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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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158.転売屋は掃除をする

準備をすると言っても、普通に仕事はある。


というか、今回の費用を捻出するという意味でもいつも以上に働かなければならない。


悠々自適の自営業のはずがなぜこんなにも馬車馬のように働かなければならないのか。


だがこれも貴族に勝つため。


やるといったからにはやらねば・・・。


って、別にそこまで頑張らなくてもいいんじゃね?


「という事で今日は休みだ。」


「えー!」


「大丈夫だ問題ない。」


「まぁ、シロウがそれでいいなら私は構わないけど。」


「では一日ゆっくりされますか?」


「いや、掃除をする。」


「確かに随分と汚れてしまいましたね。」


改めて自分たちの足元を見てみる。


仕事の忙しさにかまけて色々な事をさぼった結果がこれだ。


こう見えて結構綺麗好きな方で、ゴミが見えるのに放置するのは精神衛生上よろしくない。


部屋の隅には綿埃が溜まり、窓は指紋で汚れている。


食器も洗い残しが目立つし、何より倉庫がヤバい。


昨日見たが、想像以上の状況だった。


あのまま放置すれば手が付けられなくなるだろう。


この状況を打破するのは今しかない。


という事で、店の入り口に臨時休業の札を掛けて掃除に取り掛かる事にした。


「では私は台所を。」


「素材ゴミとかあるので三階はお任せください。」


「じゃあ私は二階ね。」


「風呂掃除も頼む。」


「まっかせといて、ピッカピカにしておいてあげるわ。」


なら俺は店内だな。


客が来るからそれなりに綺麗にしているつもりだが、やはり細かな汚れがある。


冒険者が良く来るのでカウンター下なんかは結構泥や砂で汚れていた。


掃除の基本は上から。


ってことで、はたきで棚上の汚れを落とし棚を拭き上げる所から始めよう。


木桶に水を入れ、ぞうきんを絞り、丁寧に拭き上げる。


いつもは物をどけずにパタパタやる程度だが、今日はちゃんとモノを下してから拭き上げる。


それだけで見違えるぐらいに綺麗になってきた。


綺麗になると心も綺麗になる。


この達成感が掃除の醍醐味だよな。


棚が終われば今度は床だ。


玄関を開け、箒でゴミを掃き出す。


隅っこの汚れは風の魔道具を使ってゴミを掃き出せば完璧だ。


キーボードの中に落ちた埃とか、よくこうやって掃除したよな。


結構気持ちいいんだよね。


掃き掃除が終われば今度は軽く水を撒いてブラシで汚れをごしごしと浮かせる。


石床ってこれが出来るからいいよなぁ。


デッキブラシのような奴でごしごしとこびりついた汚れを浮かせ、また水を撒く。


その繰り返し。


汚れた水を玄関先から外に流していると、突然影が俺を覆った。


「今日は休み・・・ってマスター、どうしたんだ?」


「随分と本格的な掃除だな。」


「最近忙しくてな、手が付けられなくなる前にやる事にしたんだ。」


「という言い訳の気晴らしだろ?」


「まぁ、そうともいう。」


「随分と根を詰めている様子だったからいいんじゃないか?心配してきてみたが、取り越し苦労だったようだ。」


「なんだ、心配してくれたのか。」


「庶民代表がまた過労で倒れても困るからな。」


そういえばそんなこともあったな。


同じ轍を二度踏まない為にも、こうやって掃除という名の気晴らしをしているんじゃないか。


「程々にやってるよ、ありがとう。」


「今日は一日休みなんだろ?夜は久々に飯を食いに来いよ。」


「もちろんおごりだよな?」


「そんなわけないだろうが。」


「マジかよ。」


「冗談だ、半値ぐらいで食わせてやる。」


結局おごりじゃないんかーい!というツッコミはさておき、マスターなりの気遣いを快く受けることにした。


エリザも喜ぶだろう。


ここぞとばかりに酒を飲み・・・、その後は知らん。


「じゃあまた夜にな。掃除もほどほどにしろよ。」


「あいよ。」


ポンポンと肩を叩きマスターが去って行った。


店に戻ると不思議そうな顔をしたミラがこちらを覗いている。


「どなたか来られたのですか?」


「マスターがな、飯を食いに来いって誘ってくれたんだ。」


「それはありがたいですね、エリザ様が喜びます。」


「まぁそういう事だから、飯目当てに頑張るとしよう。」


「でも、その前に昼食を摂らないといけませんね。こちらはもうすぐ終わりますか?」


「そうだな、もう一回水を流せば乾くのを待つだけだ。」


