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33、三人目の女神クリス

『見事な勝利でしたよ、リック様!』

『へえー、よくあいつを初見で倒せたじゃない。褒めてあげるわ』


 勝利の安堵に包まれていると、アルティナとメルトが俺を褒めてくれる。

 多少気恥ずかしかった物の、ストレートに褒められるのは正直嬉しかった。


 何よりこれほどの強敵と真正面から戦って勝利できたという充実感。それが俺の体を包み込んで、満足感と共に意識が薄れていきそうだ。


 まるでふわふわと体が浮いていくような心地よさ。このまま眠ればきっと凄まじく気持ちいい睡眠が取れる気がする……。


『……ちょっと! あんた毒で死にかけてない!? バカッ! 寝るなー! 今寝たら絶対死ぬわよ!』

『リック様! 起きて! 起きてください! 早く解毒薬を作って飲むんです!』


 ……やばい、今死にかけてたのか。


 エルダーリッチとの戦いで、体にはしこたま水銀毒が撃ち込まれている。何だか全身が寒くなってきたし、手足もガクガク痙攣してて立ち上がれない。


 せっかく勝利したというのに、このまま毒で死んでしまうのは嫌だ。毒でじわじわ弱りながら意識を失うのは、なぜか不思議と心地よさも感じてしまい、それが死への甘い誘惑に思えて恐怖を覚える。


 思うように動かない手を動かし、マナで作りだした解毒薬を何とか飲んでいく。

 かなり強い毒だったのだろう。解毒薬を二本ほど飲んで、ようやく全身を包み込んでいた悪寒が消えた。


 毒が消えた後は回復薬を飲み、なんとか体力を回復させる。そこまでしてようやく立つことができた。


「はぁ……危なかった……」


 ここにきて俺は状態異常の危なさを学んだ。これまで毒を受けたことが無かったが、ここまで追い詰められるとは思わなかった。


『毒などの状態異常は、それに対する知識スキルである程度効果を減じることができます。今後積極的に覚えておくといいかもしれませんね』


 アルティナにそうアドバイスされ、俺は頷いておいた。知識って大事だよな。


 完全回復した俺は、改めてこの紫色の鉱物で作られた遺跡を見回してみる。

 ……見るからに不思議な場所だ。どこもかしこもキラキラと紫色に輝いていて、不思議な魅力がある。


『それは魔晶石ね。微量だけどマナを生み出す鉱物よ。これを使って作られた武器は魔法ダメージを増やす効果を発揮することが多いわ。覚えておきなさい』


 つまり、魔法を主体にする場合はこの鉱物で作られた武器が有用というわけか。

 魔法といえば、エルダーリッチは杖を使っていた。魔法使いは杖を装備しているイメージだが、多分杖には魔法に関する付与効果が付きやすいとかあるのだろう。


 そういえば……とエルダーリッチを倒した辺りを改めて観察する。エルダーリッチが倒れて黒い霧と化して消え去った場所には、奴が使っていた銀色の杖が残されていた。


 思えばクロウラーに勝利した時も使っていたメイスを落としてくれた。ならこの杖ももれなくレジェンダリー武器なのだろう。


 とりあえず投擲したメイスと共に杖を回収する。その際中級鑑定スキルで鑑定してみるも、それはとてもレジェンダリー等級とは思えない武器だった。

 追加ダメージなどの強力な効果が存在せず、魔法発動速度が20パーセント上がるだけの杖だ。


 しかしレジェンダリー武器は上級鑑定スキルでなければ判明しない効果があるらしい。真価を発揮するのは俺が上級鑑定スキルを取得した後になる。今はまだ弱いといえ、価値を決めるのにはまだ早い。


 とはいえ、今重要なのは武器よりもこの遺跡の奥に封印されている女神だ。エルダーリッチを倒した事で封印される女神の元へと近づくことができた。


 茨に体を包まれる美しい女神の姿。長い赤色の髪。細いながらも胸が大きく女性の魅力十分な肢体。茨が絡みついているせいで、その巨乳がことさら強調されている。何だか見ていてドキドキしてきた。


『彼女は知識を司る女神、クリスです。リック様、どうか助けてあげてください』

「ああ」


 アルティナに応え、俺はクリスに向かってマナを放出した。

 彼女の体を包む茨が燃え出し、ゆっくりと朽ちていく。そうして解放された彼女の体がゆっくりと倒れてきた。


 それを慌てて抱き止める。力なくしなだれかかられたクリスの体は柔らかい。特に無防備に押し付けられた巨乳の感触が……すごい。


『……なに堪能してんのよ』

「し、してないって」


 メルトに鋭く言われて、俺は慌てて首を振った。これは不可抗力だ。

 とにかく、これで新たな女神を助け出すことができた。また一歩迷宮攻略へ足を進めたという事になる。


 しかしメルトの時と同じく、クリスは全然目を覚ましてくれない。やっぱり俺が抱っこして彼女を聖堂まで運ばないといけないようだ。


『変な所触るんじゃないわよ』

「さ、触らないって」


 声だけなのに、メルトが凄くドスを効かせた目で見ているのが分かる。女神に見守られているのって、こういう息苦しさもあるんだな。


 とにかく、俺は紳士的にクリスをお姫様抱っこして、エルダーリッチを倒した事で現れた階段を登って帰還するのだった。

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