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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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141.転売屋は威圧する客に対応する

一先ず土地の件は一旦保留にした。


やる事が多すぎるのと本業が忙しくなったからだ。


季節の変わり目だからか薬を求める客が増えた事、ダンジョンで未発見の場所が見つかった事、そしてなにより買取客が増えた事が主な理由だ。


エリザ曰く、未発見の場所が見つかったのはかなり久々で、しかも魔物が強いらしく実力のある冒険者が必要とされているそうだ。


本人も久々の冒険にテンションが上がっており、ダンジョンで過ごす日が増えてきている。


それに比例するようにダンジョン内の魔物が活発化しており、他の場所でも冒険者が奮闘していた。


そうなるとどうなるか。


「いらっしゃい。」


「シロウさん買取お願い!」


「一時間、いや二時間は待つぞ?」


「いいって、イライザさんの店に行ってくるわ。」


整理券を渡すと、冒険者が荷物を放置して去っていく。


ミラがそれを裏に運び、混同しない様札を差して保管する。


俺は手前から順番に鑑定を行い、ざっくりとした値段を出していった。


まるでジェイドが見つかった時のように、冒険者が増えている。


そして冒険者が増えると、買取が増えるというわけだ。


かなり羽振りがいいのか、少々安くても気にする様子はない。


金を受け取ると嬉しそうに街に戻り、酒と女それと買い物にソレを使って、またダンジョンに戻って行った。


おかげで街は空前の好景気だ。


どこに行ってもみんな忙しそうにしている。


こんな時に露店を出せたら最高なんだが、残念ながらそんな暇がない。


キャッシュはどんどんと出て行くばかりだ。


余裕はあるので当分は大丈夫だが、これが冬まで続くと正直厳しいな。


「シロウ様休憩なさってください。」


「次のやつが終わったらな・・・っと、これはなんだ?」


素材の買取はミラに任せても問題ないが、装備品などはやはり俺が鑑定した方が都合がいい。


相場スキルがあれば、鑑定では見抜けない物も発見できるし、何より買取値段を間違えることが無い。


常に利益を残せる値段で買い取れるのが一番の利点だな。


『癒しの香炉。香炉に火を灯すと、疲れや眠気を感じなくなる。ただし、香が切れると忘れていた分が一気に来る。最近の平均取引価格は銀貨43枚、最安値銀貨21枚、最高値銀貨79枚。最終取引日は511日前と記録されています。』


