218.転売屋はオークションに向かう
還年祭は滞りなく進んでいる。
一週間かけたお祭りなのだが、それぞれに大きなイベントが設定されているので空きがない。
感謝祭も長いお祭りだったけれど、個人的にはこっちの方が好きかもしれないなぁ。
そんなお祭り騒ぎの中でも今年は特に大きなイベントがやってきた。
そう、オークションだ。
「じゃあ行ってくる。」
「いってらっしゃいませ。」
「忘れ物は無い?」
「あぁ、大きい奴は事前搬入してあるし細々とした奴もさっき積み込んだところだ。」
「予算は大丈夫ですか?」
「あれは最後に清算だから問題ない。それに、間違いなく増えるしな。」
今回のメインはノワールエッグとオリハルコンの長剣の二つだ。
どれも金貨100枚、いや200枚で取引されるような代物だから間違いなく黒字だろう。
とはいえ、ノワールエッグには金貨200枚出しているので出来ればそれ以上で売れてほしい。
実質の原価は金貨150枚だが、やっぱり買い取った金額以上は欲しいじゃないか。
「オークション終了と同時に来年の分の税金と家賃は金庫に収める、それでよろしいですね?」
「むしろそうしないと使いそうだからな。早めに納税したいって言っても聞いてくれなかったんだよ。」
「普通は半年も前に納税しないから。」
「毎年大変だったんですけどねぇ・・・。」
アネットが遠い目をしている。
確かに納税時期が来るとどうやって捻出した物かとあたまを悩ませたものだが、金があるっていうのはそういう苦悩からも解放されるという事だ。
金さえあれば何でもできる。
それは九割がた間違いないだろう。
「失礼します、シロウ様出発してよろしいですか?」
「すまん、すぐに行く。じゃあな。」
「「「いってらっしゃ~い。」」」
女達に見送られて出迎えの馬車に乗り込んだ。
防犯の都合上会場までは専門の馬車でないと入場できない事になっている。
前はそうじゃなかったんだが、今回は来る人が来る人だけにそうせざるを得なかったんだろう。
参加者も身分のしっかりした人でないと駄目なようだ。
俺は前回の実績もあり、かつ出品者なので堂々と入場できるわけだな。
馬車は大通りを抜けオークション会場となる街長の館へと向かっているわけだが・・・。
「どうした?」
「すみません、馬車が混んでまして。」
「混むのか?」
「おそらく入場前の確認だと思います。ほら、来る人が来る人ですから。」
なるほどなぁ。
馬車の窓から外を見ると、何事かと言った感じで街の人が馬車の車列を見ていた。
そこに見知った顔がある。
あ、目が合った。
「窓開けるぞ。」
「どうぞ。」
一応断りを入れてから小窓を開けた。
「シロウも参加するのか。」
「今回はな。マスターは何してるんだ?」
「まぁ、色々とな。中で会おう。」
「え、中で?」
「馬車動きます!」
っと、ガタンと揺れたので慌てて首を引っ込める。再度話を聞こうと外を見るとマスターの姿はもうなかった。
まぁ、マスターだしコネがあるんだろう。
それに見知った顔がある方が気がまぎれる。
何度かストップアンドゴーを繰り返し、あっと館の前までたどり着いた。
「止まれ!」
「出品者のシロウ様をお連れしました。」
「中を見せてもらうぞ。」
そんな声が聞こえたと思ったらノックも無しに戸が開けられ、怖い顔をした兵士が覗き込んできた。
「両手を見せてみろ。」
「こうでいいか?」
両手を上にあげてると兵士は俺の手首から肘の当たりまでを強めに握ってきた。
「特に何も仕込んでなさそうだな。」
満足そうにうなずくと馬車を下りた。
「協力ご苦労。」
「大変だな。」
「・・・まぁな。さぁ行け!」
俺の言葉に若干疲れたような顔をするところを見ると、悪い人じゃなさそうだ。
馬車は再び動き出し、正面ではなく裏口の方で止まった。
「お疲れ様でした。このまま裏口を進み後は係に従ってください。荷物はこのまま私が搬入いたします。搬入後封が破れていないかを確認してください。先ほどの兵士を見てもわかりますように、今日は警備が厳重ですのでくれぐれもご注意を。」
お礼代わりに手を上げて裏口へと向かう。
裏口には先程同様に屈強な兵士が二人、両サイドに立っていた。
手には何かの票を持っている。
ここで確認をするんだろう。
「名前は。」
「出品者のシロウだ。」
「リストに名前が・・・そうかこいつが。」
「何だ?」
「一応もう一度確認させてもらうぞ。」
表を見て何かに気づいた兵士が今度は二人がかりで俺の検査を始めた。
両手を万歳のようにあげさせられ、足首から膝までとわきの下などを触られる。
美人が相手ならまだしも男に触られてもなぁ・・・。
「特に問題ないな。」
「だな。」
「よし、入れ。」
はぁ、よくわからんが許可は下りたようだ。
「ほぉ、今回は参加するようだな。」
ヤレヤレと胸をなでおろし裏口から大広間まで移動・・・しようとした所で後ろから声を掛けられた。
