26.転売屋は買い取り禁止を言い渡される。
例の肉に関しては無事に仕込みも終わり、後は熟成次第で何とかなるだろう。
それに加えて譲り受けた不用品の仕分けも無事に終わった。
と言ってもオッサンからもらった分だけなので、リング氏から送られてくる予定の分はまだ到着してすらいない。
何でも結構遠方からアレを探しに来ていたらしい。
戻るのに一か月はかかるという話だ。
ということはだ、戻るのに一か月それから選別だ輸送だとなると遅くても三カ月はかかる計算になるだろう。
ま、忘れた頃にまた連絡があるさ。
ちなみに店の方は権力を使用しても不発に終わった。
だが、相手が相手だけに『もし仮に空き店舗が出た場合は真っ先に連絡をする』という確約を頂けたのでこちらも忘れたころに連絡が来るだろう。
それまでは今まで通りセドリで何とかするしかない。
半年後か一年か・・・。
場所を変えれば環境も変わるので、この街にこだわらなければ店は確保出来るだろう。
それでもこの街に来て一年もたっていない。
根無し草のようにウロウロするよりかはここで居を構えたいと思うのは、年寄りの考えなのだろうか。
「ねぇ、今日はどうするの?」
「毎日それ聞くよな、冒険者ならダンジョンに行けよ。」
「えー、だって昨日も一昨日もダンジョンに潜ったし・・・。今日ぐらいはゆっくりしたいじゃない?」
「ゆっくりって、露店に出たんじゃ休みにならないんじゃないか?」
「そんなことないよ?お金は増えるし、動かない分体を休められるし。」
そういうもんか?
休む時は休む。
それこそ、何もせず一日ぼーっとするぐらいで初めて休みだと思うんだが。
これも年寄りの考え方なのか?
「もぅ、シロウさんってば本当に鈍感ですよね。」
「何だよ藪から棒に。」
「エリザさんはシロウさんと一緒にいたいからそうやって聞いてるんですよ?ねぇエリザさん。」
「ち、違う!私は別にそんな・・・。」
「本人は否定しているぞ?」
「そんなの恥ずかしいからに決まってるじゃないですか!」
恥ずかしいって、下着も裸もっていうか尻のしわの数まで知られている状況で恥ずかしい事なんてあるのか?
あ、ちなみに今のは例えであってしわの数なんて興味ない事を宣言しておく。
「そうなのか?」
「違う・・・とは言えないかもしれない。」
「なんだハッキリしない奴だな。ベッドではあんなにねだって・・・。」
「ワーワーワーワー!」
「んだよ、うるさいな。」
「明るい時間にっていうかこんな所でそんなこと言わないでよ恥ずかしい!」
恥ずかしい恥ずかしいって面倒な奴だなぁ。
それに加えて信じられないという顔で俺を睨むリンカ。
こんな会話、冒険者相手のこの店なら日常茶飯事だろ?