ほぉ、面白い品だな。


感じなくなるのは多いが、ちゃんとつけが戻ってくるのが面白い。


「癒しの香炉だとさ。」


「疲れを感じさせなくするやつですよね?」


「そうみたいだが、無理をした分は効果が切れると戻ってくるみたいだぞ。」


「無くなるわけではないんですか。」


「そうみたいだ。」


面白いが使いどころがあまりない。


いや、無くもないか。


「これは今度娼館にもっていこう。」


「娼館ですか?」


「俺達にはあまり必要のないものだが、あそこなら使い道があるだろう。先日知り合ったオーナーから珍しい物を持ってきてくれって頼まれていたんだ。」


「わかりました。買い取り後は倉庫に持っていきますね。」


「頼む。んじゃ、次だな。」


「駄目です、これで休むという約束でした。」


「だがまだこれだけあるんだぞ?」


ミラに手を止められるも、後ろには買取待ちが五つほど残っている。


先に待っていた連中がひっきりなしに戻ってきているので、そっちに対応しているとどうしても手を取られて査定が進まないんだ。


魔物の素材は極力ギルドにって言ってるのに、全くあいつらと来たら。


「この間のように倒れられても困りますので。」


「そうだ、さっきの香炉を使うか。」


「いけません。買い取り前の品です。」


うぅむ、中々に厳しい。


「あ、いらっしゃいませ。受け取りですね、どうぞこちらへ。」


とかやっていたら先に買い取りを依頼していた冒険者が戻ってきた。


対応をミラに任せて仕方なく裏へ戻る。


テーブルの上には途中で放り出された昼食が残ったままだ。


それを流しに運び、三人分の香茶を淹れる。


あー、しんど。


九月に入って一気に客が増えたからなぁ。


休みなしで早十日。


そろそろ皆の疲れもピークに来ているだろう。


毎晩アネットの作ってくれた滋養強壮丸を飲んでいるが、それでも限界はある。


何処かで一回リセットする必要はあるだろう。


と、階段を下りてくる音が聞こえたかと思うとアネットが恥ずかしそうな顔をしてこちらを覗き込んでいた。


「何してるんだ?」


「いい匂いに釣られてきちゃいました。」


「働きづめだろ、少し休め。」


「えへへ、じゃあお言葉に甘えて。」


アネットの顔にも疲労の色が見える。


体力の指輪を付けてこれなんだ、無かったらとっくにぶっ倒れているだろう。


「仕込みだけでもまた人を雇ってもいいんだぞ。」


「どうしても無理になったらお願いするかもしれません。」


「うちの稼ぎ頭に倒れられちゃ困るからな。」


「それを言うとご主人様もですよ、前科があるんですから無理されないで下さい。」


「もちろんわかってるさ。だがなぁ、ミラがかなり無理をしているからそうも言ってられん。」


「そうですね、順番が来ても起きられないぐらいですからよっぽどです。」


余りの疲れっぷりに、この間は俺のベッドで眠ったまま朝まで起きなかった。


翌朝申し訳ない顔をしており、俺もすぐに寝てしまったので何の問題もないのだが、女たちからしてみれば大問題らしい。


別に毎晩しなきゃいけないわけじゃないんだけどなぁ。


「ってことで、近々休みを取るつもりなんだが何かしたいことはあるか?」


「お休みですか?」


「あぁ、一日ぐらい問題ないだろう。」


「いいですね。でも、したい事って言ったらゆっくりするぐらいでしょうか。」


「買い物とかはどうだ?」


「今はどこも人でいっぱいでしょうから、落ち着いてからにします。」


「確かにな。」


「お客さんを気にせずってのは無理かもしれませんが、家から出ずにのんびり過ごせればそれで十分です。」


慎ましい願いだがそれでいいのかもしれないな。


有難うございましたとお礼を言ってアネットは再び上に戻って行った。


俺もミラと代わるとしよう。


「どういうことだ!」


と、戻った早々冒険者の大声が響いてくる。


「ですからこの代金だと申しています。」


「そんなに安いわけがない!これはダンジョンの未発見地区で見つかったものなんだぞ!」


大声を出してミラを威嚇しているのは重厚な鎧を身に着けた大男だった。


「なんだ騒々しい。ミラ、奥に帳簿があるから確認してくれないか?」


「ですが・・・。」


「お前にしかわからないんだ、頼む。」


「わかりました。」


適当な事を言って裏に引っ込ませる。


相手が女だからって調子に乗るなよ冒険者。


デカけりゃいいってもんじゃないぞ。


「で、俺が店主のシロウだ。買い取り金額に不満があるんならさっさと出て行ってくれ。」


「お前、何様のつもりだ!」


「店主だが?ここでは俺が一番偉い、客が何と言おうと鑑定スキルを使っている以上物を間違えるはずがない。で、値段を付けたのはこの俺だ。どこで見つけた物だろうと、物の価値は変わらないんだよ。」


「だ、だがいくらなんでも安すぎる。」


俺が強気に出たからか急に態度が変わったぞ。


なんだ、デカいのは図体だけかよ。


「何が安いんだ?」


「この剣だ、何重もの罠が仕掛けられた宝箱の中に入っていたんだぞ。」


男が指さしたのは古ぼけた短剣だった。


『悔恨の小刀。これで致命傷を負わされると息絶えるまで悔恨の念に囚われ続ける。ただし即死の場合は効果が無い。最近の平均取引価格が銀貨22枚、最安値銀貨10枚、最高値銀貨44枚。最終取引日は1年と29日前と記録されています。』


何重もの罠が仕掛けられていた割には確かにちゃっちい刀ではある。


致命傷を負わせなければ効果が発動しないっていうのも残念だ。


「悔恨の小刀って言ってな、これで致命傷を負わされると死ぬまで悔やみ続けるんだとさ。」


「ほ、ほらみろすごいものではないか!」


「でな、そんなものを誰が買うんだ?」


「なに?」


「魔物にこんな小刀で挑むのか?魔物が死ぬまで悔やみ続けるのか?」


「そ、それは確かにそうだが・・・。」


「ついでに言うと、恨みのあるやつに使うとして致命傷なんて与えたら相手は後悔する暇もないだろうな。要は使い道が無いんだよ。」


「ぐ、ぐぬぬ・・・。」


「だからその値段だ。ちなみに素材はうちの方が高い、その値段が気に入らないんなら他をあたれ。」


ちなみに提示額は銀貨12枚だ。


最安値より出してやってるんだし、有難いと思ってほしいんだがなぁ。


「・・・それで買い取ってくれ。」


「毎度あり。」


大男は銀貨を鷲掴みにすると袋に入れることもせずそのまま出て行ってしまった。


ふぅ、ヤレヤレだ。


買取済みの品をカウンターの下に放りこむ。


あんな品だが売り方次第ではもう少し高く売れるだろう。


普通の人間は買わないが、お貴族様はあぁいう品が好きだからな。


「申し訳ありませんでした。」


「なにがだ?」


言葉通り申し訳なさそうな顔をしたミラが裏から首だけ出してこちらを見ていた。


「上手く対応出来ませんでした。」


「あぁいう輩は俺以外の言葉は納得しないから気にすることないぞ。むしろ良く引かなかったな。」


「あの程度で怯えていては冒険者相手に商売できません。」


「その通りだ。で、香茶は飲んだか?」


「はい。美味しく頂きました。」


「ならそのまま少し休め。」


「いえ、大丈夫です。」


「違うな、俺の為に何か甘い物を作ってくれ。」


ミラは休めって言って休むような女じゃない。


だから別の仕事を命令してやる。


奴隷という立場をここぞとばかりに利用してやるんだ。


「甘い物、ですか。」


「蟻砂糖がまだ残ってただろ、ミラが焼いたクッキーが食べたい。」


「そういう事でしたら・・・。」


「あぁ、時間を掛けて作ってくれよ。その方が美味くなる。」


「仰せのままに。」


よし、俺の意図を理解してくれたようだ。


働き過ぎは体に毒だからな、息抜きもまた必要だ。


それに、甘い匂いが再びアネットを引き寄せるだろう。


アイツも定期的に休ませないとギリギリまで動き続けるからなぁ。


困ったもんだ。


「すみません、買取出来ました?」


と、また新たな客が来る。


査定品の残りもあるし、ゆっくりしている暇はなさそうだ。


「出来てるよ、何番だ?」


この客を早く終わらせて、残りの査定を終わらせよう。


そろそろエリザも戻ってくる頃だ。


戻って来たらイライザさんの店にいくんだし、腹もすかせておかないとな。


そう意気込むと、無愛想な笑顔で接客を始めるのだった。

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