308.転売屋は大騒ぎを見守る
反動による襲撃は一週間続いた。
当初は五日の予定だったがそれを超えても魔物は沸き続けたが、そんな事でビビる冒険者ではない。
王都から来た兵士が出る間もなく、魔物は駆逐され続け無事昨日の夜終わりを迎えた様だ。
本当に終わったかどうかは、かなり下層までエリザ達が確認しに行ったので間違いない。
建設した要塞のうち三つは破壊されてしまったが、二つは残った。
まさに完勝。
予定より延びても問題が無かったのは、冒険者に怪我人がほぼ出なかった事と、やはりモチベーションが高かったからだろう。
戦えば戦うほど金がもらえる。
しかも安全な場所から戦うだけなので危険はほぼ無い。
食糧も十分にあり、足りなければ食える魔物を持ち帰ればいい。
そんな状況だったので予定より延びても悲壮感は全くなかった。
むしろもっと稼げるとテンションが上がっていたぐらいで、俺も地上と地下を往復しながら彼らと苦楽を共にしたわけだ。
一日入って一日休む。
それを繰り返し、丁度ダンジョンにいる時に終わりを迎えたのだが・・・終わったとわかった後はそれはもう大騒ぎだ。
暴れる叫ぶは当たり前、何を血迷ったか脱ぎだす奴まで現れた。
まぁ、すぐに捕まえられたけどな。
その後、終了の報は地上へと送られ、上も同じ状況になる。
それはもうお祭り騒ぎだ。
余った食材を無駄にするわけにもいないので、食べ物は誰にでも無料で振舞われそれに合わせてお酒も飛ぶように売れた。
なんせ冒険者はしこたま稼いだからな、それはもう湯水のごとくいい酒を飲みまくったようだ。
あのマスターが終始笑顔で暴れる冒険者に対応していたって言うんだからすごいよなぁ。
で、そんな祭りがその日で終わると思うか?
終わるわけがない。
三日三晩とまではいかないが、二日二晩飲めや歌えやの大騒ぎ。
それもそうだ、一週間続いた魔物との戦いが終わったんだから。
ダンジョンを抱える街が一丸となって勝ち取った勝利。
そもそも何でそんな事が起きたのかなんてすっかりと忘れて、ただただ勝利に酔っている。
俺も初日は色んな所に呼ばれて飲んだり食べたり大忙しだった。
何処に行って何を食べても勘定を取られないっていうのは中々に楽しい。
出店まで出ていたなぁ。
で、翌日は少し落ち着いてのんびり飲みながらの食事。
のんびりとは言うが、イライザさんのお店で一日中冒険者と一緒に、だけどな。
あぁ、もちろんうちの女達も。
エリザは終始ご機嫌、ビアンカと共に戻っていたアネットは二人で楽しそうにご飯を食べていた。
ミラはず~~~っと俺の横。
何て言うかものすごい積極的、違うな脅迫的な感じで俺の横に座り飲んだり食べたりしていた。
理由はもちろんわかっている。
あの人だ。
どうやら俺のいない所で話をしたという事は分かっているが、その時の内容を一切教えてくれないんだよなぁ。
困ったもんだ。
そんなこんなで二日間の大騒ぎをしっかり堪能した三日目。
なぜ俺はここにいるんだろうか。
二日酔いのまま呼び出され、連れて行かれたのは再びのローランド邸。
貴賓室ではローランド様とエドワード様が歓談していた。
「おぉ、シロウ疲れているところ悪かったな。二日酔いは大丈夫か?」
「おかげ様で薬を飲んだので。」
「良い薬師がいるとそういった部分でも安心だな、今度常備薬を注文させてもらおう。」
「有難うございます。」
アネットの薬を飲めばどんな二日酔いも一発で治る・・・はずなんだが、まだ効いてこない。
うぅ、頭が痛い。
「さて、主役が揃ったところで改めて礼を言わせてもらおう。ローランド、よくダンジョンを、街を守ってくれた。」
「私ではなく守ったのは冒険者ですが。」
「いいのか悪いのか、連れてきた精鋭達がいい休暇になったと喜んでいたぞ。まさか冒険者にあそこまでの団結力があるとはな。」
「団結力の中心はそこにいる彼でしょう、シロウもよく冒険者達をまとめてくれた。」
「纏めたのは俺じゃなくてギルド協会や冒険者ギルドの面々だ。俺はダンジョンの中で鑑定していただけ、褒めるのなら彼らを褒めてやってくれ。」
「はっはっは相変わらず無欲な、いや金儲けに忠実な男だ。しっかり儲かったか?」
「おかげ様で。」
食材は完売。
用意した資材や武器関係も全て接収という名の完売だ。
笑いが止まらないとはこの事だろう。
二倍とまではいかないがそれに近いだけの数字を叩きだした。
素材関係も豊富に仕入れる事が出来たし、当分は安泰だな。
って、そう言えば今回の元凶って言ったら失礼か、原因になった人物がいないようだが?
