1−33:父上への報告と説明
「……ふむ、ダンジョンでそのようなことがあったのか」
「はい」
ギルドで換金後にオズバルド本部長へ事情を説明した僕たちは、まっすぐお屋敷まで戻ってきた。今日は父上が早めに帰ってこられていたので、すぐにアポを取ってダンジョンで起きたことの説明に上がった。
「ふん、バルテンの無能当主は子の教育ですら無能か、実に救いようが無いな。やつの派閥の長であるエルネスト公爵様には、政敵ながら同情を禁じ得ないな」
僕の話を聞いた父上が、珍しく呆れた様子で吐き捨てるように言っている。バルテン伯爵の無能さは確かに有名だけど、父上がこうまで言うということは相当酷いんだろうね……。
「全くです。僕が会った伯爵家の方も、傲慢なわりに思慮の足りない方でしたから」
あの伯爵家三男坊殿も、状況判断がまるでできていない時点で色々と終わってるけどね。武力で明らかに負けている相手にあそこまで偉そうに対応できるのだから、むしろ感心しさえするよ。
……それ以前に、貴族以上の政治力を持つ平民探索者もたまにいるというのに怖くないのかな? 叙爵される前のオズバルド本部長も、伯爵家すらお取り潰しにまで追いやるほど苛烈な方だったらしいし。そういう人に平民だからといって高圧的に当たってしまったら、潰されるのはむしろ自分の方なんだけどね。
「改めてエリオスよ、お前の対応は大正解だった。探索者としても、貴族としてもな」
「ありがとうございます」
「内務貴族ならばともかく、我々軍務貴族が他家に侮られては終わりだからな。 爵位ではなく実情を鑑みて対応できるという、知略面での評判も上がる良き対応であった。相手を直接害していないことと、オズバルドにすぐ説明しに行ったのも満点対応だ」
父上に向けて、そっと頭を下げる。
……よかった、実は少し不安だったんだ。落ち目とは言え相手は伯爵家だったし、実は懇意にしている強い貴族家があったとなれば、家同士の力関係をひっくり返される可能性もあったからね。
バルテン伯爵家の場合は先代が現当主の兄で、格上の侯爵家令嬢と婚姻を結べるほどに有能な人物だったそうだけど……その方が亡くなったことで侯爵家との縁が切れ、件の侯爵家令嬢も実家に帰ってしまったそうだ。だから大丈夫と踏んではいたけど、父上と答え合わせができて内心ホッとしている。
「よし、その件は私の方でもしっかり対応させてもらうとしよう。
……ところでエリオスよ、本日のダンジョン探索はどうであった?」
はぁ、これでようやく本題に入れるよ。全く、あの伯爵家三男坊殿も余計な手間をかけさせてくれるものだね……。
「はい、本日は第4階層を中心にボス部屋周回を実施しました」
「第4階層というと、相手はスモールボアか?」
「そうです。計60戦、120体と戦い無傷で殲滅しております。ブロンズゴーレム8体による連携を前に、Eランクモンスター最強のスモールボアも突破口は見出だせなかったようです」
「ふむ……レベルはいくつになったのだ?」
「レベル測定は実施できておりませんが、おそらく20に到達しているものと思われます」
「ふむ、そうか……おい、セバスよ」
「はい、こちらに」
部屋の端に待機していたセバスを、父上が呼び付ける。
「レベルゲージを用意してもらえるか? エリオスのレベル測定を実施したい」
「はい、こちらに用意してございます」
「ふむ、いつものことながら準備の良さはさすがだな」
「お褒めに預かり光栄でございます」
セバスが両手を合わせて開き、僕に向けて差し出してくる。その手の上には、透明なガラス状の板のようなもの――使い捨てタイプのレベルゲージが乗せられていた。
それを手に取り、そっと念じる。
……レベルゲージの上に、"20"という数字が浮かび上がってくる。間違いなく僕は、レベル20へと到達していた。
「……早いな、もうレベル20に到達するとは。ダンジョン探索を許可してから、まだ3日しか経っていないのだぞ?」
「ダメージ無視というゴーレムの特性を最大限活用した、ボス部屋高速周回が功を奏したようです。ゼルマとフランクもレベル20に到達しましたが、スモールボアを120体ほど倒してもレベルは上がらなかったようですが……」
「当然だろうな。レベル20からはレベルアップに必要な経験値量が大幅に増えるゆえ、より強い相手と戦わなければレベルはなかなか上がっていかぬ。だが、エリオスもそう簡単に先に進むつもりはないのであろう?」
