293.転売屋は雨ごいをする
俺達の日常は戻って来たものの、他の部分はどうやら違うらしい。
この忙しさで全く気が付かなかったが、ここ一か月全く雨が降っていないそうだ。
「折角芽吹いたのにこのままでは生育に影響が出るかもしれません。
ルフの散歩を終え畑に戻ると、アグリが心配そうな顔をして畑を見つめていた。
「水やりでは無理か?」
「無理ではありませんが、空気が乾燥して土埃が舞っています。葉の上に土が溜まると光合成が出来なくて成長できなくなるんです。」
「なるほど。」
「せめて通り雨でもいいので降ってくれると助かるんですけど。」
「さすがの俺でも雨を降らすのはなぁ・・・。」
残念ながらお天道様に影響を与えることはできない。
でもそれは元の世界の話。
ここは魔法のある世界だ。
もしかするとあるかもしれない。
「と、言うわけだ。」
「なるほど雨乞いですね。それでしたらいい本がありますよ。」
「あるのか!」
「えぇ。この地域では雨不足は頻繁に起きていたようで、そう言った記述がいくつかあります。それを紐解けばもしかすると、望みの答えが見つかるかもしれませんね。」
「なんだよ、解決策じゃないのか。」
「でもヒントはあるかもしれません。」
良い本があるというかてっきり雨乞いの仕方が載っているのかと思ったが、そう簡単には答えを教えてくれないようだ。
「え~っと、この四冊ですね。」
「結構あるな。」
「日記が二つ、伝承系の記述が一つ、もう一つは占いですね。」
「とりあえず日記から攻めるとするか。」
「それが良いと思います。」
さて、何が書かれているのかなっと。
「簡単に見つかるさ、そう思っていた頃が俺にもあったな。」
「どうしたんだい?」
「とりあえず雨乞いの儀式はあるらしい。」
「へぇ、凄いじゃない。」
「儀式に必要な素材もわかった。どれもダンジョンの中で見つかるらしい、この日記を書いたやつはここではない別のダンジョンで集めたんだと。」
「それなら楽でいいね、雨乞いなんて言うから生贄を必要とするのかと思っちゃったよ。」
「似たようなものは必要みたいだけど、まぁなんとかなる・・・。」
「その感じだと素材だけじゃどうにもならないみたいだね。」
さすがアレン、伊達に長生きしてないな。
見た目は子供だけど。
「魔法陣を描いて素材を祭壇に捧げ、そしてそれを火にかけると煙が雨雲を呼ぶんだそうだ。」
「魔法陣ねぇ。」
「それについての記載がないんだ。はぁ、次はそれ関係の本を頼むよ。」
「雨乞いの魔法陣・・・。う~ん、記憶にないなぁ。」
「とりあえず魔法陣の本で構わない、別の日記を読んでいるうちに見つけてもらえるか?」
「お安い御用だよ。」
別の日記に目を通し、続いて伝承系の本を読む。
こっちにも何かか書かれていない物かと期待したが、残念ながら何も書かれていなかった。
伝承っていうならその辺ちゃんと書いとけよな、全く。
「シロウさん見つけたよ。」
「ありがと・・・って多いな。」
「魔法陣は魔術の基礎だからね、それこそ山のように見つかるよ。その中でも珍しい魔法陣を中心にあつめてみた。」
「配慮してもらって助かるよ。こりゃ、助っ人がいるな。」
「僕はお昼にするから一度店に戻るといい。」
「そうさせてもらうよ。」
そう簡単に雨乞いはさせてもらえないようだ。
悔しいが普通に考えたらそうだよな。
そんなホイホイと雨を呼べたら苦労しないだろう。
もしかするとそれを悪用して水害を起こそうとするやつが出るかもしれない。
そう簡単に見つかる方がおかしいんだ。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。」
「どうしたの、浮かない顔して。」
「ん~、ちょっとな。」
「ちょっとじゃないでしょ。とりあえず言ってみなさいよ。」
家に戻った俺の顔を見て女達が不思議そうな顔をしている。
馬鹿にされるわけでもなし、とりあえず説明するか。
「雨乞い、ですか。」
「確かに最近雨が降った記憶がないわね。せっかく新しい傘買ったのに出番なしよ。」
「野菜が育たないという事は薬草もダメになるかもしれません。」
「とりあえず雨乞いに必要な素材は分かったんだが、儀式に必要な魔法陣についてはまだわかってない。一応図書館で魔法陣関係の本は見つけたが、量が多くてな。アネット、この後暇か?」
「後は沈静化するだけなので大丈夫ですよ。」
「すまないがつきあってくれ。」
「わかりました。」
よし、とりあえず人手は確保したぞ。
アネットなら安心して任せられる。
エリザは・・・脳筋だからな。
「じゃあ先に素材集めとく?」
「魔法陣が見つからなかったら無駄になるぞ。」
「でも急いだ方が良いんでしょ?」
「まぁなぁ。」
