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291.転売屋は二号店を作る

「なるほど、話は分かりました。」


「わかってくれたか。」


「近隣の店舗からも苦情まではいきませんがお小言をいただいてましてね、どうにかしなければと思っていたんです。」


「それは俺も感じていた。こういう時、近隣と仲良くしててよかったと思うよ。」


「その辺律儀ですよね。」


「ご近所づきあい程怖い物はないからな。」


特にすぐ引っ越しが出来ない場所であればなおさらだ。


仲良くなっているだけでギスギスが無くなるんだから安い物だろ?


もちろんべたべたに付き合えって言ってるんじゃない。


挨拶をする、買い物をする、それだけで十分だ。


「で、物件でしたね。調査は終わっていますが改修工事が終わってないんですよ。街長の指示ですからその辺はしっかりやらなくちゃいけないくて。」


「壁と扉さえあれば別に構わないぞ。欲を言えば店内と奥を仕切るカウンターがあれば助かる。」


「え、そんなレベルでいいんですか?」


「間に合わせだからな、とりあえず工事は落ち着いてからで構わないさ。」


「それは無茶苦茶助かりますけど・・・。」


「俺の他にも工事が詰まってるんだろ?そっちを優先して手が空いてからやってくれ、街長に何か言われたら俺が直接話をつけに行く。」


「こういう時かっこいいですよね、シロウさん。」


「お前に言われても何も嬉しくねぇよ。」


美人にならともかく羊男に言われてもなぁ。


「その条件であれば今日からでも使用できます。かなり掃除は必要ですけど。」


「掃除はこっちでする。じゃ、そういう事で。」


「くれぐれも怪我とかしないでくださいね、後で何言われるかわからないんですから。」


「もし怪我したら黙っとくよ。」


中間管理職も大変だなぁ。


そんな事を思いながらギルド協会を出る。


「どうだった?」


「使用許可は出た、今日から使っていいそうだ。」


「じゃあ早速お掃除ね!準備は出来てるから任せといて。」


「それじゃあ俺は金を取りに店に戻る。ギルドへの伝達は?」


「もちろん完了してるわよ。昼からって言ってあるから。」


「って事は昼前には来るな。」


「多分ね。」


外で待っていたエリザに指示を出し、急ぎ店に戻る。


本来は化粧品販売用の店舗にする予定だったが、状況が変わってしまった。


向こうはまだ量産中。


店を空けたままにするのはもったいないので、冒険者専用の買取店として店を開けることにした。


ようは二号店ってやつだな。


向こうは一般向けとしてミラが担当し、こっちは俺が担当する。


掘り出し物率はぶっちゃけ一般向けの方が多いのだが、仕事のしやすさは冒険者の方が上なんだよな。


ありがたい事に彼らもそうらしいのでお互いの為にも急ぎ二号店を開ける運びになったわけだ。


これで冒険者の問題も解決。


俺のストレスも解消され、売上も倍増。


まぁ、出ていく金も二倍になるわけだけどその辺はこれまで稼いできた金でどうとでもなる。


絶対に損をしない商売だ。


仮に金貨1000枚出て行っても必ずそれ以上で売れる。


金が金を呼ぶのが分かっていてサボる意味はないよな?


ってな感じだ。


「ただいま。」


「おかえりなさい!どうでした?」


「予定通り今日の昼に冒険者を向こうに回す、ミラ後は任せたぞ。」


「シロウ様のご迷惑にならないよう精一杯頑張ります。」


「ま、俺が居ないのなんていつもの事だし。」


「そうですね。」


「・・・そこは否定してほしかったんだが?」


確かにしょっちゅう出ていくけどさぁ。


珍しく客が居なかったのでそんな会話も出来たが、またすぐに客が入ってきた。


「いらっしゃいませ。」


ミラに対応してもらっている間に裏に回り、金を確保。


「アネット、ミラの手伝い頼むな。」


「お任せください。」


「じゃ、日暮れには戻ってくるから。」


「いってらっしゃいませ。」


アネットと二人なら大丈夫だろう。


それこそ、いつもの事だし。


ちょっと買取量が増えただけだ。


出かけに、鑑定中のミラの尻を揉むとものすごい目つきで睨まれてしまった。


そんなに怒らなくてもいいのに。


ごめんって。


平謝りしつつ店を出て商店街を駆け抜ける。


二号店の前には早くも冒険者の姿が見えた。


「いや、早すぎだろ。」


「へへへ、待ちきれなくて。」


「他の店の迷惑になるから他所で時間潰して来い、それとも掃除の手伝いしてくれるのか?」


「おまけしてくれます?」


「するわけないだろ。」


冒険者を追い払いつつ店の中へ入ると、エリザの指示を受けて冒険者達が武器ではなく掃除道具を振るっていた。


「あ、シロウお帰り。」


「早くも客が待ってるんだが?」


「え~、おかしいな。昼からってちゃんと言ったわよ。」


「ほんとかよ。」


「まぁいいじゃない。はい、シロウも手伝って。」


「俺も?」


「当たり前じゃない、自分の店でしょ。ほら、カウンター汚れたままだとかっこ悪いじゃない。」


なんで俺が。


っていうか、掃除するために彼らを雇ったんじゃなかったのか?


