194.転売屋は奴隷にお願いされる
「断る。」
「そこをなんとか!」
「アネットが自分から相談してきたのならまだしも、俺の金を狙って近づいてきたのなら話は別だ。そういう奴に出す金は無い。」
「うぅ、ですよねぇ。」
「そこを何とか、悪い子じゃないのよ?」
エリザがすかさず援軍に入ってくる。
だが今の俺は少々ご立腹だ。
「そんなのは関係ない。頼るのならば直接頼ってくれば良いものを、それを回りくどい方法で言ってくるのが気に食わない。」
「シロウ様それは流石に無理でしょう。」
「なぜだ?」
「名も知らぬ自分と他の街でも有名になるぐらいの人、その人にいきなり助けてくれだなんて言えるはずがありません。」
ぐぬぬ、ミラはこっち側かと思ったが・・・。
でもまぁ確かにそうだ。
いきなり金貸してくださいなんていえるわけもないか。
質屋や金貸しならともかく買取屋だもんなぁ。
「だとしてもだ、やはりアネット経由では納得できない。本人が直接頼むべきだ。」
「ま、それもそうよね。」
「っというか何でエリザが肩を持つんだ?」
「だってその子、今のパーティーメンバーだもん。」
「そうなのか?」
「アネットの名前を出したのも私なの。昔知り合いの薬師が奴隷になったって聞いてアネットしかいないと思っちゃったのよね。」
「それで声を掛けてくださったんですね。」
「久々の再会だって聞いてたから。確かにお金の話はしてたけど、まさかそんな事になるとは思わなかったわ、ごめんなさい。」
そういう流れだったのか。
うーむ、俺の怒りもだんだんと収まってきた。
「どういう話をしたんだ?」
「街を出た後の話がほとんどです。お互いに大変だったねって話をしていたんですけど、最後の最後にご主人様の事を聞かれました。」
「何て聞かれたんですか?」
お、ミラが会話に混ざってきた。
俺の話になったからだろうか。
「どのぐらい儲かっているのか、お金に余裕はあるのかです。何でそんな事聞くの?と聞くと理由を教えてくれました。私がいなくなった後、馴染みの卸し先から騙されたらしくて、依頼を完了できなかったそうです。それで多大な違約金を払う事になってしまって、仕方なく冒険者としてダンジョンに潜るようになったって。でも、それでも全然足りなくてどうしようって泣かれてしまいました。それで、もしかしたらと思って・・・。」
「それで俺に金を貸してくれって言ったんだな。」
「奴隷の身分で失礼な事を言っているのはわかっています。でも、頼れるのはご主人様しかいないんです。もちろん私が出せる分は出しますが、それでも全然足りなくて。」
「ちなみにいくらだ?」
「金貨30枚です。」
またか。
っていうか違約金で金貨30枚とか、どう考えてもそっちもぼったくられているだろう。
若しくは裏で何かと繋がっているとか。
大口の契約とかならありえるかもしれないが、一個人でそんな契約・・・。
してるか。
「随分多いな。」
「冒険者ギルドへの納品だから結構無茶をしたみたいです。良くない所からお金を借りて何とか材料を集めたんですけど、品質が悪くて結局求められた物を作れませんでした。違約金を払う為に借金をして、その借金の為に···と後はご想像の通りです。」
「で、冒険者として一山当てようとしたが残念ながら実入りは少ないと。」
「普通の冒険者よりは十分多いわよ?だって二日で銀貨50枚も稼いだんだから。」
「全員でか?」
「一人よ。」
「そりゃ凄い。」
二人でも金貨1枚、それ以上ならもっと稼いだ事になる。
そういえば最近エリザがそれなりの品を持って帰って来たな。
あれは確か金貨2枚で買取ったはずだ。
「二日で銀貨50枚、四日で金貨1枚・・・じゃ足りないな。」
「それに毎回アタリを引くか分からないもの。」
「だよなぁ。」
「自前で何とか金貨10枚揃えさせます。そして私が金貨を5枚出しますので、ご主人様には残りの半分を出していただきたいのです。」
「返す当ては?」
「彼女の実力なら錬金術師として一年で稼げると思います。」
一年で金貨15枚。
普通に考えれば十分すぎるほどの儲けといえるだろう。
まぁ俺の年間の稼ぎに比べれば足元にも及ばないけどな。
「とりあえず本人に会ってからだな。そいつ次第で考えよう。」
「本当ですか!」
「だが、内容次第では断る。」
「・・・わかりました。」
「何時にする?」
「今晩でも構いませんか?」
「あぁ、一角亭に来てもらうか。夕食も兼ねた方が気楽に話が出来るだろう。」
すぐに呼んできます!と元気よくアネットは出て行った。
「本当にお金を貸すの?」
「言っただろ、状況次第だ。」
「私は反対です。」
「ミラ?」
「まず第一に返済計画が甘すぎます。一年で金貨15枚など気軽に言える話ではありません。」
お、そこんとこちゃんと分かっていたか。
さすがミラだな。
「どういうこと?」
「ミラが言ってるのは、皮算用するような奴に金を貸すなって事だ。」
