114.転売屋は遭遇する
「で、壊れたの貰ってきたの?」
「まだ貰ったわけじゃない、直ったらの話だ。」
「直るの?」
「それはやってみないとわからんなぁ。」
と言っても俺は素人だし、魔道具とかいうよくわからない物はそもそも専門外だ。
電気式なら多少心得はあるが、それでも素人に毛の生えた程度何でもかんでも直せるわけじゃない。
「魔道技師はこの街にはおりません。隣まで行くしかないでしょう。」
「前にそう言っていたな。」
「昔はいたそうですが、ここは税金が高いですからね。」
「冒険者向けの商売でもないし、ここの貴族だけじゃやっていけなかったんだろう。」
で、税金を滞納したと。
高すぎるよなぁここの税金。
もっと安くならないんだろうか。
「もう直さずに普通にお金貰ったら?」
「それも考えたがせっかくの機会だしな、やるだけやってみるさ。」
「とか言って、アネットの手伝いが嫌なんじゃないの?」
「ちゃんと注文取って来ただろ?」
「2000個も作らなきゃいけないじゃない。この間の仕込みだってあるのに、アネット倒れちゃうわよ。」
「私は大丈夫です。蒸留水は容器さえあれば保存できますから。」
「もぅ、アネットはシロウの事になると甘いんだから。」
「ご主人様の頼みですから。」
アネットに後光が差している。
違った夕日だった。
流石に俺も注文受けすぎたとは思ってるよ?
ついさっきアネットのサポートをしようとか言ってたのに結果これだからなぁ。
面目次第もございません。
「2000個であればマンドラゴラの追加は必要ありませんし、むしろギルド協会に恩を売れると思えば決して損は無いと思います。」
「ミラまでシロウの味方なの?」
「私は何時でもシロウ様の味方です。」
「聞いた相手が悪かったわ。」
「ともかく魔道具技師については俺の方で責任をもって調べる、三人は引き続き作業を続けてくれ。アネット、くれぐれも無理はするなよ。指輪で体力が上がっているとはいえ過信は禁物だ。」
「この身体はご主人様のものですから、無理はしません。」
ならば結構。
ヤレヤレと言った感じのエリザを連れて一先ず裏庭へと移動する。
「で、当てはあるの?」
「ない。」
畑の芋もだいぶ大きくなってきたな。
生育次第では9月、遅くても10月には食べれるだろう。
青々とした葉っぱがいい感じだ。
「どうするのよ。」
「図書館で調べてみるつもりだが、そっちはそっちで冒険者に知り合いがいないか聞いてもらえるか?」
「それしかないわよねぇ。」
「昔技師をしていたとかでもいい。最悪直るかどうかの判断さえできれば十分だ。」
「そっか、別に今すぐ直さなくてもいいもんね。」
「そういう事だな。」
暑いので出来ればすぐにでも使いたいが、最悪二回目の夏に間に合えばいい。
隣町まで行けば技師がいるわけだし、その人に頼めば何とかなるだろう。
「わかった、色々と聞いてみる。」
「すまんが頼む。」
「えへへ、私だけ何もできないかと思ったらそうでもなかった。」
「お前にしかできない仕事はたくさんあるんだ、これからも頼りにしてるぞ。」
「まっかせといて!」
嬉しそうに胸を揺らすエリザ。
冒険者関係ではエリザだけが頼りだからなぁ。
ギルドには顔は利いても冒険者にはまだまだつてが無い。
その点エリザは他の冒険者とも仲がいいし、なんだかんだ言って行動力がある。
「とりあえずそれは倉庫にしまっといてくれ。くれぐれも大切にな。」
「は~い。」
「まだ時間はあるし図書館に行ってくる。今日の当番は・・・。」
「今日はミラだから大丈夫よ。」
「飯までには戻る、遅ければ先に食べといてくれ。」
「シロウ抜きで食べるわけがないでしょ。」
別に俺は構わないんだが、こういう所はみんな律義だよな。
奴隷が主人より先に食事をしてはならない。
そんな決まりがあるんだとさ。
朝飯?