「乳繰り合うなら上に行け上に。」
「いや、そこまで発情してないんで。」
「まぁそうだよな。昨日もあれだけ・・・。」
「ワーワーワーワー!」
「マスターもサイテー!」
「怒られてるぞ?」
「どうやらお子様には早すぎたみたいだな。」
「誰がお子様よ!」
エリザはともかくリンカはどう見てもお子様だろ。
見た目もそうだが中身もな。
ダンのやつさっさと抱いてやればいいものを、見ている方がヤキモキする。
「ともかく!今日はどうするの?」
「今日はホルトの店に不用品を売りに行くつもりだ。だから一緒に来ても儲けは出ないぞ?」
「別にいいわよ。」
「いいわよってつまりどっちなんだ?」
「一緒に行くから!」
そうならそうとハッキリ言えばいいのに。
めんどくさいなぁ。
ともかくそうと決まれば即行動だ。
売れ残りの品々をカートに積んでホルトの店に向かった。(もちろん押すのはエリザだ)
「いらっしゃい、なんやアンタか。」
「せっかく来た客に向かってその態度は無いんじゃないか?」
「別にいいやんか、知らない仲でもないんやし。今日はエリザも一緒かいな。」
「そうよ、悪い?」
「買い物してくれたらうれしいんやけど、外の荷物を見るとそうでもないみたいやね。」
「あぁ、今日も買い取りを頼む。」
「はいはい、んじゃとりあえずここに並べといてや。」
いつもやる気のない態度をとるホルトだが、今日は何時にも増してめんどくさそうな顔をしている。
犬顔なのに。
まぁ、犬は猫よりも表情豊かっていうしそういうもんなんだろう。
エリザと一緒に荷物をカウンターに並べていく。
今回も自前では売れにくそうな品々を選りすぐって持って来てみた。
「ちょいちょい、そんなあるんかいな。」
「あぁ。」
「さすがにその量は無理やで、とりあえずそこまでにしといてや。」
「いつもと変わらないと思うが?」
「いいからそこまでや。査定してくるから大人しゅう待っとき。」
やはり今日は機嫌が悪いようだ。
エリザと顔を見合わせて肩をすくめる。
仕方ない、店内の品を見ながら待つしかないか。
「ねぇねぇシロウ、これ何?」
「ん?」
壁に飾られた高そうな剣をエリザが指さしている。
鑑定するには触らないといけないが・・・、指先ぐらいならいいだろう。
そっと指を伸ばして剣先に触れてみる。
『魔鉱の両手剣、魔石が長い年月かけて鉱物と融合し変化した物。魔法を切り裂くことが出来るが呪われている。最近の平均取引価格は金貨2枚、最安値が金貨1枚、最高値は金貨5枚、最終取引日は1年と170日前と記録されています。』
「魔鉱の剣みたいだが呪われているな。」
「嘘!シロウ大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないか?触ったぐらいで呪われるんならこんな所に飾れないだろうし。」
「そう・・・よね?」
「なんで距離を取るんだよ。」
「別に、何でもないわよ。」
そう言いながらもエリザは離れていく。
一歩近づくと一歩逃げる、それが面白くて気づけば店の中をぐるぐると追いかけまわす格好になった。
「何しとんねん!大人しゅうしとき言うたやろ!」
そんな事をしばらく続けていると、査定を終えたホルトに怒鳴られてしまった。
こんな事で怒られるなんて子供の時以来じゃないか?
「悪かったって、査定は終わったのか?」
「まったく、大の大人が子供みたいに走り回って。何にも壊してへんやろうな。」
「さすがにな。どれだけ吹っ掛けられるかわかったもんじゃない。」
「査定結果を聞く前に言うやんか。」
「おいおい、そんな事で結果を弄るような器の小さい男なのか?」
「アホ言うな、商売に関しては真面目にやるのが信条や。ほな順番に言うで。」
机の上に並べた商品を指さしながらホルトが買い取り品の説明を始める。
「これは魔除けのオーブやな。持ってるだけで魔物が寄ってこない優れものやけど、魔物を相手にする冒険者には無意味な代物や。せやけど街道を行き来するよう人には必須のもんやから、銀貨50枚ってとこや。」
「安すぎないか?」
「よう見てみ、奥がくすんできてるやろ?これは効果が切れて来てる証拠やで。」
「だからその値段か。わかった、続けてくれ。」
そういう理由なら仕方がない。
俺も冒険者相手には売れにくいから持ってきたんだし、値段さえつけば正直構わない。
