266.転売屋はキャンプに行く
冬野菜の収穫は無事に終了した。
一回目同様豊作だ。
冬の間に使用した分は備蓄して、残りをギルド協会に卸すことになるだろう。
自分で売ってもいいのだが、それをするならもう少し種類を増やすか量を増やすかしなければならない。
現状の人員ではこれ以上畑を大きくするのは無理だ。
増やせばいいんだが、そうなると別の税金をかけられそうだからなぁ・・・。
やるとしても個人で消費する分の小麦ぐらいか。
小麦ってどれだけ収穫できるんだろうか。
加えてお馴染みの粉にはどうやってするんだ?
風車の力を利用して小麦を挽くのは知ってるけど原理は知らないぞ。
それがこの街にあるとは思えないし・・・。
ま、いいか。
「お泊り会、ですか?」
「今回もしっかり頑張ってくれたからな、ご褒美みたいなものだ。あぁ安全は保障する、場所はここから少し離れた程度だしルフもエリザもいる。魔除けも大量に持って行くから襲われる心配はないだろう。」
「子供達も喜ぶと思いますが、本当によろしいのですか?」
「モニカも働き詰めだろ?たまには気晴らししたらどうだ。」
「・・・そうですよね。」
「出発は今日の昼過ぎ、道具なんかの準備はこっちでするから着替えだけ用意してくれればいい。子供達は仕事に行ってるし、準備を任せて構わないか?」
「はい、お任せください。」
収穫を頑張ったガキどもに何かしてやれないかという話になった時に、天幕を使ったのを思い出した。
近所なのに家じゃない所で寝ると言うだけで楽しかった覚えがある。
何時も頑張っているし、たまにはガキらしいことをしてもいいだろう。
大人達を誘ったが丁重にお断りされてしまった。
昨日の夜たらふく飲んだらしい。
確かにボーナスは出したが・・・。
ま、怒られるのは俺じゃない。
頑張ったのは彼らだしな。
モニカの了承を取った後、冒険者ギルドへと向かう。
「あ、シロウさん準備できてますよ。」
「急に悪かったな。」
「いえいえ、虫干しもしなきゃいけませんでしたし助かります。」
「魔物避けと簡易調理具、それと天幕。これで全部だな。」
「はい。すぐに畑までお届けしますね。」
「何から何まで悪いな。」
「この間のお礼です。」
この間っていうのはおそらく味噌を使った料理の事だろう。
二人とも大喜びしてたもんなぁ。
何はともあれ道具も準備できたので一度店に戻る。
「おかえりなさい。」
「どうだった?」
「モニカも参加するってさ、今ガキ共の荷物を準備している所だ。道具もギルドが畑まで持ってってくれるんだと。」
「後は私達だけね。」
「食材の手配は完了しました、お昼までに畑まで届けてくれます。」
「助かった。道具があっても食材が無きゃ意味ないからな。」
「ご主人様の着替えなどは失礼ながらご用意させて頂きました。あと、寒い事を考えて毛布を多めに準備しています。」
「荷物持ちはいるし大丈夫だろう。」
「誰が荷物持ちよ。」
お前だよ、とは言わなかったがその通りだ。
馬車に荷物を積み込むとはいえ、途中からは徒歩になる。
大人がそれなりにいるとはいえ、一番の力持ちはエリザだからな。
細々とした荷物はガキ共で分担すれば何とかなるだろう。
「酒は少なめにしろよ?」
「わかってるわよ。今回は素面で行くわ。」
「珍しいな、雨でも降るんじゃないか?」
「止めてよね縁起でもない。」
「冗談だって。」
今日の天気は晴れ。
間違いなく晴れだ。
途中から雨が降る可能性もない。
何でかって?
