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23、女神メルトとの絆

 メルトが目覚めた後、俺はクロウラーとの戦いで疲弊していたので、聖堂の床に座り込み休んでいた。


 アルティナによれば、まだ封印されている女神が存在するらしい。その女神を助ける時も、クロウラーのような魔王腹心の部下と戦うはめになるのだろうか。


 正直俺のようなただの村人には荷が重いのだが、しかしこれで助けになってくれる女神は二人だ。

 アルティナとメルト。この二人の女神から更にスキルを得られれば、次に戦う魔王の部下にだって勝てる……はず。


 まだまだ先は長い。焦って地下を進むより、今はまず体を休めよう。


 ここは広い聖堂だが、俺とアルティナに加えてメルトがやって来たことで、なんだか賑やかになった。

 というか、終始落ち着いていて大人の女性感あるアルティナと違い、メルトは落ち着きがないというか、快活に聖堂内を動き回っている。


「何なのよここ、あまりにも殺風景すぎるわ。魔法でもうちょっと快適な空間に演出しないと……アルティナ―!」


 メルトが急にアルティナを呼ぶ。アルティナは慣れたように、はいはいと言いながら彼女の元へと向かっていた。なんだか姉と妹のようだ。

 多分、大分昔からこの二人はこういう関係なのだろう。


「この聖堂にさ、魔法で色々作りだしても大丈夫?」

「ええ、別に構いませんが……何を作るつもりですか?」

「まず寝室よ! ここがアンブロシアの檻とかいう歪んだ次元の中に存在する地下迷宮で、そこを攻略できるのがうっかり迷い込んだあの人間……リックだっけ? っていう事は分かったわ。つまり、私達がここから完全解放されるには大分時間が必要じゃない? なのに寝る場所がないっていうのは不便よ!」

「確かに……リック様がゆっくり安らげる場所は必要ですね」

「まあリックだけじゃなくてあたし達もだけど……後お風呂場! 清潔感は大事よ」

「そうですね、入浴すれば気分をリフレッシュできますし、リック様もきっと癒されます」

「……なんかさっきからリックのことばかりね」

「当然です。リック様は私達を封印から助けてくれたばかりか、残る女神も助けるために死を覚悟して地下へと潜ってくれているのですから。私達女神がリック様を祝福しなければいけません」

「ふーん……まあ、そうかもね」


 メルトは結構アルティナの言う事には素直だ。不承不承といった感じだが、ちらっと俺を見る視線には納得してくれている感じがある。


「ま、あたしも助けて貰った恩があるし、リックの為にも聖堂に色々と設置してやってもいいわ。だから……マナ、貸して。復活したばかりですっからかんなのよ」


 それを聞いて、アルティナは思い出したとばかりに手を叩いた。


「そうでした。メルト、リック様とキスしてください」

「……は? はぁぁ? ……はぁぁ!?」


 きょとんとしていたメルトは、その言葉の意味を理解して急にマジギレした。


「なに言ってんのよ! め、女神が人間とキスだなんて……!」

「でもそうしなければリック様と絆が生まれません。メルトにも迷宮攻略の為にリック様へスキルを授けてもらわないと……」

「だからっていきなりキスはないでしょ! 初対面よ、こっちは~!」

「私もほぼ初対面ですが、リック様は素晴らしい人物と理解したうえで行いました。さあ、メルトもキスをしましょう。これも女神の務めなのです」

「め、女神の前に女なのよ! 恥じらいとかあるのよ~! いきなりキスとかできるかっ!」

「わがままはいけませんよ、メルト。キスをして絆が生まれれば、リック様が得たマナがあなたも使用できます。お風呂だって寝室だって作り放題ですよ」

「う……お風呂……ベッド……で、でもでもキスだなんて……」


 一瞬誘惑されかけていたメルトだが、すぐ正気に返って頭をぶんぶん振っていた。


「しかたありませんね……これだけはしたくありませんでしたが、かくなる上は……女神メルトよ! 女神アルティナの名に置いて命令します! リック様とキスしなさい!」

「うぐっ……!」


 アルティナに言われるや、メルトの体が硬直する。そしてそのままぎこちない動きで歩き出し、俺の元へとやってきた。


 そればかりか、あれだけ嫌がっていたのに、急に俺の頬に手を添えて顔を近づけてきた。


「お、おい……メルトに何したんだ?」

「私はメルトより上位の女神なので、こうして強制的に命令をすることができるのです」


 それでメルトは急に心変わりしたように俺とキスしようとしてるのか……。

 しかもこの命令とやらをされている間もメルトには意識があるらしく、俺と間近で顔を突き合わせながらも涙目になって睨んでいた。


「な、なんであたしがこんな……! め、女神なのに自分から人間とキスさせられるなんて……うぅ、悔しい……!」


 本気の号泣だった。なんだか可哀想になってくる。


 だが俺が抵抗する間もなく、メルトの唇がしっとり押し付けられた。そのまま俺たちの体が光に包み込まれる。

 これでメルトとの間にも絆が生まれたらしい……かなり強制的な絆だったが。


 キスを終えると、メルトはぺたんと地面に崩れ落ち、大声でわめきだした。


「何なのよこれは~! ちくしょ~! さらばあたしのファーストキス―!」


 女神の本気の嘆きが、聖堂内に木霊していった。


 ……もしかしてメルトは不憫な奴なのかもしれない。そう思い始めた俺だった。

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