「でも前はそれだけ稼げたんでしょ?」
「それは昔の話だろ?実際は依頼に失敗して街を追い出されている。」
「じゃあここで稼げば良いじゃない。」
「錬金術師が三人もいるのにか?」
「あ・・・。」
「今の状況でも十分賄えているのに、そこに新顔が入ってきて仕事を回してもらえると思うか?俺なら断るね。今までの付き合いもあるし、いきなり入って来て仕事をさせてくれなんて土台無理な話なんだよ。」
だから一年で金貨15枚を稼ぐのは無理だ。
稼げてもせいぜい金貨5枚ほど。
それも冒険者と同時進行しての話だ。
自前の店を出す場所もなく、更に錬金する道具にも制限があるだろう。
仮に宿を工房にしたとしても材料費や維持費でそれなりに金がかかる。
売ったら売っただけ稼げるわけではないのだ。
「それが分かっているのにシロウは話を聞くの?」
「人から聞いた話だけじゃ分からない事もあるだろ?だから聞くのさ。」
「そっか。」
「後は雰囲気だな。」
「シロウ様からお金をふんだくりたいだけならすぐに分かります。」
「そういうことだ。」
金をせびりたいだけならどうしても余裕が出てしまう。
もちろん本物の詐欺師なら別だが、本職は錬金術師らしいし、危険のあるダンジョンに潜っているという実績もある。
恐らくは問題ないと思うが・・・。
ま、騙されたら騙された時だ。
「食事までまだ時間あるな。」
「出られますか?」
「冒険者ギルドで話だけ聞いてくる。」
「私も行く!」
「では準備はお任せ下さい。一応持って行きますか?」
「余裕はあったか?」
「それぐらいであれば。」
「なら任せる。」
一応その場で話を付けられるように金は持っていく。
還年祭にむけてそれなりに稼いできたから金銭的な余裕はある。
最悪オークション後にそれなりの金が入ってくる予定なので焦る必要は無いのだが、念のためだ。
ミラのことだから契約書関係も準備してくるだろう。
秘書として優秀すぎるんだよなぁ、ミラは。
好きなことに時間使うように今度言っておこう。
ついでに俺もちゃんと店番しよう。
全部任せてエリザと共に店を出る。
時間はまだあるが、遅刻するのは嫌いなんだ。
「ねぇ、何でギルドに行くの?」
「さっきの話の真贋を確かめに行くんだ。」
「違約金の話?」
「そうだ。ギルドがそんな法外な違約金をかけているのかそれを確認したい。」
「でも他にお金を借りたのが膨れ上がった原因でしょ?」
「勿論そうだが、それに止めを刺したのは違約金だ。それと、情報収集だな。」
騙されたってところが気になる。
「なんだかんだ言って気にしてるんじゃない。」
「俺は自分の金が大切なんだよ。金は金を呼ぶ、だがそうじゃないのなら貸さない。」
「ふ~ん。」
「お前もちゃんと俺に金を運んでくるだろ?」
「まぁね。」
「何だよその目は。」
「私のときもそんな事を考えてたのかなって。」
「それを俺の口から言わせるのか?」
「ふふ、なんでもない。」
あの時は・・・どうだったかな。
詳しくはもう忘れてしまった。
覚えているのはあの鋭い目の虜になってしまったってことだけだ。
ほんと、良い女だよお前は。
そう言うつもりで尻を揉みにいったら即行で叩き落とされた。
残念。
「あら、エリザとシロウさんじゃない。珍しいわね。」
「今時間良いか?」
「さっきの件?」
「いや、別件だ。あまり人に聞かれたくない。」
「じゃあ奥にどうぞ。」
ちょうどいい所にニアがいた。
そのまま奥の会議室へと案内してもらう。
「それで話って?」
「冒険者ギルドの違約金について聞きたいんだ。例えばポーションとか薬とかの納品が出来なかった場合はどういう感じになるんだ?」
「ん~、決まりは無いんだけど大体は契約金の二倍から三倍を請求するわ。」
「決まりは無いのか。」
「皆守ってくれるから。」
「でも間に合わない事はあるだろ?」
「そりゃあるわよ。でも、翌日とかに納品できるなら大目に見ることもあるわ。」
なるほどなぁ、その辺は意外に甘いのかもしれない。
「じゃあ遅れて法外な違約金を請求する事は?」
「どうかな、よっぽど手を切りたい相手だとそういうことしちゃうかも。」
「手を切る・・・か。それこそ街から追い出したいとか?」
「そうねぇ。でも大事な取引先だからそんな事はしたくないんだけどね。」
「そうである事を祈るよ。俺もその一人だからな。」
「ふふふ、いつもご贔屓にありがとう御座います。」
有難うといってギルドを出る。
半分は俺の想像通りだが半分は予想と違った。
「情報収集は良かったの?」
「よく考えれば相手の名前も何処の町かも聞いてなかった。」
「あ、そっか。」
「その辺はおいおい調べるよ。」
よく考えたらギルドに聞いた所で騙されているとか、どこかと組んでいるとか分かるはずがないんだよな。
それこそ本人から詳しい話を聞かないと無理だ。
なのでまずは本人から話を聞こう。
エリザの手をとり一角亭へと向う。
さぁ、何が待っているのやら。




