220.転売屋は国王陛下に遭遇する
いやいや、金貨500枚て。
冗談もほどほどにしなさい。
そう言いたくなるような金額だった。
司会者もよく理解できずその声に反応することが出来ない。
「おい、入札したぞ。」
「ハッ!さ、30番様金貨500枚、金貨500枚です!この日一番の入札となりました、他、他の方はおられますか!?」
さすがプロの司会者、一瞬で我に返り何とかいつものパフォーマンスを再開する。
それから何度も声をかけるがもちろん誰も手を上げるはずがない。
上げられるわけがない。
金貨500枚なんて金額、ふつうは出せるはずがない。
当の本人はドヤ顔でふんぞり返っている。
あー、うん。
満足そうですね。
本人がいいならそれでいいです。
俺は大金をゲットできてホッカホカ、向こうはどや顔で落札出来てニッコニコ。
両者win-winの関係ってやつですよ。
「おられませんね、それでは金貨500枚にて30番様落札です。おめでとうございます!」
割れんばかりの拍手が会場中に響き渡った。
その拍手に国王陛下が手を上げて応える。
いやー、すごいなぁ。
さすが金持ちは違うね。
それもそうだ、俺達の納めた税金は最終的にあそこに行くんだから。
俺一人で金貨200枚。
この国にどれだけの人が居てどれだけのお金が動いているとか全然知らないし興味ないけど、最終到着地点はあそこだ。
毎度有難うございます。
「今年最高金額、金貨500枚の落札で今オークションは終了いたします。次回は16月、また次回お会い致しましょう。もう一度30番様に盛大な拍手をお願い致します!」
これにてオークションは終了。
まさかまさかの金額で落札されたおかげで大儲けできたなぁ。
ノワールエッグが金貨500枚、オリハルコンが金貨300枚。
手数料がそれぞれ1%だから金貨8枚。
普通に考えて手数料で金貨8枚って思うけど、差し引きして金貨792枚儲かるんだから微々たるものだ。
加えて他の三品がそれぞれ手数料5%。
ざっくり計算して金貨4枚か。
880枚の売上から金貨12枚引いても金貨868枚。
丸二年、元の世界で言う四年間税金も家賃も食費も何もかもまかなえてしまう。
何も気にせず生活して、好きな事が出来る。
その好きな事がまた金を生む。
あぁ、なんて幸せな人生なんだろうか。
ぞろぞろと参加者が帰っていくのを見送り、出品者は売上金を貰うために控室へと引き上げる。
はずだったのだが・・・。
「シロウ様レイブ様のお二人は別室にお願いします。」
「なんでしょう。」
「さぁ、金額が金額だからではないでしょうか。それにしても金貨500枚ですか、羨ましい。」
「レイブさんも金貨280枚じゃないですか。」
「それでもアネットの時に比べると安くなってしまいました。もう少し行くと思っていましたが・・・これがオークションですね。」
レイブさん的には金貨300枚、いやそれ以上になると思っていたんだろうが結果が伴わなかったと。
代わりに俺は想定外の金額を言い渡されてるわけだし、羨ましいと思うのは仕方ないのかもしれない。
それにしても羨ましいか。
まさかレイブさんの口からそんな言葉が出るとは思わなかったな。
別室は最初の控室と違い中は広く、そして豪華だった。
「ここは貴賓室か?」
「おそらくはそうでしょう。そしてそこに通されたということは・・・。」
「それ以上の詮索はしないほうがいいぞレイブ。」
「ローランド様。」
「出来れば私もさっさと後片付けを終えてしまいたいのだがな、今回はそうもいかんのだ。わかるだろ?」
部屋にはローランド様が先に待機していた。
わかるけれどもあまり、というかかなり関わりたくない相手だけに、さっさと家に帰って祝杯を上げたい。
「もうすぐ来られるはずだ、そのまま待て。」
てっきり座って待つのかと思ったらそんなことは無かった。
部屋の奥に誘導され、その場で待機するように言われる。
めんどくさいなぁと思った次の瞬間、部屋にノックの音が響いた。
「エドワード陛下が到着致しました。」
「どうぞお入りください。」
扉がゆっくりと開き、先程まで踊り場で警護をしていた兵士が先に部屋に入ってくる。
その中にはもちろんマスターもいる。
「問題ありません、どうぞ。」
「うむ。」
偉そうに・・・失礼、威厳たっぷりに返事をして国王陛下が部屋に入ってくる。
見た目は普通の老人。
いや、老人にしては肌に艶があるしどことなく筋肉質な感じがする。
「エドワード陛下、こちらがノワールエッグとオリハルコンを出品しましたシロウ様、そして隣におりますのがドラゴンの奴隷を出品しましたレイブ様になります。」
ローランド様が一歩前に出て紹介してくれたわけだが、流石にこの雰囲気ではふざける気もだらける気にもならないな。
「そんなにかしこまるな、楽にしろ。」
「ありがとうございます。」
