222.転売屋は王家とつながりを持つ
「お待たせして申し訳ありません。」
「頼んだのはこちらだからな、大丈夫だ。」
「ではこちらは手続きを進めてまいりますので、シロウ様後はよろしくお願い致します。」
「え?」
戻って来て早々レイブさんが部屋を出て行ってしまった。
まさかの孤立無援。
前にはこの国の長とその息子。
なぜ俺はここに居るんだろうか。
そうだ、マスター!っていないし。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。こちらが当店にありました願いの小石です。」
「いくつありましたか?」
「全部で62個ございました。」
「か、かなりの量ですね。」
「ダンジョン内で見つかりますので、この街ではこのぐらいかと。」
「なるほど、ダンジョンで発見されていたのですか。どうりで流通しないわけだ。」
という事は王都などではなかなか手に入らないという事か。
良い事を聞いたぞ。
「ロバート様はいくつお持ちなのですか?」
「今はまだ17個です。」
「全部で79個ですか、もう少しですね。」
「こちらではなかなか手に入りませんから、集まるのはいつになるのやら。」
「ロバートよ、これをすべて買うのか?」
「予定よりも安く買えたので予算はあります。」
「そうか・・・。私は信じていないが、それでお前の願いが叶うのであれば安いかもしれんな。」
ふむ、何かわけありのようだ。
100個集まると願いが叶う不思議な石。
そう言う逸話、そして鑑定結果が出るという事は嘘ではないのだろう。
しかしなぁ、ぶっちゃけ安すぎるんだよ。
一つ銀貨30枚として、総額金貨30枚程度。
それで願いが叶うのならば皆集めるのではないだろうか。
簡単な願いしか叶わないのかもしれないな。
そうじゃないとこの値段で取引されないだろう。
「ではシロウさん、すべて譲ってもらえますね?」
「えぇ、そのために持って参りましたから。全てお納めください。」
「値段はどうしましょうか。」
「言い値で結構ですよ。」
「え?」
「エドワード陛下とは良い取引をさせていただきました。そのお礼です。」
「太っ腹だなシロウ、益々気に入ったぞ。」
いや、気に入られても・・・。
っていうか王都の相場が分からない以上下手な値段を言えなかったってのが本音だ。
それに高値で買ってもらったのは間違いない。
なのでどんな値段であれ十分元は取れている。
もちろん高値で買ってもらえる分にはありがたいが、どれどうするのかな。
「では・・・。」
ロバート王子が難しい顔をして値段を考えている。
あぁ、早く用事を済ませて帰りたい。
「金貨20枚でいかがでしょうか。」
「畏まりました。」
「即答か。」
「えぇ、言い値で結構ですと申した通りです。」
「王都では一つ銀貨50枚で取引されている、普通に買えば金貨31枚ほどだろう、格安だぞ?」
「それ以上の金額を貰っていますので。」
嘘は言っていない。
この街での相場は高くても銀貨30枚。
普通に買い取っても金貨19枚だ。
それを金貨20枚で買ってくれている時点で損はない。
「リングさんから話には聞いていましたが・・・、本当に即決するんですね。」
「ロバート様もリング様の事を?」
「えぇ、色々と縁がありましてね。」
「そうですか。」
「では、金貨20枚確認してください。」
「・・・確かに。」
「王都で集めるよりもこちらで集めたほうが早く集まりそうですね、次回は一つ銀貨50枚で買わせていただきます。20個集まりましたら私宛に送ってくださいますか?」
「ロバート様宛・・・ただの商人である私の荷物など受け取ってもらえるのでしょうか。」
「リングさんの紋章で封をしてもらえれば分かります。」
なるほど、その手があったか。
何時になるかはわからないが、忘れないようにしないとな。
いつもは適当に倉庫に突っ込んでるからなぁ・・・。
ミラに伝えておこう。
「ではそのように致します。連日のお取引をしていただきありがとうございました。」
「こちらこそいい取引が出来ました。」
そういいながらロバート王子が手を差し出してきた。
え、握手しろと?
ボディチェックもしていないのに何か隠し持っていたらどうするつもりなんだろうか。
まぁ、無いけどさぁ。
ここで反応しないわけにもいかないので俺も反対の手を差し出し握手を交わす。
「シロウさんはおいくつですか?」
「もうすぐ21になります。」
「そんなに若いのか。」
「私よりも年下でありながらこの度胸と商才、感服します。」
「もったいないお言葉ありがとうございます。」
「どうでしょう、年も近いですしこれからは友人として接していただけませんか?」
「私とロバート様が?そんな、恐れ多い話です。」
「何分王城で生活していると貴方のような人と出会う事はできません、もちろん便宜を図れと言っているわけでもありませんよ。ただ、友人になっていただければ・・・。」
俺が王子と友人に?
