235.転売屋は遺跡発掘を手伝う
「安いよ安いよ!硬化の効果付きスコップが銀貨5枚、銀貨5枚だよ!」
「探索用の防塵マスク、銀貨3枚だ。中は何があるかわからない死にたくなきゃ買っていきな!」
「え~探索には携帯食料水、そして当店自慢の持続薬。マンドラゴラ入りで銀貨1枚、銀貨1枚の大特価。疲れちゃ発掘できないよ、長持ちしなきゃ男が廃るってもんだ。」
露店は還年祭を上回るお祭り騒ぎだ。
硬化の効果付きとか何の駄洒落だよとか思っていたが、あっという間に売れてしまった。
一応鑑定してみたが本当に効果が付与されている。
俺が知らないだけで付与のワザがあるんだろうか。
「すっごいわねぇ。」
「あぁ、大賑わいだ。」
「みて、持続薬がまた売れてる。」
「どこの薬師から仕入れたか知らないが商売仇も良い所だな。」
「でも高いわよ。」
「今アネットが仕込みの最中だ、明日にはあの半値で世に出回るだろう。今日まで好きにさせてやれ。」
遺跡が見つかってから三日。
噂は瞬く間に広がり、翌日には目当ての冒険者や商人、素性のよろしくない連中がこぞって街に押し寄せてきた。
幸いにも遺跡内部には今の所魔物は出てこないらしい。
なので一般人がこぞって内部の発掘?盗掘?をしていた。
普通管理とかするもんじゃないのか?
「別に保全とかする必要ないし、みんな適当に掘って崩落する危険はわかってるだろうから無茶はしないわよ。財宝は見つけた人の物ってのが基本だからね。中に凶悪な魔物とかが出るようなら管理しないといけないし、そうじゃないのならするだけ無駄なの。」
「なるほどねぇ。」
「あ~あ、魔物が出れば私達の独壇場なのに。早く出てこないかな。」
「馬鹿言え、今出たら大惨事になるだろ。それに、活気があるって事は街にとってはいい事だ。」
「その通りです。シロウ様の仕込みも良く売れております。」
俺も冒険者向けの装備が売れることを期待したが、そっちは今まで通りダンジョンで売れるので別の物で儲けることにした。
狙うは絶対に使う物。
そう、食べ物だ。
何をするにしても喉は乾くし腹は減る。
特に発掘なんて体力勝負ならなおさらだ。
そこにこの間買った干しモイとおっちゃんのチーズと干し肉、加えておばちゃんの簡易水筒が火を噴いてあれよあれよという間に町一番の人気商品へと駆け上がった。
明日はここにアネットお手製の持続用の丸薬が加わる予定だ。
代金はセットで銀貨1枚。
本当は銀貨1.5枚としたいところだが薄利多売で行くことにした。
俺ばっかりが儲かっても意味ないし、なにより継続して売れなければならない。
そこを考えれば銀貨1枚がなんとかといった所だろう。
アネットの薬を入れてもせいぜい銀貨1.5枚が限界だ。
何も出土しなければ赤字、何か出たら黒字。
今の所大当たりは出てないようだが、小当たりはそこそこ出ているとベルナがほくほく顔で言っていた。
発掘された品は貴族が好んで買っていくらしい。
最初に見つかった祭器からそれ系の遺跡だと思われていたが、ふたを開けると住居もしくは兵舎に使われていた建物の跡ってのが今の推測だ。
入り口は地下に埋まっていたが、そこを通り抜けると蟻の巣のように広い空間があり、そこをたくさんの人が出入りしている。
地上にむき出しになった石の門。
その奥にはとてつもなく広い空間。
ダンジョンみたいに別の場所とつながっているのかと思ったがそうでもないらしい。
その辺はよくわからん。
まぁ、わからなくても商売は出来るし問題ない。
「あの、ご主人様お店に戻らなくてもよろしいのですか?」
「あぁ、今は戻るべきじゃない。」
「どうして?」
「安物で倉庫をいっぱいにしたくないんだよ。珍しい物、貴重なものは大抵奥にしまってあるもんだ。今はまだ遺跡の入り口だろ?出てくるのはさほど貴重な物じゃない・・・はずだ。」
「確かに貴重ではないかもしれますが、それなりの値段は付くのではないでしょうか。」
「値段は付くだろうがそれがいつ売れるかがわからない。新しい倉庫があるとはいえ、何でもかんでも買い取るのはなぁ。買取屋を謳っているだけに買い取らないわけにもいかないし、ここは居留守を使うのが一番だよ。」
店は現在休業中。
理由は先ほど述べた通りだ。
表向きは行商に出ているという事になっており、俺とミラだけ三日月亭で寝泊まりしている。
店主不在の為買取できませんと言えばどうとでも言い訳がつく。
エリザとアネットには申し訳ないが、しばらくはミラと水入らずだ。
「いいなぁミラ。」
