大勢で邪魔しに来たぞ。」


「リンカも喜ぶだろう、ただ今ちょうど寝たところなんだ静かにしてやってくれ。」


「みんな聞いたか、静かにしろってさ。」


お口にチャックってね。


マスターと入れ替わるようにして家に入る。


中はそんなに広くない。


玄関に入ってすぐの部屋でリンカが母親の顔をして迎えてくれた。


「皆さんようこそ。」


「出産おめでとう、大人数で悪いな。」


「いえ、ありがとうございます。皆さんどうぞ入って。」


前までのリンカはなんていうか子供っぽい印象だったが、これが母になると言うことなんだろうか。


一気に雰囲気が大人びていた。


見た感じやつれている感じもない。


産後の肥立ちはよさそうだ。


ぞろぞろと中に入り、ひとまずリンカへの祝福を済ませる。


その後はお待ちかねのご対面タイムってね。


足音を忍ばせて隣の部屋へ。


壁際に寄せられたベビーベッドの上でその子は静かな寝息を立てていた。


「うわぁ、可愛い!」


「見てくださいあのホッペ、ぷにぷにですよ。」


「手があんなにちっちゃい。リンカちゃんに似てよかったわね。」


「私はダンに似てくれてもよかったんですけど。」


「だめよ、リンカちゃん可愛いんだから母親似のほうがいいわ。」


女達がベビーベッドに群がり、歓声を上げている。


もちろん小さくだ。


俺は少し離れて様子を見た後、持ってきた荷物を搬入する。


「シロウさんは見てくれないんですか?」


「いや、もう見たぞ。」


「可愛いでしょ。」


「あぁ、マスターがデレッデレになるのもわかる。」


「そうなんです。あのマスターがカリナを抱くと見たこともない顔をするんです。」


「カリナって言うのか。」


きれいな名前だ。


響きもいい。


「ダンがつけてくれたんですよ。」


「ダンが!?」


「「「「シー!」」」」


思わず大きな声を出して女達ににらまれてしまった。


失敬失敬。


「ダンが・・・ねぇ。」


「いっぱい考えてくれたのを二人で決めたんです。」


「いい名前だ。」


「そう思います。」


幸せそうな顔で子供のほうを見るリンカ。


う~ん、人は変わるもんだなぁ。


「っと、せっかくだから先に説明しとく。台所の横に野菜類、机の上に薬を置いてる。薬は授乳しても問題ない奴だから体調が悪くなったときに飲んでくれ、アネットの自信作だ。野菜は畑で取れた奴、もちろん無農薬な。それと、これだ。」


「えっと?」


リンカの掌に転がったのは金色の硬貨。


「働きに出るのはいいことだが、たまには親子水入らずで過ごすのも悪くないだろう。しっかりこき使ってやれ。」


「いやいや、シロウさんいくらなんでも多すぎますって。」


「そうか?」


「そうですよ!金貨なんて、私見たことない。」


「いや、見たことはあるだろう。」


「こんなにたくさんもらえませんよ。」


「いいからもらっとけ、どうせ今後いやでも金がかかるんだ。残ったらへそくりにでもすればいいさ。」


物を用意したのは女達。


で、金を用意したのは俺。


金がかかるのは事実だし、子供の成長は一瞬でも目を離せない。


特に新生児の時期はな。


「そういう所が普通じゃないんですよね、シロウさん。」


「じゃあ返せ。」


「いやです、もう貰っちゃいました。」


「ったくそういう所はかわってないな。」


「変わりませんよ。私は私です。」


「何かあったらすぐに言えよ、女達が手ぐすね引いて待ってるぞ。」


「その言い方はおかしくないですか?」


「いや、あながち間違ってない。」


何かあれば仕事もほっぽりだして駆けつけてくれるだろう。


子供は全員で育てるもの、それを有言実行するのがうちの女達だよ。


「カリナちゃん起きちゃった!」


「も~、エリザさんがほっぺたツンツンするから!」


「だって気持ちいいんだもん、仕方ないじゃない。」


「気持ちはわかりますがここは自重しましょうよ。」


どうやらカリナが起きてしまったようだ。


まったくコレだから脳筋は。


すぐさまリンカが駆け寄り、愛おしそうにわが子を抱き上げる。


絵画にでも使えそうな神聖な雰囲気。


金ばっかりの俺には眩しく見えるぜ。


「あ、シロウさん抱っこしてみません?」


「俺が?いやいや、無理だって。」


「いいからいいから。マスターにも抱っこして貰ったんですからシロウさんも抱っこしてくださいよ。あ、皆さんもお願いしますね。」


「たくさんの人に抱っこされたほうが元気に育つっていうしね。」


「そうなのか?」


「そうなんです。ほら、ここに手を通して、首を支えて・・・。」


「離すなよ、まだ離すなよ!」


コントではない。


落としたら大変なことになるからだ。


過去に何度か抱っこしたことはあるが新生児は初めてかもしれない。


リンカの手からこちらに重さが移る。


なんて軽いんだろう。


コレで生きているって言うんだから、生き物ってのは凄いものだ。


「あ、笑った。」


「シロウさんの抱っこが気持ちいいんですよ、きっと。」


「いいからそろそろ戻してくれ。」


「駄目です、せっかく機嫌がよくなったんだからそのままでお願いします。そうだ、せっかくきてくれたんだからお茶を淹れますね!」


「私がやりますよ。」


「久々に自分でやりたいんですよ。ダンが何でもやってくれるんですけど、たまには自分で好きにしたいじゃないですか」


「気持ちはわかります。」


いや、そういうのはいいから。


いいから早くこの子を!


そんな俺の必死さが伝わるのか、カリナはより笑顔になる。


可愛い。


可愛いが、今は恐怖のほうが勝ってしまう。


そりゃこんなに小さな生き物相手にしてたらノイローゼにもなるわ。


いつ死ぬか心配で仕方ない。


そんな俺の気持ちをよそにリンカは鼻歌を歌いながら台所で香茶を淹れている。


「どうですか、シロウ様。」


「どうもこうもない。」


「可愛いわよね?」


「欲しくなりました?」


「・・・いや、寧ろ欲しくなくなった。」


「「「「えぇぇぇぇ!」」」」


確かに可愛いし、女たちの子供も見てみたい。


見てみたいが今はまだいいかな。


そんなひ弱なことを考えてしまうのだった。

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