29、ゾンビ火葬ビルド
聖堂に戻った俺は、すぐにメルトからスキルを授かった。
ゾンビは倒すと一体につき15マナくれるらしく、燃やした事で大量に倒せたようで、今2000マナ以上を持っている。
その大量のマナを使い、まず魔法才能スキルのレベルを1上げてレベル3にする。これでセットできる魔法が増え、合計四つの魔法を同時に使用できるようになった。
そこで早速メルトが教えてくれた火耐性を上げる魔法【ファイアオーラ】を覚え、セットする。
今、ファイアーボルト、オイル、帰還の魔法、ファイアオーラの四つの魔法を使える状態だ。
これで俺の考えるビルドが構築できた。正確には帰還の魔法は不要なのだが、緊急時の脱出用にセットしておきたい。
「よし、早速ビルドを試してくる」
『ああうん……まあ気を付けて』
メルトは俺のビルドにピンと来てないのか、首を傾げていた。おそらくファイアオーラを使った後でさっきのようにオイルをまき散らし着火するとでも思っているのだろう。
だとしたら、俺の考えはメルトの一歩先を行っていると言っても過言ではない。女神に対してちょっと優越感を抱く。
そしてやってきた地下三階、魔の森。あいかわらずゾンビがうようよとうろついている。
『で? 何するつもりなのよ?』
さしものメルトも俺の思いついたビルドに興味があるらしく、その声音から好奇心がにじみ出ていた。
メルトの期待に応える為、俺は説明しながら魔法を使うことにした。
「いいか? まずはファイアオーラを使って火耐性を高めるんだ。【ファイアオーラ】!」
発動すると、俺の体の周りがぼやっと赤いオーラで包まれた。これで火への耐性が上がったのだろう。
『まあまずはそれを使うわよね。で、次は? またオイルをまき散らして着火するの?』
「そうなんだけど、少し違う……オイルはこう使うんだ! 【オイル】!」
俺はオイルの魔法を頭上で発動した。当然のようにバシャっと黒油をひっかぶる。
『は? な、なにしてんの……?』
「そして最後にこう! 【ファイアーボルト】!」
トドメに俺は俺自身にファイアーボルトを放つ。火の矢が俺に着弾し、ひっかぶっていたオイルに着火。一気に火だるまとなった。
『ぎゃーーー! 何してんのあんた!? バカなの!? 大馬鹿なの!?』
「いや、これはちゃんと考えたうえでの行動なんだよ。ファイアオーラで火耐性を高めているから、こうして火だるまになってもそんなにダメージないんだ」
『そ、それはそうだけど……! だからって自分で自分を燃やすか普通!? あんたおかしいわよ! っていうか火だるまになって何がどうなるわけ!? アホじゃないの!?』
「落ちついてくれ、メルト」
『いきなり自分に火をつける奴相手に落ちつけるかー!』
もっともなご意見だ。
だが俺だって考えた上での火だるま状態。これは効率的に魔の森を攻略する為に必要な行為なんだ。
「いいかメルト。魔の森は広く、ゾンビが大量にうようよいる。しかもそいつらはすぐに俺を感知して一目散に向かってくるだろ?」
『そ、そうね』
「それをいちいち燃やしてたら面倒だろ? だけどこうして自分自身が燃えていれば簡単に倒せる!」
『「簡単に倒せる!」じゃないわよ! だからって自分で自分を燃やすなー!』
そうこうしているうちに、木々の影から大量のゾンビ達が沸きあがっていた。ずるりずるりと足を引きずる大量ゾンビに、最初こそ震えあがっていたが、こうして火に包まれる今恐れることなどない。
俺はただ両手を開いて、前後左右360度から群がってくるゾンビを受け入れるだけだ。
ついに俺にたどり着いたゾンビが、抱き付きながら噛みつこうとする。
しかし俺の体は燃えている。なので触れたとたんにゾンビは炎上し、しかもすぐそばのゾンビにも燃え移っていく。
