103.転売屋は蚤の市を見て回る
人人人。
こんなにも人で溢れる街を見るのは初めてだ。
感謝祭の時期も多くの人でにぎわっていたが、まさかこれ程とは・・・。
蚤の市が開催した。
大通りでは住民が不用品や創作品など思い思いの品を販売している。
また、商店街では各商店がその店独特の品を展示販売している。
ちなみに買取屋である当店は、珍しい品の他エリザ主導のお菓子とアネット自作の薬が販売されている。
開店当初から大勢のお客に来てもらい中々の売上が期待できるだろう。
そして俺はというと・・・。
「おばちゃんその品見せてよ、そう、それ。」
「ばあさまが使ってた壺だよ。」
「へぇ、何に使ってたんだ?」
「これに入れると不思議と中のモノが長持ちしてねぇ、手製のピクルスを入れてたんだ。」
古ぼけた小さな壺を見せてもらう。
『腐らずの壺。防腐作用がありこの中に入れておくと腐食しづらくなる。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨18枚、最高値銀貨44枚、最終取引日は22日前と記録されています。』
お、良い感じの壺だ。
飲食店に卸すにはちょうどいい、マスターかイライザさんに声をかけてみるか。
「いい壺だな、いくらだい?」
「そうだねぇ・・・ばあさまもこれだけは売らなかったしいい壺なんだろう。銀貨8枚でどうだい?」
「ちょっと高いな、5枚は?」
「それじゃ売れないよ。そうだ、この布も一緒にどうだい?冒険者の息子が持ってかえってきた奴だ。」
そう言いながらおばちゃんが古ぼけた布を手渡してきた。
「布。ただの布。だいぶ傷んでいる。最近の平均取引価格は銅貨2枚、最安値銅貨1枚、最高値銅貨3枚、最終取引日は本日と記録されています。』
やっぱりただの布か。
パスだパス。
「そっちの小刀は?」
「これは錆びちまって使えないよ?」
「売り物だよな?」
「まぁねぇ。」
何の変哲もない小刀なら相場スキルで値段が浮かび上がってくるはずだ。
だがそいつは何をしても浮かんでこなかった。
ちなみにさっきの布もしっかり値段が表示されていたので端から期待してなかったけどな。
『猪殺しの短剣。猪にのみ絶大な鋭さを発揮する小刀。これに急所を刺されるとどのような猪も死に至る。錆びている。最近の平均取引価格は銀貨15枚、最安値銀貨6枚、最高値銀貨33枚、最終取引日は78日前と記録されています。』
お、面白いな。
猪殺しだって。
龍殺しがあるんだから猪殺しがあってもおかしくは無いけど・・・。
微妙じゃね?
でもまぁ価値はあるしベルナに売るネタにはなるだろう。
「いいよ、それと一緒で銀貨8枚だ。」
「ありがとうねぇ。この布は?」
「要らない。」
どんだけ布押しなんだ。
代金を支払い壺と小刀を籠に入れる。
ふぅ、結構重たくなってきたな。
一度置きに戻るとするか。
しっかし、すごいな。
たった数軒回っただけでこの収穫だ。
出来ればもっといいやつを見つけたい所だが、焦ってもしょうがないよな。
コツコツいこうコツコツ。
一先ず荷物を置きに店へと戻る。
店の前まで行った所で信じられない光景が俺の目に飛び込んできた。
「次の人どうぞー!」
「蟻砂糖なしのほうですね、銅貨3枚です。」
「この時期の風邪でしたら熱さましを一緒にするといいですよ、のどの薬と一緒でしたら今日だけ銀貨1枚です。」
長蛇の列が出来ていた。
両隣もなかなかの列だがうちの列がかなり凄い。
客層が違うからアネットとエリザで列を分けているんだろうな。
列をよけながらなんとか店の前に到着できた。
「あ、シロウ手伝ってよ。」
「荷物を置きに来ただけだから、しっかり頑張れよ。」
「頑張れよって、そんな無責任なこと言わないでよぉ。」
「やるって言ったのはお前だからな。みろよ、ミラもアネットも涼しい顔してるぞ。」
「なかなかのお客様ですがまだ大丈夫です。」
「はい、次の方どうぞ!肩こりの薬ですか?お仕事は?どんな時に痛みますか?」
アネットは俺に気づいてすらいなさそうだ。
集中すると周りが見えなくなるんだよなぁ。
「とにかく頑張れ、荷物置いたらもう一回行ってくる。」
「ちょっとシロウ~!」
エリザの悲痛な叫びは無視して倉庫の前に買ってきた品を置いて再び外に出る。
それから昼過ぎまで、ただひたすらに店と大通りを往復しつづけた。
金がアホみたいに出ていく。
それはもう大穴の開いた革袋に水を入れたようにだ。
チョロチョロじゃない。
ざばーって感じ。
よかった、先に金貰っといて。
「ふぅ、流石に疲れたな。」
「疲れたってもんじゃないわよ。ちょっとは手伝ってよね。」
「言っただろ言い出しっぺなんだから最後までやれよ。」
「だからやってるじゃない。」
「そうは見えないが?」
「全部売れちゃったからもう一回焼き直してるの。」
二日掛けて準備したのにもう完売したのか。
流石だな。
「今はアネットの店だけか?」
