298.転売屋は願いの小石を集めきる
「お?」
いつものように石の魔物を火の魔道具で燃やすと、初めての物を落とした。
「願いの小石?」
「みたいだな。魔石はいつも通りだが、こいつこんなのも落とすのか。」
「石なら何でもありって感じね。」
「その割には普通の石は落とさないっていうね、魔物なりの矜持なのかそれとも・・・。」
「まぁいいじゃないの当たりには変わりないんだし。」
「だな。」
「前に王子様に貯まったら教えてって言われていたんでしょ?そろそろじゃない?」
「どうだったかな、戻って調べてみるか。」
友人の注文は20個。
溜まったらリングさんの紋章で封をして送ってくれって話だったはずだ。
この前の騒動でもちらほら見たから、もしかしたら貯まっているかもな。
ブツを拾い上げて次の魔物に例の仮面をつけさせる。
この笑った顔がまた・・・不気味だ。
「さて帰るか。」
「帰ったら早速探さないと。」
「何処だったかなぁ。」
「倉庫の奥に箱を作ったでしょ?ミラが管理してるから絶対そこにあるわよ。」
「聞いてみるよ。」
ダンジョンを出て早朝の街をのんびりと歩く。
数が揃っていたとして、そのまま送るのも野暮ってものだ。
友人への贈り物なんだし何か別の物も入れておくべきだろう。
一応、王家への贈り物だしな。
あれ?商売だから贈り物じゃないのか?まぁどっちでもいいか。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。」
「どうしました?嬉しそうな顔してますよ?」
「願いの小石が出たのよ。」
「確か初めてでしたね。」
「それなりに貯まってると思うんだが、いくつある?」
「確か帳簿では・・・いえ、見てきた方が早そうです。ちょっと見てきます。」
「悪いな。」
「朝食の準備をしますからお二人は上で手を洗ってきてくださいね。」
「は~い。」
ミラが裏に出たのを見送り俺達は二階へ。
汚れてないはずが意外と汚れている手を洗い、埃を落として下に戻る。
「全部で19個ありました。」
「という事はさっきのと合わせて20個か、目標達成だな。」
「ロバート王子の注文でしたね。」
「一つ銀貨50枚で買ってくれるんでしょ?大儲けじゃない。」
「まぁ、それなりに?」
「シロウ様のように仕入れるだけの財力があればこその稼ぎ方ですね。」
「ですね。一つじゃあんまり儲かりませんけど、沢山あれば違います。」
「まぁ、本当に願いが叶うならいいんだが・・・。ま、それは俺の知ったこっちゃないけどな。」
鑑定した感じでは叶いそうな表示をしているが、実際はどうかわからない。
叶った!っていう人が周りにいれば信じられるのだが、これ全部集めるのにかかる費用は王都価格で金貨50枚。
まぁ向こうじゃなかなか手に入らないみたいだけど。
こっちではそれなりに数が手に入るものの、それだけのお金を持っている人がいないっていうね。
「願い事かぁ。シロウは何を願・・・聞くまでもなかったわね。」
「なんだよ最後まで聞けよ。」
「絶対一つしかないもの。」
「わからないだろ?」
「じゃあ何?」
「もちろん金だ。」
「知ってた。」
なんだよ、そんな呆れた顔しなくてもいいだろ。
ま、わかっててやったんだけどな。
「じゃあエリザは何を願うんだ?」
「私?そんなの決まってるじゃない、オリハルコンの剣を持つことよ。」
「それ時間さえかければ叶うんじゃないか?」
「シロウが見つけてくれたらね。願っておけば間接的に見つかるかもしれないでしょ?」
「なるほど、確かに。」
「見つかったら私にちょうだいね?」
「金貨100枚で譲ってやるよ。」
国王陛下は金貨1000枚だったんだ、安い物だろ?