「そもそもは我が息子ロバートが無理な願いをかなえようとしたことから始まった。残念ながら、願いの代償に命を失ったが・・・。」
「待て、どういうことだ?」
「シロウとりあえず黙って聞け。」
黙って聞けって。
あの時は意識は無かったものの確かに生きていた。
死んでいたなんてそんなはずは・・・。
「オホン。ロバートにより願いの小石を使用した願い事が危険だという事は証明できた。今後取引を規制することは無いが、使用に関しては十分に注意を払うよう記録として残しておく。もっとも、次の百穴がどこにあるかは見当もつかん。このまま見つからない方がいいのかもしれんな。」
「ちょっと待ってくれ。」
「シロウ。」
「聞いてくれ。百穴の件だが、もう新しい場所は判明しているぞ。」
「「なに!?」」
威圧感満載の二人が素っ頓狂な声を上げる。
いやいや、そんなに驚くことか?
「なんだ、ギルドは情報を上げてなかったのか。場所は変わったが百穴は今もダンジョンにある。今回はだいぶ下層にあるから、今回のように簡単には近づけそうにないがな。」
「そんなに危険な場所なのか?」
「竜の巣だよ。ドラゴン種が巣くう恐ろしい場所、そこに出現したのを確認している。」
「本当なのか?」
「このどんちゃん騒ぎで報告が上がってないだけだろう。うちのエリザがそこで現物を確認しているから間違いない。」
「不倒のエリザであれば間違いないのだろう。そうか、まだここのダンジョンに・・・。」
「場所が場所だけに使用するのは難しいが、場所を把握する分には問題ないだろう。使用方法もごく限られた人しか知らないわけだしな。」
集めた所で願いを叶えに行く前に殺されるような場所だ。
それこそ、今回お供に来た物騒な連中を総動員していかなければならない。
そんなことが出来るのはそれこそ王家ぐらいなものだろう。
「ともかくだ。我が息子ロバートは願いをかなえて死んだ。願いは、この国の平和、悲しいが我々はそれを受け入れねばならん。私は急ぎ国に戻りこの悲報を国民に向けて説明する準備をする。後の事は任せたぞ、ローランド。」
「心中お察しします。」
「と、言うのが世間一般の流れだ。わかったな、シロウ。」
「・・・随分と大掛かりな仕掛けだな。」
「そうでもしなければロバートの願いをかなえることは出来ん。我が息子、いや娘ながら困ったものだ。」
「はぁ、よくあんな願いを聞き届けたな。」
「ロバートがそういった悩みを抱えていることは薄々気付いてはいた。だが王子という役職上、どうしてもそれを認めることが出来なかったのだ。本人には苦しい思いをさせてしまった。」
「で、その本人は?」
「失礼します、マリアンナ様の支度が整いましたわ。」
と、扉の外から聞こえてきたのはアナスタシア様の声。
「おぉ、待ちくたびれたぞ。入れ。」
返事を受け扉が開く。
先に入って来たのはアナスタシア様、そして少し遅れて入って来たのが・・・。
「「「おぉ!」」」
男三人の声が綺麗にハモった。
入って来たのは絵本から飛び出したような美しい女性。
その人は薄ピンクのドレス身に纏い、しっかりとした足取りで部屋に入ってきた。
「見違えたぞ、ロバート。いやマリアンナ。」
「お褒めに預かり光栄です、エドワード陛下。」
「いやいや、何とも美しい。流石アナスタシアだな。」
「素材が美しいと何を着せても似合いますわね。まぁ、私の若い頃には負けますけど。」
「有難うございました、アナスタシア様。こんなに素敵なドレスを着る夢が叶うなんて、信じられません。」
「いいのよ、また着飾りたくなったら遠慮なくおいでなさい。」
「シロウ、どうしたそんな顔をして。まぁ我が娘の美貌に見惚れるのもいた仕方ないか。」
いや、見惚れるというか信じられないというか。
ぶっちゃけ、自分の息子が、一国の王子が女になったんだぞ?
