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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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151.転売屋は装備を磨く

久々の休日。


特にする事も無いので昼前まで惰眠を貪っていた。


正確には昨夜遅くまで起きていたので起きられなかったが正しいか。


何をしていたのかって?


聞くまでもないだろ。


「おはよ。」


「おはようございますシロウ様。」


「ミラだけか。」


「アネット様は市場へ、エリザ様は冒険者ギルドへ向かわれました。」


「休みの日なのにご苦労な事だ。」


「お二人共ギリギリまでシロウ様をお待ちになっていましたよ。」


昨日の今日だというのに早起きするとは、どんな体力してるんだよ二人共。


こちとら動けなかったんだぞ?


若さって怖い。


「お食事になさいますか?」


「そうだな、軽くで頼む。」


「畏まりました。」


エプロンを身に着けパンを焼きながら手早くフライパンで卵を炒めている。


その姿はまるで新妻のようだ。


結婚したことないけど。


「そんなに見つめられると恥ずかしいのですが。」


「手際が良いなと思っただけだ。」


「褒めても何も出ませんよ。」


「それは残念だな。」


口ではそう言いつつも、嬉しそうな顔をしているのは丸わかりだ。


付け合わせとフルーツが追加されている。


褒めるもんだな。


「お待たせしました。」


「なかなかに豪華だ、ありがとう。」


「では私もちょっと出かけてきます。」


「悪かったな、出発が遅れて。」


「いえ、シロウ様と一緒に居たかったので・・・。」


なんだこの美人は。


惚れてしまうだろ。


返事の代わりにミラの尻を揉むと、可愛い悲鳴を上げながら出かけてしまった。


奇しくも久々の休日は久々の一人になったわけか。


いつも誰かが一緒だったからな、たまにはこういう日があってもいいだろう。


のんびりと朝食を済ませて、ミラが用意してくれていた食後の香茶をいただく。


うむ、美味い。


静かな店内。


外には本日お休みの札をかけてあるのでこの時間を邪魔される事も無い。


店が休みならオーブも発動しないのだろうか。


それはそれでありがたいけどな。


食器を片付けふと、何をするか考える。


折角の休日だ、何か有意義に使いたいものだが。


倉庫の整理・・・は二日前にやった。


畑は三日前に綺麗にして今は少し寝かせている。


寒くなったら新しい何かを植える予定だ。


それもミラに任せているので、俺が調べる予定はない。


外の畑も今日はお休み。


昨日進捗を確認しに行ったけど、特に問題はなかった。


「ってことはだ、することがない。」


ならやることは一つ、二度寝だ。


でもなぁ、それもまたもったいない。


ふむ、どうした物か。


「たっだいまー。」


「おぅ、おかえり。」


「その様子じゃさっき起きてきたのね、このお寝坊さん。」


「お前達が元気すぎなんだよ。」


「そんなことないわ、普通よ普通。」


この脳筋め。


「冒険者ギルドに行ったんじゃなかったのか?」


「行ったんだけど帰って来たの。用事は終わったしいつまでもあそこに居たら変な仕事を任されそうだったしね。」


「確かにな。」


「シロウは何してたの?」


「その何かについて考えてたんだよ。」


「何それ。」


「ようは暇なんだ。」


「ふ~ん。」


自分で聞いておきながら全く興味のない返事だった。


少しイラッとしたのでこのままベッドで思い知らせてやろうかとも思ったが、返り討ちにあいそうだったので止めておいた。


せっかくの休みだ、それは最後でいいだろう。


「お前は何するんだよ。」


「そうねぇ、時間もあるし久々にメンテナンスでもしようかな。」


「ふむ。」


「防具も武器も手を加えてあげないと痛んじゃうし、それにいざというとき使えなくなるから。」


成程な。


武器も道具も所詮は道具だが、道具だからこそ手を加える必要がある。


よく見れば店に展示している品も、よく見れば埃をかぶったりくすんだりしているようだ。


よし、今日やることが決まったな。


「エリザ、そこの布を取ってくれ。」


「どうするの?」


「たまには掃除でもするのさ。」


「ふふふ、殊勝な考えね。じゃあ私は庭にいるから何かあったら呼んで。」


特に呼ぶことはないだろう、掃除するだけだし。


棚を拭き、ガラスを拭き、そして道具に手をかける。


『乾かずの杯。一度水を入れると常に潤い続ける杯。満たされる水の量にはムラがある。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨18枚、最高値銀貨55枚。最終取引日は224日前と記録されています。』