「ミラ様は何を願いますか?」
「シロウ様が元気でいられるように、でしょうか。」
「また俺か。」
「母のようになってもらっては困りますから。」
「じゃあ私は皆ずっと一緒に居られますようにってお願いします!」
「つまり借金を返しても残るわけだな?」
「残らなくていいんですか?」
「いいや、残ってもらわないと困る。これからもよろしく頼むぞ。」
「えへへ、ありがとうございます。」
恥ずかしそうにくねくねと体を動かすアネット。
うん、気にしないでおこう。
「ですがあれですね、願いの小石だけでは些か物足りませんね。」
「そうなんだよなぁ。友人に送るとはいえ、相手が相手だ。それなりの物を同封するべきだろう。」
「え~、別にいいんじゃないの?」
「いけません。そういう気遣いが後々に繋がる事もあります。」
「ってことで、安すぎず高すぎずの良い物を考えてくれ。」
「なかなかに難しいですね。」
「食べ物は痛むかもしれないし、物になると好みが分かれるわよね。」
「実用重視で行きたい気もするが、俺ららしい物が良いだろう。」
せっかくダンジョンのある街にいるんだ、それにちなんだものの方が喜ばれるんじゃないだろうか。
女に送るのであればルティエのアクセサリーで良かったんだが、相手は王子様だからなぁ。
何が良いだろうか。
「お香とか?」
「匂いが合わなかったらどうする?」
「じゃあお酒。」
「毒味とか面倒そうじゃないか?」
「魔石?」
「何に使うんだよ。」
「そんなこと言うならシロウが決めてよね。」
ダメ出しをしていたら怒られてしまった。
うーむ、俺ららしい物ねぇ。
「小刀はいかがですか?」
「なに?」
「オリハルコンとまではいきませんが、ダマスカス鋼であればそれなりに見栄えもしますし実用もあります。」
「刃物なぁ・・・。」
「でしたらペーパーナイフにしましょう。」
「なるほどその手があったか。手紙にしたためておけば変な意味で取られることもないだろう。」
誰に送るか説明すればマートンさんならいい物を作ってくれるはずだ。
まぁ間違いなく驚かれるだろうけどな。
「それなら魔鉱石も一緒に埋めると良いわよ。」
「魔鉱石?魔石じゃないのか?」
「魔石は魔力をとりだせるけど、魔鉱石は魔力があっても取り出せないの。でも、見た目はかなり綺麗だから宝石みたいに映えるわ。中層よりも下の魔物が偶に落とすんだけど・・・どう、ここらしいと思わない?」
「そういうなら取って来てくれるんだよな?」
「え!?そうなるの!?」
「当たり前だろ。宝石のように見えるってことは、買うと高いって事だ。でも取って来ればタダだよな?」
「うぅ、言うんじゃなかった・・・。」
「戻ってきたらマスターの所で旨い酒を奢ってやるよ。」
「エリザ様よろしくお願いします。」
「がんばってくださ~い。」
中層より下という事はそれなりの危険もある。
無理をしないように言い聞かせつつも笑顔で見送るのが俺達らしい。
「さて、俺はマートンさんに依頼を出してくるか。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
「そうだ、新しいお店に薬を置くんですよね?できたら薬棚に合う薬瓶が欲しいんです。どこで注文すればいいか聞いてもらえませんか?」
「わかった、一緒に聞いとく。」
カーラから量産の目途が立って来たとの連絡が入ったのが昨日。
とはいえかなりの人気なので個数を絞って販売する事になるだろう。
店を貰ったものの、化粧品だけで棚を埋める事は出来ないのでいっそのこと薬も一緒に販売する事にした。
もちろん専門の知識を必要としない簡易型の薬で、瓶に薬の名前と使用方法を簡単に書いておけばアネットじゃなくても販売できる。
薬を注文したくてもむさ苦しい冒険者のたむろする店には入りづらい、そんな声も聞こえていたので一石二鳥だ。
瓶やら内装やらで金貨10枚ほど飛んで行くだろうから、ちょうど良かったかもしれない。
ま、その代金がいつ支払われるかはわからないけどな。
この前買い取った品々はまだ山積み。
仕分けはしたものの、時期的に売れない物やここで売りにくい物なんかもあるので全部売れるのは年末になる。
出来るだけ金は使いたくないのが本音だが、そうは言ってられないんだよなぁ。
やれやれだ。
店を出てまずはギルド協会へ。
棚の寸法を教えてもらい、その足でマートンさんの所へと向かう。
「喜んでやらせてもらおう。王家に続き今度は王子か、お前の仕事も大きくなるな。」
「別に仕事じゃない友人へのプレゼントだよ。半分は商売だしな。」
「プレゼントにダマスカス、それに魔鉱石なんて贅沢過ぎるだろ。」
「金貨1枚でつくれるんだろ?」
「いや、それをポンと出すお前がおかしいのか。」
「・・・そんなにおかしいか?」
「普通はな。だが俺はお前らしくていいと思う、別に恩を売りたいとか媚を売りたいとかじゃないんだろ?」
「あぁ。」
「金持ちなのをひけらかすわけでもない、正しい物に正しい金を払ってくれる上客だ。このままでいてくれよ。」
褒められてるんだよな?
まぁ、そういう事にしておこう。
「そのつもりだ。どのぐらいで出来る?」
「そうだな、相手が相手だけに少し時間が欲しい一週間ぐらいくれ。」
「じゃあ月末貰いに来る。」
「助かる。」
急がせていい物が出来るわけがない。
それに、職人が一週間で出来るって言ったんだし、それを信じればいいだけだ。
その間に他に送るものがないか探すことにするかな。




