28.転売屋は奴隷商人に会う
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「奴隷商の方でしたか。」
「露店をメインにされているのであればあまり御縁がないかもしれませんね。」
「そうですね。店番がいれば仕事も捗るのですが、かなり高価ですのでなかなか手が出ません。」
「店番となると算術と読み書きが必須でしょう。それであれば何人か・・・っといけませんね、礼拝所の前で商売はご法度でした。」
「そうなんですか?」
「ここは神聖な場所ですから、商売っ気を出すと神様に怒られてしまいます。」
まぁそれはなんとなくわかる気がする。
あまり神だ仏だと信じていないが、いないかと聞かれればいると答えるだろう。
でも奴隷商人が何故ここに?
「一つ質問なのですが、奴隷業の神様は別におられるのでは?」
「えぇもちろんおります。」
「ではなぜこちらに?」
「今日は次のオークションの成功を祈願しにまいりました。その場合はやはりこちらの神様、という事になります。」
オークションねぇ。
珍しい品物がいっぱい出るんだろうな。
「なるほど。では私もレイブさんの成功をお祈りしておきましょう。」
「ご丁寧にありがとうございます。失礼ですがお名前は・・・。」
「あぁ、シロウと言います。」
「シロウ・・・まさか、あの?」
「あはは、そうです、あのシロウです。」
俺の悪名も随分と広がってしまったものだ。
前回のリング氏との一戦?は瞬く間に街中に広がる事になった。
それもそうだろう、ただの平民が貴族に喧嘩を売ってるんだから。
そうかと思ったら商人との仲を取り持ち結果として三方丸く収めてしまった。
あいつは何者なんだと噂にならないわけがない。
それからしばらくはどこに行っても奇異の目で見られたものだが、人の噂も75日。
気付けば別の噂話に俺の話は埋もれていった。
それでも名前だけは記憶に残っているようで、名前を出すと今のような反応をされてしまう。
別に何が起きるわけでもないので気にしてないけどな。
「まさかこんな所でお会いできるとは思いませんでした。リング様が仰っていましたよ、面白い男に出会ったと。」
「お知り合いなんですか?」
「何度か取引をさせていただきました。前回来られた時もお話だけさせていただいたんです。」
「そうだったんですか。世間は狭いですねぇ。」
「あの方と対等にやりあう商人がいるとは聞いていましたが、まさか店を持たない方とは思いもしませんでしたよ。」
この街では店を持つことがステータスになる。
逆を言えば店を持てないような商人はその程度の商人という事にもなるわけだ。
世の中厳しいねぇ。
「新参者には中々厳しいようで。」
「確かに今はどの店も好調ですから・・・。いえ、そうでもありませんね。」
「え?」
「とある質屋が街の上役に目をつけられていると噂で聞いた事があります。もちろん噂程度ですが、なんでも危ない品を危ない人間に流していたとか。」
誰がとは言わないが心当たりはある。
っていうかその品を持ち込んだのは間違いなく俺だろう。
結構危ない品を何度か買い取ってもらったからなぁ。
出所は言わないっていう約束は律儀にも守ってくれたようだ。
「それはそれは、悪い事をする人もいるんですね。」
「その年の話はその年のうちに、感謝祭を気持ちよく迎えるためにも年末までに何かしらの結果が出るでしょう。」
「まさかお祈りをしてすぐこんな話を聞けるとは思いもしませんでしたよ。」
「それは私も同じことです。お祈りをしに来て新しい商売相手が見つかるとは思いませんでした。」
「まだ店を持つとは決まっていませんが?」
「あのリング様が口利きをしたのです、間違いはないと思います。」
つまり店が空けば次に声がかかるのは俺という事になる。
すごいな、挨拶に来てすぐこれかよ。
こんな事なら最初から挨拶しとくんだったな。
それとも高い肉をお供えしたおかげだろうか。
一応さっきの話が本当かマスターに調べてもらった方がいいかもしれない。
さすがに本人に聞きに行くのは憚られる。
「そうだとしても具体的にお話がきてからですね。それに、人を雇うにもお金が必要だ。」
「これも何かのご縁、お安くさせていただきますよ?」
「いやいや、まだ決まったわけではありませんから。」
ここでは商売の話をしないんじゃなかったのか?
