181.転売屋は仕事を振る
「そういう事でしたか。」
「まったく、紛らわしいのよ。」
「シロウ様の代わりに行商を行い、その利益から借金を返済するわけですね。」
「理解してくれたようで何よりだ。」
恐ろしい目をしていた女たちがやっといつもの顔に戻る。
別に俺が女を囲おうが別に関係ないじゃないかと思う所もあるのだが、今の所不自由していないのでその気はない。
今回の件だって、片手間に行っていた行商を本格的にやる為の布石みたいなものだ。
全くの素人であれば任せられないが、失敗があったにせよある程度回数をこなしているのであればスムーズに仕事をしてくれるだろう。
この辺は治安もいいし、護衛も付ければ特に問題ない・・・はずだ。
売り買いする商品は絶対に利益の出る物にしか手を出さないので損失はない。
やればやるだけプラスが出るようになっている。
いやー、相場スキル様々だなぁ。
それとミラの情報収集能力の高さもだな。
それをこのワケアリ女ハーシェさんにも引き継いでもらえば、いずれは何も言わずに利益を出してくれる事だろう。
まさに、金が金を生む。
最高の状況だ。
「で、話は理解できたか?」
「なんとか・・・。」
「別に難しく考えることは無い、アンタは金を稼ぎ儲けの7割を俺に収めてくれればいい。残りの3割で生活をして、余剰分で借金を返す。簡単だろ?」
「もちろん仰っている事は分かります。でも、どうしてそこまでしてくれるのですか?」
そのどうしてを説明したはずなんだがなぁ・・・。
少々頭が固いのか、それとも回転が遅いのか。
「だってシロウだからよ。」
「そうですね、シロウ様だからです。」
「ご主人様ですから気にしないでくださいね、ハーシェさん。」
「どういう理由だよ。」
「気まぐれで困っている人を助けるのはいつもの事でしょ?私もミラもアネットもみんなお金に困っている時にシロウに助けられたんだから。」
「私なんて金貨300枚以上出して買ってもらったんです、普通じゃ考えられません。」
「金貨300枚以上!?」
「あれはジェイド・アイの売上とレイブさんの後押しがあったからだ。それが無かったら端から諦めてたよ。」
あの時レイブさんがあの値段で買ってくれなければアネットを手に入れることは出来なかった。
そう仕向けられたような気はするが、それはそれだ。
そのおかげで俺は楽をして金を稼げるようになり、結果今回のようにポンと金貨を200枚出せるようになった。
しかもだ、この金貨200枚のうち金貨50枚は帰ってくるし、残りの金貨150枚もこのとっておきをオークションに出せば十分に回収できるだろう。
下調べも必要だし、そっと聞いて回るとするかな。
「だからね、シロウの言う通りに働けば問題ないわ。」
「いや、自分で考えて商売してくれよ。そりゃあ品物には口を出すが、それ以外の事までやるつもりはない。っていうか、そこまでやったら買った意味がないだろ。」
「あ、そっか。」
「とりあえずこれが金貨200枚だ、確認してくれ。」
カウンターの上に金色の硬貨を山積みにする。
10枚の山が20個。
一般人が一生かけても稼げないような金が、目の前に積まれている。
なかなかの光景に準備した俺も含めて全員が見入ってしまった。
「すごいですね。」
「あぁ、圧巻だな。」
「私の時はこれ以上の硬貨が積まれていたんですね。」
「そういう事になる。いやー、金って素晴らしいなぁ。」
「あ、また始まった。」
「そうだろ、金さえあれば何でもできる。美味い物も食えるし欲しい物は買えるし、したいことは出来る。」
「こうやってハーシェさんをお救いすることも出来ますしね。」
「ほら、さっさと借金返して来い。エリザ護衛は任せた、面倒ごとになったら・・・適当にやってこい。」
「まっかせといて!」
大金を持ったまま一人でうろつくなと、一月ごろに言われた気がする。
この金額を盗まれたとなったら大変な事になる。
あの時の俺って何も考えてなかったんだなぁ。
ま、何もなかったけどな!
