305.転売屋は準備をする
俺の勘は外れなかった。
手紙を出した二日後、魔法を使った連絡がギルド協会に入り街は臨戦態勢を取ることとなる。
具体的には国王陛下より『ダンジョン内で儀式を執り行う。それによりダンジョンから魔物が溢れるのでソレに備えて準備をせよ』との勅命を受け、街長が我々に指示を出したと言う感じだ。
いやー思っていたよりも動きが早かった。
こっちの準備がギリギリ間に合ったという段階での指示。
おかげで大儲けさせて貰えそうだ。
「はぁ、シロウさんが何かやり始めたので絶対何かあるとは思っていましたが、まさか国王陛下からの勅命とは思いませんでした。一体何をしたんです?」
「いやいや、俺は何もしてないぞ。向こうが何かするから手伝ってくれって言ってるだけで俺は何もしてない。」
「何もしてなかったら事前に準備なんてするはずないじゃないですか!」
「俺はそんな雰囲気があったから事前に準備してただけだよ。」
「まぁ、おかげで手間は省けましたけど・・・。まったく高い買い物になっちゃったなぁ。」
「いいだろ、出すのは向こうなんだから。好きなだけ金を使えると思ったら楽しくないか?」
「これ、元はと言うと我々の払った税金なんですけど。」
「ならよかったじゃないか、自分の金を自分の好きなことに出来るんだから。」
物は言いようってね。
国王陛下の勅命を受け、ギルド協会は準備に取り掛かった。
具体的にはダンジョンから溢れる魔物に対応するための食料や薬、武具などの調達だ。
向こうでも今回の儀式については色々と調べてあるようで、魔物はダンジョンの奥底から湧き続けるらしい。
なので、ダンジョン内の随所に要塞を建築して進行を阻害、防衛側としてこちらが有利になるように準備することになった。
直接上がってくると物量に耐え切れないので、少しでも被害を減らそうというわけだな。
向こうも限りある命だが、こっちだって限られた命だ。
怪我人や死者をできるだけ出さないことが防衛線のポイント。
そのために必要な物を短時間で集めなければならない。
ちなみに決行日時は次の満月。
つまり一週間後だ。
「シロウ様、資料の確認が取れました。概ね問題ないと思われます。」
「気になるのはどこだ?」
「食料や資材はともかく薬の単価が低いですね。生命線ですからもう少し絞り取れると思います。」
「ただでさえ高い金額出してるんですから、薬ぐらいまけてくださいよ。」
「一番大切な所でケチると後で後悔するぞ。」
「でもポーション一つで銀貨3枚は暴利ですって。倍ですよ倍。」
「非常時だろ?」
「それでもやりすぎです。せめて銀貨2.5枚にしてください!」
「だそうだが?」
「もう一声。」
「これ以上は出せません!」
「では今回の取引はなかったと言うことで。」
「シロウさ~ん。」
いや、そんな声で泣きつかれても困るんだが?
でもまぁ確かに暴利ではある。
銀貨2.5枚でもいつもより銀貨1枚も上乗せしてるからなぁ。
自分で言うのもアレだが、ポーションは冒険者の生命線。
エリザも使うことを考えるとこのぐらいで勘弁してやっていいだろう。
ぼったくるなら別の物でもできるしな。
「わかったって、ミラ銀貨2.5枚で1000個卸してやれ。その代わりマジックウッドの樹液は一瓶銅貨50枚で仕入れてもらうぞ。」
「うぅ、鬼がいる。」
「鬼で結構、それで冒険者の命が買えるなら安いものだろ?」
「そう思うならまけてくださいよ。」
「だから代金は後払いでいいって言ってるじゃないか。全部終わったら支払ってくれ。」
必要なものを全てかき集めるとかなりの金額になる。
事前準備をしろといわれても、金を持ってきて貰えるのは向こうがここに到着した時だ。
それまで代金を立て替えるとなると、いちギルドではまず賄えない。
もちろん街長が出せばいいんだが、生憎向こうは向こうで別のことに金を使わなければいけないのであまり用意できないとのことだった。
そこで俺の出番と言うわけだな。
幸いお金には困っていないので、後払いは大歓迎だ。
相手が踏み倒さないとわかっているだけに安心して仕事が出来る。
いや~笑いがとまらんなぁ。
はっはっは。
「わかりました、後は書いている値段でお願いします。」
「よし!ミラ倉庫の鍵を渡してやれ。」