神様に怒られちゃうぞ。
「ではおひとつだけお聞かせください。」
「何か?」
「若く活きのいい女性と落ち着いた艶のある女性どちらがお好みですか?」
どちらがお好みですかって難しいこと聞いてくるなぁ。
好みで言えばそりゃ若い子の方がいいけれど、若すぎても対処に困る。
そういう意味ではそこそこの年齢でも問題ないだろう。
外見はあれだが中身は40を超えたおっさんだ、20代でも十分に若く見える。
「若すぎるのは好きではない、という答えでいかがでしょう。」
「十分です。」
「もう一度言いますがお金はありません、税金を払うので精一杯ですから。」
「確かにこの街の税金は高い、それでも貴方程の方でしたら十分にやっていけると信じています。」
その確信はどこから来ているんだろうか。
金貨200枚だぞ?
今だって目標すれすれの儲けしか出てないんだ。
頼みの買い取りは使えなくなったし、仕込みもうまくいく保証はない。
その状態で店を持って本当にやっていけるんだろうか。
って、やる前から不安になってどうするよ。
あと二ヶ月で自分の夢がかなうかもしれないんだ、もっと喜べよな。
「ちょっと、シロウどこ~?」
いい感じで話をしている所でその流れをぶった切ってくる声が耳に飛び込んでくる。
「おや、お知り合いがお呼びのようですよ。」
「そのようで。」
「それでは私も神に感謝をお伝えしてきます、今日はありがとうございました。」
それだけ言うとイケメンは礼拝所の中に入ってしまった。
お礼を言いに中に入るのもあれだよな。
「おーい、ここだ。」
「ちょっと、何時までかかってるのよ。待ちくたびれちゃった。」
「ちょっとな。」
「どうしたの?良い事あったって顔してるけど。」
「まぁそんな所だ。」
「え、なになに?教えてよ!」
「うるさいな、静かにしてろ。他の人の邪魔になるだろ。」
エリザの口を無理やり抑えると苦しそうにジタバタと暴れだす。
だが相手は冒険者だ、あっさりと俺の手を引っぺがすと恨めしそうな目で俺を睨んできた。
「なんだよ。」
「戻ったらちゃんと聞かせてもらうからね。」
「前から思ってたんだがいつから俺の女になったんだ?別にお前を買い上げたわけじゃないんだぞ?」
「わかってるわよ。」
「じゃあ別にお前に言う必要ないよな?」
「必要あるもん。」
睨んできたと思ったら今度は拗ねたように口を尖らせる。
ったく、これだから女ってやつは面倒くさいんだ。
仕方なくそのとがった唇に俺の唇を押し当てると、慌てたように俺の胸をドンと押して真っ赤になって俯いてしまった。
これで当分静かになるだろ。
礼拝所からイケメンが出てくる気配はない。
邪魔にならないうちにさっさと行くか。
「おい、いつまで赤くなってるんだよ、さっさと行くぞ。」
茹で蛸のように真っ赤になったままのエリザの腕を引っ張り、俺達はその場を後にした。
「それでね、シロウったら礼拝所の前で私の唇にね・・・。」
「キャー!」
「おい、うるさいぞ静かにしてろ。」
礼拝所を出てまっすぐ宿に戻るなり、先程の件をリンカに猛アピールするエリザ。
なんで女はそんな話でそこまで盛り上がれるのかね。
マスターと眼を合わせるが肩をすくめるだけで助けてくれる気配は無かった。
「なになに、シロウさんったら照れてるの?」
「馬鹿いえ、その程度で照れるはずないだろうが。」
「え~嘘だぁ。案外恥ずかしがり屋だったりするんじゃないの?」
「もしそうだとしたら顔見知りのいる宿でヤッたりしねぇよ。」
「ヤ、ヤるとかいわないでよ恥ずかしい!」
どう考えても恥ずかしがりなのはこっちのほうだろ?