「お前がノワールエッグの持ち主か。これ程の品をよく用意したとほめてやりたい所だが、一つ聞かせてもらおう。これをどこで手に入れた?」
楽にしろと言っておきながらの命令口調。
じろりと睨んで来る目力に圧倒されそうになる。
これが国を総べる人か・・・。
「守秘義務がございますので詳しくは申し上げられませんが、さる貴族の方から譲り受けました。色々とありお金に困っていたとの事でしたので助力した次第です。」
「盗んだのではないと?」
「盗む?仮にそうだとしても出品するようなリスクは犯しませんよ。それに、どこから出たのか、どうやって手に入れたのかは私が申しあげるまでも無くご存じだと思いますが?」
「シロウ、口が過ぎるぞ。」
「構わん。」
雰囲気にのまれそうになり思わず軽口が出てしまったが、どうやらお咎めは無さそうだ。
「申し訳ありませんエドワード陛下。」
ローランド様が慌てて頭を下げるが、それを素早く制した。
「ふむ、本当にリングから聞いた通りの男だな。」
「どのように聞いているのでしょうか。」
「相手を気にせず自分の思う事をはっきりという男だと。怖いもの知らずとも言っていたな。」
「お褒めに預かり光栄です。リング様はお元気ですか?」
「あぁ、早くも孫をこしらえたようだ。夏には生まれるだろう。」
「それはおめでとうございます、お祝いの品をお送りさせて頂きましょう。」
確か王家に入ったと言っていたから国王陛下の娘と結婚したんだろう。
そして早くも孕ませたと。
やるじゃないか。
「何も考えずに出所を吐くような男であれば接収することも考えたが・・・。うむ、代金を支払うにふさわしい男のようだ。そして、レイブ。」
「はっ。」
「あのドラゴンはどこで手に入れた?」
「シロウ様と同様に守秘義務がございますのでお答えすることは出来ません。ですが、そうですね・・・。」
そこまで言ってレイブさんが何かを考える。
「決して盗んだり貶めたようなことは無いとお約束させて頂きます。」
「そうか。」
俺と違って随分とあっさり引き下がってしまった。
ドラゴンに何か縁があるのかもしれないが、買い付けたのは別の貴族だ。
もしやそっちも王家の血筋とか?
「ノワールエッグもドラゴンの奴隷も元をたどれば我が王家に通じる。良く見つけ、そして手放してくれた、礼を言おう。」
「もったいないお言葉です。」
レイブさんがすぐに反応して頭を下げたので何も言わずに俺も頭を下げた。
さっき俺をダシに使ったのでこれでお相子だろう。
「さて、ローランド。」
「はっ。」
「欲しいものはなんだ?」
「そうですね・・・、では海に近い土地を頂ければ。」
「隠居にはまだ早いぞ。」
「いえいえ、私もいい年です。そろそろ後進に道を譲るべきと考えています。もっとも、あと数年はここに居座るつもりでいますが。」
「そうか。ならば用意しておこう、この度はいい余興であった。」
「勿体ないお言葉です。」
「二人共今後もローランドの為に励み、そして稼ぐがいい。」
そう言うと満足そうな顔をして国王陛下は部屋を出て行った。
時間にして十分も経ってないんじゃないだろうか。
あっという間の出来事だった。
陛下に続いて陛下が出ていき、マスターがちらりとこちらを見て扉を閉めた。
と、同時に大きく息を吐く。
「まったく、エドワード陛下相手に無茶をする。」
「シロウ様の強心臓には呆れてしまいます。ですが、満足して頂けたようですね。」
「そのようだ。無事に隠居先も手に入ったし、二人にも礼を言わねばならんな。」
「いえいえ、お力に慣れて何よりです。ねぇ、シロウ様。」
ねぇと言われてもなぁ。
国王陛下とローランド様の間にどういう約束が交わされたのかは知らないが、無事に終わりさっさと解放してくれるならそれで十分だ。
「褒美に税金を下げて下さるとかは?」
「金貨800枚も稼いでおきながら何を言うか。ちゃんと納税するのだぞ。」
「残念です。」
「先程の陛下との話は他言無用だ、言えばどうなるかはわかっているな?」
「私には関係のない事ですので、何かお話されていましたか?ねぇレイブさん。」
「私も何も聞いていません。」
「そうか、私の勘違いだったようだ。わざわざ呼び出して済まなかったな、控室に戻り代金を受け取って帰ってくれ。良い還年祭を。」
はぁ、やっと解放された。
レイブさんとともに頭を下げて部屋を出る。
控室で金貨の入った袋を受け取って、それぞれ別の馬車に乗り込んだ。
そうだ、レイブさんにお願いがあったんだけど・・・。
ま、今日じゃなくてもいいか。
馬車が坂を下っていく。
途中石に乗り上げるたびに足元の袋がジャラジャラと音を立てた。
金貨の袋はかなり重たい。
量が量だけにその場で確認はしなかったが、流石に間違えることは無いだろう。
帰ってからみんなで数えるのも面白そうだな。
そんなバカなことを考えながら、俺は目を閉じ馬車の揺れに体をゆだねた。




