3、マナクリスタル
目が覚めると、そこは元居た聖堂だった。
「なんでだよ!」
誰も聞いてないのに、現状に突っ込む。
おかしい。俺はさっき確実に死んだ。
でもどうしてまたこの場所で目が覚めるんだ。
聖堂はやはり薄暗い。松明で明かりをつけよう……と思ったが、死ぬ直前まで持っていた松明も剣もどこにも存在しなかった。
まさか……今までのは夢だったのか?
そう思って聖堂の中を歩き出すと、茨に囚われた見覚えある女性を発見した。
違う。夢じゃない。さっきまでのは現実だ。
いったい何がどうなっているんだ。その疑問がより深く俺を襲う。
死んだのに生き返り、またこの場所で目が覚める。こんなの、とびっきりの悪夢じゃないか。
気が狂いそうだ……。
何かすがるものが欲しくて、俺は茨の美女に近づいた。
「なあ……何なんだよここは……あんたなんか知ってるんだろ? 目を覚ましてくれよ……」
茨に包まれる謎の女性に話しかける俺は、狂う一歩手前に来ているのかもしれない。
ふと、この暗闇の中で淡い光が生まれているのに気付いた。
光の出どころは俺のポケットだ。なぜかポケットが紫色に光りだしている。
あっ、と思って俺はポケットを探った。
そこにあったのは、スケルトンを倒して手に入れた紫色のクリスタルだ。
松明や剣は無くなってるのに、なぜこれがあるんだろう。
わからないが、水晶の中の紫色の炎は、明らかにこの茨の美女に反応していた。
茨の美女が、薄らと目を開ける。
「マナを……マナクリスタルを……」
マナ……クリスタル?
もしや……と思って俺は紫色のクリスタルを近づけてみる。
すると、クリスタルは弾け、中の紫色の炎だけがぼうっと浮かんだ。
それはゆっくりとふわふわ舞い飛び、女性の体に吸い込まれていった。
次の瞬間。女性の体を包む茨が燃え出した。
何が起きているのか、分からない。
だが、今事態が好転しているのが分かる。
この茨が燃え尽きれば、きっとこの美女が目を覚ますのだ。
その瞬間を今か今かと待ちわびていると……やがて、火は勢いを弱めて消えてしまった。
美女を包み込む茨は三分の一しか焼けてない。美女も、もう一度目を開ける事はなかった。
「ダメなのかよ!」
叫ぶ俺だが、そこには若干の喜色が含まれている。
確かに今回はダメだった。しかし、これではっきりした。
スケルトンを倒して手に入る紫色のクリスタル。これを女性に近づけて反応させると、茨が燃える。
この茨が燃え尽きた時、きっとこの女性は目を覚ますはずだ。
それできっと事態は好転する。いや、好転しなくても、俺は孤独ではない。
わずかに見えた希望。この謎の場所に囚われ、死ぬことすら許されない俺は、この希望にすがるしかない。
もう一度地下へ行こう。そしてスケルトンを倒してクリスタルを入手する。
地下へ行けば、きっともう一度死ぬことになる。それは恐ろしかったが、このまま何もわからず孤独でいる事の方が怖かった。
俺は決意が鈍らないうちに、地下の階段を下るのだった。
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