何でそんなに悠長なんだよ。
しかも軽~く死んだことにするとか。
なんていうか、一人だけついて行けないんだが?
「シロウ様、この度は本当に有難うございました。」
「ロバートさん・・・なんだよな?」
「ロバート王子はお亡くなりになりました。私はただのマリアンナです。どうぞよろしくお願い致します。マリーとおよびください。」
「・・・ローランド様、本当に申し訳ないんだがどういうことか説明してくれないか?」
「まったくこういう所では察しが悪いな。」
「いや、ロバー・・・マリアンナさんの正体もわかっているし、世間的には死んだことにしたっていうのも理解している。だが一国の王子を簡単に殺していいのか?跡取りとかそういうのは問題ないのか?」
気になって気になって仕方がない。
そこんところどうなのよ。
「なんだそんな事を心配してくれたのか。案ずるな、ロバートは私の三人目の息子だ。一人減るのは悲しい事だが、娘が一人増えたと思えばいい。もっとも、勝手に娘を増やすわけにはいかんのでな、これからは平民として生きることになるだろう。後の事は任せたぞ、シロウ。」
「いや、任せたぞって。」
「マリアンナ。姿は変わり、王家から出たとしてもお前の中に流れる血は変わりない。我らの使命はこの血を絶やさぬこと、望むべき姿になったのだしっかり励むのだぞ。そうだな、そこにいる商人なんかは若いが中々に見どころがある。女の数は多いが、私に比べれば少ない方だろう。残す血は多い方がいいからな、あっはっは!」
いや、あっはっはって自分で囲ってる女の多さを自慢するとかどんな父親だよ。
っていうか、元々男だぞ?
いや中身は女か?
ともかくいきなり血を残せって子供を産めって事だしそういうことをするわけだが、そこんとこわかってるのか?
そんな事を思いながらマリアンナさんの方を見ると、なんとも熱のこもった目で俺を見てくる。
あの時を俺を見てきたのと同じ目。
同じはずなのに性別が違うだけでこんなにも違うものなのか。
いい女にそんな眼で見られてグッと来ない男はいない。
「末永くよろしくお願いいたします、シロウさん。いえ、シロウ様。」
「よし、今日は祝杯だ!アナスタシア酒をもってこい!」
「ローランド様、私は奥様ではございません。それに昨日までたらふく飲んだではありませんか、そろそろお控えになられてはどうですか?」
「硬いことを言うな、ほらシロウ、しっかりしろ。」
どうしてこうなった。
うっとりとした顔でマリアンナさんは俺にしなだれかかってくるし、国王陛下は国王陛下で、まるで娘を送り出す父親みたいな顔をしている。
どうなっている。
どうすればいい。
ただ唖然とする俺はその流れについていけないのであった。




