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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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147.転売屋は花を買う

「すみませ~ん。」


とある日の昼下がり。


珍しい客が店にやって来た。


そもそも客なんだろうか。


「どうした、迷子か?」


「ちがうもん!」


「ここは買取屋だ、欲しい物はないぞ。」


「買取屋さんって事はなんでも買ってくれるんでしょ?」


「まぁな。」


どうやら客で間違いないようだ。


店にやって来たのは齢一桁という感じの少女だった。


うちの事をどこかで聞いてきたんだろうな、その証拠に後ろ手に何かを持っている。


「じゃあこれ、買ってください!」


そう言いながら少女が出したのは一輪の花だった。


「ほぉ、花か。ここじゃ珍しいな。」


「でしょ!私も初めて見つけたの!だからすごい価値があると思うんだ!」


「どこで見つけたんだ?」


「街の外!」


「外って一人で行ったのか?」


「ううん、お兄ちゃんといったの。あ・・・。」


しまったと言った顔して慌てた様子で口を覆う。


子供だけで外に出てはいけないってのが、この街のルールだったはずだ。


もちろん破ってる子供なんざ山ほどいるだろうが、それを自らバラす奴はいない。


「聞かなかったことにしてやるが、次は無いぞ。」


「うん・・・。」


「で、その花だが見せてくれ。」


「はい!」


精一杯背伸びして花を渡そうとする。


カウンターから身を乗り出し何とかそれを受け取った。


「花。どこにでも咲いている花。最近の平均取引価格は銅貨3枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨5枚。最終取引日は本日と記録されています。」


