300.転売屋は夏を迎える
夏が来た!
まぁ、暦の上で夏が来ただけなんだけど、なんだか嬉しくならないか?
暑いのは嫌いだが、この世界の夏はそれほど暑くならないので好き。
そう思っていた頃が俺にもありました。
この世界に来てまだ一年経ってないけどな。
「暑いわね。」
「あぁ、18月に入ってすぐコレだもんな。」
「ちょっと急すぎて体が追い付かないんだけど。」
「風呂に水張ってあるから体を冷やして来い。さっきミラが入りに行ったからそろそろ戻って来るだろ。」
暑い時は水風呂だ。
キンキンに冷えた水は体に悪いが、それなりの温度であれば体が落ち着く。
因みに俺もさっき入った所だ。
「ただいま戻りました。」
「さっぱりしたか?」
「はい、おかげ様で。エリザ様もよろしければ。」
「やった!」
椅子にかかっていたタオルをひっつかんでエリザが二階へと駆け上がる。
そんなに急がなくても・・・。
ま、いいか。
「アネットは?」
「夏風邪の薬を処方しに出ています。この気温の変化で体調を崩している人が多いようですね。」
「後で寝室に置いてる風の魔道具持って行ってやれ、熱中症になるぞ。」
「わかりました。」
去年は氷を併用していたが、今年はこの暑さの為に供給が追い付いていないらしく中々こっちまで回ってこない。
報酬の割に過酷な職場だからなぁ、やりたがらない冒険者が多いんだろう。
「冷感パッドの製造も急いだほうがいいかもな。」
「アイスタートルの甲羅は明日ギルドから納品されます。今回は全部で200個との事ですが、よろしいのですか?」
「よろしいも何もこの暑さなら必須だろう。前回お願いした奥様方には連絡取れたか?」
「はい。前回の方と追加でもう16人ほど来られます。」
「はい?」
「話を聞いた他の奥様方からも参加希望の連絡が来まして。二倍作るのであれば問題ないと判断しました。」
「あ、そ。」
まぁ需要は多いだろうし、夏は始まったばかりだ。
四カ月あれば十分売れるだろう。
なんなら輸出してもいい。
隣街なら良い値で買ってくれそうだ。
「甲羅200個ですから全部で二万個、工期は前回と同様一週間と行った所でしょうか。賃金は前回同様銀貨1枚で了承頂いています。販売価格はどうしますか?」
「ん~数を売るなら銅貨20枚か。25でも売れそうだけどなぁ。」
「この暑さですから20枚の方が喜ばれると思います。」
「じゃあそれで行くか。台紙とか蒸留水は大丈夫なのか?」
「台紙は手配済み、蒸留水はカーラ様とビアンカさんからも納入頂く運びとなっていますので問題ありません。場所はこの前お借りした倉庫を利用する予定です。」
「あそこなら干せるし、雨除けにもなるし問題ないな。まさかこんな事で使用することになるとは・・・。」
「お借りして正解でしたね。」
「だな。」
一ヵ月銀貨50枚。
今回の儲けだけで一年分の賃料は十分に稼げるだろう。
まてよ?
夏が来るたびにこれだけ稼げるならプラス?
さらに言えばジムが始まればもっと稼げるわけで・・・。
うん、最高だな。
「販売数を確認して余るようでしたら隣街への出荷も検討中です。また、足りなければ増産できるようにギルドに追加の発注もかけてあります。最大個数は300個、六万個あればひと夏もつのではないでしょうか。」
「もはや産業だな。他の製作者から文句を言われないかが心配だ。」
「そこは大丈夫だと思います。安いのを求めている方はそちらを買われますから。」
なるほどなぁ。
「ただいま戻りました。」
「お帰り、往診とは大変だったな。」
「寒暖差が激しいのでお子さんは体調を崩しやすそうです。幸い悪化するような感じでは無かったので、普通の風邪薬で対応出来そうですね。」
「材料は足りるか?」
「はい。あ、念の為にカニバフラワーの種をいくつか貰ってもいいですか?」
「倉庫にあるから適当に持っていってくれ、どうせ勝手に増える。」
「普通は増えないんですけど、でも助かります。」
畑の北側に植えられているカニバフラワー。
この暑さで若干元気が無くなったようだが、アネットの調合した肥料で元気を取り戻した。
それどころか前よりも活発になったぐらいだ。
主人と認識されている俺でも近づくのが怖い。
当分は気を付けて種を回収するとしよう。
「アネットさん、お水をどうぞ。」
「ありがとうございます。あぁ、冷たくて美味しい。」
「エリザ様が今沐浴中ですが、もうすぐ空くと思います。交代でサッパリしてください。」
「風呂が終わったら、引き続き風邪薬の量産を頼むな。」
「蒸留水を作らなくていい分余裕があります。でも、本当に手伝わなくていいんですか?」
「カーラとビアンカが頑張ってくれるそうだ。でも、余裕があったら作っておいてくれ。何かに使えるだろう。」
「そうですね、機器を遊ばせてももったいないですから。」
