171.転売屋は闘技大会を観戦する
そしてその日はやって来た。
待ちに待ったかはわからないが、個人的には楽しみにしていた気がする。
そこに至るまでは中々に大変だったが・・・。
まぁ、その辺は割愛しよう。
まさか薬を盛られるとは思わなかったがな。
「それじゃあ行って来るね!」
「エリザ様ご武運を。」
「頑張ってください!」
ミラとアネットの激励を受けてエリザが受付へと向かってい・・・かなかった。
「シロウは無いの?」
「俺か?」
「私、シロウのために頑張るんだけど。」
「自分の為じゃないのか?」
「前まではそうだったけどね、今年からは違うの。」
だからやる気が違う。
本人はそう言っていた。
ならそれなりの言葉で見送ってやるべきだろう。
「なら良い所を俺に見せてくれ、ガツンとやって来い。」
「まっかせっといて!」
拳と拳をぶつけ、えへへと笑うエリザ。
そして、そのまま反転して受付へと向かっていく。
もう振り向くことは無かったが、反転する際に見せた表情は今まで以上に気合が入っている様子だった。
出来る事は全部やった。
手に入った装備は持たせるだけ持たしたし、体調も万全だ。
アネットが過剰に薬を投与しようとしていたのは流石に止めたが、全員の気持ちは十分に伝わっているだろう。
「行ってしまわれましたね。」
「後は開始を待つだけだ、まだ時間があるから俺は用事を済ませて来る。」
「シープ様の所ですね。」
「あぁ、あの女が来てるから助けてほしいんだとさ。」
俺も会いたくないんだが、この間の礼もあるし致し方ない。
「なんだかんだ言って御主人様はシープ様のお願い聞いてますよね。」
「そんなことないぞ、あくまでも利害の一致だ。」
「そうですか?」
「金も稼げるしな。」
「そういう事にしておきます。」
「俺の分の飲み物も頼む、チケットは持ってるよな?」
「大丈夫です。」
今回はVIP席での観戦だ。
食事と飲み物はすべて無料、そしてなにより賭け事もし放題ときている。
一般席は席料はかからないものの、その他はすべて有料。
席での賭け事は禁止だ。
まぁ、外に出れば胴元が大声で勧誘しているからやりたければそちらにいけばいい。
あくまでも席での賭けが禁止されているだけだ。
「簡易で作ったって割には本格的だよなぁ。」
大会会場は街の外に作られている。
中央に石造りのリングを置き、その周りを古代のコロッセオよろしくぐるりと囲んで観客席を作っている。
その席も簡単に組み上げるのではなく、ちゃんと石材を使って柱を立て、そこに木材を組み合わせながら作る手の込みようだ。
ここまでするなら常設すればいいのに、そうすると維持費がかかるからという理由で毎回バラシているらしい。
ばらしたやつも結局は別の用途で使うので、毎回仕入れを行わないといけないという無駄仕様。
その辺は俺が口を出すところじゃないので何も言うまい。
「あ、シロウさんちょうどいい所に。」
「あら、この間はどうも。」
「遠路はるばるご苦労な事だな。」
内側・・・、舞台の下に設けられた運営所に行くと即行で会いたくない人物と遭遇してしまった。
「無事に開催にこぎつけたようで何よりだわ。」
「おかげ様で、これも色々と手を貸して下さったおかげです。」
「私は別に何もしてないわ、あくまでも利害の一致があった、そうよね?」
「まぁ、そういう事だ。」
ホワイトベリーは順調に生育している。
この分で行けば来月には収穫できるだろう。
「この間は世話になったな。」
「ジャスティスから聞いたのね?お礼を言うのはむしろこちらの方よ。」
「いい感じに対処したって?」
「えぇ、私を敵に回すとどうなるかいい見せしめになったと思うの。聞きたい?」
「聞きたくもない。」
「あら、残念。」
「で、その前年優勝者様はどこにいるんだ?」
辺りを見渡すも目的の人物がいない。
「もう会場に入っておられますよ。」
「そうか。あの顔がボコボコになる前に見ておこうと思ったんだがな。」
「ジャスティスが負けるだなんて、昼間から夢でも見るつもりかしら。」
「わからないぞ、今年のエリザは一味違うからな。」
「あぁ、あの子(猪突猛進女)ね。」
「今年は三連覇もかかっていますから、いい試合が期待できると思いますよ。トーナメントによると、会うのは決勝の舞台って事になるようです。」
最高の舞台で戦えるわけだな。
いいねぇ。
「じゃあお互いに良い賭けが出来る事を祈ってるよ。」
「せいぜい破産しないように気をつける事ね。」
「そろそろ開始だな、もう行っていいのか?」
「シロウさんには色々とお願いしたいことが・・・いえ、何でもありません。」
「よくわかってるじゃないか、じゃあな。」
俺は職員じゃない、そう言う面倒な仕事は自分たちで何とかするんだな。
会場に戻るとVIP席の一番ど真ん中にミラとアネットが陣取っていた。
中々の席を用意していてくれたようだな。
二人に声をかけてその真ん中におさまる。
