264.転売屋は食べたい味を思い浮かべる
「とうとう手に入れたぞ。」
「ほんとに美味しいの?それ。」
「美味いに決まってるだろ。まぁ、足りないものがいくつかあるが、やっぱりこれが無いとなぁ。」
エリザが茶色いペースト・・・味噌を見て難しい顔をしている。
確かに見た目はあれだが味噌があれば料理の幅が広がるんだぞ。
出汁はシイタケもどき昆布もどきの干物があるのでそこからとれることを確認している。
これに味噌を溶かせばみそ汁の完成だ。
具材は何でもオッケー。
玉ねぎでもキャベツでも大根でも。
にんじんは・・・個人的にはありなんだけどミソスープっぽい外見になるんだよな。
「ふーん。」
「信じてないだろ。」
「私はその醤油の方が好きよ。」
「こっちはもっと汎用性があるからなぁ。これさえあれば何でも食べられる。」
「そこまでの物なのですか?」
「俺の口には必須だな。」
「なるほど、シロウ様の胃袋を掴むには重要なんですね。」
「まぁ今でも掴まれてるけどな。」
俺も含めてプロという程ではないが、それなりに料理は作れる。
どれも美味しいし俺を満たすには十分だ。
「お鍋、美味しかったですね。」
「私は唐揚げが好きだな。」
「私は煮物が。」
「どれも醤油のおかげだ。だが、こうなってくると米が食べたいよなぁ。」
「また変なのが出た。」
変なのっていうなよ。
俺のソウルフードだぞ。
「西方で作られている穀物ですね。」
「東じゃないのか?」
「この前読んだ本には西方と書かれておりました。」
ティナカも西から来たって言ってたなぁ。
漫画なんかではこれ系は全て東方の国から~なんて言われるけど、違うようだ。
でもまぁ、この世界も丸いのであれば西はいずれ東にたどり着く。
朝と夜は交互に来るし、季節も変わるから俺は地動説を押すね。
「ま、あるのならどこでもいい。問題はどうやって手に入れるかだな。」
「やっぱりハーシェさんじゃないですか?」
「頼むとしたらそうなるが、西ってだけじゃなぁ。」
ティナカに頼んだのは醤油と味噌だけだし・・・。
今度来た時にコメも無いか聞いてみるとしよう。
「仕方ないからその『コメ』っていうのを他の連中に聞いてあげるわ。」
「私も取引所で調べてみますね。」
「よろしく頼む。」
「その『コメ』っていうのはどんな食べ物何ですか?」
「どんなって口で言うのは難しいんだが・・・、パンの代わりに主食として食べる小粒の穀物かな。パンは焼くけど米は炊くんだ。他にも蒸したり潰して焼いたり茹でたりと、まぁいろいろできる。」
「へぇ、パンの代わりなのね。」
「唐揚げも鍋も煮物も米があるだけで旨さが倍増するからなぁ。あぁ、米が手に入ったならカレーも食べたい。」
「ほら、また変な食べ物が出た。」
何が変な食べ物か。
カレーは至高の食べ物だぞ。
問題は普段カレールーを使って作っていたから、スパイスの調合とか一切知らない所だな。
ガラムマサラとかあるんだろうか・・・。
わからん。
「エリザ達はこれを食べたい!っていう物とかないのか?」
「えー、そうだあぁ・・・。」
「私はケーキが食べてみたいです。王都ではホワイトストロベリーが乗っている奴が人気だそうですよ。」
「ケーキか、そう言えばあまり見かけないな。」
シフォンとか比較的簡単な奴は見かけるが、生クリームもないわけじゃないし不可能じゃない。
そういえば冬野菜を育てる時にイチゴの話が出なかったなぁ。
種っていうか苗が無いのだろうか。
それかまたダンジョンに生えてるパターン?