特に珍しい花でも何でもないか。


少し期待したが、まぁそんなもんだよな。


この草原地帯でよくもまぁこれだけ立派な花を見つけたものだとほめてやりたいが・・・。


「銅貨3枚だ。」


「それだけ?」


「残念ながら普通の花だからな。それ以上は出せない。」


「う~ん・・・。」


少女は不満そうにしながらも何かを必死に考えていた。


何か理由があるのかもしれないが、タダの買取屋である俺にはどうでもいい話だ。


「そのお金でお願いします。」


「はいよ、ちょっと待ってな。」


花を受け取り一度裏に入る。


「ミラ、花瓶を持ってきてくれ。」


「かしこまりました。」


「ねぇ、放っておくの?」


「ダンジョンに潜ってるわけじゃないんだ、問題ないだろう。」


「でも・・・。」


「お前だってルールを破って出かけたことぐらいあるだろ?」


「まぁねぇ。」


何か言いたげなエリザを横目に銅貨を握り店に戻る。


「銅貨3枚だ、確認しろ。」


「ありがとうございました!」


入ってきた時もそうだが、ちゃんと挨拶が出来るのは素晴らしい。


親が良い教育をしているんだろう。


勢い良くお辞儀をしてそのまま出ていくのかと思いきや、扉の前でクルリと周り再びこちらを向く。


「あの・・・。」


「なんだ?」


「また持ってきていいですか?」


「それは構わないが、子供だけで出るなよ。」


「はい!」


口では元気に返事をするが恐らく子供だけで行くんだろう。


エリザには問題ないだろうと言ったが、小遣い欲しさに外に出て何かあってからでは遅い。


とはいえ俺の知り合いでもないし・・・。


しばらくは様子見だな。



それから三日間。


毎日のように少女は現れ、朝昼夕と花を一輪売りに来た。


沢山持ってこないのには何か理由があるんだろうか。


それに一緒に行っている兄貴が来ないのも気になる。


小遣い欲しさにここまでするだろうか。


それにだ、この三日間同じ服を着ている。


子供だが心なしか体臭もきつい。


孤児という感じではなかったはずなんだが・・・。


妙だな。


「お願いします!」


「はいよ。」


夕刻、その日最後の花を売りにやって来た。


何食わぬ顔でそれを受け取り、代金を渡す。


大事そうに銅貨を握りしめると、しっかりとお辞儀をして少女は出て行った。


「エリザ、頼む。」


「まっかせといて!」


「なんで俺まで・・・。」


「見失ったらどうするんですか、兄さんもさっさと行ってください。」


アネットに叱られ渋々といった感じでバカ兄貴も店を出ていく。


二日目までは何もしないでおこうと思っていたのだが、流石に三日も同じ状況が続くと放っておくことが出来なくなった。


それは他の三人も同じだったようで、追跡を頼むと快く受けてくれたというわけだ。


「何かわかるといいですね。」


「だな。」


「初日は綺麗な格好でしたから絶対に何かあるのだと思います。危険を承知で外に出て花を摘む、なぜそこまでするんでしょうか。」


「それがわからないから調べるんだ。おせっかいだろうが相手はガキだ、大人の助けがいるなら手を差し伸べるべきだろう。」


「シロウ様はお優しいですね。」


「せっかく綺麗な花を持ってきてくれるんだ、無くなったら寂しいじゃないか。」


あの日から毎日食卓に花が飾られている。


今まで気にもしなかったが、花がある生活というのはいいものだ。


決して優しさなんかではないぞ。


「ふふふ、そういう事にしておきます。」


「ともかくだ、二人が戻って来てから対応を考えよう。アネット、この花を飾っておいてくれ。」


「では寝室に飾りますね。」


「新しい花瓶を用意しましょう。」


ミラとアネットが嬉しそうに花を持っていく。


はてさてどんな事になるのやら。


エリザとバカ兄貴が戻ってきたのはそれからしばらくしての事だった。


「で、どうだった?」


「大方シロウの予想通りって感じかな。」


「姐さんは見逃したけど俺の目からは逃げられなかったぜ。」


「何を偉そうに言っているんだか。」


「そ、そんな・・・。」


「人ごみに紛れちゃって見逃したんだけど、フールが見つけてくれたのよ。ありがとう。」


「ま、俺にかかればこんなもんよ。」


何故か自慢げなバカ兄貴。


そしてそれを冷めた目でみるアネット。


相変わらず兄貴に対する扱いがぞんざいだな。


まぁ、自分を奴隷に落とした張本人だし致し方ないか。


「あの子がいたのは裏通りの古びた一軒家で、母親と兄の三人で住んでるみたいね。」


「なんでも母親の病気が悪化したとかで兄の方がつきっきりで看病しているって近所の人が話していた。かなりひどいって話だけど誰もどんな病気かは知らないらしいぞ。」


「ってことはだ、やる事は一つだな。アネット。」


「ある程度の薬は持ちましたけど、それでもダメな場合は治療院に連れて行きます。」


「ミラ。」


「食材は準備万端です。」


「そんじゃま行くか!」


エリザ達の案内で少女の家へと押し掛ける。


裏通りのそのまた奥、あまりきれいとは言えない区画にその家はあった。


「邪魔するぞ。」


一応ノックはしたが返事を待たずに扉を開ける。


「誰だ!」


「あ、買取屋のお兄ちゃん!」


突然の登場に驚いた顔をしたのが兄貴、そして笑顔になったのがあの少女だ。


「そう、買取屋だ。おせっかいをやきに来たぞ。アネット、頼む。」


「お任せください。」


「止めろ!母さんに触るな!」


母親の傍に近づこうとすると兄貴がそれを邪魔するので、エリザに捕まえてもらう。


「大丈夫よ、どこが悪いか見るだけだから。」


「ケホッケホッ・・・、すみま、せん。」


「どんな状態ですか?」


「熱が下がらなくて・・・、食事も、摂れません。」


「お水は?」


「それだけは、なんとか。」


薬師なんて半分医者みたいなものだ。


とりあえずはアネットに任せて俺は俺の仕事をするかな。


「おい、ガキ共よく聞け。これは俺達のおせっかいだがタダじゃない。生きていくためには金が要る、わかるよな?」


「うん・・・。」


「こいつはその為に頑張って花を摘んでいたようだがそれでも足りない、そうだな?」


「パンしか買えなかった。」


「じゃあどうすればいい?」


「お金があればお薬が買えるよ!それとご飯も!」


「馬鹿!その金が無いんだろ!」


無邪気に答える妹を兄貴が大きな声で諫める。


まるで助けた時のエリザのようだな。


羽交い絞めにしていなかったら今にも噛みついてきそうだ。


「そこで俺の登場ってわけだ。俺の仕事はなんだった?」


「買取屋さん!」


「そうだ、金になるものなら何でも買うのが俺の仕事だ。おい、ガキ共母親を助けたいか?」


「うん!」


「お前は?」


「当たり前だろ!」


「よし、じゃあお前達の大切なものを出せ、俺が買ってやる。」


何言ってんだこいつ、っていう目で兄貴が俺を見る。


わかるぞ、俺がお前の立場なら同じ顔をする。


見た感じ齢二桁になったばかりって感じだな。


その割にしっかりしているのは苦労してきたからだろう。


病弱な母親を助けながら妹の世話もする、泣かせるじゃないか。


とはいえ、俺もタダで人助けをするほど甘くない。


さっきも言ったが生きていくには金が要る。


その金は働くか、物と交換するしか手に入れることが出来ない。


だから、俺みたいな商売が成り立つわけだな。


俺の言葉を聞き、少女は大急ぎで古ぼけた棚を漁っている。


そして、小さなペンダントを持ってきた。


「これ!私の宝物なの!」


「見せて見ろ。」


手に取るとすぐにいつものスキルが発動する。


『壊れたペンダント。飾り石がついている普通のペンダント。壊れている。最近の平均取引価格は銅貨5枚、最安値銅貨1枚、最高値銅貨10枚。最終取引日は2日前と記録されています。』


見ての通りチェーンの切れたペンダントだ。


それを結んで何とか掛けれるようにしているみたいだな。


「妹は出してきたぞ、お前は?」


「お、俺は・・・。」


俺に睨まれ慌てて何かを取りに行く。


妹と違い台所の戸棚の奥から古ぼけた小さな木箱を持ってきた。


「お前の宝物か?」


「うん、死んだ父ちゃんの形見だよ。」


「開けるぞ。」


木箱の中には小さな耳飾りがクッションに乗せられ大切に保管されていた。


『片割れしかないイヤリング。羽のモチーフをしたイヤリング。片方しかない。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨69枚、最高値銀貨1枚と銅貨30枚。最終取引日は19日前と記録されています。』


ふむ、多少価値はあるみたいだが所詮はこの程度。


どちらも買い取りに来られたら門前払いする品だが・・・。


さぁ、いくらで買ってやろうか。




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