「戻りましたら交代いたしますので。」
「私も二人っきりでお出かけしたい。」
「ダンジョンは勘弁してくれ。」
「それ以外でも構わないから。ねぇシロウどこか行こうよ。」
「どこかって言ってもなぁ・・・。」
どこに行けばいいんだろうか。
「とりあえずあと二日は様子見だ、それまでは我慢してくれ。」
「あの、私もいいですか?」
「アネットも?別に構わないが・・・。」
「ビアンカの所に行くだけでいいので。」
「それぐらいなら問題ない。」
「えへへ、ご主人様とデートだ。」
ふむ、そういう認識なのか。
別に俺は構わないけどな。
「お、兄ちゃん来たか。」
「おっちゃん無理言って悪かったな。」
「いや、まとめて買ってもらえる方がこっちも調整がしやすい。礼を言うのはこっちの方だ。」
「こっちももうすぐ完売か、大儲けだな。」
「大儲けって程じゃないが・・・、売れるのはいい事だ。」
見ると保存食系は残り僅か。
毎日早い時間に売り切れているのでそれなりに儲けが出ているだろう。
俺の分は別口で毎朝三日月亭へと届けてもらっている。
「何が大儲けだ、こっちは商売あがったりだよ。」
「おばちゃんの所はなぁ・・・。」
「でもシロウ様が簡易水筒を買い付けたじゃありませんか。」
「それだけじゃ儲けにならないよ、あと二つぐらい買い占めてくれるとありがたいんだけどねぇ。」
「せめてあと一品目です、そうでないとこちらの利益が出ません。」
「実の母親に厳しいねぇ。」
「私は今シロウ様の奴隷ですから。」
こんな所で親子喧嘩は止めてもらえるだろうか。
確かにおっちゃんの店だけ儲かっておばちゃんの店が儲からないのは俺としても気になる所だ。
かといってこれ以上何かをつけるとミラの言う通り利益がなぁ。
薬を入れるからそれに合わせて値上げをするとして・・・。
ん?
「おばちゃんこれは?」
ふと小さな革袋が目に留まった。
『ビッガマウスの頬袋。伸縮性の強いビッガマウスの革は多少鋭利なものを入れても破れることは無い。最近の平均取引価格は銅貨30枚、最安値銅貨20枚、最高値銅貨35枚。最終取引日は5日前と記録されています。』
へぇデカイ頬袋か。
大きさはこぶし大ぐらい。
でもエコバックのように広げると1mぐらいにまでなるようだ。
さらに鋭利な物にも強いらしい。
これ、使えるんじゃね?
「この間仕入れた魔物の頬袋だよ。荷物を入れるのにちょうどいいと思ってね、ちゃんと洗浄と浄化してあるから使用には問題ないはずさ。」
「面白いな、いくつある?」
「そうさねぇ、今手元にあるのが100、仕入れ総数は300って所だね。」
「じゃあそれ全部買うわ、一つ銅貨15枚でどうかな。」
「馬鹿言いな、銅貨20枚だよ。」
「まぁ、そんなもんか。ミラ、銀貨60枚払ってくれ。」
「かしこまりました。」
まぁおばちゃんの頼みだし、多少の利益圧縮は致し方ない。
今回ので需要を確認して、意外に人気ならギルドで買い付けるとしよう。
「ビッガマウスかぁ・・・ダンジョンにはいないのよね。」
「そうなのか?」
「主に砂漠とか乾燥地帯に出る魔物なの。見た目と違って大きな口で噛みついてくるから結構怖いわよ。」
「遭遇したくないなぁ。」
「この辺じゃ出ないから大丈夫だって。」
ならいいんだけど。
散歩してていきなり襲われるとか勘弁してほしい。
「相変わらず気持ちのいい買い方するなぁ。」
「まぁこの短い間だけだし、余っても何かに使えるだろ。」
「三日月亭に持ち込めばいいのかい?」
「あぁ、朝一で持ってきてくれたら後は奥様連中が仕分けしてくれる。」
「主婦の小遣い稼ぎも担ってるとか、兄ちゃん様々だな。」
「安い賃金でも働いてくれるからお礼を言うのはこっちのほうだけどな。空いた時間で別の事が出来るし。」
リンカに手配してもらった奥様方に持ってきてもらった品々を詰めてもらい、セット販売する。
販売はさすがに俺達がするけれど準備の時間がかからないので仕事が楽だ。
それもあと二日だけどな。
「じゃ、また明日もよろしく。」
「おう、またな。」
「気を付けて帰れよ。」
仕入れもしたし、今日はもう帰るだけ。
「じゃあ二人ともまた明日。」
「はい、薬は朝一で持ち込みますので。」
「こっちは任せといて。」
「皆様宜しくお願いします。」
二人と別れミラと手をつないで三日月亭へと戻る。
それから二日間夫婦のような生活を送り店に戻ったのだが・・・。
「ミラ、近い。」
「気のせいです。」
前よりもべったりしてくるようになったのは、致し方ないのだろう。