「あー、ストロベリー種はねぇ・・・。」
「その反応は魔物関係だな。」
「あたり。そう言えばそろそろ繁殖期ね、手に入れられない事もないけど・・・。ミラの為にはお世話になってるし頑張っちゃおうかな。」
「無理されなくても大丈夫ですよ。ホラーベリーはかなり凶悪な魔物だと聞きます。特に繁殖期は魔物や人間関係なく襲いかかり苗床にしてしまうとか。」
「そ、だからその時期は近づかないのが一番なんだけど・・・。でも今しかホワイトストロベリーは手に入らないのよね。」
「高いのか?」
「高いわ!」
ほぉ、それはいいじゃないか。
危険はかなりありどうだが、その分リターンも多い。
一度一粒一万円なんてのもあり得たんだし、この世界でも十分可能性はある。
問題は痛みやすいって事だな。
「まぁ機会があればお願いしよう。アネットはどうだ?」
「そうですね・・・。あ!お魚が食べたいです。」
「魚なら時々食べてるだろ?」
「川魚じゃなくて海の魚ですよ。」
「海かぁ、ここじゃ確かに難しいわね。」
「海に近い所ならまだしもこれだけ内陸になると・・・せいぜい塩漬けぐらいですよね。」
「そうね。」
海の魚か。
確かにここで手に入るのは川魚かダンジョン産の魚のみ。
でも食べるならやっぱり海の魚だよなぁ。
魚だけじゃなく貝なんかも美味しそうだ。
それこそ醤油を垂らしてアツアツのまま口に・・・。
むう、食べたくなってきた。
「エリザはないのか?」
「食べられたら何でもっていう感じだったからこれと言ってないんだけど・・・、しいて言えばシロウの料理かしら。」
「いつも作ってるだろ?」
「まだ食べた事のない奴に決まってるでしょ。その『コメ』ってやつがあればもっと美味しいのが食べられるって言ってたじゃない。」
「あぁ、最高の食べ物だ。」
「とりあえずその茶色いのを使って何か作ってよ。」
「味噌な。」
百聞は一見に如かず。
どれ、醤油に次ぐ最強の調味料を経験させてやるか。
そうとなれば何が良いだろう。
みそ汁は定番として・・・味噌田楽なんかもありか。
確か大根もどきがあったからそれを使うとしよう。
米のとぎ汁があれば茹でる時にも使えたんだが・・・。
ま、適当にやるか。
「私も興味がありますね。」
「食べたいです!」
「なら今日の夜は和食と行くか。それじゃあミラは畑に行ってホワイトカブラを貰って来てくれ。エリザは肉の調達、ボア種のバラ肉でよろしく。アネットは唐揚げの仕込みを手伝ってくれ、確かキャベジが残ってたよな?あれを千切りにしてくれるとたすかる。」
「「「はい。」」」
ってことで、店も程々に晩飯の仕込みを始めるとしよう。
味噌カツに唐揚げ、味噌田楽、そして味噌汁。
もちろんカツにはキャベツだよな。
これでコメが無いのは許されないが、致し方あるまい。
白いパンで代用するか。
ってな感じで、料理を始めたわけなんだが・・・。
「なんでお前らがここにいるんだよ。」
「いや~、良い匂いがしたので吸い込まれてしまいましたよ。」
「これ全部シロウさんが作ったの?」
「私手伝ったわよ。」
「え、エリザが?」
「なによ、文句ある?」
「べっつに~、どれも美味しそう。」
「どうぞシープ様、ニア様、取り皿です。」
「ありがとうミラさん。」
「じゃあ食うか。」
「「「「いただきま~す。」」」」
夕方。
揚げ物をするとどうしても臭いがすごいので、店の扉を全開にして料理をしていたら羊男とニアが乱入して来た。
まぁそれは構わないんだが、あのまま開けっ放しにしていると他の人まで入ってきそうな雰囲気だったので今は扉を閉めている。
その所為で匂いがすごかったのと、流石にこの人数だとせまいので裏庭でのガーデン?ディナーだ。
全部和食だけどな。
「美味し~!」
「このコク、そして香り。これが醤油ですか。」
「唐揚げはやっぱり美味しいわ。いくらでも食べれちゃう。」
「ほろほろとした食感にこのお味噌ですか?すごくよく合いますね。」
「ボアのお肉を揚げただけなのに、なんでこんなに美味しいんですか?」
よしよし、なかなかに好評なようだ。
我ながらよくできた方だと思う。
料理人でもなければ料理好きというわけでもない。
ただ、自炊をして来たというだけだったのだが、案外作れるものなんだなぁ。
まぁ、この辺もイライザさんやマスターにかかればもっと美味しくしてくれるんだろうけども・・・。
あっという間に料理はなくなり、食後の香茶タイム。
「う~ん、こってりしたものを食べたら甘いものが食べたくなるわね。ニア、ホラーベリーってそろそろ繁殖期よね?」
「例年なら後一か月ってとこかしら。また一区画閉鎖しないとダメね。」
「そんなに繁殖しちゃったの?」
「この間の春は何とかなったけど、去年は規制が間に合わなくて結構被害に遭ったから。」
「被害ってことは・・・。」
「シロウ様、それ以上は考えない方がよろしいかと。」
人間を苗床に成長し、実をつける魔物。
そして、それを食べる人間。
まぁ野生の魔物を食べている時点でその可能性は十分にあり得るわけなんだが・・・。
そうだな考えない方が身のためだ。
「もし手に入ったら高く買ってやる、頑張れよ。」
「売るよりもケーキを作るわよ。ミラが食べたいみたいだし。」
「よろしいのですか?」
「そう言う理由がないと潜らないしね。」
「無理しないでください。」
「もちろん、苗床になる気はさらさらないわ。まぁ準備は必要だからすぐにってわけにはいかないけど。」
どうやら皆の食べたいものが少しずつ満たされていくようだ。
この調子でコメも手に入ればなぁ。
この料理でコメ無しって・・・。
やっぱりきついわ。