「では昼食の用意をしておきますので、終わりましたらお二人にお声がけお願いします。」


「わかった。飯は簡単でいいからな。」


飯の話をしていたら腹が減ってきた。


もう一度水を撒いて汚れを流し、入店禁止の札をかけておく。


その後エリザとアネットの声をかけ、少し遅めの昼食を摂るのだった。


「あー、スッキリ!」


「終わったか?」


「うん、お風呂もトイレもピッカピカよ。」


「私も何とか。本当はご主人様のように水拭きまでしたかったんですけど、今はちょっと難しくて。」


「その辺はおいおいでいいだろう。」


昼食後再び持ち場に戻り、それぞれ片づけを続けた。


おかげさまで店は見違えるほどに綺麗になり、エリザやアネットに任せていた所も満足のいく出来に仕上がったようだ。


どれあとはミラの台所だが・・・。


「皆様香茶が入りましたよ。」


「お、終わったのか?」


「おかげさまで気になるところは綺麗になりました。これでまた気持ちよく料理を作れます。」


二階で集まっていた俺達だったが、ミラの呼びかけに下に降りたところで目を丸くする。


「これはまた・・・。」


「すご!新築みたい!」


「さすがミラ様、まるで別の家に来たような仕上がりです。」


隅々まで磨き上げられた台所は、まるで別の家と錯覚するような仕上がりだった。


煤で汚れた壁は汚れ一つなく、床もピカピカに磨かれている。


この短時間でここまでするとは・・・。


正直ちょっと怖いぐらいだ。


「こうしてみるといかに汚れていたかがよくわかりますね。少し本気になってしまいました。」


「少しでこれなのか?」


「・・・かなりと訂正します。」


「ともかくよく頑張ってくれた、ありがとう。」


「いえ、これも気持ちよく生活する為ですので。」


普通その為にここまでできないと思うがなぁ。


恐れ入るよ。


「で、倉庫は?」


「ん?」


「店も家もピカピカになったでしょ?でも、そもそも倉庫をどうにかしないとまずいって話じゃなかったっけ?」


「そうだったか?」


「そうよ。」


さらっとごまかしてみたものの、さも当たり前のように返されてしまった。


倉庫?


倉庫はなぁ。


「残念ながら手付かずです。」


「うそでしょ!」


「シロウ様はできる限り頑張って下さいましたが、倉庫までは時間がありませんでした。しかしながら今からやれば問題ありません。」


「そ、そうですね。みんなでやればすぐですよ。」


「ダメよ、シロウがやるって言ったんだから本人にやらせないと。」


「いいのか?そんなこと言う奴は置いておいて俺達だけでマスターの所に行くぞ。」


「え、ずるい!」


時間が無くて掃除が出来なかったとは言えない。


というか、本来はあそこをどうにかしなきゃマズいって事で掃除をはじめたんだよな。


どれだけあがいてもやらないわけにはいかないわけで・・・。


致し方あるまい、覚悟を決めよう。


「ミラとアネットはエリザが倉庫から出した奴を仕分けしてくれ、俺は奥の整理をやる。」


「わかりました。」


「頑張りますね。」


「さっさと終わらせてご飯を食べに行くわよ。」


「ってことでもうひと頑張りだ。」


「「「おー!」」」



全員の声が中庭に響く。


涼しげな風が頬を撫で、秋の到来を感じさせる。


そしてもうすぐ季節は冬になる。


冬は冬で色々とやらなきゃならない事があるんだよなぁ。


その為にもここを綺麗にしておかねば・・・って、おや?


倉庫の奥を片付けていると、忘れていたものを発見した。


「これは願い石か、そういえばこんなものもあったな。」


倉庫の隅で埃をかぶっていたのは願い石、100個集めると願いが叶うと言われているアレだ。


最初の一個から随分とたまったものだなぁ。


見つけたのは願い石の入った木箱。


いつの間にか底が見えないぐらいにたまっている。


20個はあるんじゃないだろうか。


「意外にたまるものなんだな。」


こんなに簡単に溜まるのであれば、100個揃うのもそう遠くないだろう。


はてさて揃ったら何を願うか。


というか、本当に願いなんて叶うんだろうか。


もし叶うのなら・・・。


そうだな、()()を願おう。


まさかこんなことを願う日が来るとは思わなかったが、今の俺にはそれが一番ふさわしい。


「ま、それもそろってからの話だ。片づけを続けるか。」


木箱を元の場所に戻し、片付けを続ける。


入り口からは女たちの楽しそうな声が聞こえてくる。


願わくば、この時間が長く続きますように。


ほこりにまみれながらそんなことを考えていた。


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