大量に密集しているため、次々と連鎖して燃え出すゾンビ達。狭い範囲で密状態だったから、もう火の勢いは止まらない。数珠つなぎでゾンビが燃えていくため、魔の森に導火線のような火の螺旋が生まれる。
燃えながらもゾンビは俺に向かってくるが、しかし途中で力尽きて崩れ落ちる。どうにか俺にまで到達したゾンビも、燃える俺に触れたら大ダメージを受けて燃え落ちた。
「どうだメルト! これならわざわざオイルを四方八方にまき散らす手間も省ける! このままじっとしているだけで魔の森にいるゾンビを全部やっつけられるんだ! 楽だろ!?」
『いや楽だけど発想がイかれてるでしょ』
「これをゾンビ火葬ビルドと名付けよう……」
『うっわぁ……ゾンビ燃やすだけのビルドとか今後一切需要無いわ……』
呆れるメルトにアルティナが割り込んできた。
『いえいえ、そうでもありませんよ。燃えながら近接戦闘を行えば、対象に常時ダメージを与えられながら有利に立ち回れるでしょう。それに不死鳥はその命尽きる時に体が燃え上がり、火の中から復活すると言われます。何度死を迎えても立ち上がり、迷宮攻略に全力を尽くすリック様に相応しいビルドだと思えます』
『ちょっとアルティナ! あんたリックに甘すぎるのよ! あたしが居ない間もそうやって甘やかしてきたの!?』
『私は褒めて伸ばすタイプですので……』
『バカぁっ! アホな事した時はちゃんと怒らないといけないのよ! なーにが不死鳥よ! こんな風に自分を燃やしてたら絶対どこかで変なポカやらかすわよ』
「……あ、あっつっ。やばっ、火耐性上げててもやっぱじわじわダメージくらうな……ちょっ、回復薬ガブ飲みしないと死ぬかもっ!」
炎上ダメージは少量でも毎秒のように喰らうため、気が付けば体力が尽きかけていた。慌てて回復薬を生み出し、がぶがぶ一気飲みする。
『ほらぁっ! 早速死にかけてる! 自分燃やしたらそりゃあ死にかけるわよ普通!』
「いや、回復薬を飲んだおかげで体力は復活した。死にかけても炎の中で復活する……なるほど、今の俺は確かに不死鳥かもしれない……。ゾンビ火葬ビルドより不死鳥ビルドって名付けた方が格好いいかな」
『そちらの方が格好いいですよ、リック様』
『アホーーっ! アホかっ! リックはともかくアルティナもアホかっ! あたしが見ないうちにアホになったのかあんたはー!』
しかしこう燃えていると視界が悪い。どうやらゾンビ達はほとんど燃え尽きたようで、周囲にはもう居ないようだ。
こうして燃えながら突っ立っているというのも疲れるもので。俺は一度体を休める為に近くの木に背中を預けた。
「よっと……あっ」
そこでふと気づいた。今俺燃えてるんだよな。燃えてるのに木に寄りかかったらどうなるんだろう。
答えは簡単。そりゃ燃えるよな。
あっという間に木が炎上し、頭上を覆い尽くす葉っぱまで火に包まれる。そして葉から葉へと炎は伝染し、次々と木々が燃え出した。
「うわーーー! め、メルト! やばい助けてくれ!」
『はあ? 燃え尽きなかったゾンビにでも噛まれたの? って……うあーー! なに木を燃やしてんのよー! ゾンビどころかついに森自体を燃やしてやろうってわけ!? やっぱり発想がイカれてるわよあんた!』
「ち、違う! 誤解だ! うっかり燃えちゃったんだ!」
『うっかりで燃やすなアホーっ! あ~~~~もうめちゃくちゃ! こんなのどうしようもないわよー!』
メルトが嘆くように、マジでどうしようもない。すっかり魔の森は火に包まれ、森林大火災が巻き起こっていた。
燃えていく木々。燃えていくゾンビ。その中心で、俺はただ呆然と立ちすくんでいた。
記憶の産物とはいえ……自然を破壊するのは辛いな……。
魔法は使い方を誤ると、とんでもない事になる。俺はこの事件を通してそれを学んだのだった。
そしてゾンビ火葬ビルドは不死鳥ビルドを経て、メルト直々に森林火災ビルドと名付けられたのだった。




