25、魔法の習得とビルド
魔法才能スキルを伸ばし、魔法を同時に三つ扱えるようになった俺は、そのまま便利そうな魔法を習得しようとしていた。
しかし、こうして探してみると魔法って無数にある。
便利、というか戦闘で強そうな物では、狙った対象を中心に爆発させる魔法とか、雷を呼び起こして雷撃フィールドを展開し、近づく敵を攻撃する魔法など様々あった。
その反面、これ何に使うんだ? という首を傾げる効果を発揮する魔法も結構ある。
例えば石を生み出す魔法とか、水を生み出す魔法とか、そういうの。日常生活だと役に立つ場面はあるのだろうけど……この地下迷宮では役に立たなそうだ。
そんな風に魔法は無数にあったので、どれをどう探したものやら。しかも俺の残りマナは400なので、強そうと目についた魔法はのきなみ習得できない。
お手上げだ。ここは魔法のスペシャリストであるメルトに聞いてみよう。
「メルト、おすすめ教えて欲しい。俺が探しても変な魔法ばっかり目につく」
「意外と魔法ってバカみたいなやつ多いでしょ? 派手なイメージあるけど、地味な魔法のが実は多いのよ。でもおすすめって言われてもね~……今のマナ量だと……」
メルトは思案するように唸りながら、やがて一つの魔法を提示してきた。
「とりあえずこれはどう? 帰還の魔法。これを使えば地下から一気にこの聖堂に戻れるわよ」
「なんだそれ、便利すぎだろ」
「ただマナを300は使うわ」
……残り100になるじゃん。
でもいつでも自由に聖堂に戻れるようになるのは大きい。ここは覚えるべきだ。
「よし、覚えよう!」
「んじゃ、スキル授けるわね。もう面倒だから簡略化するわ。ほい」
ほい、って一言でスキルを授けられた。やっぱあの厳かな文言は雰囲気だけだったのか。
しかしこれでマナは残り100。これではもう使えそうな魔法はなさそうだ。
そんな俺の気持ちを察したのか、メルトがこほんと咳払いをする。
「さっきもちょっと言ったけど、魔法っていうのは単体で強力な効果を発揮するものもあるけど、複数組み合わせることでより効果を増したり特殊な効果を発揮するのがあるのよ。それを連鎖反応魔法っていうんだけど、まあ人間風に分かりやすく言うとコンボってやつね」
複数の魔法を組み合わせてより強力な効果を発揮する、連鎖反応魔法。魔法によるコンボか……。
「それ、具体的にはどういうものがあるんだ?」
「そうね、例えばあんたがさっき気になっていた、狙った対象を中心に爆発させる魔法。こういう対象を中心に広範囲を攻撃できる魔法って、集団の敵に効果的だと思うじゃない? でも実際は、敵集団が偶然効果範囲内に密集している状況って少ないのよ」
俺は地下二階の待ち伏せスケルトンを思い出した。あんな風に前後を挟まれたり囲まれたりしたら、確かにそういう広範囲攻撃魔法で敵を一掃するのは難しそうだ。
「そこで、重力球を生み出して敵を強制的に集める魔法とかをまず使うのよ。そうやって強引に敵を密集させて、広範囲攻撃魔法でドカン! ってね」
「……なるほど」
つまり、本命の攻撃魔法をより効果的に使うために、まず他の魔法でそういう場を整える。それが連鎖反応魔法ってことなのか。
「他にも氷魔法ってあるじゃない? あれと炎魔法を組み合わせるのは相性が悪そうって思うだろうけど、実際は違うのよ。まず氷魔法で氷を生み出して、そこに炎魔法をぶつける。すると氷が一気に解けて水蒸気になり、水蒸気爆発が起きるのよ。爆発魔法が使えなくても、結果的に爆発を引き起こすことができる。それもまた連鎖反応魔法よ」
「……そういう魔法の組み合わせがたくさんあるのか?」
「そうよ。あんたがさっき内心これ戦闘で使えるのか? って思った水の魔法だって、雷の魔法と組み合わせれば効果的でしょ?」
……その通りだ。敵を水で濡らして雷魔法を使えば、より効果が上がるだろう。
「あんたはまだ魔法記憶領域が少ないから、こういうコンボが使える魔法を覚えた方がいいわ。そうやって目的をもって魔法を構築するのをビルドっていうのよ。とりあえずそういうビルドを意識して、残りマナで覚えられる魔法を探してみたら?」
「そうだな……よし、探すか!」
連鎖反応魔法。いわゆる魔法のコンボ。魔法が無数にあるのだから、コンボも無限に存在するはずだ。そしてそれを少ない魔法記憶領域で構築するというビルドを意識すると、なんだか可能性の幅にわくわくしてくる。
今俺が扱える魔法は、ファイアーボルトに帰還の魔法の二つ。なら当然、ファイアーボルトを活かせる魔法を覚える方が良い。
考えろ……ファイアーボルトは炎の矢を飛ばす魔法。威力も火力もそれほどではないが、きっと効果的な組み合わせがある。
それを残りマナ100で覚えられる魔法の中から探し続ける。
やがて、たった一つだけその魔法を見つけた。
土属性の【オイル】という魔法だ。これは狙った場所に黒油を生み出す地味な魔法。
本来はこの黒油で滑りやすくして、対象の敵を動きづらくする効果を持つ。
しかし黒油は可燃性が高く、火をつけると一気に燃え上がる。
これを使ってファイアーボルトで着火すれば、今の俺でも範囲攻撃をすることができるのだ。
「よし、この【オイル】を覚えさせてくれ」
「ふーん、結構良いのを見つけたじゃない。こうやって魔法の組み合わせを意識できるなら、もうあんたも魔法初級者ね。よし、スキルと一緒に【魔法初級者】の称号を授けてあげるわ」
「えっ……いや、要らない」
魔法初級者だなんてわざわざ自分で名乗る程度の事じゃないだろう……。
「なに遠慮してんのよ~。ほいっ」
突然俺の脳内にメルトによく似た声が響いた。
『リックは【魔法初級者】の称号を獲得したわ。まだまだ初心者だからもっと精進しなさい』
「おい!? 要らないって言ったのになんか称号貰ったんだが!? なんなんだこれ!?」
「称号っていうのは女神が授ける二つ名みたいなものよ。ぶっちゃっけ雰囲気物でしかないけど、なんか格好いいじゃない。これからあんたは人呼んで【魔法初級者】のリックね」
「待ってくれ、マジで要らない。あと称号を獲得した時のサインで、もっと精進しろとか余計な事言われたぞ」
「あれはあたしからのありがたい言葉よ。胸に刻みなさい」
もう全部余計だ。この称号何? マジで雰囲気だけ?
よく分からないが、俺は魔法初級者になったらしい……。




