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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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120.転売屋は折り合いをつける

「私は反対です。必要であれば我々から買い取ればいいだけの話で、みすみす利益を減らす必要はないのではないでしょうか。」


「ミラの言い分はもっともだ、うちに売りに来る冒険者をわざわざ返す理由は無い。」


「そうよね、素材を売るだけで何か所もはしごするのって正直めんどくさいのよ。でも稼ぎを均等に分けようと思うとどうしてもそうするしかないのよね。」


「その点ここであれば一か所で全て片付きます。素材不足はギルドの問題なのですからギルドで解決させるべきです。」


なかなかに厳しい。


だがもっともな話だ。


ギルドで素材が不足しているのであれば、ある所から仕入れればいい。


ここにあるとわかっているのならここに来て買って行けばいい。


ここで商売をするにあたり、強制徴収権を提示されているので提出しろと言われれば提出する義務がある。


義務なので断ることは出来ないし、こちらとしても提出するのを断る理由は無い。


ようは自分の足で買いに来いという事だ。


その手間を惜しんで冒険者を自分の所に送って来いというのは虫のいい話だよな。


「ですが薬草を固定買取しなくていいのは非常に助かります。どの薬を作るにしても薬草は必要ですし、ギルドから銅貨30枚で仕入れる薬草を銅貨20枚にすることが出来ればそれだけ利益を上乗せ出来ますよ。稼ぎだけで考えれば十分魅力的だと思います。」


「初心者冒険者からしてみれば簡単に手に入る薬草が高く売れるなら喜んでもってくるわよ。住民の中には小銭稼ぎで持ってくる人もいるんじゃないかしら。」


「薬草は常に需要があるからなぁ。」


「でもシロウ様は固定買取を止める事で他の店から目を付けられないかを心配されています。」


「薬師がいるからじゃダメかな。」


「何とも言えません。」


問題はそこだよなぁ。


ギルドの他にも固定買取をしている店はある。


その店の客を取るわけだから不快には思われるだろう。


それにだ、色々あって始まった固定買取制度なのに前例を作ってしまったらそこからズルズルと瓦解していく可能性はある。


向こうでやったからうちでもやってくれ。


そう思うのが普通だ。


「ギルドは素材を確保したいし、うちは薬草を安く仕入れたい。だがそれをすることによってより大きな問題が出てくるのであれば断るべきなんだろうなぁ。」


「でもギルドからは目を付けられるわよ。」


「それは仕方ない。別に悪い事をしているんじゃないんだ、向こうの企業努力が足りないだけさ。」


「ニアも結構大変だから出来れば助けてあげたいんだけど・・・。」


「冒険者同士でギルドに行こうみたいな連携はとれないのか?」


「取れるわけないでしょ!冒険者は個人プレーの塊みたいな集団なんだから。」


「それ、自信満々に言う事か?」


「えへへ。」


えへへじゃねぇよまったく。


あーめんどくさい。


俺は気楽に楽しく商売が出来ればそれでいいんだけどなぁ。


「いっそのこと素材の買取を止めるか?」


「はぁ?何言ってんのよ。」


「素材の買取を止めれば済む話だろ?必要な素材はこれまで通りギルドを通して買い取ればいい。その代わりギルドには依頼料の減免や優先注文を約束させる。そうすれば仕込みを維持する事は可能だ。」


「ですがこれまでのような突発的な仕入れには対応できませんよ。」


「そうよ!ギルドでは安く買うような素材がここでは高く売れる、それを望んでいる冒険者は多いんだから。」


そうなんだよなぁ。


ここで素材を買ってくれるから買い取り品も持ってきたっていう冒険者は非常に多い。


それを辞めてしまったら本業の客も少なくなってしまう。


それは由々しき事態だ。


となると素材買取は継続するしかない。


「あー、めんどくさくなってきた。」


「足りない素材があればそれだけ掲示するとか事前に知らせてくれたらいいのにね。」


「そうですね。素材の種類さえわかれば意図的に買取価格を落としてギルドに誘導することも可能ですし、週に一回家で買い取った分を納品しに行くという事も出来ます。まぁ、欲しいなら自分で取りに来るべきだとは思いますが。」


「その辺が妥協案って所だな。」


「それで薬草は安くなるのでしょうか。」


「わからん。だが、下手に固定買取に手を出すならしない方がいいというのが俺の意見だ。」


「ご主人様がそう思われているのであれば私は構いません。利益が増えればと思っただけですから。」


アネットの気持ちは非常に有難い。


もちろんミラやエリザもだ。


この店の為、そして俺の為知恵を絞ってくれているわけだからな。


どちらにしろ決断するのは俺だ。


三人とも俺の思うようにすればいいというだろう。


「遅くまでつきあわせて悪かったな、今日はもう休んでくれ。」


「かしこまりました。」


「私お風呂入ってこよ~っと。」


「そろそろ沈殿が終わったころですので様子を見てきます。」


お礼を言って俺も部屋に戻りベッドに倒れこむ。


考え事は好きだが面倒なことは嫌いだ。


そのまま目を閉じいつの間にか眠ってしまった。



「では改めて答えをお聞かせいただけますでしょうか。」


翌朝一番にニアと羊男はやって来た。


一晩って言ったし間違いじゃないんだけど、早すぎない?


