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30、燃えた森探索

 俺のうっかりで魔の森を燃やしてしまってから、一時間ほどが経った。

 その頃には炎の勢いも大分衰え、何とか探索できるくらいにはなっている。


 しかし魔の森は見る影もない。ほとんどの木が燃え落ち、地面にも炎のわだちが走り、今もまだ燃えてる木々だってあった。


 多分聖堂に帰還してもう一度やってきたら元の姿に戻っているだろうけど、俺はこのまま探索することにしていた。

 ……正直森全体が燃えた事でゾンビも全滅したし、探索しやすくなった。ドロップアイテムもあちこちに落ちてるので、拾わないともったいない。


「怪我の功名ってやつだな」

『なに得した風に言ってるのよ。森燃やすとか大分やばいわよ』


 メルトにたしなめられるが、しかしここは攻略すべき迷宮。手段や方法なんてそこまで選んでいられないだろう。


 それよりもドロップアイテムだ。百なんて数をゆうに超えるゾンビ達を倒したので、ドロップアイテムも大量。ここぞとばかりに収穫する。


 やや幅広で分厚い刃のブロードソード。

 初めて手に入れる長柄武器、ロングスピア。

 これまた初の斧、ブロードアクス。

 便利そうな長距離武器、ロングボウ。


 どれも等級は低いが、そのおかげでいつでもすぐに生成して使い捨てにできる使い勝手の良い武器だ。


 中にはレア等級の武器があった。レア剣で名前はボルトリッグ。レアレベルなら中級鑑定で全能力を鑑定できる。

 さすがに今使っているレジェンダリーメイスより攻撃能力は低い物の、付加効果で【攻撃時に電撃を放つ】という特殊能力があった。


 これはかなり使えそうだ。他の武器達はマナに戻しておいたが、この剣は腰にさげておく。


 他にも持ちきれないほどの武器、アイテムがあったが、ひとまず片っ端から入手してはマナへと戻す。これで後からマナで生成できるので、問題は無い。

 しかしゾンビも全滅したうえに木々も燃えて見渡しが良くなった森は、呆れかえるほど平和だ。


 緊張感もなく燃え尽きた森を探索していたが、やがて違和感を抱いた。

 ……この森、広すぎないか? 地下への階段がある気配が全くない。


「……なあ、この森から更に地下へ行くってことができるのかな?」


 冷静に考えると森の地下へ行くというのが変なのだ。いや、このアンブロシアの檻自体が普通の地下迷宮とは構造が違うのだろうけど……やっぱり論理的に考えると森に地下があるとはどうも思えない。


 そんな俺の疑問に答えたのはメルトだった。


『うーん……そもそも地下への階段を降りたから地下へ向かっているって発想が違うのかもね』

「……どういうことだ?」

『階段っていうのはあくまで移動手段を可視化したもので、別に地下に向かっているってわけじゃないってことよ。そもそも地下へ降りたのにこんな森が広がってる事自体がおかしいでしょ』


 それは確かにおかしいが……ここはそういう所と思うしかない。


『多分それぞれ独立した空間が確立されてるんだと思うわ。地下一階と二階は同じ地下牢みたいな見た目と雰囲気だったでしょう? この魔の森とは階段で繋がっていたけど、あそことここは根本から違う空間なのよ』

「……えー……つまり?」

『あの地下牢は一層。ここ魔の森は二層。次元の違う別の空間が階段で繋がってる。地下何階って数えるより、そう概念的にとらえた方が理解しやすいはずって言ってるのよ。一層の地下牢は地下一階と地下二階で構成されていたけど、二層の魔の森はこのだだっぴろい森だけで構成されてるんじゃない? 森に地下があるとは思えないもの』


 俺は少し思案した。

 要するに……。


「だとしたら、この森のどこかにクロウラーみたいな階層の守護者がいるってことか?」

『可能性はあるわね。さすがに森が炎上した程度で倒せたりはしないでしょ』


 もしこの森のどこかにクロウラー並みの強敵がいるとしたら、やはりそこは普通とは少し違う場所のような気がする。

 見る限り平坦な地面が続く燃え落ちた森の中。そんな特別な所がどこにあるというのか……。


 なんて思案しつつ歩いていたら、異様な物を発見した。

 それは、この森の中には似つかわしくない建物。


 紫色の鉱物で作られた遺跡のような物が、くり抜かれた地面の中に埋まっていたのだ。

 そこの内部へ続く螺旋階段が、まるで俺を待ち受けているかのようだ。

 その奥から漂うどす黒いプレッシャー。それを感じて俺は身震いした。


 もしかしてここか? ここに魔の森のボスが居るのか?


 俺は緊張から自然と息を殺して螺旋階段を降り、遺跡の中に入っていく。

 長い螺旋階段を降りきった先には広い通路が伸びていて、その先の台座に座る何者かの姿を目で捉えた。


 それは黒いローブを纏った美しい女性だった。その手には大事そうに杖を抱えている。

 まだそいつは俺に気づいていない。その距離を保ちつつ、俺は彼女に対して鑑定スキルを使ってみた。


 鑑定スキルはモンスターに使えば、その名称から攻撃方法を知ることができる。

 だが、黒いローブを纏った女性を鑑定して分かったことは一つだけだった。それ以外は全て紫色の文字がひしゃげるように潰れて、読むことができない。


「……エルダーリッチ」


 それが奴の名前だった。


『エルダーリッチはクロウラーと同じく魔王の腹心の部下ですよ、リック様』

『あー……特殊な魔法を扱う厄介な奴だわ。あんた死ぬかも』


 女神二人の緊張に包まれた声を聞いて、俺は生唾を飲んだ。


 この異様な場所。異様な雰囲気。このまま戦うのはさすがにまずそうな気がする。

 このまま一回帰ってもいいかな。最悪もう一度森を燃やせばここまでくるのは簡単だし。


 そう思いつつも、俺の目はエルダーリッチの背後を捉えて離さない。

 そこには、茨に捕えられた赤い長髪の美女がいた。


 もう一目でわかる。女神だ。アルティナやメルトと同じく、封印されし女神がそこにいた。

 二人の為にも、いち早く彼女を助けたい。恐怖心よりもそちらが勝った俺は、意を決してエルダーリッチが待ち受ける部屋へと踏み込んだ。

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