珍しい杯だと思って手に取ったらなかなかの品だったんだよな。


試しに水を入れてみると本当に水が勝手にわき出した。


ちょっと困ったのはコンコンと湧き出て来るせいですぐに水浸しになってしまう点だ。


この間も結露がたまたまできてしまったために店の中が水浸しになってしまった。


水のないダンジョンや屋外で使用できると思ったんだが、常に湧き続けるのでぶっちゃけ扱いに困っている。


外の畑にでも置けばいいだろうか。


悩ましい所だ。


乾いた布でしっかりとふきあげ水気を寄せ付けないようにする。


これは比較的よく磨いているからか汚れは少ないな。


次はこいつだな。


『硬革の手袋。固くなるように薬剤に浸して硬化させた特殊な革。耐久と耐腐食の効果が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨55枚、最安値銀貨39枚、最高値銀貨87枚。最終取引日は114日前と記録されています。』


初心者向きの装備として買い付けたんだが、少し値段が高いだろうか・・・。


でもなぁ、仕入れ値を考えるとこれぐらいで売っておきたいし。


最悪冒険者ギルドに引き取ってもらうという手もなくはない。


もうすこしだけ寝かせておくか。


少し埃の被ったそれを丁寧に磨く。


油をつけ、馴染ませ、揉んでいく。


硬すぎるのも良くないし、柔らかすぎるのも良くない。


その間のいい感じの所を狙って手を加えてやる。


うむ、なかなかいい仕上がりじゃないか。


古ぼけた感じが無くなり、まるで新品のようだ。


なるほど、売れなかった理由はこれだったんだな。


この感じだと明日には売れるかもしれない。


いやぁ、たまには手を入れるべきだな。


「ただいま戻りました・・・あら、ご主人様?」


「おかえり。」


「お手入れですか?」


「あぁ、たまには手を加えないとな。」


「いい心がけだと思います。良かったらこれをどうぞ。」


「これは?」


「整備用の油です。本当はエリザさんにと思ったんですけど、お掃除しているのなら必要だと思います。」


その視線の先にあったのは、店の一番奥に置かれた古ぼけた槍。


そう言えばあんなものもあった気がする。


いつ手に入れたかは忘れてしまったが、それなりの品だったはずだ。


「そうだな、あれを手入れするには必要だろう。」


「もし足りなくなったら仰ってください、器具を整備する用の油もありますから。」


「これだけあれば大丈夫だろう、助かるよ。」


「では上に戻りますね。」


「根を詰めすぎるなよ。」


「ふふ、それは御主人様もですよ。」


『リオルブの油。食用から工業用まで多種多様に使用できる油。腐食を防ぎ、艶と潤滑を与える。最近の平均取引価格は銅貨20枚。最安値銅貨15枚、最高値銅貨25枚。最終取引日は本日と記録されています。』


アネットに貰った油を手に古ぼけた槍に手を伸ばす。


大分放置していたからか、少し錆が出ていた。


折角の品なのにこれじゃ宝の持ち腐れってね。


『魔鋼の鎗。魔力を帯びた特殊な鉱石で作られた槍。魔力を通しやすく属性の力が増す。火属性が付与されている。最近の平均取引価格は金貨1枚、最安値銀貨84枚、最高値金貨1枚と銀貨23枚。最終取引日は556日前と記録されています。』


思い出した。


春先に持ち込まれたんだ。


魔鉱なんて珍しいなと思って買ったんだけど、エリザは使わないみたいでいつの間にか隅っこに置いてしまったんだ。


そりゃこれだけ痛むよな。


よしよし、今から俺が命を吹き返してやろう。


布に油を垂らし、馴染ませるように何度も何度も拭き上げる。


一心不乱に磨き続けて、あっという間に時間が過ぎて行った。


「ただいま戻りました。」


「ん?ミラか?」


「シロウ様どうしたんです、それ。」


「これか?これは・・・。」


「すごい武器のように見えますが、今日はお休みでしたよね。」


おや?


ミラはこれを買い取ったと思っているのか。


それもそうだな、最初とは別物の輝きを放っている。


心なしか喜んでいるようだ。


「気持ちを新たに磨いてみたんだ。良い武器だろ?」


「はい、とても素晴らしいとおもいます。」


「あー疲れた!あ、ミラおかえり。」


「エリザ様もお疲れ様です。」


「あれ?ちょっと何そのすごい槍!」


整備をしていたエリザが戻って来て早々俺の手から槍を奪い取ってしまった。


返せよ、俺が磨いたんだぞ。


「色も綺麗だし、何より軽い。これでも少し短かったら使ったんだけどなぁ。」


「長いのは苦手か?」


「一人だとね、長物は使いにくいの。」


「そういうもんか。」


「まぁ、私はだけど。良かったら知り合いに鎗遣いがいるんだけど紹介してあげようか?」


「あぁ、せっかくの品だし気に入ってくれると思うぞ。」


店の隅でさび付いていたやつが、磨いただけで命を吹き返した。


さらに言えば新しい引き取り先まで見つかりそうだ。


たまには整備してやらないとな。


次は何を磨いてやろうか。


倉庫の中身を考えながら、そんな事を思うのだった。




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