40にもなって色恋沙汰で恥ずかしいとかはさすがにないわ。
「他の客の迷惑になるからそれぐらいにしとけ、リンカ7番出来上がったぞ。」
「は~い。」
マスターの持ってきた巨大なステーキ肉を受け取り、リンカが別のテーブルにそれを持っていく。
食べるのは・・・マジかあんな細い女があの肉を食べるのか?
痩せの大食いっていうんだろうな。
隣の椅子に弓と矢筒を立てかけてあるし、冒険者であることは間違いないだろう。
顔もなかなかの美人だ。
「ねぇ、あんな人がタイプなの?」
「別に?」
「でもさっきからチラチラ見てるし。」
「なんだ気になるのか?」
「そりゃあ気になるわよ。買われたわけじゃないんだし、もしもって事もあるわけじゃない?」
なんだよもしもって。
「それはお前が死んだときの話か?」
「勝手に殺さないでよ、縁起でもない。」
「じゃあなんだよ。」
「シロウが別の女性と付き合うって話よ。」
「そもそも俺たちそういう関係だったのか?」
「・・・違うかも。」
好意を持たれているのは知っているが、エリザと恋人とかそういう関係になったつもりはサラサラない。
もちろん匂わせたこともないし、あくまでも金を貸したというだけの関係だ。
もちろん利子的な感じで抱かせてはもらっているが・・・。
改めて考えると微妙な関係ではあるな。
「先に言っておくがお前が嫌いなわけではない。そういった感情がないわけでもないが、あくまでも金の貸し借りから生じた関係だ。」
「もちろんわかってるわ。」
「だが金を返し終わったら終わり、というわけでもない。」
「え?」
「まさか支払いが終わったら赤の他人、なんて薄情な男だと思っていたのか?」
「そのつもりなんだと思ってた・・・。」
だから他の女を見ると不安そうな顔をしていたのか。
馬鹿な女だな。
「抱き心地のいい女を捨てるほど馬鹿な男じゃないつもりだぞ?」
「でも体だけなんでしょ?」
「それが目的なら娼館に行けばもっといい女は山ほどいる。そこに行かないということはそういうことだ。」
つまりはエリザのことを自分の女という風に考えているということだ。
我ながら自分勝手だとは思うが、それを言うとつけあがること間違いないのであえてそれは伏せておく。
こいつが他の男に抱かれるのは気分的によくない。
もっとも、愛想をつかされて別れを切り出されたのなら仕方ないがな。
「・・・よくわからない。」
「とりあえずは気にするなってことだ。」
「アンタがそう言うならそれでいいわ。」
「なんだ聞き分けがいいな。」
「つまりは嫌いじゃないって事でしょ?フフフ素直じゃないんだから。」
「いい度胸だ。」
そういうとエリザの腕を掴み無理やり立たせる。
「え、ちょ、ちょっと?」
「体だけじゃないってことを理解させる必要があるからな。覚悟しろよ。」
「ちょっとまって、冗談、さっきのは冗談だから!」
なんて言おうが俺をその気にさせた責任は取ってもらおう。
マスターがやれやれといった感じで俺のほうを見て鍵を投げてよこした。
外はまだ明るいが・・・まぁ、そんな時間からするのも乙なもの。
振りほどけるはずなのに振りほどかないのが嫌がってない証拠と勝手に決めこんで、俺の女だと理解させるべくエリザの体を堪能したのだった。
ちなみに翌朝二人ともフラフラだったのは言うまでもない。




