267.転売屋は新米用の武器を探す
ここ最近休みが多かったが、仕事はちゃんとしている。
暇そうに見えるがこう見えても色々な事に手を出しているから、なんだかんだいく場所が多い。
この世界に来たときは買取の事だけを考えていればよかったんだが・・・。
まぁ、儲かるならそれでいいか。
「え、売り切れですか?」
「あぁ、悪いな。」
「そっかぁ・・・、あれ欲しかったんだけどなぁ。」
「似たようなやつを見つけたらまた仕入れとくよ。」
「お願いします。」
新米冒険者が俯きながら店を後にする。
彼女が探していたのは軽量化の効果がついたクロスボウだ。
弩と呼べばいいんだろうか、普通の弓矢と違って木でできた台の先端に交差するように弓が取り付けてある。
構造上重たくなりがちなのだが、軽量化の効果のおかげで女性でも扱える軽さになっていた。
板ばねを引いて矢を番え発射する。
連射は難しいが初心者に使えるので軽さは大きなプラスになるだろう。
銀貨30枚とそれなりの値段をつけていたのだが、ついさっき別の冒険者が買って行ってしまった。
取り置きはしていないから早い者勝ち。
これは致し方ない。
「残念がってたな。」
「仕方ないさ、また新しい装備を仕入れておくよ。」
「仕入れる暇もなさそうだが?」
「そうなんだよなぁ・・・。色々忙しくて。」
「大商人は違うねぇ。」
「やめてくれよ、俺はただの買取屋さ。」
「よく言うぜ。」
いやいや、マジで大商人とかキャラじゃない。
そういうのは年商が金貨1000枚超えたら言えるレベルで俺なんて・・・。
あれ?
よくよく考えればそれぐらいいってる?
いやいや、今回のオークションは偶然だ。
それを抜いたらまだそこまで稼げていないはず。
ともかく俺は普通の買取屋、普通でいたいんだよ。
「お、いたいた。」
「マートンさん、珍しいなこんな所に来るなんて。」
「店に行ったんだがこっちにいるって言われたんでな。」
「言ってくれたら工房まで行ったのに。」
「いや、ちょいと頼みたいことがあったんでな。今良いか?」
親方が俺に頼み事?
珍しいな。
おっちゃんが気をきかせて場所を開けてくれたので、とりあえず露店の中に入ってもらう。
「で、話ってのは?」
「さっきも見てたんだが、新米が随分買いに来てるみたいだな。」
「おかげさんで。マートンさんの所は・・・そっか新米お断りだったな。」
「まぁ、普段はそうなんだが、他所は忙しそうにしてるみたいだ。この春は特に多い気がする。」
「この前はそうでもなかったからなぁ。」
確かに春は冒険者が増えたように思うけど、ここまででは無かったはずだ。
仕入れても仕入れても追いつかない。
市場にも毎日新しい人が来るわけじゃないから、常に仕入れが出来るわけじゃない。
今まではそこまで品薄になることは無かったけれど、今回はかなりだからなぁ。
「で、そんな状況で仲間から相談を受けたんだが、色々考えても答えが出なくてな。ふと思いついたのがお前だったんだ。」
「え、俺?」
「あぁ。目利きといい行動力といいこの街で一番信頼できると俺は思っている。」
「そこまで買ってもらってもちろん嬉しいが、何も出ないぞ。」
「そこは、そこまで買ってくれるなら頑張らせてもらいますじゃないのか?」
「何をするかもわからないのに頑張るなんて言えねぇよ。」
無理難題を言われることはないと思うが、無責任なことは言えない。
それこそマートンさんのような職人であればなおさらだ。
「ま、そうだな。話ってのはずばり新米向けの武器を作りたいんだ。」
「新米向けの武器?今までのじゃダメなのか?」
「ダメってわけじゃないが・・・。例えば銅の剣だと銀貨1枚で手にはいるが、次の鉄の剣になると急に銀貨5枚まで値上がりするんだ。」
「あぁ、つまりはその間の値段で買えるものを作りたいって事だな。」
「話が早くて助かる。今は金のない新米だがこの先は大切な客だからな、増えている今こそしっかりとフォローしてやりたいんだ。」
「具体的にはどうするつもりなんだ?」
「新しい素材を見つけたい。」
おいおい、随分とでかい話じゃないか。
仕入れてこいじゃなく自分で作るから素材を探してこいだって?
「なんで俺なんだ?」
「言っただろ、お前の目利きの腕を信じてるんだよ。」
「目利きが聞いても新素材をおいそれと出してくれるとは思わないがな。」
「もしくは流用できる素材でもいい。今の現状を打破できる何かを、お前に見つけてほしいんだ。」
「ちょいと話がでかくないか?まぁいいけど・・・で、俺の取り分は?」
これだけの仕事をやらせるんだ、それなりの金は出してくれるんだよな?
マートンさんだけでなくこの街の職人連中の頼みなんだろ?