ミラが飲み物を、アネットが軽食を差し出してくれた。
「そろそろ開始みたいです。」
「こういう野蛮なのは嫌いじゃないのか?」
「別に殺し合うわけじゃありませんから。」
「それに、エリザ様が戦う所一度見てみたかったんですよね。」
そう言えば俺も真剣に戦う所は見た事なかった気がする。
ダンジョンに行った時も草原でも離れた所で戦っていたしな。
「お集りの皆様!年に一度、冒険者達がその武を競い合うこの闘技大会にようこそおこしくださいました!」
しばらくして、つるっぱげの小太りの男が拡声器のようなものを持ってリングの上に登場した。
確か拡声魔法とかそんなのを使っている魔道具だったきがする。
世の中便利な物だ。
その後も長々と挨拶が続けられ、会場中の客がブーイングをし始めた所で突然雰囲気が変わった。
「それでは登場していただきましょう!昨年一昨年の優勝者、そして今年名誉ある三連覇をかけた戦いに挑む我らが貴公子、ジャ~スティ~~~ス!」
キャーーー!という黄色い歓声が会場中から湧き上がる。
老いも若きも会場中の女性が歓声を上げ手を振っている。
あ、例外がいたわ。
俺の両隣は興味なさそうにその様子を見ていた。
「確かにかっこいいですけど・・・。」
「シロウ様には負けますね。」
「いや、どう見ても俺よりもイケメンだと思うが?」
「世の中顔じゃありませんから。」
「いくら紳士でも御主人様には敵いません。」
「いやまぁ、そう言ってくれるのは嬉しいんだが・・・。」
離れた所でそれを聞いていた無関係の女性が信じられないという目でこちらを見るも、ミラとアネットに睨まれすぐに視線をそらした。
静かなる場外乱闘は遠慮いただきたいんだが・・・。
「では早速第一回戦の開始と行きましょう、まずは音速の襲撃者ベルナルド選手対鉄壁の守り人ホースト選手の一戦です。初戦から素晴らしい戦いになるでしょう、それでは開始です!」
それから一時間ほどかけてやっと一回戦が始まった。
ってかすごい通り名だな。
一体誰がつけてるんだろうか。
まさか自分ってことは無いよな?
ってなことを考えながら観戦していたが、なかなかの熱戦で思わず力が入ってしまう。
こりゃみんな期待するわけだ。
そしていよいよエリザの登場・・・なのだが。
「それでは・・・開始!」
エリザの得物はいつもと同じ長剣、対する相手は槍を使うようだ。
普通であれば苦戦するような相手だが、目にもとまらぬ速度で相手に接近すると次の瞬間には相手が武器を落とし地面に倒れていた。
圧倒的な力量差。
いくら装備でブーストされているとはいえまるで赤子の手をひねるように勝利してしまった。
「え、エリザ選手の勝利です!」
会場にどよめきが広がる。
それもそうだろう。
いくら優勝候補の一角とはいえ相手もそれなりの実力があるはずだ。
そんな相手に何もさせないとは。
「すごいですね!」
「あぁ、思っていた以上だ。」
「エリザさ~ん!」
当の本人は涼しい顔・・・ではなくドヤ顔でこちらを見てVサインをしている。
「見てた~?」
「あぁ、次も頑張れよ。」
「まっかせといて!」
その後もエリザの快進撃は続き、二回戦三回戦準決勝と楽々勝利してしまった。
そしていよいよ最後の戦いが始まる。
「まさかまさかの展開です。優勝候補の一角と言われ続けた不倒のエリザですが、今年はその名にふさわしい戦いを繰り広げています。いったい彼女に何があったのでしょうか。そしてそれに対するは我らが貴公子、こちらも順当に勝ち続けこの舞台へとやって参りました。さぁ、本日最後の戦いです!不倒のエリザに対するは絶対王者ジャスティス、試合・・・開始です!」
この日一番の歓声と共に決勝戦が始まった。
得物は二人共長剣。
エリザの目にもとまらぬ攻撃を難なく避けるイケメンと、休まぬ連撃を続けるエリザ。
さっきまでの歓声はどこへやら、会場中がその戦いに引き込まれていた。
時々イケメンも反撃をするが終始エリザのペースで試合は進んでいった。
途中何やら二人が話をしているようにも見えたが、こちらには何を話しているかは聞こえない。
昨年までのエリザならば簡単な挑発に引っかかり、返り討ちに合っていたようだが今年はそうではないらしい。
引くところは引く、攻めるところは攻める。
二人の熱戦に再び歓声が沸き上がり、何時までも続くようにさえ思ってしまう。
が、終わりは突然訪れた。
「あ!」
素早い一撃がエリザを襲い、それを防ごうとして得物が弾き飛ばされてしまった。
勝負あり。
そう思ったのもつかの間、エリザが武器も持たずイケメンに襲い掛かる。
思わず声が出てしまった。
「ぶったおせ!」
その声が本人に聞こえたかどうかはわからないが、慌てるイケメンにエリザの拳が襲い掛かり・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ってな感じで終わりを迎えたのだった。




