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27、魔の森

 ワープポータルで地下二階へ飛んだ俺は、クロウラーと戦った地下牢のような部屋へと向かい、そこから更に地下へと降りていった。

 階段を降りていると視界が黒い霧に包まれて、その一瞬後に晴れる。そこに広がるのは地下三階……のはずなのだが。


「……森?」


 俺の目の前に現れたのは、広大な森。頭上を見上げると、密集する木々の葉に隠れた空が覗く。


 ……どういうことだ? 地下へ降りたはずなのに森へたどり着くはずがない。


 一瞬そう思った俺だが、ここは歪んだ次元の中に存在するアンブロシアの檻という迷宮。詳しい事は分からないが、その歪んだ次元とやらが何やら効果的に働いて、こんな風景を作りだしているのかもしれない。


『これは驚きましたね……地下へ向かっているのにまさか森が広がってるなんて』

『ありえない事じゃないでしょ。魔王やモンスターの記憶が元になった空間だから、それが再現されてるだけよ』


 俺の脳内にアルティナとメルトの声が響く。アルティナは当然として、メルトとも絆を結んだのでこうして遠距離会話ができるようになったようだ。


「二人はこの場所に見覚えあるのか?」


 なにせ記憶が再現されているのだから、それは数百年前に地上に存在した実際の場所なのかもしれない。


『それが……はっきりとは……』

『あんた鑑定スキルを持ってるんだから、使ってみなさいよ。地名が分かるはずよ』

「鑑定スキルって物体だけじゃなくて、この場所自体を鑑定できるのかよ」


 初耳だった。早速やってみる。


 おそらく地面に向かって鑑定すればうまくいくだろう。地面に手の平を向け、マナを放出。すると文字が浮かび上がりだした。

 そこには『魔の森』と書かれてある。


「魔の森だってさ」


 俺には聞き覚えの無い地名だ。

 だが二人は心当たりがあったらしい。


『あー……魔の森ね』

『あそこですか……』


 二人とも声のトーンが少しばかり落ちている。それが不安を煽った。


「な、何だよ。もしかして厄介な場所なのか?」

『厄介と言えば厄介かもね。そこは常に濃いマナが漂っていて、ちょっと陰気な場所なのよ』


 確かに魔の森はじめっとしていて嫌な雰囲気だ。それでいて空気は冷たく、風が吹くと寒くて鳥肌が立つ。


 それとさっきからずっと聞こえるガサガサとした音。多分木々の葉が風に揺れて騒めいているのだろうけど、それにしても音が大きい。

 気のせいだろうけど、どんどん音が近づいているようにも感じられた。


『そこはねぇ……もともとお墓代わりの森だったのよね』


 藪から棒にメルトが切り出した。どことなく声は沈鬱している。


『だから至る所に死体が埋まっていて、土を掘り返せばすぐ死体が見つかるなんて言われていたのよ』

「お、おい、怖い事言うなよ」


 そこら中に死体が埋まってるなら、あまり歩きたくない。そうメルトに抗議するが、彼女は続ける。


『怖いのはここからよ……魔の森は元々濃いマナが発生する場所なのよ? そんな所に死体を埋めたらどうなると思う?』

「……ど、どうなるんだよ?」


 恐々としながら聞くと、しばしメルトが無言になった。


『あれ』

「は?」

『あそこ見なさい』


 なにせ脳内に響く声だ。あそこと言われても具体的な方向なんてわからない。

 だからすぐに顔を左右に振り、とにかく色んな方向を見てみた。


 すると視界に入ったのは……一人の男。木々の影から、足を引きずるようにしてこっちへ近づいてくる。


「ひ、人……? この迷宮に俺以外の人がいたのか?」


 言いながら一歩近づいて、俺はその異常さに気づいた。


 ……肉が腐り落ちている。肌も青紫色で、目はうつろ。それでいて低いうなり声も立てていて、じわじわと俺に近づいてくるその姿。

 まさか……まさかこれは。


『そう、ゾンビよ』


 メルトには俺の驚愕が伝わっているようで、憐れむように言っていた。


『あいつら普通に噛みついてくるから気をつけなさいよ。噛まれたら一発で毒を受けるわ。ま、動きはトロいからうまくやっつけなさい』

「ぞ、ゾンビって元人間じゃないか! それを倒すのか!?」

『元人間でも今はモンスターよ。スケルトンだってそうじゃない?』


 地下一階や二階のスケルトンとはさすがに比べ物にならない。あっちは骨だが、こっちはまだ人の原型をとどめている。

 それと戦うのは……すごく抵抗感ある。


『でもやるしかないのよ。あっちにはもう意思なんてないんだから。死体にマナが宿って勝手に動きだして生物に噛みつく。ただそれだけの存在よ。むしろ倒してあげた方が安らかに眠れるってものよ』


 女神からしたらそうなんだろうな。でもこっちからしたら人間の腐乱死体を相手にするのはやっぱり……攻撃して頭とか潰すのはきつい……。

 そんな風にうろたえていると、突然メルトが大声で叫んだ。


『あっ! ほらあんたが躊躇してるからかなり近づいてきてるじゃない! 後ろ後ろ!』

「え? ……うわーー!」


 後ろにもゾンビが居たようで、気が付けば今まさに背後から襲い掛かろうとしていた所だった。

 俺は反射的にメイスを振り回した。パニック状態だったのでめちゃくちゃな動きだったが、ゾンビは脆いのかちょっと掠っただけで仰向けに倒れる。


「うわーー!」


 俺はそのまま反射的にメイスを振り下ろし、ゾンビの頭をぐちゃっと潰した。すごく嫌な感触だった……。


「……」

『あーあ、殺っちゃった』


 うう……しかたなかったんだ。あまりにも急だったので……。


『って、そんな後悔してる暇ないわよ。周り見なさい!』


 言われて慌てて周囲を見てみると、いつの間にかゾンビの群れに囲まれていた。

 まだ距離は遠いが360度全方向から大量のゾンビがじわじわ近づいてくる。


 通路と部屋で区切られた地下一、二階とは違い、森の中で比較的開けた地形なのが災いしていた。


 地下三階に広がる魔の森は、これまで以上に一筋縄ではいかなそうだ。

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