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28、オイル炎上コンボ

「く、くそっ、寄るなっ!」


 全方位を囲んでゆっくり近づいてくるゾンビ集団。そいつらに向かって、しゃにむにメイスを振るう。

 なにせ腐った死体だからか、ゾンビの耐久性はかなり低い。メイスの一振りで肉が弾け飛びそのまま消滅していく。


 しかしこの数。ざっと見て百はくだらない。しかもゾンビを倒す時のあの嫌な感触が背筋を震えさせた。

 それに俺が使っているレジェンダリーメイスは、攻撃速度にマイナス修正がある。おかげで一振りが遅く、のろのろと近づいてくるゾンビ達に確実に追い込まれていた。


「や、やばい……このままだと数に押し負ける」


 やがてゾンビの大群が俺の体につかみかかり、群がられるままに噛みつかれまくるのだろう。

 ゾンビに噛まれたら毒を受け、そのままじわじわ食い殺されていくのだ。いくら生き返られるからといっても、そんな死に方は絶対嫌だ。


「そ、そうだ、魔法だ!」


 パニックになっていたせいで忘れていたが、俺には魔法があった。しかも炎の魔法ならゾンビにも効果抜群だろう。


「【ファイアーボルト】!」


 すぐさまファイアーボルトを連射。正面から近づいてくるゾンビに次々ヒットし、更に炎上して倒すことに成功した。

 それでも、回転率が足りない。ファイアーボルトを次々打っても、ゾンビの数が一向に減らないのだ。


 それもそのはず。俺を目指して魔の森中のゾンビ達が集まっているらしく、森の奥から続々やってくるのだ。

 ファイアーボルトの連射でもゾンビの大軍を倒しきれない。もうダメだ。終わった……。


 諦めかけた俺の脳内に、メルトの呆れるような声が響いた。


『あんたさぁ、せっかく覚えた新魔法忘れてない?』

「……そ、そうか、帰還の魔法で帰ればいいのか!」


 それならひとまず急場をしのげる。


『いや、それもあるけど、オイルも覚えてたじゃない』

「あ……」


 ようやく新魔法【オイル】の存在を思い出せた。ここまで思い出せなかったのを間抜けだと思う反面、やはり焦っていると状況判断がうまくできなくなるのだと反省する。


 言い訳ではないが、こんな風に急に大群に囲まれたらパニックになるのが当然だ。俺は歴戦の勇士でもなければ、冷静沈着な魔法使いでもないのだ。ただの村人なんだから、想定外の事態にうろたえてもしかたない。


 しかしそんな凡人の俺にも強みはある。それが女神達だ。女神達が俺に強力なスキルを与えてくれて、しかもこうして見守ってくれている上に助言もしてくれる。

 そのおかげでこうして平静を取り戻せた。【オイル】の魔法の存在を思い出したらもうこっちのものだ。


「【オイル】!」


 早速俺は正面方向のやや遠くにいるゾンビの群れに対して、オイルの魔法を発動。すると空中からざばっと黒油が降ってきて、地面にオイルのフィールドが生まれた。

 そこを狙って、剣先を突きだす。


「ファイアーボルト!」


 炎の矢をオイルに向かって放った。狙った通り炎の矢が黒油に着弾し、一気に炎上。オイルをまき散らしたフィールドの上にいたゾンビが一斉に燃え上がる。

 ただこれだけでゾンビを十匹ほど一気に倒せた。


 これが連鎖反応魔法。魔法と魔法を組み合わせたコンボだ。メルトが言うように、ファイアーボルトを連発するよりかなり効果的だ。

 しかもこうしてオイルが炎上していると、もう着火の必要すらない。後はひたすらオイルを発動して、炎上範囲を広げるだけだ。


「【オイル】! 【オイル】! 【オイル】!」


 炎上フィールドへやや被るようにオイルをぶちまけ、燃えてる範囲を徐々に広げていく。

 それを周囲360度。俺を覆い囲むようにすれば完成。


 ゾンビは俺を狙って勝手に寄ってくる。しかしその途中にある炎上フィールドに足を踏み入れ、勝手に炎えて倒されるのだ。


 俺の狙い通り、ゾンビはバカみたいに炎上フィールドに踏み込んでいく。立ち止まって様子見などしない。しょせんは知恵のない死体なのだ。

 ゾンビが続々と倒れ、どんどんマナが集まってくる。そして経験値も手に入り、レベルがあっという間に5になった。


 これはかなり効率の良い狩りかもしれない。しばらく魔の森でゾンビ狩りをするのもいいかも。


 なんてのんきに考えていた俺は、ふと息苦しさを覚えた。

 いや、息苦しいとかの前に、熱すぎる。俺の周囲を全部炎上させたせいで、その熱波がもろに俺に向かってくるのだ。


 言ってしまえば釜戸の中のような状況。周囲全てが燃えているので、熱が中心に向かい逃げていかないのだ。そしてその中心地には俺がいる。息苦しいのは周囲の酸素がどんどん燃えているからだ。


「や、やばい、このままだとこんがり焼けてしまうー!」

『アホね~。後先考えず燃やし過ぎなのよ。次からは火耐性を上げる【ファイアオーラ】って魔法を覚えておきなさい』


 メルトにバカにされるが、返す言葉は無い。言われる通り、もうちょっと想像力を働かせるべきだった。


 しかし、こんな状況でなぜか俺の頭は冴えていた。火耐性を上げる【ファイアオーラ】という魔法があると効かされて、もしや? と思う。


 ファイアオーラ。オイル。そしてファイアーボルト。この三つを組み合わせれば……もっと効率的に、そして安全にゾンビ達と戦えるのでは?


「わかった……わかったぞ!」

『へ? 何が?』

「今俺はビルドを思いついた! よし、帰還の魔法を使って一旦帰る! マナ溜まったから魔法才能も伸ばせるだろ!」

『まあうん……魔法才能伸ばせるくらいは溜まってるけど……なんかろくでもない事考えてない?』

「ろくでもないなんて、とんでもないぞ! 俺の狙い通りにいけば、魔の森攻略はもう一瞬だ!」

『……本当かしら? ま、いいけど。色々試してみなさいよ』

「ああ!」


 この発想をうっかり忘れないためにも、俺はすぐさま帰還の魔法を発動した。一瞬体が白い光に包まれ、聖堂へと移動する。

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