とはいえそこまで言われて何もしないわけにもいかないので、仕方なくエリザの差し出したぞうきんを受け取った。


元飲み屋だったこともあり、立派なカウンターだ。


この地域では珍しい一枚板。


木目が中々に綺麗だ。


危ない薬と酒で汚れてしまったそいつを強く擦ると鮮やかな色が戻ってきた。


仕方ない、俺が綺麗にしてやるよ。


冒険者達が忙しそうに動き回っている中、一心不乱に手を動かしお昼前には何とか1mだけ綺麗にすることが出来た。


残りはおいおいでいいだろう。


「は~い、みんなそこまででいいわよ。有難う。イライザさんのお店にお昼用意してるから食べて帰ってね、ただし酒は自腹だから。」


「「「「えぇぇぇぇぇ!」」」」


「そこまで面倒見れないわよ。アンタたち飲み過ぎるんだもん。」


「お前もな。」


「え、そう?」


「どの口が言うか。ともかくみんな助かった、また買取品があったら遠慮なく持ってきてくれ。エリザ、休憩したら開店するぞ。」


「は~い。」


俺達も英気を養っておかないと、今日は夕方までノンストップだろうからな。


アンナさんにお願いして軽い物を作ってもらい、それを食べながら準備を続ける。


と言っても荷物を置くスペースを作っただけだ。


一号店のように裏庭に積み上げることは出来ないので、場所の管理が重要になる。


匂いのする物は奥の倉庫に。


それ以外も武器や防具などで場所を分けで後々で搬出しやすい工夫を凝らす。


持っていくのはエリザだから、まぁ大丈夫だろう。


結構綺麗好きだし。


そして昼過ぎ。


今か今かと待ちわびる冒険者達が増えてきたので少し早いが開けることにした。


「じゃ、始めるか。」


「うん!」


「フォロー頼むな。」


「まっかせといてよ。」


ハイタッチを交わして店を開ける。


「さぁ野郎ども開店だ、順番に入って整理券を受け取ってくれ。列を乱すなよ、暴れたらつまみ出すからな。」


「待ってました!」


「早く見てくれ、腕が千切れそうだ。」


「お前等、マジでその量持ってきたのか?」


「当たり前じゃないですか!」


前から三人、いやその後ろに見える冒険者も大きな袋をぶら下げている。


あれ全部俺が鑑定するのか?


マジかよ。


「予定変更だ、素材の見極めぐらいは出来るよな?」


「まぁ、それなりに?」


「とりあえず種類分けだけ頼む、鑑定はこっちでするから個数だけ貼り付けて行ってくれ。」


「了解。」


てっきり素材の大半はギルドに持ち込んでいると思ったがどうやらそうではないらしい。


俺の店で買い取って欲しいという気持ちは分かるが、今はその気持ちが重たく感じるよ。


順番に入ってくる冒険者に整理券を渡しつつ持ってきた荷物にも同じものを張り付ける。


時間を貰い、後で取りに来るように促してとりあえず後ろで保管だ。


そうしないと行列が他の店の迷惑になるからな。


冒険者からしてみてもココで時間潰すのは暇なので、喜んで荷物を置いて去って行った。


それでもひっきりなしに買取品を持って冒険者がやってくる。


あっという間に荷物は積みあがり、足の踏み場が無くなってきた。


おかしい、どうしてこうなった。


そんな事を思っても後の祭り。


とりあえず今は目の前の買取品を捌き続けるだけだ。


「エリザ、金の支払いは任せた。」


「はいはい。」


「あ、エリザの姐さん。8番だけど出来てる?」


「出来てるわよ、それじゃあ内訳を言うわね。」


普段は脳筋だなんだと言っているけれど、こういう時は頼りになるんだよな。


なんだかんだで気が利くし。


当分はエリザにフォローしてもらいながら営業を続けよう。


「で、全部でこんだけ。良かったらここにサインね、はい銀貨22枚。」


「よっしゃ、これで宿代が払える!」


「普段から節制すればいいのに。」


「へへ、姐さんには言われたくないぜ。」


「何か言った?」


「な、なんでもねぇよ!ほら次の客が来た、じゃあな!」


ま、接客業をするにはやり方があれだが冒険者相手には問題ないだろう。


「よくやった、引き続き頼む。」


「えへへ、まるで奥さんみたいよね。」


「そういうのは自分で言う物じゃないぞ。」


「いいじゃない思う分にはさ。」


「はいはい。頼りにしてるぜ、奥さん。」


嬉しそうに笑うエリザの笑顔に元気づけられ、再び査定に戻る。


その日は日が暮れても客足が途絶えることは無く、もちろん翌日も同じ事になるのは言うまでもない。


あ~しんど。


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