二人が出ていくのを見送り、ひとまず大きく息を吐く。
俺の手元には買い取ったばかりのノワールエッグが握られている。
「綺麗ですね。」
「あぁ、オークション用にいい品が手に入った。」
「ではこの冬は出品されるんですね。」
「むしろ出品しないと金がない。冬を越すためにもしっかり稼がないとな。」
「呪われた品々が売れたおかげで倉庫に空きも出来ましたし、仕込んでいた品々を売れば当座の資金には困らないでしょう。でも、シロウ様はそれで満足されませんね。」
「そういう事だ、よくわかってるじゃないか。」
俺がこの程度の金で満足するはずがない。
金は金を生み、そしてまた金を呼び込む。
とはいえ、金儲けだけでは人生面白くない。
だからこうして何かのきっかけで金を使う。
まぁ、それもまた金を生むんだけどな。
「アイン様に連絡をしてハーシェ様への取り次ぎを行っておきます。」
「その辺は任せた。これであの女豹の顔を見ないで済むと思うと清々するな。」
「それはどうでしょうか。」
「いや、そういう怖い事を言うのは止めてくれ。」
「ふふ、失礼しました。」
行商を任せたい理由の半分以上はそこなんだ。
ホワイトベリーの納品は俺が受けたから行くけれど、その後はもう関わりたくない。
必要であれば羊男が何とかするだろう。
昼からはいつものように店を開け、仕事をこなす。
エリザとハーシェさんが戻ってきたのは日が暮れてからだった。
「遅かったな。」
「もう大変だったんだから。」
「だろうな。」
「もしかしてわかって行かせたの?」
「どうせ金を返すって言ったら急に慌てだしたんだろ?他にも貸した金があるとか適当な事を言ってなんとか家の権利書を手に入れようとする、大方もう売主を見つけて有ったんだろうなぁ。普通に考えて金貨200枚なんてすぐ用意出来るもんじゃないし、先に見つけておいた方が効率がいい。ま、今回はそれが仇になったわけだ。」
「すごい、まるで見ていたようです。」
俺が借金取りならそうするからだ。
ついでに足りない分はそのまま奴隷商の所に連れて行って回収するのを忘れちゃいけない。
見た目はどう見ても訳ありって感じだが、それなりに美人だしスタイルもそこそこある。
アネットぐらいじゃないだろうか。
30を超えているとはいえ、これならソコソコの値段がつくだろう・・・って、俺は奴隷商人じゃないからそれ以上は知らん。
「で、一応無事に解決したんだろ?」
「面倒だったからニアに連絡してシープさんに来てもらったの。借金の総額とかもすぐに把握してくれて助かったわ。」
「あの、これが残ったお金です。」
そういってハーシェさんがカウンターに乗せたのは金貨5枚と銀貨がたくさん。
予定よりも少なかったようだ。
「それは今後の生活費だ。家があっても中身はからっぽ、また生活していくにはそれなりに金かかるだろう。借金は働き出してから返してくれ。」
「本当に有難うございました。まさか、自由になる日が来るなんて夢のようです。」
「借金まみれの夢か、随分と悪い夢だな。」
「そんなことありません。誰とも知らぬ人に買われるぐらいなら、安心できる方に買われた方が何十倍もマシです。」
「わかるな~その気持ち。私もシロウに買われなかったらダンジョンに潜って死んでいたわ。」
なんだかよくわからないが、エリザとハーシェさんが仲良くなっている。
連帯感とかそんな感じだろうか。
「俺は借金さえ返してくれればそれでいい。だが出来るだけ早く返してくれよ。」
「出来る限り頑張らせて頂きます。」
緑色の長髪が床につくんじゃないかってぐらいに深々と頭を下げるハーシェさん。
何はともあれ問題は解決、俺も行商を任せることが出来て万々歳。
それでいいじゃないか。
「後の引継ぎはミラに聞いてくれ。それじゃあ飯にするか。」
「やった!お祝いね!」
「どこにしますか?」
「イライザさんのお店がいいでしょう、今日からお鍋が始まるそうです。」
「鍋か、それはいいな。」
「あの、私も一緒にですか?」
「むしろ主賓が来なくてどうするよ、心配するな金はこっち持ちだ。」
「いえ、それぐらいは払わせてください。」
「そんなこと言ってるからすぐに金が無くなるんだ。大人しく奢られとけ。」
申し訳なさそうな顔をする本人をよそに、女たちは大盛り上がりだ。
鍋、鍋かぁ。
家で食べるのもいいけど外で食べる鍋も美味いよなぁ。
ってか、外で食べるもんは基本何でも美味いけどな。
楽しそうな女達の横で、何とも言えない目をするハーシェさんがいた。
女には困ってない。
これ以上はさすがに無理だ、特に彼女のようなタイプは。
視線に気づかないふりをして俺はゆっくりと店を閉める準備をするのだった。