そういう時期だからだよ。
それぞれの荷物を持って昼前に畑へと集合する。
早くもガキ共が集まり、ワイワイと騒いでいた。
「こら、静かにしなさい!」
「だって街の外に行くんでしょ!」
「私街の外なんて初めて!」
「僕も!」
モニカの言葉に耳を貸さずはしゃぎまわる子供達。
元気で何よりだ。
「お待たせ。」
「あ、シロウだ!」
「シロウだ!」
「用意は出来たかガキ共。」
「「「「出来た!」」」」
「よし、それじゃあ出発・・・と言いたい所だがその前に大事な話がある。よく聞けよ、聞いてない奴は問答無用で置いていくぞ。」
置いていく、その言葉にガキ共がピタッと静かになった。
流石に一人だけ置いておかれるのはイヤなんだろう。
よしよし。
「ここから先は魔物の蔓延る場所だ。もちろん俺達やルフが警護しているから問題は無いが、いう事を聞けないのであればその場に置いていく。そうなったらどうなるかは、想像出来るよな?」
コクコクと全員が頷いた。
「いう事を聞けばお楽しみにありつける。はしゃぐときははしゃげ、引き締める時は引き締めろ、話は以上だ。わかったか?」
「「「「「はい!」」」」」
「それじゃあ出発するか。先行は俺とルフ、エリザは殿を頼む。」
「分かったわ。」
「魔物が出た方が面白いかもしれないが、せっかくのキャンプだ。せいぜい楽しもうぜ。」
ニヤリと笑うとルフが一声吠えた。
その声に子供達がびくりと固まる。
これで言う事は聞いてくれるだろう。
多少騒ぐのは問題ないが、何かあった時にパニックになっても困るからな。
馬車と共に街道を進み、途中から草原へと分け入る。
向かうのは例の遺跡があった付近。
あそこなら開けているので色々と準備がしやすい。
もちろん魔法陣の上では寝ないぞ。
何かあったら嫌だからな。
二時間程歩いたところで、目的地に到着した。
「よし、ここで宿泊するぞ。荷物を置いたら天幕の設置だ。自分の寝床は自分で作る、わかったな!」
「「「「「はい!」」」」」
「ミラとアネットは焚火の準備を頼む、エリザは周囲の確認、モニカはガキ共の手伝いをしてやってくれ。俺はルフと一緒に魔除けを設置しに行く。」
「わかりました。」
「お任せください。」
「さぁさぁ、みんな疲れてるけどもうひと頑張りしましょう。終わったら美味しいご飯が待ってますよ。」
パンパンと手を叩いてモニカが子供たちを元気づける。
二時間歩き詰めだったが意外にも元気そうじゃないか。
どれ、俺達ももうひと頑張りしましょうかね。
ここが森なら薪の一つでも拾って帰るんだが、残念ながらここは草原。
薪になりそうなものなど何もない。
四方に魔除けを設置して戻ると天幕の準備が完了していた。
子供達とモニカが焚火を囲んで何かを飲んでいる。
「どうだ、外は怖いか?」
「全然!」
「こんなに歩いたの初めて!」
「外って広いんだね!」
「この世界はもっと広い、大きくなったらそれもわかるだろうさ。それを飲み終わったらその辺走り回ってもいいぞ、但し遠くまでは行くなよ。」
「「「「「は~い。」」」」」
飯までは特にすることがない。
適当に遊ばせた方が寝付きもいいだろうさ。
女達は楽しそうに食事の準備をしている。
こちらも屋外での食事にテンションが上がっているんだろう。
子供達の為と思って企画したが、案外楽しんでもらえているようだ。
夕方までひたすら走り回ったガキ共は、夕食をたらふく食べて早々に眠ってしまった。
お楽しみはこれからだというのに。
焚火を囲みながら女達が楽しそうに話している。
と、その輪からモニカが離れ俺の横に座った。
「今日はありがとうございます。」
「何だ急に。」
「子供達がこんなに目を輝かせているのをはじめてみました。街の中しか知らないあの子たちにとって、とてもいい経験になると思います。」
「二・三年したら街から出ていく奴もいるだろう。その時にビビらなければそれでいいさ。」
「それと、私も嬉しかったです。誰かに誘ってもらうのは、その、初めてだったので。」
「初めて?まさか街から出たことないのか?」
「他所から来ましたので街の外は知っています。でも、こうやって誘ってくれる人は街には居ないので。」
「なら今度は自分から誘う事を覚えるんだな。あいつらもモニカと話すのは楽しいみたいだぞ。」
年齢はモニカの方が下だがそんな事を気にする三人じゃない。
むしろガキ共をよく見ているとほめていたのを前に聞いたことがある。
「折角の機会だ、友人を増やして帰るといい。」
「はい!有難うございます。」
「さてっと、俺もそろそろ寝るかな。」
「え、もう寝ちゃうんですか?」
「なんだもっと話したいのか?」
「エリザ様が夜はこれからだと言っていたので・・・。」
はぁ?
アイツは一体何を言っているんだ?
酒も無いのに酔っぱらったんだろうか。
「何よその顔は。」
「いや、酔っぱらったのかと思ったんだよ。」
「失礼ね。」
「まぁまぁシロウ様、エリザ様なりの照れ隠しです。」
「照れ隠し?」
「ちょっとミラ、止めてよ。」
「実は前々からモニカ様とお話ししたかったそうなんですけど、どう接したらいいかわからなかったそうなんです。」
「アネットも止めてってば!」
エリザが二人の口に手を掛けようとするがきゃあきゃあ言いながらそれを避ける二人。
ガキ共が起きるぞ、静かにしろー。
「だ、そうだ。夜はこれからというのは、お前ともっと話したいって事だよ。」
「わ、私なんかと?」
「ほ、ほら、教会ってあんまりいかないからどんなところか興味あるのよ。」
「それに、モニカ様はシロウ様と仲がよろしいですからその辺の話も聞きたいそうです。」
「仲がいいだなんて、そんな!」
「違うんですか?」
「えっと、どういえばいいのか・・・。」
おいおい、そうやってチラチラこっちを見られても困るんだが。
っていうかその会話に俺がいるのはどう考えても不味いだろう。
気まず過ぎて砂を吐きそうだ。
「そういった話は俺のいない所でやってくれ、俺は先に寝る。」
「あ、逃げた!」
「そりゃ逃げるだろ。あんまり夜更かしするなよ、ルフ見張りよろしくな。」
「ウォフ!」
こういう時は寝るに限る。
ガキ共の為に企画したキャンプだったが、まぁいい方に転んだと考えるとしよう。
あー眠い。
結局夜遅くまで、女達の話は終わらず、気になった俺も微妙に寝不足のまま翌日を迎えるのだった。




