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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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113.転売屋は扇風機を買う

酒は好きだ。


だが飲みすぎるのは好きじゃない。


過去にこっぴどく飲まされてひどい二日酔いになったことがある。


この世の終わりかと思うぐらいの頭痛と吐き気に二度と飲みすぎないと誓ったんだ。


「酔い覚ましの薬?」


「はい、夏に向けて作っておいて損は無いと思います。」


「酔わないわけじゃないのか?」


「あくまでも酔いを醒ますものですね、二日酔いにも効果があります。」


「なるほどなぁ。」


八月を前に何を仕込もうかという話をしていた時だった。


その日買い取った魔物の素材を手にアネットがハッとした顔をする。


それはマンドラゴラという一度は聞いたことのある魔物の素材だった。


素材っていうかそのものっていうか。


色的に大根が人の形に成長したような奴で、ちゃんと葉っぱの部分も存在する。


ものすごい悲鳴を上げて襲ってくるらしいのだが、叫び声を聞いて死ぬことは無いらしい。


俺の記憶にあるのは引っ張るときに悲鳴を上げるだから、こいつが歩いてくるっていうのは想定外だ。


ぶっちゃけ怖いんだろうか。


可愛い部類に入るんじゃないか?


「いいじゃない、これから飲酒量は増えるし祭り前に丁度いいわよ。」


「祭りがあるのか?」


「八月の終わりにね、一年の三分の一が終わるお祝いみたいな大きなお祭りよ。」


「盆とはまた違うのか。」


「ボン?」


「この前みたいな死んだ人が戻って来る事をお祝い・・・違うな、迎え入れるやつだ。」


盆踊りってもとは先祖の霊を迎え、そして送り返すためのやつ・・・と記憶しているんだが。


違ったかな。


「変なお祭りがあるのね。」


「独特の文化だからこっちには無いだけかもな。で、その祭りでは酒を飲むのか?」


「飲むわよ、それはもうすごく。」


「飲み比べでもやるのか?」


「その通りです。この街一番の座をかけて大会が催されます。」


なんとまぁ、急性アルコール中毒を怖がらないまつりだこと。


あぁ、だから酔い覚ましの薬があるのか。


「その練習も兼ねて八月になると皆お酒をいっぱいのむのよ。」


「酒飲みの口実じゃないのか?」


「だっていきなり飲んだら潰れちゃうでしょ?だから時間を掛けて体をお酒慣らしていかなくちゃいけないの。」


言いたいことはわかるが、それでも酒を飲む為の口実のようにしか思えない。


「シロウ様はあまりお酒を召し上がりませんね。」


「嫌いじゃないがあまり大量はな。」


「でも飲めるんでしょ?」


「昔は飲んだが、最近は控えてる。」


「昔ってそんな年でもないじゃない。」


「ご主人様は時々物凄い年上みたいなことを言いますよね。」


実際年上だからなぁ。


「とりあえず売れるなら作ってくれ、素材は大丈夫か?」


「冒険者ギルドに掛け合って比較的安くマンドラゴラを卸してもらえる事になりました。冒険者ギルドは毎年優勝候補ですから、今年も鍛錬に余念がないのでしょう。」


「つまりは素材を安く卸すから薬を優先的に回してくれという事か。」


「そういう事ですね。」


ちゃっかりしてやがる。


でもまぁ素材が安く手にはいるのであれば問題はない。


優先的に回してくれと言われているだけで値引いてくれと言われているわけでもないしな。


「他の素材は?」


「あとは市販の薬草で事足ります。」


「そうか、アネットにはまた無理をさせるがよろしく頼む。」


「お任せください。」


冷感パットもそうだったがここ最近はアネットに頼りっきりだ。


もちろん俺はもちろんミラやアネットも自分の仕事をしっかりとしてくれている。


だが少々というかかなりの割合で今はアネットに比重が行っている感じだ。


出来るだけカバーしてやらないと。


「って事で俺は薬の売り込み先を回ってくる。」


「畏まりました。」


「マスターによろしく言っといて。」


「たまには向こうに戻れよ、宿代がもったいないだろ。」


「シロウはその方がいいの?」


「なわけないだろ。」


「じゃあ行かない。」


ヒラヒラと手を振るエリザに見送られ、売り込み先へと足を向ける。


今回は住民よりもお店に重きを置いて販売する事になっている。


前回の教訓を生かして、不特定多数ではなく販売先を固定してそこから振り分けてもらう方が簡単だという結論になった。


特に今回は薬の使用者が殆んど店で飲む。


ならそこで売ってもらった方が使用者も販売者も手軽というわけだ。


「で、うちに来たと。」


「酒のみと言えばまずはここだろ。」


「いや、うちは宿であって飲み屋じゃないぞ。」


「だが飲んだくれは多いよな。」


「・・・まぁな。」


「それだけマスターの飯と酒が美味いって事だ。で、どのぐらいいる?」


今回は個数を決めずに受注された分だけ作ることにしている。


残っても問題ないが、出来るだけ在庫は抱えたくない。


「そうだなぁ、祭りまで後一か月とちょっと・・・。多目に100って所か。」


「控えめだな。」


「薬目当てに深酒して暴れられても困る。」


「そりゃそうだ。」


暴れるのは構わないがその後始末をするのは自分だ。


出来るだけ面倒は避けたいよな。


「他に入用の薬はあるか?」


「いや、特にないな。」


「はいよ。」


「なんだ、奴隷の使い走りか?」


「それで金が稼げるなら喜んで走るさ。」


「いいねぇ、お前のそういう所が好きだぜ俺は。」


「やめてくれよ。」


とりあえず商談成立だ。


帳簿に必要数を書き込み次の店へと向かう。