あれは俺の命令で起きた順番って事にしてるからいいんだよ。
夕日の中図書館へ向かうとちょうどアレンが外に出ていた。
「外にいるなんて珍しいな。」
「たまには日の光を浴びないと健康に悪いからね。」
「健康・・・。」
「こう見えて結構年なんだ、あちこちガタが来て大変だよ。」
「そうは見えないがな。」
「それは君も同じじゃないかな。」
意味深な表情で聞いてくるがあえてそれには答えなかった。
別に知られてどうなるものでもないと思うが、できるだけ今の生活が変わるのは避けたい。
「魔道具についての本を探しに来たんだが、明日にしたほうがいいか?」
「魔道具?珍しいものを探しに来たね。」
「どうやら壊れているみたいで自分で直せるものならと思ったんだが・・・。」
「うーん、そういうのは専門家に任せるほうがいいと思うけど・・・。待ってて、確かそれ関係の本があったはずだから。」
「中に入らなくてもいいのか?」
「あれは手の届くところにあるから大丈夫。」
いつもなら本の山から引き抜くから手を貸せと言われるが、今日は言われなかった。
まるで中に入ってほしくないような感じだったので、わざわざそれを侵すこともないだろう。
しばらくすると真新しい本を一冊持って戻ってきた。
「なんでも昔この街にいた魔道技師が持っていた本らしいよ。」
「税金滞納した奴だろ?差し押さえられたんじゃないか。」
「ん~、詳しくは知らないけどギルド協会の職員が持ってきたからそうかもね。どう、よめそう?」
手渡された本をパラパラと開いてみる。
よくわからない設計図や配線図がたくさん描かれている。
だが説明文も多く、最初から読めば基礎ぐらいはわかるかもしれない。
こういうのは嫌いじゃないんだ。
「なんとかなるかもしれない。借りていいのか?」
「君なら返してくれそうだからね、特別だよ。」
「助かる。」
「僕はもう少しここにいるから。」
「そうか、邪魔したな。」
「またね。」
再び元の位置に戻り夕日を浴び始めるアレン。
まるで縁側に座るおじいちゃんのようだ。
まさか本当に中身は・・・ってなやつなんだろうか。
俺が俺だしその可能性も否定できないな。
もしかしたら異世界から来た同士なのかもしれない。
ま、どうでもいい話か。
貸してもらった本を手に店に戻る。
食事を済ませてから読みはじめると、思ったよりも面白くて夢中で読んでしまった。
気付けばもう夜中だ。
「ふぅ。」
「遅くまでご苦労様です。」
「ミラか、まだ寝ていなかったのか?」
「気になることを片付けておりましたらこんな時間になってしまいました。」
「あまり夜更かしするなよ・・・って俺が言うのもあれだな。」
「シロウ様もお体に差し支えます、早くお休みになってください。」
ぺこりと頭を下げてミラが寝室に戻っていく。
そういえば生理だって言っていたな。
奉仕はまた終わってからと残念そうにしていた。
別に義務のように思わなくてもいいんだけどなぁ。
その辺真面目だから。
明日に差し支えても困るし俺も寝るとしよう。
ベッドに横になり深く息を吐く。
すぐに眠気は来ないだろうと思ってたが、気付けば眠りの淵に落ちて行った。
「シロウ様、朝ですよ。」
「ん。」
「昨夜は遅かったので眠いと思いますが店を開ける時間です。」
「もうそんな時間か、寝過ごしたな。」
眠たい目をこすりながら体を起こすと、ミラがいつもの笑顔で前に立っていた。
ついムラムラとしてその体を抱きしめる。
「シロウ様、今は。」
「知ってる。」
うむ、抱き心地のいい体だ。
充電完了。
立ち上がりキスをするとこれまた嬉しそうな顔をする。
促されるように階段を降り、朝食を手早く済ませるともう開店の時間だった。
店の方に移動すると早くも玄関前に人影が見える。
マジか。
明かりをつけ、ドアを開けると目の前にいたのは30代位の男性だった。
「朝早くから失礼、ここは何でも買い取ってくれると聞いてきたんだが本当か?」
「大抵のものは買い取ってる。入ってくれ。」
話し方から察するにそれなりに学のあるっぽい感じだな。
貴族かどうかはわからないが、気を付けたほうがいいかもしれない。
なんせ過去に色々言われているしな。
男をカウンターまで誘導する。
「早速だが物を見せてもらえるか?」
男は無言で頷き、背負っていた大きなカバンを床に下した。
登山に行くときに使うよう奴だが体が大きかったので見えなかったんだな。
中から取り出したんは緑色の不思議な石。
それとよくわからない小型の機械がいくつか。
合計7つがカウンターの上に並べられた。
「触っても?」
「すぐに壊れるようなものじゃない、大丈夫だ。」
「では遠慮なく。」
一見なにかわからない物でも触るだけでわかるんだから、鑑定スキルってすごいよなぁ。
手始めに分かりやすそうな緑の石に手を当てる。
『風の魔石。通常の魔石と違い風属性の魔法の魔力が封じ込められている。最近の平均取引価格は銀貨12枚、最安値銀貨10枚、最高値銀貨15枚、最終取引日は二日前と記録されています。』
ほぉ、これが属性石ってやつだな。
家の湯沸かし用の魔道具にも火属性の魔石が組み込まれている。
通常の魔石よりも効率がいいらしいので、恐らくこれもそうなんだろう。
ちょうど手元に風の魔道具があるし直ればすぐに使えるな。
「風の魔石か、それなりの大きさだが普通だな。」
「それはこの装置を動かすための触媒に過ぎない、メインはこっちだ。」
「というとこれは・・・。」
他の機械にも順番に触れていく。
『魔道具。』
その単語を見た瞬間に俺は相手の顔をまじまじと見てしまった。