「食料は冷蔵用の大型魔道具に、薬は緑の印のついた木箱に入っています。素材や資材は二つとなりの倉庫に入れてありますのでご自由にお使いください。」
「しめて金貨300枚だ、大事に使えよ。」
「ちなみに補充は・・・。」
「もちろん出来るぞ。今ハーシェさんが駆けずり回っているだろうから三日後には同量手配できるはずだ。今回は主に資材が中心だったな。」
「はい。ナミル様が職人の皆さんに掛け合ってくださいましたので金属製品や武具など多数取り寄せてあります。」
いやー、まさか手伝ってくれると思わなかったが、おかげで助かった。
今回の件が終わった暁には最高の化粧品を贈呈してやろうじゃないか。
まぁ、ちゃっかり値上げした金額を提示してきたけれどその辺はお互いにわかってる。
お互いに儲けが出ればそれでいいじゃないか。
「武具とかは戦いが始まった後に必要なものばかりじゃないですか。」
「ちなみにポーションはアネットとビアンカが死ぬ気で作ってるからまだまだ用意できるぞ。毎日ここに運ばれてくるから安心して戦ってくれ。」
「薬草刈り尽くす気ですか?」
「ほっとけばまた生えてくる。大丈夫だって、加減は向こうに任せてるから。」
「はぁ、もう好きにしてください。」
とうとう羊男も音を上げた。
よし、好きにやらせて貰おうじゃないか。
「食料には限りがあるからなぁ、そっちが気がかりだ。」
「うちも備蓄分は全部放出しますよ。足りなければナミルからふんだくります。」
「まぁ、足りなくなれば魔物から剥ぎ取ればいいだけだ。もっとも、食える魔物ならな。」
「ダンジョン内に処理場作らないといけませんね。」
「後は素材の剥ぎ取りか。せっかく大量に湧くんだから放っておく手はないだろ?」
「そんな余裕ありますかね。」
「そのために要塞化するんじゃないか。」
せっかく向こうから素材が来てくれるんだ、捨てるのはもったいない。
とはいえ羊男の言うように余裕があればの話だ。
剥ぎ取るのもなかなか大変だからなぁ。
いやまてよ、剥ぎ取りを中でやれば危険も少ないか。
でもどうやって要塞内に引き込む?
うーむ、その辺はよく考えないと。
「たっだいま~。」
「エリザ戻ったか。」
「はぁ、ちょっと待ってよエリザ。」
エリザとニアがギルド協会に駆け込んできた。
いや、エリザに引っ張られてきたが正しいかもしれない。
「で、向こうはどんな感じだ?」
「冒険者には事情を説明したわ。もちろん逃げる奴なんていないわよ。」
「さすがだな。」
「そりゃあ何もしなくても銀貨1枚もらえるんだもの、やらない手はないでしょ。」
「しかも素材は剥ぎ取り放題、食事もお酒も武器も選びたい放題だもの。まったく、シロウさんのやることは大きすぎて困るわ。」
「まぁ俺の金じゃないし。」
「え、違うの?」
「当たり前だろ。何で俺が冒険者の給料まで持つんだよ。」
「じゃあどこが?」
「スポンサーに決まってる、だよな?シープさん。」
俺の問いかけに返事すらしない。
まぁどっちにしろ出して貰うしかないんだし。
これで戦う人間も建築する人手も準備できた。
一日銀貨1枚も払うんだ、始まるまでただ働きさせるわけがない。
しこたま働かせて何とか期日までにダンジョン内を要塞化しなければ。
そして一週間後。
厳戒態勢の中その人たちは現れた。
「エドワード陛下に敬礼!」
大通りを豪華な馬車がゆっくりと走る。
沿道を固めるのは頑丈な鎧を身にまとった兵士と屈強な冒険者達。
いよいよその時が来た。
今日の夜、儀式は行われる。
「シロウは行かないの?」
「俺が?行くわけないだろ。」
「でも、元はと言えばシロウが集めた願いの小石をロバート王子が意識し始める事から始まったのよね?」
「俺は集めただけだろ?」
「シロウ様、おそらくはその言い訳は通用しないと思われます。」
「なんでだ?」
「あれを・・・。」
馬車が通り過ぎた方向から、何やらみたことある顔をした人が走ってくる。
「不在って事にしてくれるか?」
「もうバレてるわよ、諦めなさい。」
「いやいやなんで俺が偉いさんに会わないといけないんだよ。」
「知らないわよ。」
向こうから走ってくるのは羊男とアナスタシア様。
はぁ、めんどくさい事になった。
俺はただ大儲けが出来ればそれでよかったんだが、どうやらそれで許してくれなさそうだ。