「あっちも在庫はほぼはけちゃったから今は薬の予約を取ってるみたい。」
「大繁盛で何よりだ。」
「体が二個欲しいわ。」
「本望だろ?」
「まぁね、シロウのお店は無理だけどこういうお店ならやれるかもしれない。」
「いいじゃないか、引退したら菓子でも作れよ。」
「ふふ、その為にも頑張ってお金貯めないとね。」
この街で新たに菓子屋を開くのは大変だぞ。
なんせ税金が半端ないからな。
単価を取れない以上数でこなさなければならない。
もしくは付加価値のある商材で一発当てるか・・・。
そうか、まさに今それだな。
蟻砂糖は今一番のブームだし、それに乗っかった菓子は飛ぶように売れている。
材料さえあればかなりの利益を出せるモンスター商材だからなぁ。
とはいえ、これも今回だけの話だ。
明日からはいつもの買取屋に戻る。
次回は次の蚤の市までお預けだな。
「エリザ様焼きあがりました。」
「まってました!袋はまだあるよね?」
「先ほど追加の連絡をしましたので大丈夫です。」
「それじゃあチャチャっと準備しちゃおう!」
「はい、頑張りましょう。」
エプロン姿のミラが焼きあがったばかりの菓子を持って戻ってきた。
うーむ、良い匂いだ。
「一枚頂き。」
「あ、こら!」
「それじゃあ頑張れよ、俺ももう一回行ってくる。」
「も~シロウ!」
はっはっは美味であった。
エリザの文句を聞きながら店の外に出る。
まだまだ大勢の人でにぎわっているようだ。
アネットの列はまだ続いたままだ。
トイレとか大丈夫なんだろうか。
集中すると気づかない事が多いが、熱中症にも気を付けてほしい所だな。
「あ、ご主人様お出かけですか?」
「あぁ、アネットも少しは休憩しろよ?」
「そうですね、次の人が終わったらそうします。次の方どうぞ~。」
それってつまり休憩しないっていう事だからな。
まったく人の気も知らないで困った奴隷だ。
そんなことを考えながら大通りをうろうろしていると、人ごみの中に小さな子供がいるのを発見した。
年齢は5つにも満たないぐらいの男の子だ。
小さい子供なんてそこら中にいるが大抵は親と一緒にいる。
だがその子の周りにはそれらしい人はおらず、ただ茫然と大通りの真ん中で立っていた。
おいおい、迷子か?
いや、迷子にしては変な感じだ。
泣き叫ぶわけでもなく誰かを探している感じもない。
孤児か?
それなら教会の管轄だが・・・、モニカの所にあんな子はいなかったよな。
うーむ謎だ。
気付かなかったらそれで済んだ話なんだが、年齢が年齢だけに放っておくわけにもいかない。
最悪迷子ならギルド協会の迷子センターに連れて行けばいいだろう。
やれやれ面倒な性格だなぁ俺も。
「坊主迷子か?」
「・・・なんだ人間か。」
「人間で悪かったな、獣人を探してるなら他所に行くが?」
「いや獣人でも人間でもどっちでも構わん。それにしてもこの人込みはなんだ?」
「蚤の市に決まってるだろ。」
このしゃべり方、大人だったか。
まったくこの世界の住民は見た目で判断できなくて困る。
絶対に子供だと思ったんだがなぁ。
幼すぎるだろ。
「蚤の市。何かを売り買いしているようには見えるが?」
「そうだな、不要な物を売りそれを欲しいと思う奴が買う。まぁ食い物なんかも売ってるから全部が全部不用品ってわけでもないか。」
「まことに人は面白い事を思いつくな。必要な物なら自分で作ればいい物を。」
「作れないから買うんだろ?それに欲しいと思っていてもそれほどでもない物は中々買いにくいからな。その点、こういった場だと財布の紐が緩み買いやすい。」
「つまりお前みたいになるのだな?」
「そういう事だ。」
「そうか。久々に地上に出てみたが面白い時に出てきたようだな。」
なんだか一人で頷いて満足してるぞ。
何だこいつ、地上に出るってモグラか何かか?
「まぁ迷子じゃないならそれでいい。じゃあな。」
「まぁ待て、おぬし暇だろ?」
「暇に見えるか?」
「暇でなければ我に気づくことはあるまい。朝からここにいるが皆自分の事に夢中だからな。」
別に暇じゃないんだが・・・。
って今こいつなんて言った?
朝からここにいただって?
ここは何度も通っているがこんなガキ見てないけどなぁ。
それだけ俺が買い物に夢中だったって事だろうか。
うーむ。
「暇じゃない。」
「気づいたのだから暇なのだろう。久々の地上、案内してくれんか?礼はするぞ。」
「うーむ・・・。」
案内と言われてもなぁ、俺はまだ仕入れをしたいし・・・。
とはいえ疲れてきて真面目に見る気がなくなっているのは事実だ。
まぁ、いいか。
「暇じゃないがついてくるのは構わない、だが邪魔するなよ。」
「礼を言う。」
「名前は?」
「ボードだ。」
退屈ね。
馬鹿兄貴同様ピッタリの名前じゃないか。
「俺はシロウだ。んじゃま適当にうろうろするか。」
「よろしく頼む。」
蚤の市後半戦。
まさか子連れ?で回ることになるとは思わなかったが・・・。
まぁ何とかなるだろう。