「買い取りの自粛はしない、それがうちの結論だ。」


「そうですか・・・。理由をお聞きしても?」


「素材を売りに来る冒険者はうちの大事な客だ、彼らが来ることで本業の買取が成り立っていると言っても過言じゃない。素材の買取を止めれば必然的にそっちの客もいなくなる、儲けを出すためにもそれを受け入れることは出来ない。」


「そうですか・・・。」


俺の話を聞きニアが下を向く。


その様子を見て羊男がニアの方をポンポンと叩いた。


別にお前の嫁さんをいじめたくてやってるんじゃないからな?


わかってるよな?


「それともう一つある。せっかく長い期間守られてきた固定買取制度に俺という前例を作る事で今後同じように前例を作ってくれという輩が絶対に出てくる。それはいずれ制度自体を瓦解させることになるだろう。偉大な先人たちの苦労を無駄にしない為にも、そちらの提案を飲むことは出来ない。」


「確かにその通りです。それは私達も思っていました。」


「だろう?ギルドの事を思って、また街の事を思って薬師のいる俺ならばみんなも納得してくれるそう考えたのかもしれないが、未来の人間はそうじゃない。過去に前例がある、だからやろうという奴は絶対にいる。そのきっかけになりたくはないんだよ。」


「そこまで考えて下さるとは思っていませんでした。」


「そりゃ金儲けは大好きだが迷惑になる事は嫌いだ。お前のせいでなんて指を差されて生活するぐらいなら別の事で儲けさせてもらうよ。」


羊男がまっすぐに俺の方を見てくる。


俺もその目をじっと見返し、お互いにどうするべきかを考えている。


譲れない部分はある。


でも譲れる部分もある。


「では今回の協議は決裂という事で・・・。」


「いや、そこで提案がある。」


「提案ですか。」


きょとんとした顔をする羊男。


なんだよ、お前もそんな顔できるのか。


意外だな。


「冒険者ギルドの運営がおろそかになるのは、冒険者相手の商売をしている俺からしても由々しき事態だと思う。そこでだ、そちらが必要としている素材のリストをくれないか?それさえわかれば冒険者をギルドに誘導することが出来るし、なんならここで買い取ったやつを定期的にギルドに卸すことが出来る。そうすれば今のような問題は起こりにくくなるだろ?」


「起きないわけじゃないけど、全然違ってくると思う。」


「それでも足りなければ今まで通り別の方法で手配してくれ。俺達も出来る限りの協力はするつもりだ。」


「助かります。」


「ですがそれでは公平じゃない、そうですよね。」


「わかってるねぇ。」


お互いにニヤリと笑い合う。


協力はする、だからそっちもうちの儲けに協力しろ。


「そこで、ギルドには薬草の卸値を下げてもらいたい。銅貨15枚にしろとは言わないがそれなりの誠意を見せてもらえれば助かる。こうすれば固定買取制度に前例を作る必要はなくなるだろう。」


「なるほど。」


「卸値は公開しなければいいだけの話だ。うちも自分から周りに目を付けられることはしないさ。今まで通りギルドから仕入れれば少しでも運営費には貢献できるし、安く卸してもらえればうちの薬師がより頑張る事だろう。お互い冒険者相手の商売だ、手を組むのは悪いことじゃないよな?シープさん。」


「そうですね、その程度であれば問題はないと思います。さすがに原価で卸すのはあれですが、それなりの代金を支払っておられるわけですから文句は言われません。」


よしよし、いい感じの妥協点ってところだな。


うちは引き続き冒険者相手に商売ができるし、さらに言えばギルドから安く薬草を仕入れることができるようになる。


マイナス面があるとすれば、ギルドの指定する素材を手に入れることが出来なくなることぐらいだ。


それでも方法がないわけじゃない。


取引板だってあるし、冒険者に依頼を出すことだってできる。


ギルドには断りを入れる必要はあるだろうけど、それを拒否することはできないはずだ。


「妥協案として家で出来るのはこのぐらいだ、ギルドはどう判断する?」


「それであれば喜んでお受けします。さすがシロウさんですね!」


「俺というか三人の案でもあるけどな。」


「え!エリザも参加したの!?」


「冒険者としての意見はうちではかなり重要なポジションだからな。」


「信じられない、いつも変なこと言うのに。」


「それはまぁエリザだからな。」


張りつめていた空気が一気にほぐれていく。


ふぅ、最初はどうなる事かと思ったが何とかなりそうだな。


結論から言えばプラスの提案になった。


案ずるは産むが易しってか。


何はともあれ三人にいい報告が出来そうだ。


「では早速ギルドは必要素材のリストを作りシロウさんに提出してください。今回の協議に対してギルド協会は公平であったと認めます。」


「すぐに作ってエリザに持たせるね。」


「他にもこまごまとしたことは決めていかないといけないだろうが、それはその都度でいいだろう。どうやって素材を回収するのか、回収時の経費はどっち持ちかとかな。」


「その辺はギルドで支払うわよ」


「いいねぇ、さすがギルドの懐刀。」


「私の自慢の妻ですから。」


いやいや、いきなり惚気ないでもらえるかな。


お互い見つめあってニコニコするのもやめて頂きたい。


こっちもイチャコラするぞこの野郎。


その後二人を追い返し、店の裏でミラとアネットとひたすらいちゃつく店主の姿が見えたとか見えなかったとか。


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