何の冗談だ?
確かに年は近いかもしれないが縁もゆかりもないんだぞ?
とはいえここでそれを無下にすると色々と面倒な事になりそうだし・・・。
つまり退路は立たれているという事か。
「私のようなものでよろしければ・・・。」
「では私はシロウと呼ばせてもらいます。シロウは私の事をロバートと呼んでください。」
「さすがに呼び捨ては、ですのでロバートさんと呼ばせていただきます。私の方が年下ですしね。」
「そうですね、ではそれで。」
「よろしくお願いします、ロバートさん。」
お互いにもう一度握手を交わしながら笑顔を浮かべる。
だが心臓は早鐘のようになり続けていた。
あぁ、早く終わってほしい。
「ロバートに友人が、父としてこれほど喜ばしいことは無いぞ。シロウこれからよろしく頼む。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「お待たせいたしました、手続きが完了いたしましたので・・・。おや、皆さん良い笑顔ですが何かありましたか?」
「友人といい取引をさせていただいた所です。」
「それはよかった。後は首輪への登録と譲渡の書類にサインをお願いします。」
「では私はこれで、レイブさんまた明日お伺いします。」
話をしたい所だが今日はもう無理だろう。
三人に改めて頭を下げてレイブさんの店を出る。
あぁ、疲れた。
店の中から見られている可能性もあるので、大通りはシャキシャキと歩き見えなくなってから脱力した。
このまま帰ってもいいが一杯やらないとやってられない。
あー、でもマスターの店は休みなんだっけ。
イライザさんの店にするか。
あ、でもこの時間からやってたかな。
うーむ・・・。
「あれ、シロウどうしたのこんな所で。」
「エリザか、いやぁ疲れたよ。」
「レイブさんの所に行っただけでしょ?」
「色々あったんだよ。」
「あっそ。」
「興味なさそうだな。」
「だって、置いて行っちゃうんだもの。」
冒険者ギルドに置いて行ったのを怒っているらしい。
はぁ、こっちの相手もしなければならないのか。
でもあの二人に比べれば気負いしなくていい分楽だな。
「悪かったって、今からイライザさんの店に行って一杯やるが一緒に来るだろ?」
「え、行く!」
「それで勘弁してくれ。」
「仕方ないわね、それで許してあげる。」
エリザが腕を絡め、ピタッとくっついてくる。
「どうしたんだよ。」
「ううん、あの時シロウに助けてもらう前の事を思い出してたの。」
「あぁ、自分を売る前な。」
「今のビアンカはあの時と一緒なのよね、やるだけのことはやった。でも、足りない、そんな感じ。私の時はシロウがなんとかしてくれたけど、今回はそうじゃないもの。」
あの時は自分を売る覚悟までしていたからこそ俺はエリザを買ったんだ。
しかし今のビアンカは・・・。
「で、その時と同じなのか?」
「仲間内に体を売る冒険者もいるけど、そこまで落ちぶれていないわ。でも、覚悟はしているみたい。」
「なんの?」
「売られる覚悟よ。」
ふむ、余裕が無くなりそして達観し始めたか。
「そうか、わかった。」
「でも助けないんでしょ?」
「そうだな、やっと覚悟したみたいだが前も言ったようにこの街に錬金術師は四人もいらない。いくら金があっても金を生まないやつを買う必要はないさ。それに、家も狭くなる。」
「確かにそうかも。今より増えちゃったらアネットの部屋が半分になっちゃうもんね。」
三階はアネットの職場兼自室になっている。
全て使用しているのでそれなりの広さだから一人ぐらいは増やせるかもしれないが、狭くなることに変わりはない。
「と、いう事だ。」
「そっか、シロウが決めたのなら私は何も言わないわ。アネットもわかっていると思う。」
「あぁ、悪かったな嫌なことを思い出させて。」
「ううん、そのおかげでシロウがいるんだもの。」
「さぁ、凍える前にイライザさんの店に行くか。二人のお土産も用意しないとな。」
「あはは、そうね。」
エリザの笑い声が冬の空に響く。
さぁどうしたもんか。
どれだけ年をとってもお節介とお人好し、それは変わらないんだなと思った。