「ほんでこっちは生活魔法の魔導書やわ。」
「魔法が覚えられるのか?」
「そんなことあらへん、ただの教科書やな。生活魔法なんて非効率的なもの使うぐらいなら自分で掃除した方が早いから使う人なんておらへんよ。でも学者連中が欲しがるかもしれんから銀貨30枚なら買うたる。」
「わかった。」
異世界でおなじみの魔法が使えるようになるのかと思ったが・・・、そう上手くはいかないらしい。
「次はこれやけど・・・。なんでこんなもん持ってるんや?」
「出所は聞かない約束だろ?」
「せやけどこれは奴隷商人しか手に入れられへん代物やで?」
そう言いながら指でくるくると首輪を回しだした。
犬顔で首輪を持っている姿を見ていると昔飼っていた犬を思い出すな。
散歩に行きたくなると自分でハーネスを咥えて持って来たっけ。
『戒めの首輪。これを着けられた者は着けた者に反抗すると首輪が締まり失神させられる。主に奴隷の管理を目的として製造された品。最近の平均取引価格は銀貨50枚、最安値が銀貨30枚、最高値銀貨88枚、最終取引日は29日前と記録されています。』
「蛇の道は蛇ってやつさ。」
「まぁええけどな、出所がわからへん品なんて世の中になんぼでもあるし。これに関しては色んな所で使えるから金貨1枚で買わせてもらいます。」
「随分高いんだな。」
「言ったやろ、色んな所で使えるて。」
そう言いながらホルトがにやりと笑う。
笑うと犬歯が見えるので何とも不気味な感じだな。
「後は使い道のあんま無い奴ばかりやから金貨1枚なら買うたりますわ。」
「・・・まぁいいか。」
「交渉成立やな、持ってくるから今度こそ大人しく待っとくんやで。」
しっかりとくぎを刺されてしまったので大人しく待つしかないな。
と言っても金を取りに行っただけだからすぐに戻って来たけど。
「ほな、金貨2枚と銀貨80枚や。」
「確かに。それじゃ残りのやつも・・・。」
金を受け取り残りを査定してもらうとしたその時だった。
「それなんやけどな、うちではもうアンタとの取引を遠慮させてもらいますわ。」
「・・なんだって?」
「言うた通りやこれ以降アンタから商品を買い取るのは止めさせてもらいます。」
さっきまでの気の抜けた感じ、ではなくかなり真剣な目で俺を見てくる。
「理由は?」
「わかるやろ、アンタは商品を持ち込み過ぎたんや。」
「つまり品を捌けないから他所に行けって言うんだな?何でも買い取るホルトの店の名が泣いてるぞ。」
「好きに言いなはれ、とにかくウチではもう買わんから買い取って欲しいんやったらベルナの店にでも持ち込むんでんな。」
それだけ言うと早く帰れと言う感じでシッシと追い払われてしまった。
これ以上は何を言っても無理そうだな。
何か言いたそうにしているエリザを抑えて一度店の外に出る。
外のカートにはまだ半分品が残っているわけだが・・・。
「なによなによ、前までは何でも買い取るって言ってたくせに!」
「まぁ落ち着け、向こうも噂になると覚悟して言ってきてるんだ。予定外ではあるが、気持ちはわかる。」
「何で?シロウは悔しくないの?」
「だいぶ不用品を押し付けてきたからな、流石に金銭的に苦しくなってきたんじゃないか?」
「私達からあれだけ搾り取ってるのに?」
「それ以上の金を吐き出させてきたからな、潮時だったんだろう。」
これまでにかなりの金額を買取させて来たし、ここいらが限界なんだろう。
しかし困ったな。
残りをベルナの店にもっていけば今回は何とかなるかもしれないが、これからの扱いに困る。
特に二カ月先に大量の品が送られてくることは確定しているんだし、それを処理できないと面倒なことになるぞ。
「どうするの?」
「とりあえず今回はベルナの店にお願いするよ。この先の事は・・・おいおい考えるさ。」
「大丈夫だって、シロウならなんとかするでしょ。」
「随分簡単に言うんだな。」
「だって今までもそうだったもん。」
今までは運が良かっただけ、で終わらせるわけにはいかなくなってきた。
目標まではまだまだ金が要る。
その為にも次の一手を考える必要が出てきたという事だろう。
「とりあえず行くか。」
「うん!」
何はともあれ、今は持ってきた品をどうにかしなければならない。
そう気持ちを切り替えるとカートを引いて(引かせて?)目の前のベルナの店に足を向けるのだった。




