表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/1767

258.転売屋は新米冒険者にストーカーされる

「おっはようございま~す。」


「・・・また来たのか。」


「だって、ここは買取屋さんですよね?」


「そうだが、普通は纏めて持ってくるよな?」


「私新人ですよ?そんなにすぐ魔物を倒せるわけないじゃないですか。」


あははと笑いながらカウンターに突っ込んでくるキャンディー(ヤバイ女)


先日のギルドでの講習以降、毎日のように店に来ては少量の素材を置いていく。


どれもせいぜい銅貨5枚とか10枚程度の品だが、客としてきている以上断る事も出来ない。


「で、今日は何を持ってきた?」


「え~、もっとお話ししてからでいいじゃないですか。」


「俺も色々と忙しいんだよ。」


「朝一番なのに?」


「朝だろうが昼だろうが関係ない、さっさと品物を出せ。」


「は~い。」


ヤル気の無い返事をしながら素材を取り出す。


今日は三つ。


前に一個だけ持ってきたのに文句を言ったのを覚えていたようだ。


『コボレートの短剣。コボレートの使う短剣は切れ味が鈍く実際に物を切り裂くのには不向きである。刃こぼれしている。最近の平均取引価格は銅貨5枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨7枚。最終取引日は昨日と記録されています。』


『鉄鉱石。鉄成分を多く含んだ石の塊。精製すると鉄を取り出すことが出来る。最近の平均取引価格は銅貨10枚、最安値銅貨6枚、最高値銅貨12枚。最終取引日は昨日と記録されています。』


『銅の短剣。初心者向けの剣、軽く使いやすいが強度は無い。最近の平均取引価格は銅貨15枚、最安値銅貨10枚、最高値銅貨21枚。最終取引日は昨日と記録されています。』