「そうですね、うちは300個程頂けると助かるかな。」


「それぐらいいるよなぁ。」


「連日大騒ぎだから猫の手も借りたいところなんだけど、誰か良い人知らないかい?」


「誰でもいいのか?」


「出来れば騒ぐ冒険者をとっちめられる人がいいね。」


「ってなると同業者か。ギルドに聞いてみるよ。」


イライザさんの所は300個か。


ま、順当だな。


俺のプロデュース以降順調に売り上げは伸び、今では連日満員御礼だ。


皿投げも好評で、今は自前で仕入れをしているらしい。


もともとそういう話だったし好調なのはいい事だ。


今でも恩を感じて食べに行くと一品オマケしてくれる。


イライザさんの飯はついつい食べ過ぎてしまうんだよな。


で、翌日胃薬のお世話になる。


そういえばアネットが来てからそっちでも困ることはなくなったなぁ。


ほんと今思えばいい買い物だったわ。


それからイライザさんの紹介で何軒か飲食店を回り、合計500程の注文を受けた。


これで凡そ1000。


残るはギルド協会と冒険者ギルドなんだが・・・。


「シロウさん待ってましたよ。」


「なんで俺が来ることが分かったんだ?」


「そりゃあ色々お店を回っているって情報が入ってきましたから。」


「そいつはご苦労な事だ。」


ギルド協会に入ってすぐ満面の笑みを浮かべた羊男が出迎えてくれた。


この顔をしている時はあまりいい話じゃない。


さっさと引き返して・・・。


「なんで帰ろうとするんですか。」


「いやぁ、その方がいい気がしてな。」


「酔い覚ましの注文ですよね、うちは1000個お願いします。」


「はぁ?」


「アネットさんの薬ですから効果は間違いありませんし、夏に向けてほしいという貴族も多いんです。何より祭り当日にかなりの人が来ますから、彼らに配る分を考えるとそれぐらい必要なんですよ。」


「そうか、祭りの運営はギルド協会か。」


「もちろん高値で売るようなことはしませんよ、参加費に薬代も含めていますから。」


なるほどな。


参加費に入れておけば金は払わないとか言われる事は無い。


必要が無ければ手元に残るし、渡すだけ渡して好きにしてもらってもいい。


あくまでももらいっぱぐれが無い、言い方を悪くすれば損が無い様にしているわけだ。


流石だな。


「で、ですねぇ。」


羊男がさらに悪い顔をし始める。


ほらみろ、この男がタダで引き下がるわけが無いんだよ。


「何だよ。」


「物は相談なんですが、こちらと引き換えに仕入れ代金を安くしてもらう事は可能でしょうか。」


「値下げは受けないぞ。」


「わかっています。ですので、こちらを代金の一部として充当できないかとの相談です。」


そう言いながら羊男取り出したのは一枚の紙きれだった。


なになに・・・。


『代金の一部として風魔法の魔道具を用意する。』


簡単に書くとこんな感じだ。


なんでも前回同様税金の滞納で差し押さえた魔道具があり、それを使えないかとの事だった。


風魔法の魔道具か。


これって前に話してた扇風機的な奴になるのか?


「結構な値段するやつだろ?充当どころか俺がいくらか払わなきゃならないんじゃないか?」


「そんなに大型な物ではありませんから、半分ぐらいになれば助かります。」


「まずは物を見てからだな。」


「もちろんです。」


さぁどうぞと言わんばかりに手を広げて奥へと誘導する。


向かったのは前と同じ倉庫。


ご丁寧に一番手前にそれは置いてあった。


見た目はバレーボールぐらいの小さな扇風機。


というか完全にサーキュレーターだな。


首振り機能とかは一切なく、ただ単純に風を起こすだけのようだ。


「ここに魔石を置くだけで動くようになっています。使わない時は魔石を外せば止まります。」


「随分原始的なやり方だな。スイッチとかないのか?」


「外す方が簡単なんですよ。」


「確かに。」


『風魔法の魔道具。適度な風を起こすことが出来る。魔石の純度によっては強くなりすぎるので注意。壊れている。最近の平均取引価格は金貨5枚、最安値金貨2枚最高値金貨6枚銀貨40枚、最終取引日は27日前と記録されています。』


触ってみるといつものようにスキルが発動した。


って、おい壊れてるぞ。


「壊れてるそうだが?」


「え?」


「俺のスキルだと壊れてるとでる、試運転はしたのか?」


「確認はルルーに頼んだんですが・・・。」


「ご愁傷様だな。」


「壊れていても直せば動くかもしれません、どうでしょう。」


「いや、どうでしょうってお前・・・。」


壊れているとわかって尚これを使おうと普通思うか?


思わないよな?


マジで羊男こいつの頭ん中見てみたいんだが。


「金貨1枚、1枚で良いですから。」


「何をそんなに切羽詰まってんだ?参加費を取るならそれでいいじゃないか。」


「最近経費の掛け過ぎで上に色々言われてまして。」


「それで必死なのか。お前も大変だな。」


「ほとんど尻ぬぐいなんですけど、私以外に出来る人がいないんですよ。」


「下を育てろよ。」


「出来るものならやってます。シロウさんいかがですか?」


「絶対に嫌だね。」


何が悲しくて公務員みたいな仕事をしなきゃならないんだ。


俺は今のままで十分だよ。


「そこをなんとか・・・。」


「まぁ気持ちはわからなくはない。直るんなら金貨1枚で買ってやろう、それでどうだ?」


「致し方ありません。その代わり修理の手配はそちらでお願いしていいですか?」


「わかった。だが直らなかったら買い取らないからな。」


「シロウさんなら何とかしてくれますよね。」


その自信は一体どこから来るんだよ。


俺は壊れていると思われる魔道具を手に、どうするべきかを思案するのだった。

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