聞き覚えのある声に慌てて後ろを振り返ると真っ白なひげを蓄えたサンタクロースが立っていた。
仕事はこの間終わったはず・・・って違う。
この人はそういうふざけたことを言っていい相手じゃない。
「これはローランド様。」
「なんだ、覚えておったか。」
「街長を忘れるわけにはまいりませんので。」
「普段表に出てない分忘れてくれていた方が面白かったのだが・・・。さすが街一番の稼ぎ頭、そして今回の目玉を持ち込むだけあるな。」
「目玉、ですか。」
「大物を二つもそろえたのはお前しかおらん。そして、それを目当てに恐ろしい人まで連れてきおって。」
「つまりその方が来たのは、私のせいだと?」
やっぱりという気持ちと、何でという気持ちの両方が交差する。
俺の女達からしか漏れるはずのない情報がなぜ外に流れたのか。
もちろん三人が漏らしたことは無いはずだ。
って事は別の方法で情報を仕入れたって事なんだよなぁ。
これ以上はあまり考えない方が身のためか。
「その通りだよ、シロウ。」
「それは大変ご迷惑をお掛けしました。今からでも出品を取りやめ・・・。」
「馬鹿を言うな、別に怒っているわけではない。まったく、冗談の通じない男だな。」
「まぁまぁローランド様、シロウ様はまじめな方ですから。」
と、ここで助っ人の登場だ。
「レイブさん、私は真面目ですか?」
「えぇ、とてもまじめで良い商人です。」
「レイブにここまで言わせる男がゲイルの他にいるとはな、これからも励めよ。」
「そのつもりです。」
「すみませんシロウ様、次の予定が入っていましてここで失礼します。ローランド様行きましょう。」
「レイブだけではだめなのか?」
「えぇ、この街の長はローランド様ですから。」
また会場でと言ってレイブさんとローランド様は去って行った。
まったく、とんでもない人と出会ってしまったなぁ。
あの白髭姿を忘れるはずないじゃないか。
とはいえ一度しかあった事のない人の名前をよく覚えていたものだと自分を褒めてやりたいものだ。
この日一番の難所を無事に乗り越えオークション会場となる大広間に到着した。
中央にお立ち台が有り、出品物を置く台が置かれている。
その四方に兵士。
そして大広間を見下ろすメイン階段の踊り場に大きな椅子が二つ置かれていた。
ちなみにその四方にも兵士が今度は8人。
そこに国王とやらが座るんだろう。
で、その横は?
王妃か?それとも愛人か?
わからんが近づかないのが一番だな。
メイン階段横に関係者用の通路が用意されている。
あそこが目的地だ。
「やれやれ、無事に終わるといいんだけど。」
まだ二回目のオークションだけに不安は山積みだ。
前回はレイブさんに助けてもらったとはいえ、今回は目当ての商品もない。
とりあえず無事に売れてくれさえすればそれでいいんだけどなぁ。
なんて思いながら参加者でごった返す会場を抜けて関係者用の通路へと何とか移動した。
「シロウやっと来たか。」
「マスター、何でココに?」
「言っただろ、中で会おうってな。」
「確かに言ってたが・・・、例の人関係なのか?」
「それ以外に何があるよ。」
「ご苦労なこって。」
「半分はお前の責任だけどな。」
「なぁ、いったいどこから俺の出品情報が漏れたんだ?登録する前にその人が来ることは確定していたよな。」
一番聞きたかったことを言いやすい人に聞いてみる。
「それは聞かない方がいいだろう。一応誤解の無いように言っておくが、監視されているわけじゃない。本当に偶然その情報が手に入り、あれよあれよという間に一番上に届いちまったってだけだ。」
「つまり不幸な事故だったと?」
「喜べ、オークション史上最高の値段がつくかもしれないぞ。」
「勘弁してくれよ。」
「高く売れるんだぞ、嬉しくないのか?」
「そうなった後の事を考えてるんだよ。」
その人が買う事になったら間違いなく品を直接渡すことになるだろう。
大勢の人の前で、誰が大量の金を持っているかが知らさされるわけだ。
面倒な奴が来たりしなかったらいいけど。
「まもなくオークションを開始いたします。関係者は自分の持ち場にお戻りください。繰り返します、まもなくオークションを開始いたします。」
「おっと、俺も場所に戻るわ。」
「どこに行くんだ?」
「一番見える所だよ。」
つまりは二階、もしくは先程の椅子の近くって事かな。
マスターも大変だ。
そんな事を思いながら控室へと向かう。
前は準備会場に入って荷物を置いてって流れだったけど、今回は準備会場にすら入ることは出来ない。
防犯上の都合らしいが、全く面倒な事だ。
控室についてしばらくしてからレイブさんが控室にやって来た。
「長らくお待たせいたしました、ただいまよりオークションを開催いたします!」
さぁいよいよ始まるぞ。
一体何が起こるのか、楽しみのような不安なような・・・。
そんな微妙な気持ちで開会の宣言を聞くのだった。