「ちなみに何がいるの?」
「ウォータードラゴンの心臓に雷鳴草、コールドタイタンの核、最後に火焔トカゲの尻尾だ。」
「結構ある上にめんどくさい奴ばっかりじゃない。」
「そりゃ雨を降らせるんだ、簡単な素材だと困るだろ。」
俺にはよくわからない素材ばかりなので手配はエリザに任せるのが一番だ。
適材適所ってやつだな。
「場所も場所だしギルドに依頼したほうがいいかもね。ひとつずつでいいの?」
「数までは記載がなかったから、とりあえず五個ずつ頼む。」
「タイタンの核が五個かぁ・・・。集まるかな。」
「難しいのか?」
「場所がね、氷の一番奥に鎮座してるんだけどそこに行くまでが大変なのよ。」
「なるほどな。」
「寒さ対策が必須な上に、硬いのよ。普通の武器じゃ傷はつかないくせに、炎魔法は無効化。」
「じゃあどうするんだよ。」
「足元から爆破するの。その火薬を運ぶのがまた面倒なのよね。」
魔法はダメだが爆破はいけるのか、謎過ぎる。
足元に弱点でもあるのかもしれない。
「とりあえずそっち関係は任せた。費用は金貨1枚までなら許す。」
「そんなに!?」
「足りるだろ?」
「そりゃ足りるけど・・・。はぁ、大騒ぎになるわよ。」
「大騒ぎ上等だよ。」
要は材料が集まればいいんだ。
金貨1枚で雨が降るならむしろ安い方だろう。
まぁ、魔法陣が判明したらの話だがな。
「店は引き続き任せる、悪いな。」
「この客数でしたら問題ありません。皆様頑張ってください。」
「その為にもまずは飯にするか。」
腹が減っては何とやら。
簡単に昼食を済ませ俺とアネットは図書館に、エリザは装備を整えてダンジョンへと向かうのだった。
そして次の日。
「ない。」
「ありませんね。」
「はぁ、最後はこの本だけか。ここにも載ってってないとなると・・・計画は失敗だな。」
「かなり大掛かりな魔法陣になると言うところまでは分かりましたが、肝心の形がわかりません。」
「こっちの本によるとかなり巨大ってかんじだなぁ。祭壇もかなり大きめ、やっぱり生贄がいるんじゃないか?」
「それに関する記載はどこにもありませんでしたから、予定通りの材料で足りるんじゃないでしょうか。」
「でもなぁ・・・。」
最後の本をぱらぱらとめくりながら魔法陣の記載を探す。
ん?
「御主人様。」
「あぁ、こいつだ。」
「この形、どこかで。」
「やっぱりそう思うか?」
「はい。でもどこで見たんでしょう・・・。」
「どこかで見たはずなんだよなぁ。どこだったかなぁ。」
形はごくありふれた三角形。
その中心に四角形が描かれていて中心に祭壇を置くらしい。
でも大きさがなぁ。
キロ単位なんだよ。
あまりにも規模がでかすぎてこれを正確に描くのは無理な気がする。
でもなぁ、どこかで見たと思うんだが・・・そうだ!
「アレン、この前発見した遺跡の調査報告書とかここに来てないか?」
「あぁ、ありますよ。」
「貸してくれ!」
アレンの持ってきてくれた資料を確認するとやはり同じ形になっている。
不思議な形だと思っていたが、まさか雨ごい用の魔法陣だったとは。
中心はあの杯があった広場だろう。
遺跡との因果関係は不明だが、召喚用の杯といい、そう言う関係の場所だったんだろうか。
まぁいい、ある物は使わないと。
「間違いないな。」
「はい、一緒の形です。規模から考えても間違いないと思います。」
「間違ったら間違った時だ、材料は・・・よし、別の本と一緒だな。」
「そろそろエリザ様も戻ってくるはずです、急ぎ準備しましょう。」
「アレン助かったよ。」
「乾燥は火災の原因にもなる。大切な蔵書を守るには雨も必要だからね。」
急ぎ図書館を出て店へ戻り、そのまま畑へ。
「ルフ、この間杯を見つけた場所わかるよな。」
ブンブン。
「よし、エリザ達が来たら連れて行ってくれ。アグリ、塀を追加した時の木材のあまりあったよな?」
「ありますが・・・まさか見つかったんですか?」
「そのまさかだよ。」
ここまで驚いたアグリの顔はなかなか見れないな。
しばらくして材料を持ったエリザが何故かニアと羊男を連れてやってきた。
「何しに来たんだ?」
「雨不足は結構深刻でしたからね、本当に出来るのか見守りに来ました。」
「という名のサボりだろ?まったく夫婦揃って・・・。」
「まぁまぁ、人手はあった方が助かるし。」
それはそうだが、まぁいいか。
「ついてくるんだからしっかり働けよ。」
「お任せください。」
材木なんかもあったので結局もう何人か連れて例の場所まで行き、祭壇を作った。
その上に材料を並べ火をつける。
もくもくと真っ白い煙が空高く上っていく。
どう見ても燃えなさそうな物まで燃えているのは気にしちゃいけないんだろうな。
さぁ、本当に雨が降るのか見せてもらおうじゃないか。