「アネットも随分こっちに染まって来たなぁ。」
金儲けになるのなら休ませる理由はない。
もちろん使いすぎると故障の原因になるので連続使用は厳禁だが、稼げる時に稼ぐという考えはしっかりと染みついているようだ。
「あ~サッパリした。あ、アネットお帰り。」
「ただいま戻りました。ではお風呂頂きます。」
「いってらっしゃ~い。」
ショーツ一枚に首からタオルをぶら下げて手を振るエリザ。
手を振るたびに乳が揺れる。
全体的に筋肉質で尻なんかはきゅっと上がっているが、それでも乳は揺れるんだよなぁ。
後ろから鷲掴みにしてもいいんだが、思いっきり肘鉄されるのが目に見えているのでミラの乳を替わりに揉む。
うん、柔らかい。
「こう暑いと食欲も無くなるわね。」
「嘘つけ、昨日肉の塊にかぶりついていただろうが。」
「それはそれよ。この前シロウが作ってくれた素麺がまた食べた~い。」
「のど越しが良く、ほのかな塩気とめんつゆ?でしたか、あれが絡んで美味しかったです。」
「またモーリスさんの所で売ってたらな。」
この間店を覗くと素麺が売ってた。
あるんじゃないかと思ってはいたが、実際目にすると何ていうかテンションの上がり方が半端ないな。
10束しかなかったので速攻で買い占め一晩で食べ切ってしまった。
また仕入れる予定があるそうなので、入り次第買い占める約束をしている。
醤油があればめんつゆを作れる。
ショウガもネギもダンジョンで手に入るから薬味には困らない。
最高だ。
夏はやっぱり素麺だよな。
「夏かぁ。」
「夏だな。」
「今年こそ水着が着たいわ。」
「はい?」
「水着よ水着、水に入る時に着るやつよ。」
「いや、それは分かるがこんな草原のど真ん中でいつ着るんだよ。」
「え~でもでも、この前色々捨てたから新しいのが欲しいの!」
「本音はそれかよ。」
「買ってくれるんでしょ?」
水浴び程度なら街中でもできるが、残念な事に海や川が近くにない。
なので水浴びする時も大抵は服のままだ。
ガキ共は裸だが、いい年した大人がそれはまずい。
せめて下着、それを考えると水着がいるか。
どんなのが似合うだろうか。
エリザはビキニ、ミラはワンピースが良さそうだ。
アネットは・・・競泳用水着とか似合いそうだよな。
なんだかんだ言って結構引き締まった体してるし。
ミラは上がビキニで下がパレオでもいいかもしれない。
うん、想像するだけで色々と楽しくなる。
「機会があれば買ってやる。」
「約束したからね!ミラ、聞いた?」
「確かに聞きました。今からどんなものにするか考えておかなければいけませんね。」
ミラまで本気になっている。
そんなに欲しかったのなら言えばいいのに。
いや、着る機会がないから話題にも挙がらなかったのか。
「高くないよな?」
「ん~、オーダーするから銀貨10枚ぐらい?」
「高いのか安いのか微妙だな。」
「良い素材になると銀貨30枚のもあるわよ。」
「石でもついてるのか?」
「撥水性のいい魔物の革を使うのよ。肌触りが良くなるように内側は何度も何度も鞣して、色々が浮かないように胸当てとかも付けると結構するのよね。」
「女は色々大変だな。」
ただ着れればいいってわけではない。
女の服が高いのは色々な機能がついているからだと、最近になってようやく理解した。
ま、金はあるしどれだけ高くても問題ない。
なんなら水着用の素材を仕入れてもいいぞ。
もっとも、仕入れた所で売る場所が無きゃ意味ないか。
物を売るためにはブツと場が必要になる。
今回で言えば・・・水着を着る場だ。
いっそのことプールを作るか?
でも50mプールなんてどうやって作るんだ?
それに水をどうする。
循環とか塩素とか色々と必要だろう。
そう考えると面倒なんだよなぁ。
この暑さなら小型のプールでも売れると思うんだけどなぁ。
ビニールプールとか。
水が漏れなくてそれなりの大きさがあって柔らかくて空気を入れることが出来て・・・。
「なぁエリザ、でかいスライムっているのか?」
「大きなスライム?ビープルニールかしら。」
「そいつって倒すとどうなるんだ?」
「中の液体が漏れ出してただの革になるわ。革って言うかゴムね。」
「ガキ共がこの前空気を入れて遊んでいたのもスライムだよな?」
「うん、穴をあけてストローを差して膨らませるの。子供ってあぁ言うの好きよね。」
「・・・ミラ。」
「倉庫にビープルニールの革でしたら二つほど眠っています、出してきますか?」
「あぁ、頼む。それと風の魔道具と大きめのストロー、それと接着剤も頼む。」
「すぐに用意します。」
もしかするともしかする。
これが上手くいけば・・・。
そうだ、水着用の素材も仕入れないとな。
「またシロウが悪い顔してるわ。」
「良いだろ別に。さっき言ってた水着用の魔物、何か教えてくれ。」
さぁ金儲けの匂いがするぞ。