「はい。ブロンズゴーレムの制御数を着実に増やしつつ、しばらくはホブゴブリンとスモールボアを中心にボス部屋周回を実施する予定です。ポーションやバングル系アーティファクトも多く集めたいですから……」
レベルが上がっても、技術が勝手に身に付くわけじゃないからね。"探索者は冒険しない"という金言があるけど、その通りに探索深度はじっくり深めていこうと考えている。
焦る必要は全く無い。むしろ順調すぎて、不安になりそうなくらいなのだから……。
あ、そうだ。今のうちに、父上に第4階層のボス20戦連続勝利ボーナスの報告をしておこう。
「本日は第4階層のボス部屋周回ボーナスにて、こちらの品を入手しました」
マジックバッグからパワーリングⅠを3つ取り出し、テーブルの上に置く。それを見た父上は、スッと目を細めた。
「これは?」
「パワーリングⅠです。第4階層のボス部屋周回にて入手いたしました」
「ほう、なるほど……」
「こちらを、父上に差し上げようと考えています」
アルカディア聖騎士団では、確か能力アップ系アーティファクトを集めていたはず。対外戦闘を担当する騎士団でもあるので、武力の底上げは急務だからね。そこに少しでも貢献できれば、軍事系貴族家の一員として確かな功績になり得る。
……そう思って出したのだけど、父上は首を横に振っている。どうしたのだろう。
「エリオスよ、さすがにアーティファクトをタダで受け取るわけにはいかぬ。正当な対価が必要だ」
「功績を一部頂ければ、私としては十分です。父上が認めた聖騎士団の方にお渡しください。私が入手したことを付け加えて頂ければ、それが正当な対価となり得るかと」
「むむむ……」
騎士団の戦力底上げに寄与することも、立派に国への貢献にあたる。その功績を一部でも貰えたなら、いつかは自力で身を立てていかなければならない僕としては十分に正当な対価となり得る。
……それに、僕が直接渡しても疑われるだけだからね。ボス部屋周回ボーナスのことを知らない人からすれば、10歳の子供がダンジョンで複数のアーティファクトを入手してくるなんて信じられないことだろう。精々お金でアーティファクトを買ったか、誰かの功績を横取りしたかと考えるのが普通の反応だ。
しかし、そこに父上が仲介すればどうだ? 清廉潔白を旨とする父上からすれば、金にものを言わせて功績を買うような真似は浅はか極まりなく、最も嫌悪すべきことだからだ。周りの人たちも当然そのことは知っているので、父上が持ち込んだアーティファクトはダンジョンで入手した物だというお墨付きが頂けるわけだ。
そして、50万ペルナの価値があるアーティファクトを国のために3つも差し出したとなれば、これは十分な功績になる。その功績のほんの一部だけでも得られれば、僕にとっては150万ペルナ以上の価値になるのだ。
……しばらくはこれで様子を見て、うまくいけば次はバングル系アーティファクトを出してもいいかもしれないな。
「……分かった、そうさせてもらおう。聖騎士団としても戦力の増強は急務であるゆえ、ありがたく配分させてもらう。
だが、一気に3つも見つけたとなれば入手先を探られるのは明白……信頼できる者を介して、少しずつ配分していこうと思う。これがエリオスの功績となるには、今しばらく時間がかかるが……」
「はい、それで構いません。むしろ、僕としてはその方がありがたいです」
あまり急激に功績を上げたとなれば、やっかんだり足を引っ張ったりする人は必ず出てくるからね。そこをゆっくりと、時間をかけて名を上げていけるのならそれに越したことは無い。
「……報告は以上となります」
「うむ、報告は確かに受け取った。バルテンの件は気にせずともよい、こちらでも然るべき対応をするのでな。今後も無理せず精進せよ」
「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」
椅子を立ち、一礼してから父上の執務室を出る。
……明日はゼルマが、明後日はフランクが居ないそうなので、ダンジョン探索は2日間お休みだ。その間は私兵団員たちとの模擬戦を実施し、ブロンズゴーレムの制御力向上を狙う予定だ。
目標数は、16体。そろそろ武器も剣以外に持ち替えさせて、本格的な連携運用も練習していきたいものだ。
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