普通そう言うのはギルド協会かなんかに依頼するもんだと俺は思うがねぇ。
「素材の仕入れは全てお前を通す、ってのはどうだ?」
「確かに魅力的だがそれなら販売価格の二割を俺に回してくれ。別に永続とは言わない、俺が死ぬまででいいさ。素材の使用に許可は要らない、製法も隠匿しない、ただ使用料をくれればそれでいい。」
「二割は暴利だろ。」
「じゃあ一割。」
「値下げ早いな。」
「金は欲しいが喧嘩したいわけじゃない。それに、素材の買い付けを俺からすると言うがどう考えても無理だろ。新米向けの素材ってことは量が必要になるし、そうなれば俺はその専属卸しをやらないといけない。俺は買取屋だぜ?」
「それを言われると苦しいな。」
難しい顔をするマートンさん。
仕入れ代の他にロイヤリティもとられるとなればそうなってしまうだろう。
確かに仕入れの専属化は魅力だが、仕入れが簡単な素材の場合俺よりも安く卸そうとするやつが出てくるだろう。
そうなった時に、つい他所に手を出してしまった事でその工房が責められるのは避けたい。
変な縛りをつけるよりも使用料の方が単純明確、というわけだ。
「それに、その素材が見つかるかもわからないんだ。それをいまさら気にしてもな。」
「大丈夫お前なら見つけるさ。」
「期待が重すぎる。期限は?」
「一か月。」
「短いな。」
「この機会を逃すと新米が減るからな、できれば早い方がいい。」
「一応やっては見るが、期待するなよ。」
大丈夫さと言ってマートンさんは帰って行った。
「随分と大仕事を頼まれたみたいじゃないか。」
「まったく、そう言うのは先ず自分たちでやるもんだろ?」
「いや、俺にも気持ちはわかる。自分たちでどうにもならなくなると、新しい考えが欲しくなるんだ。」
「それで成功したことはあるか?」
「もちろんあるぞ。俺達は固定概念の塊だからな、それを崩してくれる誰かが必要になる時があるんだよ。」
「なるほどなぁ。」
確かに固定観念は怖い。
これしかない!と思っていたはずなのに、全く転売の事を知らない新人がもっと効率の良いやり方を発見したりする。
技術だってそうだ。
新しい技術をよそから持ち込むだけで、格段に進歩したりもする。
昔はスマホなんてなかったからパソコンにかじりついていたものだが、今じゃ外に出ていても在庫の確認が出来るようになった。
ま、それも過去の話。
俺はもうこっちの住人だ。
パソコンもスマホもどちらもない。
「ま、無理しない程度に頑張れよ。」
「あぁ、そうするよ。っと、いらっしゃい、今日は何だ?」
また新しい客が来た。
見た感じ新米っぽいな。
「軽くて丈夫な剣が欲しいんです。」
「軽くて丈夫ってなると鉄か軽量化の効果付きだな。予算は?」
「銀貨5枚まででできれば・・・。」
「その予算だったら鉄の剣なら買えるだろ?」
「そうなんですけど、やっぱりちょっと重くて。」
「鉄でも重いのかよ。軽量化をつけると一気に銀貨15枚まで跳ね上がるぞ。」
「うぅ、やっぱり無理かぁ。」
結構切実な問題のようだ。
新米にとって銀貨5枚は大金だ。
なんせその金額で十日は寝泊まりできるんだ。
それだけあれば同額を稼ぎ出す事が出来る。
でも、同額だ。
結局それを回すだけでは装備はいつまでも良くならず、いずれ壊れてしまうだろう。
そうならない為にも少しでも背伸びをして装備を集めたい。
それが新米の願いってわけだ。
「軽くて丈夫ねぇ・・・。」
「別に金属製でなくてもいいんですけど。」
「いやいや、それだと強度が出ないよ。」
「そうかぁ、僕の村だと魔物の骨を加工してたりしてましたけど。」
「ともかくここにはそれはないんだ、すまんな。」
「また、探しにきます。」
とぼとぼと新米が帰っていく。
その背中にはどこか哀愁が漂っていた。
夕日のせいではないだろう。
「骨、骨ねぇ。」
金属にばかり目が生きそうだが、過去には骨を加工して狩りをしていたそうじゃないか。
っていっても紀元前だっけ?
普通の骨では無理かもしれないが、ここは異世界。
もしかするともしかするかもしれない。
「そうと決まれば店じまいだ。」
「帰るのか?」
「あぁ、調べものしてくる。」
「そうか頑張れよ。ほら、今日の分。」
「助かる。今度バターを多めに頼めるか?女達が菓子を作るんだと。」
「わかった、牛乳と一緒に持ってくる。」
「これ、代金。」
「多いぞ?」
「いいんだよ。」
「さすが大商人は違うな。」
おっちゃんに銀貨10枚渡しておく。
新米が求める装備の倍。
彼らが今みたいに気楽に装備を買えるようになるためにも、ちょいと頑張ってみますかね。