今日はまだまともか。


ひどい時なんてそこらに落ちてそうな石を持ってくるからなぁ。


一応鑑定はするが、正直めんどくさい。


「全部で銅貨11枚だな。」


「え、そんなに!」


「はいよ、銅貨11枚だ。他に何かあるか?」


「もうな~い。」


「ならさっさと出ていけ、言っただろ俺は忙しいんだ。」


「今日はこの後ルフの散歩に行って露店ですよね?」


「・・・どうだかな。」


図星だった。


スケジュールは固定していないつもりなんだが、どうしてわかったんだろうか。


気味が悪い。


「えへへ、それじゃあまた!」


俺の刺すような視線にニコリとほほ笑んでストーカー女(キャンディ)は店を出て行った。


「帰った?」


「あぁ、開店一番乗りだよ。」


「知ってる?二時間前から並んでるんだよ。」


「マジかよ。」


「マジもマジ、大マジよ。夜明け前から店の前に立って上を見上げている姿を目撃されてるもの。」


「勘弁してくれよ。」


「一応ギルドを通じて抗議してもらっていますが、お客でもありますのであまり強く言えないのが現状です。」


彼女が出て行ったのを確認して女達が後ろから顔を出す。


最初はミラに対応を任せたのだが、一向に会話が始まらずそれでいて帰ろうとしないので仕方なく相手をすることにしている。


「ここ一週間毎日ですもんね。」


「初日からヤバい奴だとは思っていたがここまでとは思わなかった。」


「絶対露店にも来るわよ。」


「わかってるよ。とはいえ露店を出さなきゃ商品は売れないんだし、店に居ても来るなら外の方がまだましだ。」


「大丈夫ですかご主人様。」


「大丈夫なのかはわからんが、とりあえずはな。何かしてくるわけじゃないし。」


実害がないから面倒なんだよなぁ。


まさか俺がストーカーされる日が来るとは。


俺はただの買取屋で、特に特殊なスキルとかは無いんだけど・・・、向こうはそう思ってないんだよなぁ。


めんどくさい。


とりあえず露店の準備をして、店を出る。


「おはようおっちゃんおばちゃん。」


「おはようさん。」


「調子はどうだい?」


「いいのか悪いのか何とも言えないな。」


「それはあの子のせいだね?」


そう言いながらおばちゃんがチラっと露店の奥を見る。


そこにいたのは先ほど買い取りを終えたばかりのストーカー女だ。


ルフの散歩をエリザに任せたというのに・・・。


先回りされるのはいい気分じゃないなぁ。


「あー、どのぐらい前から居る?」


「ほんの30分ほど前かねぇ。」


「特に何をするわけではないから放っておいてくれ。」


「あんまりしつこいなら警備に言えよ。」


「俺が気にしなければいいだけの話だからな。さ、仕事仕事っと。」


そう、ようは気の持ち様なわけだ。


気にしなければ特に害はない。


なので、極力視界に入れず考えないように仕事をすればいい。


装備を並べてっと。


はい、準備完了。


しばらくすると馴染みの冒険者がやって来て装備を二つほど買っていった。


どうやら当たりを引いたらしい。


「それにしてもシロウさんも大変っすね。」


「何がだ?」


「例の新米ですよ。」


「なんだよ、そんなに噂になってるのか?」


「そりゃあ、なりますって。講習会場であんなこと言うだけじゃなく毎日足しげく通ってるそうじゃないですか。ぶっちゃけどうなんですか?」


「どうもこうもねぇよ。俺の好みならともかくそうじゃない相手に好意を寄せられても迷惑でしかない。」


「うらやましいっすねぇ。」


「なら俺と替わるか?」


「冗談ですって。じゃあまた!」


ったく、俺の気も知らないで。


出来るだけ意識しないようにしていたが、今みたいな話をするとどうしても気になってしまう。


彼女の方を見ると最初と変わらず同じ場所でずっとこちらを見ているようだ。


トイレとか大丈夫なんだろうか。


「気にするなって。」


「まぁわかってるんだが、ついな。」


「危害がないとはいえあぁ言うのは好きじゃないねぇ。」


「じきに俺が何でもないただの買取屋だってわかるだろう。そうすれば飽きるさ。」


「何でもない買取屋、ちょいと無理がないか?」


「なんでだよ。」


「やってることが多すぎるんだよ。まったく、どれだけ手広くやれば気が済むんだい?」


それとこれとは話が違うと思うんだがなぁ。


彼女はエリザのようなすごい冒険者を俺の女扱いしている理由を知りたいだけのはずだ。


仕事内容は関係ない・・・はずだ。


「まぁ無理するんじゃないよ。」


「そうだな。」


「いざとなったら俺達がいるんだ、遠慮なく言え。」


「チーズを持って追いかけるのか?」


「そんな所だ。」


それはそれで見てみたい気がする。


その後もちょくちょく冒険者が店に来てくれたので、比較的意識することなく仕事を終えることが出来た。


荷物を纏める時にもう一度確認するとさっきの場所にはいなかったし。


流石に飽きたんだろう。


ヤレヤレと胸をなでおろし、店に戻る。


その途中にも彼女が出てくることはなかった。


「ただいま。」


「お帰りなさいませ、いかがでしたか?」


「今日はそれなりに売れたな。」


「それは何よりです。彼女の方は?」


「昼まではいたが帰りに姿は見えなかった、流石にもう飽きたんだろう。」


「だといいんだけど。」


まったく、変なこと言いやがって。


それじゃあまるでもう一回来るみたいな言い方じゃないか。


「俺は荷物を片付けるから清算しておいてくれるか?終わったら久々に飯に行こう。」


「いいわね。」


「どこに行かれます?」


「久々にマスターの店にするか、あそこは初心者には敷居が高いからな。」


大丈夫だろうと言いながらもやっぱり気になる。


なので極力出没しなさそうな店を選んでしまうわけだ。


これもストーカー被害の弊害だろう。


何も気にせず店を選べるようになるのは何時になるのやら。


荷物を倉庫にぶち込み、今日の報告を受ける。


こちらもそれなりに買い取りがあったようだ。


初心者が増えたので低価格素材の買取が多いな。


あまりうちばかりで買い取ってもまた問題になるし、一度現状をギルドにも報告しておいた方がいいだろう。


「よし、いくか!」


「は~い。」


「鍵閉めオッケーです。」


「火の元も大丈夫でした。」


ならば結構!


店を出てついつい周りを見てしまうが誰もいない。


「ご安心くださいシロウ様。」


「そうよ、何かあったらガツンと言ってやるから。」


「頼りにしてるよ。」


ついこの間までは真っ暗だったのに、まだ遠くの方にうっすらと光りが見える程度には明るくなってきた。


とはいえ、まだまだ夜は冷える。


四人でくっつくように歩きながらマスターの店へと急いだ。


「やっと着いた!」


「何だお前等か。」


「何だとは何だよ、客としてきたのに。」


「そいつは失礼した、奥が空いてるから適当にくつろいでくれ。」


「はいよ。」


見た感じあの女はいないようだ。


一番奥の席に陣取ると、俺を囲うように女達が陣取る。


「さて、何にするかな。」


「お肉食べよ~っと。」


「お前は何時も肉だな。」


「違うわよ!イライザさんの店に行ったらお鍋だもの。」


「肉鍋な。」


「ここはサラダの種類が多いのがうれしいですね。」


「春になって種類も増えたな、俺にも一口くれ。」


肉ばかりだと口が飽きる。


最近はサラダもお気に入りだ。


後は適当にオーダーをして料理の到着を待つ。


と、その時だった。


カランとベルが響き、新しい客が入ってきたようだ。


「シロウしゃがんで。」


と、同時にエリザの鋭い声が飛ぶ。


慌てて机に突っ伏して身を隠した。


「いらっしゃい、宿泊か?」


「いえ・・・何でもないです。」


「安宿なら奥に行け、ここはお前にはまだ敷居が高い。」


「は~い。」


奴だ。


奴が現れた。


俺には見えないがエリザが睨むようにして入り口の方を見ている。


「もういいわよ。」


それからすぐにいつもの表情に戻った。


「まさかここにも来るとは・・・。」


「でもすぐに帰られましたね。」


「エリザに気づいたなら外にもいるかもな。」


「どうかな、私一人でも良く来るし帰ったかもよ。」


まったく、おちおち飯も食えやしない。


久々のマスターの料理だというのに、あまり美味しく感じないのが悔しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「それにしてもシロウさんも大変っすね。」 「何がだ?」 「例の新米ですよ。」 ↑ 普通にスルーしてしまってたのですが、米がまだ街に流通してない場所でも『新米』って言い回しをするの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